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2022.07.20

AIによってエグゼクティブのキャリアパスを再定義するための3つの戦略

最終更新日:

著者のGanes Kesari氏はMediumに多数のデータサイエンスに関する記事を投稿しているデータサイエンティストであり、それらのいくつかはAINOWの翻訳記事で紹介してきました(同氏の詳しい業績は同氏公式サイトを参照)。同氏がMediumに投稿した記事『AIによってエグゼクティブのキャリアパスを再定義するための3つの戦略』では、AIスキルを習得した管理職スタッフが進むべきAIキャリアパスが解説されています。
Kesari氏によると、すでにAI以外の分野で実績のある管理職スタッフが新たにAIスキルを習得した場合、既存のスキルとAIスキルの両方を生かすようなキャリアパスにはどのようなものがあるのか、という疑問に直面します。こうした疑問に対して、同氏は以下のような3つのキャリアパスを提案します(なお、以下のキャリアパス名は便宜的なものであり記事本文では使われていません)。

実績のある管理職スタッフがAIスキルを習得したうえで歩むべきAIキャリアパス
  • AIビジネスマネージャー:AIを活用した意思決定にもとづいて、企業のビジネス的方針を打ち出す人材。
  • AIスペシャリスト:実際の企業活動におけるAIの活用を推進する人材。
  • AIアドバイザー:AIの意思決定を経営陣や顧客に説明したり、倫理規定を遵守するようにAIシステムを運用したりする人材。

以上の3つのキャリアパスから1つを選ぶに際しては、望んでいるキャリア像、利用できるチャンス、許容できるリスク等の要因が関係する、とKesari氏は述べています。そして、正しいAIキャリアパスを歩めば、ビジネスに関する信頼が得られるだろう、とも語っています。

なお、以下の記事本文はGanes Kesari氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。また、翻訳記事の内容は同氏の見解であり、特定の国や地域ならびに組織や団体を代表するものではなく、翻訳者およびAINOW編集部の主義主張を表明したものでもありません。
以下の翻訳記事を作成するにあたっては、日本語の文章として読み易くするために、意訳やコンテクストを明確にするための補足を行っています。

画像出典:UnsplashMike Lewinskiより

リーダーがAI教育を活用するための3つの方法

人工知能(AI)は、あらゆる業界のビジネスや職務を破壊し、低スキルの手作業だけではなく管理職の長期的な雇用の安定(※訳註1)に対しても不安を投げかけている。

このAI主導の経済に備えるため、多くの経験豊富な管理職やベテラン経営者が、基礎的なデータ分析やAIのスキルアップのためにMOOC(Massive Open Online Courses:大規模公開オンライン講座)に注目している。このトレンドは、すぐには減速しそうにない。世界のMOOC市場は、2018年の39億ドルから2023年には208億ドル、年平均成長率40.1%で成長すると予想されている。

ビジネスとテクノロジー関連の講座は、これらのオンラインコースの40%を占めている(※訳註2)。また、多くの大学が、(懇切丁寧な)ハイタッチ(※訳註3)のエグゼクティブ教育プログラムを提供することで、AIリーダーシップの(スキル不足による)ギャップを埋めようとする動きに加わっている。

スキルアップのためのプログラムは簡単に利用できるが、多くのエグゼクティブは新たに得たスキルをどのように活用してキャリアを向上させればよいのか迷っている。AIの「実務家」になることは技術的なハードルが高いため、現在務めている職種によっては適切な選択肢ではないかも知れない。また、(AIキャリアのために)「ジュニア化」(※訳註4)を選択するのはキャリアを数歩後退させる可能性があるため、除外する人もいるかも知れない。

