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2021.06.26

【第5回】AIアクションプラン策定委員会レポート|自然言語理解・ものづくり・シミュレーション

最終更新日:

AIアクションプラン策定委員会とは?

現在、人工知能(AI)の技術開発は、米中を中心として世界的に積極的な研究開発投資が行われ、各国は最先端の技術力を得るべく進化を続けています。

日本もこうした時代の潮流に対応できるAI技術開発の体制構築が必要です。

また、米中と比べてビッグデータなどを通じたAI技術の利活用においても遅れを取っている感は否めません。

そこで、2021年1月よりNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、「人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン策定及び事業抽出のための調査」を開始しました。

そして、本調査を推進するAIアクションプラン策定員会が、2月から開催されています。

AIアクションプラン策定委員会では、有識者による委員会を組成し、海外の事例や国内外の制度政策をふまえて明確なアクションプランを検討します。

委員会は2021年2月〜2021年6月の間で全6回、以下のような流れで行われます。

第1回 委員の所信(あいさつ)、2016年版の「次世代人工知能技術社会実装ビジョン」を振り返りながら自由討議
第2回〜第3回 具体的にどんな技術課題、社会課題について議論するべきかを決める
第4回〜第5回 2〜3回でまとめた議論すべき点(開発の方向性や社会課題など)についての、具体的なアクションプランを検討する
第6回 4〜5回で策定したアクションプランを承認する

また、委員会は、以下の委員で構成されます。

  • アクションプラン策定委員会 委員長
    ・中島 秀之氏(札幌市立大学 学長)
  • アクションプラン策定委員会 委員(以下五十音順)
    ・稲見 昌彦氏(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)
    ・牛久 祥孝氏(株式会社Ridge-i 取締役 Chief Research Officer/オムロンサイニックエックス株式会社 Principal Investigator)
    ・川上 登福氏(株式会社経営共創基盤 共同経営者 マネージングディレクター)
    ・松尾 豊氏 (東京大学 教授)
    ・丸山 宏氏 (花王株式会社 エグゼクティブフェロー/東京大学 人工物工学研究センター 特任教授/株式会社Preferred Networks PFNフェロー)
    ・村川 正宏氏(産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 人工知能研究センター 副研究センター長 (兼務)人工知能研究戦略部 研究企画室長)

ASCII.jpとAINOWでは、国内のAIの利活用強化に向け、AIアクションプラン策定委員会のメディアパートナーとして発信を行なっていきます。

本記事では、4月27日に行われた第2回のAIアクションプラン策定委員会(人工知能技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン策定及び事業抽出のための調査)での議論を紹介していきます。ASCII.jpとAINOWでは、国内のAIの利活用強化に向け、AIアクションプラン策定委員会のメディアパートナーとして発信を行なっていきます。

第5回AIアクションプラン策定委員会

AIアクションプラン策定委員会では、2021年2月に公益財団法人 未来工学研究所が調査した「国・機関が実施している科学技術による将来予測に関する調査」をベースに、20個の将来の社会的事象をリストアップし、それをもとに議論を進めていきます。

社会事象の部分には、それぞれ関連性の高いAI技術的キーワードを並べています。

第5回AIアクションプランでは、第4回までに議論された「実装すべきAI要素技術」「技術的な目標」「実装される社会事象」をもとに、具体的なアクションプランについて深堀りし、案を出し合いました。

本記事では、議論された中でも特にポイントとなった話題を3つ紹介します。

自然言語理解について

まずウェルビーイング、ものづくり、生活、安心・安全など、さまざまなテーマに関わる自然言語理解の重要性について、委員から

Googleの日本語翻訳やAmazonのアレクサが出てくる前から日本の戦略として、自然言語理解の分野は重要だと思っていた。しかし、日本は日本語理解の技術を出せていないため、現在日本語の自然言語データが取れていない。少なくとも今からでもそういうことをやっていかなければ、今後日本語が日本のものでなくなるというひどい状況になる。そのため、『手遅れでもなんでもいいからとにかくやる』という姿勢が必要だと思う。

という意見が出ました。

また、自然言語理解に関する議論では、身体性と言語での「二階建て脳」についても話が及びました。

二階建て脳とは、脳の機能を運動や知覚をつかさどる1階と、言語や論理をつかさどる2階に分けて考えるもので、直感的で速い思考モードのシステム1と論理的で遅い思考モードのシステム2など、その分け方もいくつか提唱されています。

「言語を聞いて理解するところまでは、実はシステム1。そのあといろいろ考えるのがシステム2。つまり、身体と言語という分け方でもない」という意見もあり、厳密な定義は難しいと言えます。

