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2021.02.25

2020年のAI研究ランキング:アメリカは中国をリードし続けられるのか?【後編】(米中覇権争いの行方)

最終更新日:

著者のGleb Chuvpilo氏はAIとロボットのスタートアップに投資するベンチャーキャピタルThundermark Capitalでマネージングパートナーを務めており、AINOW翻訳記事『誰がNeurIPS 2020でAI研究を先導しているのか?リーディングAIカンファレンスの考察とAI研究ランキング』 の著者でもあります。同氏が左記の記事に続いてMediumに投稿した記事『2020年のAI研究ランキング:アメリカは中国をリードし続けられるのか?』では、2020年における世界のAI研究動向が総括されています。
2020年における世界のAI研究動向を総括するにあたって、同氏が採用した方法論は独自指標パブリケーション・インデックス(この指標に関する解説は記事本文参照)を使って、世界的なAIカンファレンスであるICMLとNeurlPSの2020年の動向を合算して分析する、というものです。その分析結果の要点は以下のようにまとめられます。
  • 世界のAI研究をリードする国をランキングすると、1位がアメリカ、2位が中国日本は9位にランクイン。
  • 世界のAI研究をリードしている機関はGoogleであり、その貢献度は他を圧倒している。
  • 世界のAI研究をリードする大学はその多くがアメリカにあり、日本からは東京大学が55位にランクインしている。そのほかに(大学に準ずる公的研究機関として)理化学研究所が41位にランクイン。
  • 世界のAI研究リードするトップ100企業には、日本からは9社がランクイン。ランキング1位はもちろんGoogle。
  • 人口100万人あたりのパブリケーション・インデックスでは、1位がスイスで2位がイスラエルアメリカは4位で中国は28位日本は20位
  • ランキング上位の機関・大学・企業は、その順位が固定化しつつある。

以上のような分析をふまえて、同氏はアメリカと中国のAIをめぐる覇権争いの行方についても考察します。その考察によれば、AI研究開発における重要な3要素であるアルゴリズム・ハードウェア・訓練データのうち、アルゴリズムとハードウェアで優位に立っているアメリカが今後数年は中国を凌駕する、と結論づけられます。しかしながら、豊富な訓練データを駆使する中国はアメリカを猛追しており、アメリカが中国に対して優位に立ち続けるためには1兆ドルに近い規模のAI研究開発への投資が必要、と主張しています。
日本に目を転じると国別ランキングで10位以内にいる「AI強豪国」ですが、現状の国際的地位を維持するためには今まで以上の努力が求められると言えるでしょう。

以下の後編にあたる記事本文では、前編のランキングにもとづいたAI研究動向の傾向分析と米中の覇権争いの行方について論じていきます。

なお、以下の記事本文はGleb Chuvpilo氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。また、翻訳記事の内容は同氏の見解であり、特定の国や地域ならび組織や団体を代表するものではなく、翻訳者およびAINOW編集部の主義主張を表明したものでもありません。

さらなる分析

(※訳註1)以下の各種ランキングにおいて、日本が関係する項目は太字とする(原文では太字ではない)

2020年のAI研究をリードする地域トップ30:

AI研究ランキング2020 - 2020年のAI研究をリードする地域トップ30

1.アメリカ – 1677.8
2.ヨーロッパ* (EEA** + スイス + イギリス***) – 556.2
3.中国 – 281.2
4.カナダ – 114.5
5.韓国 – 76.6
6.日本 – 57.8
7.イスラエル – 57.7
8.オーストラリア – 47.6
9.シンガポール – 30.1
10.インド – 22.7
11.ロシア – 19.2
12.サウジアラビア – 10.2
13.台湾 – 5.9
14.ベトナム – 2.9
15.ブラジル – 2.8
16.南アフリカ – 2.5
17.UAE – 2.2
18.イラン – 1.7
19.チリ – 1.3
20.トルコ – 1.0
21.パキスタン – 0.9
22.エジプト – 0.3
23.北マケドニア – 0.3
24.タイ – 0.3
25.バルバドス – 0.3
26.カタール – 0.2
27.マレーシア – 0.2

*この記事では、AI研究に関して共通のビジョンを持っていることが多い欧州の国々をグループ化しているが、必ずしも明確な連携はしていない。

**EEAに含まれる国はオーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス共和国、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー(出典)。

***イギリスをヨーロッパ諸国とまとめるのは政治的な声明ではなく、説明を明瞭にするためである。EUからの離脱が完了した後、イギリスはEEAのメンバーであり続けることを模索する可能性がある(出典)。

2020年のAI研究をリードする国トップ50の人口百万人当たりのパブリケーション・インデックス*:

