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2021.10.11

ゲームAIの分野で求められる2パターンの人材とは|ゲームAI特集 第1弾

最終更新日:

ゲーム領域でのAI活用が急激に進んでいます。特にデータが日々蓄積されるオンラインゲームの分野では、蓄積されたデータを活用し、どのような価値を生み出せるか、各社がしのぎを削って取り組んでいます。

進化を続けるゲーム業界でAIはどのように活用されているのでしょうか。

この『ゲームAI特集』では、AIを用いたセキュリティや、オンラインゲームのデータを解析し不正ユーザーを検知するサービスを提供する株式会社ChillStackの伊東 道明氏とともにゲーム業界のAI事情にスポットを当て、AIの活用事例を発信していきます。

第1弾は、グローバルにゲームを展開するKLab株式会社の高田氏と濱田氏に、KLabのゲームにおける機械学習の取り組みや、業界に参入する上で求められるスキルについてインタビューしました。

(左:KLab 濱田氏、中央:KLab 高田氏、右:ChillStack 伊東氏)

スピーカーの紹介

伊東

ChillStackの伊東と申します。AIとセキュリティの分野で、データを使ってセキュリティ要件を固めたり、ゲームのログデータを分析してセキュリティ周辺を検知するサービスを提供しています。

本日は、「ゲーム×AI」の分野でKLabの高田さんと濱田さんにお話をお伺いしたいと思いますので、よろしくお願いします。

高田

高田と申します。新卒でKLabに入社し、はじめはゲームのサーバーサイドエンジニアをしていました。その後、全社横断のデータ基盤を構築するプロジェクトに参画し、データパイプラインを作るデータエンジニアを経験しました。

蓄積したデータの活用を目指して機械学習の開発をはじめ、現在は2021年に立ち上がった機械学習グループの立ち上げメンバーとして活動しています。

濱田

濱田と申します。大学時代から機械学習や最適化を研究し、博士号を取得しました。その後、IT企業の研究所で7年ほど機械学習の研究をし、2020年7月にKLabに転職しました。今は、機械学習グループに所属し複数のゲームの開発や運用を横断的に支援をしています。

また、理研AIPで客員研究員を兼任しています。機械学習の基礎的なアルゴリズムを開発していて、研究者兼機械学習エンジニアという二足のわらじで活動しています。

理研AIP:理化学研究所革新知能統合研究センター 。日本のAI研究の拠点として2016年に設立されて以来、産学界のトップクラスのAI研究者が集結し、学術論文から産業応用まで多数の研究成果をあげている。

蓄積したデータを活用するため機械学習グループを発足

伊東

KLabの機械学習グループはどのような経緯で立ち上がったのでしょうか。

高田

機械学習やデータの活用は、全社方針として機械学習グループができる前から重点技術として推進されていました。KLab全体で機械学習の導入や人員の確保に向けて動いていまして、徐々に人が揃い始め、本格的に専任チームを立ち上げることになりました。

近年、モバイルオンラインゲームの業界は、大作化が進んでいるため、新規ゲームを開発することが困難な状況です。KLabは、1つのゲームを長期的に運用することを方針に定めているため、データを分析してユーザーの需要に応える必要があります。機械学習はまさに運用効率化の面でマッチする技術ですので、特に注力している分野です。

伊東

機械学習チームを立ち上げる以前は、各部署やプロダクトごとでモデルを構築していたのでしょうか。

濱田

専任のチームはなかったため、各部署にたまたまできる人がいれば、身の回りの業務に機械学習を使ってみるという感じでした。

当時からKLabでは「楽するための苦労」という目標のもと、業務の仕組化・効率化に注力していました。全ゲームタイトルのデータが統一的なフォーマットでGoogle BigQueryに入っているので、機械学習をやろうと思えば同じ方法でさまざまなタイトルのデータを見ることができました。

