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株式会社データグリッドは、2017年に設立された、京都大学発の注目AIスタートアップ企業です。
データグリッドは各企業の持つアセットと、自社AIテクノロジーを組み合わせることで、さまざまな業界・業種における新たなAIビジネス創出を目指しています。
今回はデータグリッドの概要や事業内容を紹介しつつ、同社の強みや動向について解説していきます。
目次
株式会社データグリッドとは
企業概要
社名 | 株式会社データグリッド |
設立 | 2017年7月5日 |
所在地 | 〒606-8501 京都府京都市左京区吉田本町36番地1 京都大学国際科学イノベーション棟 |
取締役 | 代表取締役CEO 岡田 侑貴
最高技術責任者CTO 庵原 明洋 執行役員CSO 藤嶌 辰也 |
社員数 | 53人(2021年5月末時点、パートタイム含む) |
資本金 | 1億円 |
ビジョン
“すべてのデータに、命を与える”
実在しない人物が、いきいきと動き出す。ひとつのデータから、高精度なデータを膨大に生み出す。データそのものが、あたかも命を宿しているかのように、姿かたち、表現を変えて、自動で生成されていく。それらすべてを可能にするのが、データグリッドのシンセティックAIです。人の手を介すことなく、動画像や音声データを自在に合成。アイデアを具現化し、ビジネスを進化させる。シンセティックAIが、社会に不可欠な存在になる日はそう遠くないでしょう。シンセティックAIを社会インフラにして、すべてのデータに命を与え、すべての人がクリエイティビティを発揮できる社会をつくります。
引用:データグリッド公式HP
このビジョンから、先端技術と多岐にわたる産業・領域を融合させ、未知の領域に挑戦する社風だと分かります。後述する事業内容などを見ると、データグリッドはビジョンを掲げるだけでなく、実際に事業内容や組織論に落とし込まれていることが分かるでしょう。
沿革
2017年 7月 | 京都大学国際科学イノベーション棟内のインキュベーション施設において設立 |
2018年 4月 | 株式会社アエリアより資金調達を実施 |
2018年 7月 | NVIDIA Inception Programのパートナー企業に認定 |
2018年 7月 | 京都大学とデータ生成技術に関する共同研究を開始 |
2018年 10月 | 京大オリジナル株式会社とAI分野の産学連携推進を目的とした業務提携を締結 |
2019年 1月 | 東大松尾研のスピンアウトVCであるDeep30より資金調達を実施 |
2019年 8月 | 人員拡大に伴い、京都本社を京都大学国際科学イノベーション棟内の地下1階に移転 |
2020年 10月 | 近畿経済産業局が推進するスタートアップ企業育成支援プログラム「J-Startup KANSAI」に選定 |
2021年 11月 | プレシリーズAラウンドで3億円の資金調達を実施 |
株式会社データグリッドの事業内容
さまざまなAIテクノロジーを持つデータグリッドは、シンセティックAIプラットフォームを通して、大きく分けて、次の3つのことを可能にします。
- デジタルヒューマン
- トレーニングデータ生成
- その他新領域
それぞれ紹介していきます。
デジタルヒューマン
デジタルモデルやフォトリアルアバター、将来的にはあらゆる人型AIのビジュアルインターフェイスになることを目指しています。広告・メディア・エンタメ・アパレル業界などを中心に、様々なコンテンツ制作においてデータグリッドのデジタルヒューマンを活用できます。
一般的にデジタルヒューマンとは、CG技術を用いて作成される、人間らしい表情や動きを行うことができる3Dアバターを指します。現在は顧客からの問い合わせの受け答えなど、双方向のやり取りが可能なデジタルヒューマンの開発などが進められています。データグリッドのデジタルヒューマン技術を活用することで、表情や仕草など伝えられる情報量を格段に増やせるため、顧客満足度を上げるなども可能になるでしょう。
トレーニングデータ生成
AIの学習で大量のデータ取得が困難なケースにおいてシンセティックAIが活用できます。不良品検出の精度を上げるための不良品画像、カメラ映像の人物検知精度を上げるための多様な人物画像、画像の超解像やノイズ除去など、様々なシンセティックデータを生成できます。
トレーニングデータとは、AIモデルや機械学習アルゴリズムが適切な判断を導くことができるように意味付けされたデータです。「無意味なデータからは、意味ある結果は出てこない」という言葉もあるように、AIの学習において非常に重要であることがわかります。