(※訳註1)カリフォルニア大学から発行されているマネジメントに関するメディアCalifornia Management Reviewが2021年1月26日に公開した記事『中間管理職の不確実性 – そして関わり続ける方法』では、アメリカの中間管理職における以下のような報告を引用している。
  • Gartnerが2020年1月に発表したレポートでは、2024年までにロボットがマネージャーの仕事の69%を代替する。
  • AIによるローコード業務を提供するPegaのグローバルレポートによると、調査した経営者の78%がAIとロボットの利用が増えれば中間管理職の評価が下がると考えている。
(※訳註2)オンライン講座の講座情報を提供するClass Centralは2020年11月末、世界のオンライン講座におけるテーマ別の割合を調査した記事を公開した。その記事によれば、世界のオンライン講座において20.4%がビジネス、19.3%がテクノロジーであった。その他の割合は以下のグラフの通り。

Class Centralの記事にもとづき翻訳者がグラフ作成

(※訳註3)ビジネス用語における「ハイタッチ」とは、人間による丁寧な応対やサービス提供を意味する。オンライン講座のコンテクストで言えば、個別指導型のものがハイタッチに相当するだろう。
(※訳註4)ビジネス用語における「ジュニア化(juniorizing)」とは、特定の業界で経験を積んだ中間管理職スタッフが、何らかの理由で若いスタッフにそれまでの地位を譲るか奪われるかして、歩んできたキャリアパスから外れること。この記事のコンテクストで言えば、AI人材のキャリアパスに転身するために中間管理職の地位を捨てること。

AIを軸にしたキャリアを築くうえでの3つの課題

AIに関するプログラムを修了した組織リーダーは、共通して3つの疑問を持つ。

  • AIに関する組織のイニシアティブを先導するテクノロジーリーダーへの転身は可能か。
  • 実務的なリーダーシップの経験と、新しく身につけたAIのスキルをどのように組み合わせればよいのか。
  • 今日のAIエコノミーにおいて、転身できる新しく作られた(AI関連の)ミドルキャリアとは何か。

このような問いに答えるのは簡単ではないし、キャリア半ばでの変革も決して容易ではない。(AI管理職に転身した)個人を指導したり、企業がAI関連技術を取り入れるのを支援したりした私の経験にもとづき、以下ではリーダーがキャリアを再構築するために採用できる3つの戦略を紹介する。

1.組織全体のAIをリードする技術職への転身

画像出典:UnsplashAndy Hermawanより

最近の企業はAI高等研究所を設立したり、データとアナリティクスを陣頭指揮する最高データ責任者(CDO)や最高アナリティクス責任者(CAO)といった新たな上級職を追加したりしている。Gartnerは、調査対象となった組織の72%において、デジタル変革はCDOなどのデータエグゼクティブが主導または大きな影響を及ぼしていることを明らかにした(※訳註5)。AIスキルを身につけた上級管理職は、組織内のAIイニシアティブを主導することでテクノロジー中心の役割にシフトすることを通してキャリアを刷新できる。

こうした組織の変革には、ビジネスの中核にアナリティクスを浸透させる方法を計画立案できるリーダーが必要だ。また、データおよびアナリティクスチームを構築し、AIの公正かつ倫理的な利用を確保し、データにもとづく意思決定を促進するための優れた実行能力も求められる。全体としてこの役割にはソートリーダーシップ(※訳註6)、感情的知性、紛争解決能力をうまく組み合わせることが要求される。

NewVantage Partners社の調査によると、49%の企業が新たに求められるデータ中心の新しいリーダー的役割を担う人材を社内から登用し、社内の変革推進者として機能させることを望んでいることも判明している(※訳註7)。

(※訳註5)Gartnerは2021年5月5日、第6回CDO年次調査の結果を発表した。その発表によると、DX推進における企業内のデータ&アナリティクスリーダーの関与について「非常に関与している」が48%、「リードしている」が24%であり、これらふたつを合わせると72%であった。そのほかの割合は以下のグラフの通り。

