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2022.03.28

パーソルP&Tの調査からわかる「企業が変わるために必要な3つのDX」と「今後のDXのトレンド」

DXの重要性に気づき、組織を上げてDXを推進する企業が増加していますが失敗に終わる例も少なくありません。マッキンゼーの調査結果によると、DXの取り組みのうち、実に70%が失敗に終わっています。

DXが失敗してしまう原因は、「企画、実装する人」に大きく起因しています。

2021年7月に総合人材サービスを提供するパーソルグループのパーソルプロセス&テクノロジー株式会社(以下、パーソルP&T)が企業のDX推進における「人材育成」の実態調査を実施し、デジタル人材の育成を支援するサービスを開始しました。

パーソルP&Tでデジタル人材開発部の部長である成瀬岳人氏は、調査結果から企業が取り組むべきDXの取り組みは3つあると示しています。今回は、その成瀬氏に3つのDXの取り組みと、今後のDXのトレンドについて取材しました。

成瀬岳人:2006年よりパーソルグループにてエンジニア派遣の営業およびスタッフマネジメントを担当した後、業務コンサルタントとして複数プロジェクトに従事。その後、ワークスタイル・コンサルティングサービスを立ち上げ、複数社の労働時間改善やテレワーク導入を支援。また、国や自治体のテレワーク普及促進等の公共事業の企画・運営責任を担う。2020年4月より、新規事業開発部門の責任者に着任し、企業向けの複業促進サービス『プロテア』およびデジタル人材育成事業の立ち上げを指揮。
複業で総務省より委嘱を受けテレワークマネージャー、プロティアン・キャリア協会認定ファシリテーターとしても活動開始。著書に『組織力を高める テレワーク時代の新マネジメント』『成果がぐんぐん上がる 自律的に働くためのリモートコミュニケーション術』(日経BP)

パーソルP&Tが提唱する「3つのDX」

パーソルP&Tは、企業が変わるために取り組むべきDXとして、仕事のやり方をかえる「プロセスDX」、働き方を変える「ワークスタイルDX」、ビジネスモデルを変える「ビジネスDX」に分類しています。

仕事のやり方をかえる「プロセスDX」

プロセスDXは、従来の業務フローにデジタル技術を取り入れて、業務効率化や業務改善を行うことです。

プロセスDXの取り組み例として、業務の現状可視化、業務ナレッジ共有化、業務環境の電子化、業務の自動化、業務の高度化などがあります。

働き方を変える「ワークスタイルDX」

ワークスタイルDXは、職場にデジタル技術を導入することで場所や時間の制約を減らし、多様な働き方や活躍の仕方を容認することです。

ワークスタイルDXの取り組み例として、テレワーク促進、ABW1オフィス改革、管理型から支援型へのマネジメント改革、ダイバーシティ&インクルージョン、組織外での自律型キャリア開発促進などがあります。

1ABW(Activity based Working)とは:労働者が自律的に働く時間や場所を選択する働き方のこと。

ビジネスモデルを変える「ビジネスDX」

ビジネスDXは、デジタル社会の中でマーケットのニーズや競合の変化に対応するために新規事業の開発や既存事業モデルの変革を行うことです。

ビジネスDXの取り組み例として、既存ビジネスモデルの変革、新規事業開発、リーン開発2体制整備、ビジネスプロデューサー育成(design&Digital talent)、DX組織・文化開発などがあります。

2リーン開発とは:プロセスから無駄をなくすことを目的とした開発手法のこと。

3つのDXは組織と個人の関係性を変える

ーー今後、この3つのDXが進むに連れて、働き方はどのように転換していくとお考えですか。

3つのDX領域は表面的な話で、重要なことは「X(トランスフォーメーション)」の部分だと考えています。

ここ数十年間、日本企業はグローバル化、IT化、働き方改革、新型コロナ対応、そしてDX対応と事業の在り方や働き方を変え、社会的な変化に適応しようと取り組んできました。しかし、いずれも「会社が変わるから、社員も変わる」というものでした。

ところが、徐々にこの組織と社員の関係性が変わりつつあります。

会社という所属組織にある意味依存していた社員が、社会ではたらく一個人として会社・組織を活用して、どうやって自分自身のキャリアを確立していくのか。会社は所属するものから、社会で価値発揮するために活用するものへと、その関係性が変わろうとしています。

DXは、この組織と個人の関係性を変えるひとつの社会的トレンドだと捉えています。組織に依存しない個人が増えた時、結果として働き方は、従来のものから大きく転換を迎えることになるはずです。2020年代は、その転換点となる10年になるのではないでしょうか。