AI研究ランキング2020 -トップ50国の人口百万人当たりのパブリケーション・インデックス

1.スイス – 10.113
2.イスラエル – 6.378
3.シンガポール – 5.269
4.アメリカ – 5.126
5.カナダ – 3.046
6.イギリス – 2.409
7.オーストラリア – 1.876
8.デンマーク – 1.769
9.フィンランド – 1.701
10.スウェーデン – 1.555
11.フランス – 1.535
12.韓国 – 1.482
13.オーストリア – 1.244
14.ドイツ – 1.100
15.オランダ – 0.872
16.バルバドス – 0.871
17.ベルギー – 0.776
18.ポルトガル – 0.647
19.ルクセンブルク – 0.538
20.日本 – 0.458
21.イタリア – 0.323
22.サウジアラビア – 0.297
23.ギリシャ – 0.260
24.台湾 – 0.247
25.アラブ首長国連邦 – 0.228
26.キプロス – 0.209
27.ノルウェー – 0.207
28.中国 – 0.198
29.チェコ – 0.166
30.北マケドニア – 0.160
31.ロシア – 0.133
32.スペイン – 0.114
33.ポーランド – 0.105
34.カタール – 0.071
35.ハンガリー – 0.068
36.チリ – 0.066
37.ルーマニア – 0.052
38.南アフリカ – 0.043
39.ベトナム – 0.030
40.イラン – 0.020
41.インド – 0.017
42.ブラジル – 0.013
43.トルコ – 0.012
44.マレーシア – 0.006
45.パキスタン – 0.004
46.タイ – 0.004
47.エジプト – 0.003

*パブリケーション・インデックスを世界銀行が発表している百万人単位の国別人口で割った数値(出典)。

学界 vs 産業界 ― パブリケーション・インデックスの総数に占めるシェア:

AI研究ランキング2020 - 学界 vs 産業界

学界 – 78.9%
産業界 – 21.1%

論文タイトルから作成したワードクラウド:

AI研究ランキング2020 - 論文タイトルから作成したワードクラウド

AI研究における競争性の測定(ハーフィンダール指数にもとづく):

ハーフィンダール指数(ハーフィンダール・ヒルシュマン指数としても知られている)とは、業界に対する参加者の規模を測る尺度であり、参加者間の競争性の大きさを示す指標である。その算出式は以下の通り。

ハーフィンダール指数の計算式:Siはマーケットシェア(パーセント表記が数値計算に用いられる、例えば0.75ならば75)、そしてNは市場参加者数。

(※訳註2)ハーフィンダール指数の計算式だけではわかり辛いので、具体的な数値で計算する事例を挙げる。市場が2社による寡占状態であり、市場占有率がともに50%である場合、ハーフィンダール指数は2×{(50)x(50)}(50の2乗)= 5,000となり、100社の市場占有率が全て1%ずつである場合は100×{(1)x(1)}(1の2乗)= 100となる。したがって、ハーフィンダール指数をHとすると、Hの取り得る範囲は0<H≦10,000となり、Hが大きいほど市場が独占されていることを意味する。

ハーフィンダール指数の解釈は以下の通り

  • Hが100以下の場合は、競争の激しい産業であることを示す。
  • 1,500以下のHは産業が集中していないことを示す。
  • 1,500から2,500の間のHは中程度の集中を示す。
  • 2,500以上のHは高い集中状態であることを示す。

ヘルフィンダール指数は、国別と機関別の2つの方法で計算できる。前者は特定の国にAI研究が「独占されている」かどうかを示し、後者はどの機関によって「独占されている」かどうかを示す。

  • 国別のハーフィンダール指数はH=3,366となり、産業の集中度が高いことを示している。2019年はH=3,434なので、昨年よりAI研究は国レベルでの競争が激しくなった。
  • 機関別のハーフィンダール指数はH=142なので、非集中的な産業であることを示している。2019年はH=146なので、昨年よりAI研究は機関レベルでやや競争力が高まった。

2019年から2020年のAIランキング推移

AI研究をリードする国トップ5の推移:

2019:
1.アメリカ合衆国 – 1260.2
2.中国 – 184.5
3.イギリス – 126.1
4.フランス – 94.3
5.カナダ – 80.3

2020:
1.アメリカ合衆国 – 1677.8
2.中国 – 281.2
3.イギリス – 161.0
4.カナダ – 114.5
5.フランス – 102.9