Gartnerの記事にもとづき翻訳者がグラフ作成

(※訳註6)ソートリーダーシップ(thought leadership)とは、特定のビジネス業界において、その業界をけん引する革新的なアイデアを発想して主導することである。
(※訳註7)データ主導型のビジネスをアドバイスするコンサルティング会社NewVantage Partnersが2022年1月に発表したレポート『データとAIのリーダーシップに関するエグゼクティブ調査』によると、2012年から始めた同調査においてCDO(最高データ責任者)あるいはCDAO(最高データ&アナリティクス責任者)を任命している企業の割合の推移は、以下のグラフのように表せられる。2012年では12%だったが、10年後の2022年では73.7%と6倍以上になっている。

NewVantage Partnersのレポートにもとづき翻訳者がグラフ作成

2.AIの機能を活用し、実務的な専門性を高める

画像出典:UnsplashYusuf Evliより

企業は、顧客向けサービスと社内業務の両方で広くAIを導入しつつある。企業がより分析主導型になるにつれ、実務を通じてAI主導の戦略的イニシアティブを擁護し、チーム間のコラボレーションを促進し、変化を管理して(AIの)採用を推進できるリーダーが必要とされる。このような「AIオーケストレーター」の重要な差別化要素は深い職務経験と、ビジネス的価値を生み出すためにAIを適用する方法に関する堅実な理解だ。

AIというと、ほとんどの企業がプリンシパル・データサイエンティスト、AIマネージャー、チーフ・アナリティクス・オフィサーといった上級技術職に真っ先に注目する。しかし、AIによる成功は強力な実務的リーダーシップなしには不可能なのだ。この(特定の上級技術職ばかりに注目する)偏った焦点は、今日のAIにおける最大の課題の1つを説明するのに役立つかも知れない。95%以上の組織がAIに投資している一方で、データ駆動型の組織を構築していると回答したのはわずか26%だった(※訳註8)。ビジネスリーダーは、AIに対するビジョンを率先して売り込み、チーム間のコラボレーションを確保し、ビジネスにおけるAIソリューションの採用を自ら決定しなければならない。

(※訳註8)この調査結果の出典は、前出のNewVantage Partners作成レポートデータとAIのリーダーシップに関するエグゼクティブ調査』である。

3.新しい組織的役割を創造するために枠の外で考える

画像出典:Unsplashdavisukoより

アクセンチュアが1,000社以上の大企業を対象に行ったグローバル調査では、AI関連の職種に3つの新しいカテゴリーが出現していることを指摘している。

  • トレーナー(Trainer:訓練者)は機械と連携し、AIシステムに効果的で正確な仕事を教える。
  • エクスプレナー(Explainer:説明者)は、AIの専門家とビジネスリーダーのあいだのギャップを埋め、明確な説明を提供する。
  • サステイナー(Sustainer:維持者)は、AIによる自動化がもたらす予期せぬ結果を回避し、業務の継続を支援する。業界経験の深いマネージャーやリーダーは、エクスプレナーやサステイナーの新たな役割に対応する態勢を整えられるだろう。

例えば、融資枠の審査、評価、手続きを主な仕事とする従来のローンマネージャーを例にとってみよう。Rocket Mortgageのようなオンラインローン組成プラットフォームの台頭(※訳註9)は、ローンマネージャーを時代遅れにする可能性がある。しかし、米国のクレジット・融資規制の枠組みは、現在、公正なAIを実施する仕組みにはなっていない(※訳註10)。

以上のような従来のローンマネージャーは、既存の知識を補完して「ローンエクスプレナー」または「ローンエティックマネージャー」になれる。こうした人材は、例えば「ブラックボックス」機械学習アルゴリズムによって顧客のローンが拒否された理由を説明できる。同様に、この職種は貸し手が潜在的な差別問題を回避し、AIの使用に関する急速に進化する規制ガイドラインの遵守を確保するのに役立つことが可能だ。