国内の企業が取り組み始めているDXですが、推進する上で多くの障壁が存在します。実際にどのような障壁が存在しているのでしょうか。

DXを推進する上での障壁とDX人材に求められるスキル

パーソルP&Tは、企業のDX推進における「人材育成」の実態を調査しました。

DXに取り組む多くの企業がデジタライゼーションで停滞している

パーソルP&Tの調査によると、63.7%の企業が何らかの形でDXに取り組んでいることがわかります。

DXの取り組みについて検討している、もしくは実施している内容は「業務デジタル化・効率化」が82.9%と最多ですが、DXの本質である「ビジネスモデル変革、新規事業創出」に取り組んでいる企業は55.3%という状況です。

DXは、デジタル技術の活用によりビジネスモデルを変革する必要がありますが、55.3%の企業しか取り組めていないということは、多くの企業がDXの環境を構築している段階であることを指します。

『デジタル人材育成に関する調査結果』より引用。

ーーこの点についてどのようにお考えになりますか。

DXの取り組みを分かりやすく整理するために、仕事のやり方をかえる「プロセスDX」、働き方を変える「ワークスタイルDX」、ビジネスモデルを変える「ビジネスDX」に分類しています。

現在、多くの企業は、ビジネスモデル変革や新規事業創出に取り組むビジネスDXではなく、「業務のデジタル化・効率化」のプロセスDXを優先的に取り組んでいます。これは、ビジネスDX以前に働き方改革の時代から続く既存事業領域の生産性向上に優先的に取り組んでいるためです。

また、新型コロナの影響により、働き方の基盤を急速に変化させる必要が生じたため、リモートワークを中心としたワークスタイルDXの優先度が上がりました。多くの企業にとって、デジタル・ビジネスにチャレンジする以前に、新型コロナへの対応、そして基盤となっている既存事業領域のプロセスDXの方が投資対効果を創出しやすい、また、現場社員も取り組みやすいという事情があります。

ただ、それでも中々DXが効果を生むまで進んでいない企業が多いのも事実です。DXに苦戦している企業に共通している課題が「現場でDXを推進できる人材がいない」ということです。

各社、DX推進をミッションとする専門組織を立ち上げはじめていますが、まだまだ少数精鋭で、当然ながらその小数で全社のDXプロジェクトをすべて企画・計画し、実行に移すことはできません。さまざまなアプローチが試行錯誤されていますが、最も現実的な対策として取り組みが加速しているのが、各現場でDXを推進できる人材の育成です。

DXを推進する上での1番の障壁

パーソルP&Tが、DXを推進する上での障壁について調査をしたところ、「推進のためのスキルを持った人材を社内で育成できない」が21.1%と最多票でした。

『パーソルホールディングス DX推進に関する最新動向調査レポート』より引用。

他にも、セキュリティ対策や環境整備など、社内の体制に関わる課題が顕在化しています。

  • セキュリティ対策に不安がある(19.9%)
  • 組織体制や推進のための環境整備が不十分である(16.4%)

しかし、以下のように社内の人材に起因する課題が上位を占めています。

  • 社内のITリテラシーが不十分である(19.3%)
  • リーダーシップをとる人がいない(15.9%)
  • 取り組みが社内になかなか浸透しない(15.5%)

上記のような課題を受け、現場でDXを推進するためのスキルを持ち合わせた人材の需要が増していますが、具体的にどのようなスキルが必要とされているのでしょうか。

現場でDXを推進できる人材のスキル

ーー全社や各現場レベルでDXを推進できる人材とは、どのようなスキルを持つ人材なのでしょうか。

DX推進人材に求められるスキルとして、「先端IT技術知識」も期待として大きいのですが、それよりも求められるのは「アイデア企画・構想力」や「課題発見力」です。

これらは、プロセスDX、ワークスタイルDX、そしてビジネスDX、3つのDX領域すべてにおいて重要となる能力です。

トランスフォーメーション自体は目的ではなく手段です。「誰の、何の課題解決ために、何をどうやって変えるのか?」この問いをもって自身の現場で課題を発見し、状況を変えるための手段を企画・構想し、実行に移す力が重要になります。

『デジタル人材育成に関する調査結果』より引用。

DXの取り組みや新しいビジネスデジタルを進める上で、適切な課題を設定し、解決するための企画を立案するスキルは重要になります。

他にも、課題を把握する上でマーケットや顧客のニーズを汲み取り、ビジネスやサービスを発想し、有効なコンセプトに落とし込む「着想力」や、現場の合意形成や相互理解をサポートし、協調的に活動を促進させる「ファシリテーション力」も必要になります。

▼DX人材の6つの業種、スキル、マインドセットについて詳しく知りたい方はこちら

パーソルP&Tは、どのようなサービスで組織のDX推進人材を育成しているのでしょうか。

現場で活躍するDX人材を育成する

パーソルP&Tは、デジタル人材の育成を支援する「Work Switch + Digital(ワークスイッチ・プラスデジタル)」を提供しています。パーソルP&T独自の調査から発覚した課題や求められるスキルをもとに教育プログラムを開発しました。