しかし、意味を理解するAIの実現を考えたとき、これらをどうつなぐかがポイントとなるという点では、各委員一致していました。

そもそもこの点について、AIで現状どこまで実現できているのか、という部分も重要な議論のポイントです。

1階、あるいはシステム1については、ディープラーニングで大半が実現できているかというと、必ずしもそうではないという意見がありました。「できているものは多いが、(直感的な)小脳的な動きの部分」もあって容易ではなく、すべて実現できているわけではありません。

また2階部分についても、AIにおける記号処理が近いと言われるが、ディープラーニングで2階部分を目指す研究もあり、こちらもまださまざまな手法を模索している段階と言えます。

ものづくり(AI×サイエンス)について

ものづくりにおいて、議論のポイントとなったのは「今あるものづくりの部分を、有機・無機・創薬といったそれぞれの研究領域を分けるべきか」ということです。

これについて、委員からは

対象分野によって具体的なプロセスが随分違うと思うが、基本的に大きな空間を自動で探索することにAIを使うという部分においては共通している。

ただし、NEDOのプロジェクトに落とし込むならそれぞれ領域を分けるべきだ。

という意見が出ました。

ものづくりという範囲の広い領域において、「それぞれのプロセスのパラメーターを最適化しよう」といった場合、現在はほかのドメインのものづくりとして同じようなことをやっています。

先の委員はその点に対して、

例えば、その他のところだと農業や製造業の中でプロセスを最適化するという話をしている先生たちがいる。そこら辺をどうするのか、どう深堀りするのかということが重要だ。

また、以前話したシミュレーションの話の中でも、例えば設計といった別の『ものづくり』の切り口がある。

この切り口が本当に適切か、個人的には何か選択と集中をここでされたいのかな、というメッセージに感じる。また、これからのことで言うと、有機化学のところはかなり進んできているため、今これからの部分であえてそこを切り出して、だからこそNEDOのプロジェクトにしてもいいのかもしれない。

さまざまなところに汎用的な機械学習技術としてやる場合はそのまま取り組み、有機化学に絞ってやる場合は、NEDOが先導しなくてもいろいろなところで進んでいくのではと思う。

と述べました。

シミュレーションについて

シミュレーションでは、まず「具体的な技術に落ちている話なのかどうか」ということが議論のポイントになりました。

それに関して、委員から

素材探索の場合にシミュレーターで訓練データを作り、それを高速化するという話や、Preferred Networksの事例であったと思うが、工場での画像認識の訓練データを作るためにシミュレーターを作るなど、その手の話は多くある。シミュレーターは今後の機械学習の発展に欠かせないと思う。

という話が出ました。

また「シミュレーターを作れるのであれば、そこにあるルールを学習できているのではないか?」という質問があり、同委員は

シミュレーターは、前向き計算はできるが後ろ向き計算ができないときに機械学習でやらないといけないパターンが1つ。もう1つは前向きに計算できるが時間がかかって『どうしようもない』というパターンだ。

また、計算ができても想定するパラメーターがわかっていないなどという場合がある。そういった、大きめのストラテジーはわかっているが、それを確度メインでどう組み合わせたらいいのかという部分においてシミュレーターが役立つ。NEDOや経産省的には絶対やるべきだと思う

と回答しました。

また別の委員は、シミュレーションについて

ものづくり研究領域では、横串としてAIとシミュレーションの絡みが出てくる優先度は高いと思う。個別に見れば進んでいる分野とそうでない分野があるが、AIとしてみると横串としてしっかりやらないといけないと思う。

アクションプランとしてのシミュレーションが、AIとシミュレーションの最適化なのかプランニングなのかわからないが、なるべく少ない回数で予測しつつ、それをもとに設計して、それをもとに少ない空間でやってみて、演繹と帰納と最適化がぐるぐる回るみたいな感じだと思う。

という意見を述べました。

シミュレーションは、データセット面での課題はあるものの、アクションプランとしては「シミュレーターと機械学習」もしくは「演繹+帰納」というような形でまとまりそうです。

まとめ

今回は、第5回AIアクションプラン策定委員会の中で、特に議論のポイントとなった5つの話題から、自然言語理解・ものづくり・シミュレーションについて紹介してきました。

今回の議論は、今まで出てきた社会実装ビジョンの優先順位を決め、深堀りするという内容だったため、アクションプラン策定がかなり形として見えてきた印象を受けました。

次回の第6回AIアクションプラン策定委員会では、ここまで出たすべての議論をまとめ、アクションプランを承認する段階に入り、議論で出た施策や研究に関する具体的な実現方法も含め、明確なアクションプランへ落とし込んでいく予定です。

■関連サイト

人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

▼第4回AIアクションプラン策定委員会のレポートはこちら

▼AIアクションプラン・シンポジウムのレポートはこちら

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