AI研究をリードするグローバル機関トップ5の推移:

2019:
1.グーグル(アメリカ) – 167.3
2.スタンフォード大学(アメリカ) – 82.3
3.MIT(アメリカ) – 69.8
4.カーネギーメロン大学(アメリカ) – 67.7
5.UCバークレー(アメリカ) – 54.0

2020:
1.グーグル(アメリカ) – 220.1
2.スタンフォード大学(アメリカ) – 106.1
3.MIT(アメリカ) – 99.6
4.UCバークレー(アメリカ) – 86.7
5.カーネギーメロン大学(アメリカ) – 71.3

AI研究をリードするアメリカの大学トップ5の推移:

2019:
1.スタンフォード大学 – 82.3
2.MIT – 69.8
3.カーネギーメロン大学 – 67.7
4.UCバークレー – 54.0
5.プリンストン大学 – 31.5

2020:
1.スタンフォード大学 – 106.1
2.MIT – 99.6
3.UCバークレー – 86.7
4.カーネギーメロン大学 – 71.3
5.プリンストン大学 – 45.0

AI研究をリードする世界の大学トップ5の推移:

2019:
1.スタンフォード大学(アメリカ) – 82.3
2.MIT(アメリカ) – 69.8
3.カーネギーメロン大学(アメリカ) – 67.7
4.UCバークレー(アメリカ) – 54.0
5.オックスフォード大学(イギリス) – 37.7

2020:
1.スタンフォード大学(アメリカ) – 106.1
2.MIT(アメリカ) – 99.6
3.UCバークレー(アメリカ) – 86.7
4.カーネギーメロン大学(アメリカ) – 71.3
5.オックスフォード大学(イギリス) – 51.9

AI研究をリードするグローバル企業トップ5の推移:

2019:
1.グーグル(アメリカ) – 167.3
2.マイクロソフト(アメリカ) – 51.9
3.フェイスブック(アメリカ) – 33.1
4.IBM (アメリカ) – 25.8
5.アマゾン(アメリカ) – 14.3

2020:
1.グーグル(アメリカ) – 220.1
2.マイクロソフト(アメリカ) – 66.5
3.フェイスブック(アメリカ) – 48.5
4.IBM(アメリカ) – 29.7
5.華為(中国) – 14.3

ご覧のように、華為がアマゾンを抜いたことと、UCバークレーが2020年にカーネギーメロン大学を抜いたことを除けば、トップ5のリストはかなり安定している。しかし、ルイス・キャロルの「赤の女王」のレースのように、トップ機関がトップを維持するためには、毎年大幅に多くの論文を発表する必要がある。

この場所に留まるためには、全力で走らなければならない。そして、どこか他所に行きたいならば、今の2倍速く走らなければならない(ルイス・キャロル)

アメリカは中国をリードし続けられるのか?

今日、AIの支配をめぐるアメリカと中国の戦略的競争の現状に関する白熱した議論が続いている。こうした議論に関して、我々はよりバランスのとれた観点に立とうと務めているので、分析を始める前に、米中のAI競争に関する歴史を少し順を追って見ていこう(以下の歴史的記述のいくつかは、我々のAI研究ランキングの定期的な読者にはなじみのあるように見えるだろう)。

2016年、AI史において2つの重要な出来事が起こった。第1に、グーグルのAlphaGoがハンディキャップなしでプロ囲碁棋士九段のイ・セドルに勝った初のコンピュータプログラムとなったこと、第2に、オバマ大統領政権が「人工知能の未来のための準備」というAIの今後の方向性と検討事項に関する戦略を発表したことだ。中国においては、この2つの出来事が「スプートニクの瞬間」(※訳註3)を生み出し、人工知能の研究開発を優先事項とし、資金を劇的に増やすように中国政府を説得するのに役立った(カイ・フー・リーの『AI Superpowers』を参照)。

(※訳註3)「スプートニクの瞬間(Sputnik moment)」という表現の出典は、オバマ大統領が2011年1月に行った演説にある。同大統領は、ソ連がスプートニクを打ち上げた時、アメリカ人は宇宙開発で敗北したことを悟ったその瞬間のことを「スプートニクの瞬間」と表現した。そして、二度とこうした瞬間が訪れないように、科学技術に投資する重要性を説いた。