ーー社内のDX人材を育成するサービス「Work Switch + Digital」は、既存のサービスと比べてどのような特徴があるのでしょうか。

パーソルグループのデジタル人材育成事業として、先端IT技術知識の提供だけを目的としたものではなく、現場ではたらく多くの人が変革していくことを支援するサービスを提供しています。

Work Switch + Digitalの目指すデジタル人材育成のゴールは「自律的なDX推進組織の実現」です。我々も含めた外部のベンダーに依存しない、企業が自らDX推進できる組織、風土を共につくることをゴールとしています。この目的達成のために、サービスの注力するポイントは3つあります。

1つ目は、「新たに必要とされるスキル」を常に開拓し、さまざまなプレイヤーとアライアンスを組んで提供していく点です。弊社単独での得意分野としてRPAの人材育成は対応可能ですが、各クライアント企業で求められるDX推進のための能力は日々変化しています。この変化にアンテナを立て、必要に応じて外部のパートナーと組んでクライアント企業ごとに新たに必要となるスキルの学習機会を提供していきます。

2つ目は、学習者の実務に寄り添って学習機会を提供する実践学習を主たるサービスとしている点です。DXに必要な知識やスキルを学んでも、現場に持ち帰って実践できなければ意味がありません。先ず現場の実務実践があり、そこで具体的な変化を生み出すための学習機会を個別に設計し提供していきます。

3つ目は、学習者のキャリアシフトまで踏み込む点です。ここはパーソルならではのこだわりとして、研修や学習を目的とせずに、学習者が学ぶ過程で、自らのキャリアを自律的に考え、その役割や働き方、職域自体を変化させていくことまで含めて価値提供します。

企業ごとに新たに必要となるスキルを幅広くカスタマイズでき、個別指導で学習者の実務実践に寄り添い、最終的にはその学習者の主体的なキャリアシフトにつなげていく。この価値提供の3つのポイントが、『Work Switch + Digital』のこだわりであり、サービスの特徴になります。

DXの今後のトレンド

パーソルP&Tは、同調査の結果、今後のDXのトレンドとして次の3つのキーワードを定めています。

  • 現場主体のDX
  • デジタル人材育成
  • 自分ごと化

ーーそれぞれのキーワードにはどのような意図があるのでしょうか。

現場主体のDXが重視されているのは、プロセスDXとワークスタイルDXの取り組みが進み、求められる変革が企業の企画部隊から現場に展開されているためです。

そこで、現場に主体を委ねていきたいのですが、前述の通り、各現場でDXを推進できる人材がいないため「デジタル人材育成」が必要となり、また、DXを現場の各自が「自分ごとに捉えていない」点が推進の大きな壁になっています。

そのため、「現場主体のDX」「デジタル人材育成」「自分ごと化」というキーワードが各社共通の課題トレンドとなっています。

ーー従業員がDXの取り組みを「自分ごと化」するために、DXを推進するリーダーはどのようなことをする必要があるのでしょうか。

この現場の「自分ごと化」や意識改革は、DX特有の課題ではなく、今までも企業が何らかの変革に取り組む時に課題となってきたことです。

意識改革のためのトップダウンのリーダーシップも大事ですが、これからの時代は、現場のひとりひとりが自律的に変化していくこと、変化に適応していくことが重要になります。

「DXの取り組みを自分ごと化する」というのは、実はその時点で「組織から言われた施策を自分の仕事にする」という組織依存のスタイルになっています。

自らが、社会の変化、組織の変化にアンテナを立てて、その中で自分自身は変わる必要があるのか?あるとしたら、何から取り組みはじめるのか?という個々人の変化適応力を刺激する機会をつくっていく必要があります。

今後の展望

ーー今後の展望を教えて下さい。

現在は、RPAを中心としたプロセスDX人材の育成が主なサービス提供となっています。

しかし、今回お伝えした通り、クライアント企業の現場の皆様のキャリアシフトにつながるためのサービス開発にも注力しています。

まずは、できるだけ多くの企業様のDX人材の育成課題に共同で取り組みたいため、さまざまな事例を紹介していきます。

また、デジタル人材育成自体にも、デジタルの力を取り入れるべく、新たなラーニング・テクノロジーをサービスに取り入れて、より価値の高い学習機会を提供していきたいと考えています。

さいごに

企業の将来を見据えてDXに取り組む企業が増加し、失敗に終わる企業がいる中、成瀬氏は3つのDXを提示しました。

DXという難しい概念を「プロセスDX」「ワークスタイルDX」「ビジネスDX」の3つに細分化することで、シンプルにDXを捉え直し実践できるのではないでしょうか。まずは、自社で取り組むべきDXを検討してみてください。

また、成瀬氏はDXを推進する上で、現場の従業員の当事者意識がキーになると指摘しています。DXに関わらず、事業をすすめる上でよく聞く用語ですが、従業員にどれだけ意識させられていますか?

社内のDXを加速させ、企業としてもステップアップするために、従業員が「自分ごと化」できるようになる仕組みを考案してみてください。

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