データグリッドでは、シンセティックAIで大量の高精度データを生成し、企業のデータ不足を解決しています。
その他新領域
データグリッドが開発しているシンセティックAI技術は、デジタルヒューマンやトレーニングデータ生成以外に以下のような幅広い領域でも活用されています。
画像系
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音声系
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その他
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現在のデータ社会では、膨大な時間がかかっていた作業をAIに担わせるなど、あらゆる領域にAIを組み込む動きを見せています。材料開発を効率化するマテリアルズインフォマティクスや創薬プロセスの効率化、ディープフェイクに対するセキュリティ技術、デザイン制作をサポートする技術など、多岐にわたる領域でシンセティックAIは重要な役割を果たします。
株式会社データグリッドの最先端AI技術の活用事例3選
データグリッドは、同社の独自技術「シンセティックAI」を用いて多くのユニークなサービス開発・システム開発を行っています。今回はその中でも3つに絞って紹介します。
- kitemiru
- INAI MODEL
- バーチャルヒューマンを使った動画制作システム
それぞれ解説していきます。
kitemiru
kitemiruはデータグリッドのバーチャル試着技術を活用し、スマートフォンで撮影したユーザーの写真をアップロードするだけで瞬時にAIが商品の試着イメージを生成し表示するサービスです。kitemiruの使い方は以下の通りです。
ブランド側はEC用に撮影したモデル画像を登録するだけで試着ページのURLと二次元コードが発行されます。また、ユーザー側は服の購入前に、スマホで全身画像をアップロードするだけで着用イメージの確認が可能です。
INAI MODEL
INAI MODELはストックフォトサービスを運営するイメージナビ(株)とデータグリッドの共同サービスであり、イメージナビ(株)が運営しています。
INAI MODELとは、シンセティックAIで生成した非常に高い精度のデジタルヒューマンを、広告などに活用できる人物素材として提供するサービスです。
これによって、ユーザーはコンテンツ制作時に従来必要であったモデルの確保や撮影作業が不要となるため、コンテンツ制作コストを大幅に削減することが可能です。
活用事例として挙げられるのは、企業のイメージキャラクター、チャットボット、WEBカタログ、コンシェルジュなどです。これらは共通して、人間であることが求められるジャンルです。実在しないリアルな人間を提供するINAI MODELのニーズは今後も増えることが予想されます。
バーチャルヒューマンを使った動画制作システム
株式会社データグリッドと日本経済新聞社の研究開発組織である日経イノベーション・ラボと共同開発したものです。
こちらは、データグリッドのAIアセットを利用し、AIが作り出した実在しない人物や、実在する人物をベースに、自由に発話する内容を指定し動画を制作するシステムとなっており、報道での利用やオンラインイベントの司会など、様々なシーンでの利用が考えられます。
このシステムの導入メリットとして、以下の3点が挙げられています。
- 大幅なコスト削減
- 動画制作時間の短縮
- リップシンク技術 / 表情変化技術
それぞれ解説していきます。
大幅なコスト削減
現在、動画作成には出演者や撮影スタッフ、スタジオの確保など多くのコストがかかるものですが、このシステムを使うことで、誰でも簡易的な動画を少額で作ることが可能となります。
動画制作時間の短縮
従来は人物を撮影し3Dモデリングや音声を収録して動画を作成する場合、最低でも数日から10日程度、高品質な動画の場合は数ヵ月の時間が必要でした。本システムを利用することにより、1日で動画を制作することが可能となります。
リップシンク技術 / 表情変化技術
人物データに対して、入力された音声データに合わせて自然な形で唇の形を生成する技術です。これにより、バーチャルな人物ながらも写実的な動画を生成する技術の開発に成功しました。また、リップシンクは入力する音声データの言語を問わずに多言語で利用することが可能です。
引用:データグリッド公式HP
株式会社データグリッドの特徴
株式会社データグリッドについて、特筆すべき以下の3つの特徴を解説していきます。
- 最新テクノロジーとビジネスの調和
- シンセティックAIとは
- 独自のAIモジュール
それぞれ解説していきます。
最新テクノロジーとビジネスの調和