しかし、個々人の努力だけではスケールしないため、全社でさらに有効活用するために専任チームを立ち上げて、社内にあるタスクを俯瞰した上で取り組めるようにしました。

Google BigQuery:Google Cloudが提供するデータ解析サービス。数テラバイトや数ペタバイトという膨大な量のデータを超高速で解析することが可能。

伊東

機械学習グループが担当するフェーズで言うと、データパイプラインを作るフェーズと、その後を安定させるアーキテクチャを組むフェーズがあると思うのですが、すべての作業は機械学習グループが担当されているのでしょうか。

高田

機械学習グループが立ち上がる前からデータ基盤グループという別のチームがあり、データを横断的に蓄積するデータパイプラインを構築していました。

私は、機械学習グループに所属する前は、データパイプラインの構築を担当していました。KLabでも長年データを蓄積していて、それらはGoogle BigQueryに格納してあります。必要なデータの多くはGoogle BigQuery上で見ることができるので、いつでも簡単に分析できます。

グローバルにゲームを展開するKLabでの活用事例

音楽ゲーム、リズムゲームでの譜面生成

伊東

過去にいくつものゲームを開発されているKLabは、さまざまなシーンでAIを活用されていると思うのですが、具体的にどのような活用事例がありますでしょうか。

高田

ゲームAIと聞いて真っ先に想像されるようなNPC(Non Player Character)や敵キャラの思考ルーティーンなど、現在(2021年8月)はまだゲームの内側に機械学習を導入していません。

制作や運営の支援といったゲームの外側に機械学習を活用することが多いです。例えば、リズムゲーム(いわゆる「音ゲー」)の開発で活用していて、音源からリズムゲームの譜面のベースになるデータをある程度自動で制作するようなモデルを開発しました。また、スポーツゲームのチーム編成をプレイヤーの対戦履歴から学習し、ゲームバランスの調整などに活用することに取り組んでいます。

その他には、ゲームのレビューをポジティブとネガティブに自動で分類するなど、データの利用価値を高めるタスクにも注力しています。

Non Player Character:ゲームにおいて、プレイヤーが操作しないキャラクターのこと。

伊東

譜面を生成する際は、どのようなデータを学習させるのでしょうか。

濱田

基本的にはゲーム内で使用している楽曲を学習データにしています。1ゲームあたり、90秒ほどの楽曲を100曲ほど学習させて、新しい楽曲に対する譜面を生成しています。

PyTorchを使ったディープラーニングのモデルで生成していて、楽曲の音源と人間が作った譜面を学習させて、新しい楽曲に対して音源のみから譜面を生成するという流れです。

ただ、私たちは完全自動化を目指しているわけではありません。ゲームはとても細かい部分があり、今の技術ですべてを自動化するには難しいところがあります。

例えば、ゲーム中には3Dのダンスが流れるのですが、手を上げる振り付けに合わせて上にスワイプする譜面を配置するなど、音源以外の要素によっても譜面が左右されるため、AIでは対応できません。ですので、ベースは機械学習で自動化して、最後は人間が調整しています。

リアルタイム性が求められるが故の難しさ

伊東

ゲーム開発の部署からの依頼で困った点や大変だったエピソードを教えて下さい。

濱田

機械学習を使ってNPCの思考ルーティンを作りたいという相談はいくつかあります。ゲーム内では豊富にデータが取れるのですが、難点がいくつかあります。

ゲームはリアルタイム性が求められ、60FPSで意思決定する必要がります。機械学習の計算負荷は軽くないので、他の処理との計算資源の配分を検討しなければなりません。また機械学習に、予測ミスはつきものですが、AIがおかしな挙動をすればダイレクトにユーザーに見られてしまいます。リバースエンジニア対策もしなければいけません。

ゲームの開発中は仕様が頻繁に変わるので、データ構造も変わり続けます。ですので、ゲームリリースまでに機械学習を組み込むのであれば、開発者と機械学習エンジニアが密に連携できる開発体制が求められます。

