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「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」など、数多くの大人気ゲームを提供している株式会社スクウェア・エニックス(以下スクエニ)に、AI部が2022年1月1日に設立されました。
メタバース、スマートシティなど、デジタル産業が発展している中、ゲームAIはどのように進化していくのでしょうか。
今回は、株式会社スクウェア・エニックスAI部のジェネラル・マネージャーに着任された三宅陽一郎氏に、AI部についてインタビューさせていただきました。
ゲームを超えたメディアの中へ|AI部発足の背景
ーーAI部発足の背景について教えてください
もともとAIユニットという部署は存在していましたが、社内でAIの需要が増えるにつれて組織が大きくなり、気が付けばユニットの範囲を超えてメンバーも領域も拡大していました。また、昨今機械学習やメタバース、ゲームにおける自然言語対話などにおいてもAI領域がどんどん大きくなっており、スクウェア・エニックスを支える大きな柱として、ゲーム開発をさらに支援・進化させ、ユーザー様への新しい段階のコンテンツをお届けする役割を果たしていくために発足しました。 |
ーーメタバースに関しては、三宅さんはどのようなところに注目されているのでしょうか
今はゲームそのものに大きな期待を寄せていただいていてさらにデジタルゲーム自体が変化しています。これまでのゲームAIというと、敵・味方の挙動や、戦闘のようなイメージがあったと思います。しかし、これからはゲームの中にあるメタバース的なコミュニティー要素やゲーム性以外でのさまざまな文化的要素が重要になります。例えば、店員のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)との会話や、ゲーム内でコンサートを開催するなど、緩やかなユーザとのインタラクションのところでAIの機能が必要とされてきています。
特に、機械学習、ディープラーニングは徐々にデジタルゲームに入ってきており、スピードは他の業界ほど早くないですが、確実にデジタルゲームそのものを変えていくと思っています。これまではパラメータをデザイナーが作ってAIが自動的に調整していましたが、細かい点で追いきれないようなところもありました。そこをAIの学習によって適応するなど、本格的に取り組んでいくフェーズに入りつつあります。 |
一人ひとりにオリジナルのゲームを|スクエニが描くゲームの未来
ーーゲームの中の機械学習でいうと、ゲームAIのトレンドはどのように変化しているのでしょうか
機械学習は、これまでゲーム開発者に向けた技術でした。例えば、アーティストのアシストや、オンラインゲームでの規制プレイヤーの候補を摘出する部分など、開発補助から導入されてきました。
しかし、最近は実況文化がありますので、動画を見ただけでみんなプレイした気になってしまいます。そこでAIを利用することで、ゲームを8割は一緒でも、2割はそれぞれの人にカスタマイズしたアダプティブなコンテンツに変化させられると考えています。 ユーザは、みんなと同じ体験をしたいという気持ちと、みんなと違う体験をしたいという相反する気持ちを同時に持っているところがあると考えています。その両者を満たすというのは、映画など一方向のメディアではできないと思っていて、インタラクティブ性のあるゲームに可能性があると考えています。深い意味でのインタラクティブ性ですね。ユーザーそれぞれの性格やプレイスタイル、現在の心理を推定することで、コンテンツを柔軟に変化させて行く方法です。 また、研究段階ではありますが絵を描くAIキャラクターも現在開発しています。AIキャラクターには感情マップがあり、彼が今どのような心理状態なのか確認できます。感情はキャラクターが見るものによって変化していき、彼に絵を描かせると、心理状態や見ている向きによって全然違う絵が生成されるようになっています。これまでは、絵を生成するときに、あらかじめアーティストが用意したものを表示しますが、このキャラクターはディープラーニングで色々な画家の感触を学習させています。そうすることで、ゲームの中でキャラクターが本当にディープラーニングを動かして、毎回違う絵を生成する事に成功しました。 このように、ゲーム内の広い世界で画家のようなキャラクターができて、その場でコンテンツが生成されていくような段階に入りつつあります。 |
© 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
ーー他にも開発しているコンテンツがありましたら、教えてください
※2プロシージャルアニメーションの制作ツールの開発も行っています。