これを受けて中国共産党は2017年、2030年を野心的なAI目標の期限として設定した。その目標では、中国を2020年までにAI経済のトップ集団に導き、2025年までに大規模で新しいブレークスルーを達成し、2030年までにAIの世界的リーダーになると謳われていた。この戦略は「新世代人工知能開発計画」として知られるようになり、省庁、省政府、民間企業などからのAI研究開発への数十億ドルの投資やAI政策推進に拍車がかかった。

CNASのような特定のシンクタンクは、中国のAI戦略はオバマ政権の報告書の重要な原則を反映しているに過ぎないと主張した。もっとも、オバマ政権終了後の現在では、アメリカではなく中国こそが大規模なAI戦略を採用している。こうした中国のコピー戦略は新しいものではない。ピーター・ティールの『Zero to One』(邦題『ゼロ・トゥ・ワン  君はゼロから何を生み出せるか』NHK出版)を引用すると、「中国人は、19世紀の鉄道、20世紀のエアコン、さらには都市全体でさえも、先進国で機能してきたすべてのものを素直にコピーしてきた。(固定電話を設置せずに無線電話が普及したように)彼らは途中のいくつかのステップをスキップしたかも知れないが、とにかくすべて同じようにコピーしたのだ」。

以上のようにして中国の総力を結集した結果、AIにおけるアメリカの優位性は急速に失われつつある。2017年にはアメリカは中国に対して11倍のリードを持っていた(出典)が、2019年にはアメリカは7倍のリード出典)にまで落ち込み、2020年にはアメリカは6倍のリードを残すのみとなった(本記事の前編を参照)。さらに、アレン人工知能研究所(Allen Institute for Artificial Intelligence)のこの分析(※訳註4)によると、中国は、最も引用された論文の上位10%に占める著者のシェアを着実に伸ばしていることがわかった。

(※訳註4)アレン研究所がMediumに投稿した記事『AI研究で中国がアメリカを追い抜くかも知れない』によると、世界のAI論文上位10%における中国発表の論文が占めるシェアは2020年にはアメリカと同等となり、2025年には中国がシェア1位になる可能性が指摘されている(以下のグラフも参照)。

世界のAI論文トップ10%におけるアメリカと中国のシェアの推移

今後10年間のAIにおけるアメリカの競争力はあまり良くないと言えるかも知れない。しかし、競争の行方は現代のAIの3つの重要な要素であるアルゴリズム、ハードウェア、訓練データの進化の相互作用に左右され、この分野を制覇するためには、この3つをうまく使いこなすことが必要だと考えられる。

我々は、MIT、スタンフォード、カーネギーメロン、UCバークレーなどの世界的な大学における数十年にわたるコンピュータサイエンスの進歩にもとづいて、アメリカが今後数年のあいだはAIアルゴリズムにおいて強力なリードを保つと信じている。さらにグーグルやフェイスブックなどの企業がAIカンファレンスで内部研究を公開したことによって、現在ではトップAI研究者が学界と産業界のあいだをシームレスに行き来する成熟したエコシステムが生み出された。

加えて、アメリカはシリコンという言葉の本来の定義においてシリコンバレー(シリコンの谷)がある本拠地であり、ハードウェア・イノベーションの最先端を走ってきた。特にインテル、AMD、NVIDIAが保有する膨大な特許ポートフォリオによる保護を考えると、今後5年から10年のあいだに、中国が先進的なマイクロプロセッサ技術でアメリカに追いつくことは極めて困難であると考えられる。

しかし、訓練データの利用可能性に関しては、アメリカの優位性は疑問視されている。データへのアクセスは、プライバシーと公益をめぐる対立というより広範な議論の一部を形成しており、アメリカは前者を、中国は後者を選択する傾向がある。中国では現在、AIが何億もの街頭カメラから顔をスキャンし、何十億ものWeChatメッセージを読み(※訳註5)、何百万もの健康記録を分析しているが(※訳註6)、これらはすべて「公益としてのデータ(活用)」(data-as-a-public-good)という議論に従っている。この訓練データの利用可能性は、中国の14億人の人口と相まって、同国にとって巨大な戦略的優位性を生み出している。