さらに、学習に必要な情報を洗い出したうえでゲームプレイのサイクルに学習データを集める仕組みを、組み込むことがポイントだと思います。

このように、ゲーム内に機械学習を組み込むには新規タイトルの設計・開発段階から準備を要するため、現時点(2021年8月)ではゲームの中に機械学習を搭載できていません。しかし、既存タイトルのデータを使ってユーザーが必殺技を出すタイミングをNPCに学習させたり、機械学習に適したログのとり方を検討するなど、研究を進めています。

共通化されないQA(品質保証)ツール

伊東

ゲーム業界は、企業ごとに独自のQA(品質保証)をしているため、業界として一般化されないという課題も聞かれます。その点はいかがですか。

濱田

QAツールは、私たちも開発しているのですが、どこのゲーム会社でも通る道ですので、共通のツールがあってもいいのではないかと思いますね。

モバイルオンラインゲーム業界は黎明期からオープンソースソフトウェアを活用して発展してきたため、コミュニティベースで汎用ツールを開発して業界全体で共有する文化と親和性が高いように感じます。例えば、ゲームをUnityで作り、そのQAをAirtestで自動化するというのは定番のツール選択の一つだと思います。

一方で、コンシューマーゲーム業界は比較的に自社開発を好む傾向があるように感じます。ゲームエンジンに関してはここ5年ほどで自社製から汎用ツールへ移行する会社が増えてきましたが、QAツールは依然として会社ごとに、あるいはゲームタイトルごとに開発していることが多いようです。

以前のKLabはWebサービスを提供していて、その後ブラウザゲーム、モバイルオンラインゲームという流れでゲーム業界に進出しています。今となってはコンシューマー企業出身の方々もいるのですが、Web企業出身の方々も多いため、汎用ツールに関して比較的抵抗が少ないと感じています。ちょうど今、QAツールの全社共通化に取り組んでいるところです。

高田

ただ、ゲームはタイトルごとによって違いが大きすぎるため、なかなか統一できません。

本当に共通する部分はいいのですが、ログを残すという1つとっても全然違うログになってしまうので、実現するのはもう少し先だと思います。

ゲームAIに参入する上で求められるスキル

高田氏が考える2パターンの人材とは

伊東

ゲームAIが業界として立ち上がりつつある中で、今後はゲームを作る・開発する上でどのような人材が求められるのでしょうか。

高田

ゲームに関係なく機械学習をやられていた方」と「ゲーム開発をやられていた中で、機械学習の道に進みたい方」の2パターンあると思います。

機械学習はドメイン知識が必要になるシーンが多いので、ゲームに詳しいことがアドバンテージになります。濱田はもともと機械学習の研究者ですが、個人的にゲームが好きであったため、今KLabの機械学習チームにいます。

濱田

この領域は、定形タスクが決まっていないため、好奇心旺盛な方が向いていると思います。例えば、Webマーケティングだと「広告最適化」といったように定番のタスクがあり、KPIがだいたい決まっていることが多いのですが、そういうことが定型化されていないため、課題発見のスキルが求められます。

開発チームで困っていることや、開発プロセスを把握した上で、どこに機械学習を使うと効果的なのかを見定めることから始まります。その他にも、開発者とのコミュニケーションや自分がもっているゲームの知識なども動員して「発見した課題をいかに解けるようにするか」を考えることが重要になるため、一般的な機械学習エンジニアの能力だけでなく研究者としての能力も役に立ちますね。

課題解決までのプロセスを描く

伊東

未知の領域が多いからこそ、機械学習を活用するプロセスを明確にしなければいけないということですね。

濱田

機械学習にこだわる必要はありませんが、今までにないタスクに直面することが多いため、その都度、解決策を模索していかなければいけません。

譜面の生成もまさにそうでした。最近、生成モデルのGAN (Generative Adversarial Network)が注目されていますが、その事例はほとんどが画像です。リアルな人の画像は生成できますが、既存のGANをそのままゲームのキャラクター画像の生成などに使用しても実用化はなかなか難しいと感じています。