従来では、キャラクターアニメーションはモーションキャプチャースタジオで撮影して人間が作成しますが、キャラクターのモデルが変われば、その度に作り替えなければならないのでした。そこを自動生成するという技術の研究も進めています。 また、プロシージャルアニメーションの研究で、アニメの生成というものがありましたが、そちらはロボットゲームを題材にしており、キャラクターは、アニメーションがついていない状態でスタートします。 あらかじめアニメーションを指定するわけではなく、パーツを組み上げたら、その場でキャラクターのアニメーションが自動生成されるため、ユーザが自由に設計してプレイすることができるようになります。 |
※2プロシージャルアニメーション:数式、事前に入力したデータなどを利用し、自動生成されるアニメーション
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ーー「コンテンツの生成」のコンテンツが指すのは、グラフィックだけではなく、動きやストーリー、もっと言えばセリフなどあらゆるものを生成できるようになるんですね
そうですね。ただ、昨今AIの力で可能になっていますが、世間でいう学習というのは、文章生成のために新聞やメディアのデータを学習させるため、学習後にゲーム向けにカスタマイズする必要があります。そのためには、※3ファインチューニングを行って、ファンタジーなゲームでは、その世界観に馴染むよう学習させる必要があります。
ディープラーニング技術でさまざまなことができるようになりますが、機械学習に問題があり、データではどうにもできない事もあります。今回の課題については、学習系でも強化学習の方が向いていて、さまざまなトライアルから学んでいくものがあると考えているので、そういう研究も進めています。 |
※3ファインチューニング:既存の学習済みモデルの一部と新たに追加したモデルを合わせた全体の微調整
ゲームからリアル世界へ|ゲームAIの可能性
ーー三宅さんの中で、リアル空間でゲームが広がっていく感覚はいつ頃から持たれたのでしょうか
自分の中では、Niantic社が開発した「Ingress」(2012年~)が出てきたときに、ゲーム全体がAR的な要素を含んで広がっていくだろうと思いました。
ゲームAIは、キャラクターの頭脳になる「キャラクターAI」と、空間を解析する「ナビゲーションAI」によって構成されます。これはデジタル空間だけではなく、街でもいいと思うんです。例えば、街全体を監視するメタAIがいて、プレイヤーを人間とします。街を掃除するロボットや警備するロボットはキャラクターAIになり、道路や建物の位置を解析するのがナビゲーションAIになります。これはSFではなく、AIが発展し、メタAI、キャラクターAIが完成したら、実現できると考えています。ゲームが街全体に広がっていくことは、むしろ現実的だと考えており、最近はずっとこの仕組みを整備しています。 データサイエンスを用いたスマートシティはたくさんありますが、スマートシティ全体のAIの仕組みを提案する人はそこまで多くありません。私は、このような街のAIの仕組みは、価値があると提案しています。 |
ーー日本だと、メタAIを扱っているプレイヤーはあまりいないようなイメージがありますがいかがでしょうか。
あまりいないですね。意外とゲーム以外でメタAIという概念がないんです。AIは、リアルタイムかノンリアルタイムで分類することが重要だと考えていて、ゲームAIは人と同じ時間と空間を生きるんです。どこかにサーバーがあって、通信するノンリアルタイムのAIも必要ですが、人間と同じ場所と時間を生きてきたゲームにおけるAIのようなリアルタイム性も重要だと思います。その延長として、人の心を考えなければいけないし、人の行動も解析しないといけません。
こちらは私がよく出す図ですが、ドラえもんのように人と同期して生きるのが右側で、ビックデータ解析のように体を持たないようなものが左下の方になります。たくさんデータを集め、学習し、すごくいい機能を作る事も大事ですが、人間と同期して、生活空間を作っていく事も同じように大事だと考えています。これがゲームの中で我々がずっとやってきた事ですし、スマートシティや都市など、ちょっとした現実空間にもこれから広がっていくと考えています。 |
さいごに
2016年にSociety5.0が提唱され、ICTなどスマート技術を駆使することで、人口集中、環境悪化などの都市問題を解決し、QOLを高めることを目的にスマートシティが推進されてきました。また、快適な暮らしを実現するためにスマートシティへの注目がより高まっています。その上で、メタバースの急激な発展により、デジタル空間がより身近になっている近年、メタAIの需要は高まっていくでしょう。
メタAIを含め、今まで何気なくプレイしていたゲームの中のAIが進化を続け、デジタルの世界だけではなく、現実世界でも活躍する日はそう遠くないと考えられます。
その最先端を走るスクウェア・エニックスのAI部の今後の活躍が楽しみです。
AINOWライター。
大学ではHuman-Agent-Interactionや組織運営について学んでいる。