(※訳註9)アメリカの不動産情報を提供するSpaceQuantが2020年7月14日に公開したブログ記事によると、アメリカの住宅ローン金融会社Quicken Loansが2015年から提供するローン審査サービスRocket Mortgageでは、ローン申請者に対する質問の回答と申請者の金融情報だけでローン枠を決定する。この処理に人間は介在していない
(※訳註10)アメリカの政策について調査するNPOであるブルッキングス研究所が2020年7月に発表したレポート『AIを活用した金融サービスにおけるバイアスの低減』によると、アメリカでは住宅ローンの審査時に人種に関するデータを収集することを義務づけている。人種に関するデータのひとつである人種ごとの信用スコアを参照すると、以下のグラフのように人種間で格差がある。

ブルッキングス研究所のレポートにもとづき翻訳者がグラフ作成

ブルッキングス研究所のレポートによれば、現在のアメリカの融資に関連する法律の基礎は差別が横行していた1960~1970年代に制定された。こうした時代遅れの法律にしたがって融資審査AIシステムを構築した場合、そのシステムが人種的な差別を増幅する恐れがある。

戦略を実行に移す

上記の3つの中から適切な戦略を選ぶには、自分のキャリア願望、手持ちの機会、リスクに対峙するための意欲など、さまざまな要因に左右される。シニアマネジャーやエグゼクティブは、AI時代をリードするために、現在の強みと新たに獲得したAIスキルを融合させてクリエイティブになる必要がある。

注目すべきは、リーダーは組織内に存在する機会に縛られる必要はなく(所属組織を離れて)業界内の起業の機会を追求できる点である。パンデミックの真っ只中、ベンチャーキャピタルファンドは2021年に全世界で過去最高の2,680億ドルを投資した(※訳註11)。スタートアップは、経験豊富な経営者にとって魅力的な事業となり得る。そうした経営者は、業界のなかでまだ満たされていないニーズや顧客が抱いている苦慮が、AIが解放する新しい可能性によって解決すると深く理解しているのだ。

(※訳註11)ロイター通信が2021年7月22日に報じたところによると、2021年における世界のベンチャーキャピタルによる投資額は2,687億ドルで、前年の2,512億ドルから約7%増加した。投資先の大部分はソフトウェア、eコマース、デジタルヘルスケア、金融関連であり、こうした企業がコロナ禍の悪影響を受けていないことが明らかになった。

信頼性を高めることで、AIによるキャリア転換を促進する

画像出典:UnsplashKOBU Agencyより

今日、キャリア転換は、スキルアッププログラムへの容易なアクセス、仲間とのネットワークを構築する豊富なソーシャルプラットフォーム、強力なパーソナルアイデンティティを構築するためのアクセス方法によって促進される。

リーダーはLinkedInでプレゼンスを高めたり、メディアに記事を投稿したり、イベントへ参加したりするなどを通じて、パーソナルブランドを構築することをよくすすめられる。そして、魅力的なパーソナルブランドは、あなたのプロフィールを魅力的にし、ソーシャルメディアの投稿に多くの「いいね」をもたらすかも知れないが、強い個人の信頼性はあなたの仕事を信じている人々と深くつながることにこそ役立つのだ。

信頼性を高めるには、付加価値を付けることで意図してネットワークを構築し、AIのビジネスへの応用について堅実な視点を養い、自分のアイデアを説得力のある方法で表現できるようにする。例えば、AIの分野はまだ始まったばかりで、重い規制はまだない(しかし、規制は非常に必要だ)。組織やコミュニティが責任を持ってAIを導入する方法について意見があれば、それを共有しよう。あなたの業界におけるAI使用に関する参加型の規制に参加してみよう。

個人の信頼性を高めるには、時間と努力が必要となる。継続的に学習し、一貫して関与し、首尾一貫した足跡を残すのを確実にしよう。そうすることで、より良いキャリアの選択肢と、より充実したキャリアに導かれる。

この記事の初出は、The Enterprisers Projectに掲載された。Mediumに転載するにあたり、イラストを追加した。


原文
『3 Strategies To Redefine Your Executive Career Path With AI』

著者
Ganes Kesari

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

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