例えば、GANが95点のクオリティのキャラクターを生成しても、それを100点に書き直すにはとても手間がかかります。そういった中で、「譜面」に着目して機械学習を使ったのは的確な判断だったのではないかと思います。譜面なら低コストで人が修正することが可能ですので。

ゲーム内に機械学習を搭載する

伊東

今後、KLabで機械学習の取り組みをされる中で、新しく挑戦したいことがあれば教えて下さい。

高田

私は機械学習によるコンテンツ生成です。

先ほど濱田が言ったように、機械学習によるコンテンツ生成がホットな領域です。ゲームはキャラクターや音楽、譜面などさまざまな種類のコンテンツによって構成されています。音楽や絵を0から作ることは難しいですが、コンテンツの種類によっては機械学習で生成しやすいものもあると思います。

例えば、3Dモデルのテクスチャなどを作るのは、絵を0から描くより簡単かもしれません。ゲームには機械学習の活用方法がまだまだあると思うので、その応用領域を広げていきたいと思います。

濱田

私がKLabに入社した理由の1つに、ゲーム内に機械学習を入れてキャラクターに多彩な言動をさせたいという想いがあります。

従来のゲームAIで扱えるタスクは、「目的地へ移動する」とか「敵と戦う」といった目標が明確で最適解が1つに決まる行為でした。このようなAIはゲームの競技的な側面を盛り上げることに成功してきたと思います。

一方で、近年の日本のゲームでは、キャラクターのコミュニケーションやダンスなど非競技的な側面が魅力の中心になっていると感じるものが増えてきています。こういった行為は目標を数値化すること自体が難しく、正解も1つには決まりません。だからといって何をしてもよいわけではなく、膨大な自由度の中で非常に限られた選択肢だけが受け入れられるものです。

現状、こういった部分はクリエイターの感性を頼りに制作しています。手間を惜しまず作っていますが、どれだけ熱意を込めて作られたシーンでも繰り返しプレイするうちに見慣れてしまいます。キャラクター達が自らの意思で見たこともない展開を生み出してくれるようなAIを開発できたら…と願ってやみません。

KLabでは目の前のゲーム開発の課題を解決するだけに留まらず、そういった従来のAIでは扱いきれなかった概念をモデリングするための新しい数学理論を作る研究にも取り組んでいます。さまざまな大学の数学者に協力していただき、私の今までの研究も応用して、多様性や創造性に基づく意思決定を機械学習でモデリングするための基礎理論を作っているんです。

新しい数学理論を作り、新しい機械学習を作り、新しいゲームを作り、新しいユーザー体験を届ける。基礎科学からエンドユーザまでを一気通貫に繋いで、新時代のAIを生み出したいと思っています。

さいごに

ゲームAI特集第1弾は、グローバルにゲーム事業を展開するKLabの高田氏と濱田氏にゲームにおける機械学習の活用事例についてインタビューしました。

KLabは、楽曲を用いた「リズムアクションゲーム」の開発において、機械学習で譜面生成を行い、人が調整しながらコンテンツを生み出しています。今後は、リアルタイム性が求められる中で、機械学習の応用分野を増やすことに挑戦していきます。

今後、ゲームAI分野のキャリアを目指している方は、機械学習エンジニアとしての経験の他にゲームへの興味や課題発見・解決までのプロセスを描くスキルが重要になります。機械学習の応用領域が広がると、さらに求められる要件も異なってきますので、AINOWの特集を通じて、現場の意見をさらに多くの方にお伝えしていきます。次回のゲームAI特集をお楽しみに!

▼ゲームで活用されているAIの種類や歴史に関して詳しく知りたい方はこちら

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