(※訳註5)MIT Technologyが2019年7月に公開したWeChatの検閲を特集した記事によると、ユーザ数が11億を超える同アプリではテキストメッセージと画像に関して検閲が実施されている。
テキストメッセージの検閲は比較的容易だが、画像の検閲には画像認識が使われていると推測される。画像認識によって即座に検閲対象かどうか判断できない場合は、検閲対象となった過去の画像との類似性が評価される。このようにして検閲された情報の事例には、中国人研究者が遺伝子操作した双子の女児を誕生させたことがある。
WeChatを開発・運営する中国IT企業大手Tencentは、同アプリの検閲実施に関して、中国政府から「大きな圧力」を受けている。検閲されているにもかかわらず、同アプリなしでは現代中国の日常生活が成り立たないのが現状だ。
(※訳註6)科学誌Nature電子版が2019年8月に公開した記事によると、2019年2月、中国・広州にある病院Guangzhou Women and Children Medical Center所属のHui-Ying Liang氏らが発表した論文では、カルテに対して自然言語処理を実行することで経験豊富な小児科医と同等の診断をくだせるが示された。この自然言語処理の学習データには、単一の病院に通院する60万人の子供のカルテが含まれていた。

結論を出すのは難しいが、最初の2つの要因(アルゴリズムとハードウェア)が最後の要因(データの入手可能性)を上回り、今後数年間はアメリカがAI分野におけるリードを維持するだろうと考えている。しかし、こうしたアメリカのわずかな優位性こそが以上の分析から得られた大きな収穫であり、同国はAIのイノベーションが緊急かつ不可欠であることに目を覚まし、AIの学部生や大学院生を教育し、アメリカのトップ研究大学でのAI研究を強化するために、多額の公的資金と民間資金を配分する必要がある。

2020年8月、ホワイトハウスは、アメリカが中国のようなライバルに比べてAIや量子コンピューティングの研究で遅れをとることを懸念し、これらの技術は経済発展だけでなく国家安全保障にも役立つと警告した多くの政策顧問に応えて、AIと量子コンピューティングの研究推進のために10億ドルを投じることを発表した。しかし、この数字は、2016年にマーク・キューバンがAIやロボットへの投資額として提案した(※訳註7)1兆ドルに近づけるべきだと考えられる。そうでなければ、高速鉄道宇宙探査で優位を失ったように(※訳註8)、アメリカが中国に対してAIの戦略的優位性を失うリスクがある。

(※訳註7)マーク・キューバンは、NBAのチームであるダラス・マーベリックスのオーナーを務めるアメリカの実業家。同氏は2016年12月18日、自身のブログに「親愛なる大統領、インフラストラクチャの支出に関する私の提案」と題された記事を投稿。その記事では、1兆ドルのインフラ投資のうち1,000億ドルはロボット工学に投資すべきと主張されている。そして、アメリカはロボット工学をめぐるレースで勝利しなければならない、とも説かれる。
ロボット工学への投資が重要な理由として、ロボット工学が進歩すると仕事が自動化されて失業するから、と同氏は述べている。つまり、ロボットを作る側になれば失業リスクを回避でき、ひいては他国に対して産業的に優位に立てるというわけである。ちなみに、ロボット工学はAIの重要な応用分野であることは周知の事実である。
(※訳註8)安全保障専門ニュースメディア『DefenceNews』は2020年6月、軍事アナリストのLiane Zivitski氏が執筆した記事を公開した。その記事によると、近年中国は急速に宇宙開発を推進しており、同国が運用可能な人工衛星数は2020年3月時点でアメリカに次いで2位の363機である。また同国は、攻撃能力を備えた人工衛星を最大3機開発している可能性がある。
以上のような状況に対して、アメリカは宇宙空間における優位性を確保し続けるべきであり、2021年度においてアメリカ宇宙軍が154億ドルの予算を要求したことは、中国の脅威と戦うための第一歩である、とZivitski氏は述べている。同氏はコロナ禍においてはアメリカの財政は厳しいものとなるが、国防予算を削減しても経済が回復するわけではない、とも主張している。

データセット

なお、データサイエンスの学会でも、いまだに論文データをPythonフレンドリーな形で公開していないので🤷‍♂️、今回の分析はかなりマニュアル的なものになってしまった(すなわち、最初にHTMLを解析してから、機関名の誤字を修正したり、標準化したり、複数の機関で著者ごとに行を分割したり、ピボットテーブルでまとめたりなど)ことについて、ご注意頂きたい。もしバグを見つけたら、どうぞこちらにメールしてください。データセットをダウンロードしたい場合には、こちらに置いてあります。

さらに読む

この投稿が気に入った方は、ICML 2020NeurlLPS 2020の分析にも興味を持たれるかも知れません。それらの分析ではそれぞれのカンファレンスにおけるAI研究ランキングを示しました。昨年のAI研究ランキング2019をチェックしたい方は、こちらをご覧ください。


原文
『AI Research Rankings 2020: Can the United States Stay Ahead of China?』

著者
Gleb Chuvpilo

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

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