シンセティックデータの活用シーンが広がったことですでに様々なユースケースが生まれており、今後さらに社会へ浸透していくことが期待されます。データ活用を推進している4つの産業に絞って見ていきましょう。
- アパレル産業
- エンターテインメント産業
- サービス産業
- ものづくり・インフラ産業
アパレル産業
デジタルシフトへの強いニーズがあるアパレル産業に対して、デジタルを起点としたデザインプロセスから顧客接点、さらには顧客体験まで多くの観点からシンセティックデータの活用機会が顕在化しつつあります。デジタルヒューマンがモデルを担ったり、デジタルで試着ができるといったサービスはほんの一例です。
エンターテインメント産業
労働集約型の制作プロセスの自動化・効率化が進み、AI生成コンテンツを起点としたクリエイティブ制作が実現します。AIは人間の作業の代替だけではなく、AIが制作したコンテンツは人間の創造性を更に掻き立てる可能性があると考えられ、いずれはAIと人間が共同でコンテンツ制作に取組む世界が予想されます。
サービス産業
実在しないデジタル上のリアルな人物として生成したデジタルヒューマンは、将来的にあらゆる人型AIのビジュアルインターフェースとして普及する世界を予想しています 。たとえば、デジタルヒューマンが活用された映像コンテンツが制作されたり、メタバースの到来によって人間のアバターとして活用されることが考えられます。
ものづくり・インフラ産業
特定の物体や異常を検知するAIの実用化において最も重要であることの多い、データ不足や品質管理に悩まされることはもうありません。当社のソリューションを活用することで、擬似的なAIトレーニングデータを合成し、あらゆる企業・あらゆるユースケースのAI活用を推進します。
シンセティックAIとは
シンセティックAIとは、AIにより合成された動画像や音声データの総称であるシンセティックデータを創り出すことができるデータ生成AIのことです。
また、予測や認識のために産業分野に応用されてきた従来のAIとは異なり、創造性を発揮することができるデータ生成AIなのです。その技術革新によって、誰もが手軽に高品質なコンテンツデータをつくり出すことが可能になり、今ではデジタルヒューマン生成の分野など、様々なクリエイティブ領域で活用が進んでいます。
では、なぜシンセティックAIが、従来のAIと異なり創造性を発揮することができるのでしょう。その理由は、データグリッドが主要技術として活用しているGANのメカニズムにあります。
GAN(Generative Adversarial Network, 敵対的生成ネットワーク)とは?
データグリッドではGANについて以下のように説明しています。
GANは、生成AIと識別AIという2つのAIを組合せた競争的な学習システムで構成され、これらのAIが矛楯の関係で競い合って学習することにより、互いの精度が向上していく仕組みになっています。GANは、従来では困難であった高品質なデータ合成を可能にし、シンセティックデータを生み出すテクノロジーとして注目されています。
引用:データグリッド公式HP
GANは教師なし学習に該当し、正解データを与えることなく、特徴を学習するだけで実在しないデータや画像を生成することができる技術なのです。
独自のAIモジュール
データグリッドのシンセティックAIは、以下の3つのモジュール群によって構成されています。
- デジタルヒューマン生成モジュール群
- トレーニングデータ生成モジュール群
- その他要素技術のモジュール群
また、それぞれのモジュール群に多くの要素技術が詰め込まれています。
デジタルヒューマン生成モジュール群
AIにより高性能なデジタルヒューマンを作り出すために最適化されたモジュール群です。顔、全身、声など、人間を構成する要素全てに対するデジタルヒューマン生成エンジンが組み込まれています。
トレーニングデータ生成モジュール群
AIトレーニング用に大量のシンセティックデータを生成可能なため、AI開発では必須である高品質で大量のトレーニングデータセットの構築に貢献することができるモジュール群です。学習データだけではなく、異常検知データからシュミレーションデータまで様々なニーズに対応します。
その他要素技術のモジュール群
様々な企業のニーズに対応するために作られた汎用的な要素技術モジュール群です。例えば、テキスト生成エンジン、レコメンドエンジン、ノイズ除去エンジンなども有しているため、近年需要が増えている事例にも対応ができます。
株式会社データグリッドの最新の動向
外観検査AIソリューションの特別トライアルの提供を開始
2022年9月29日にトライアルがリリースされます。こちらは製造業で外観検査AIの導入を検討している企業を対象にしたもので、より高い精度と信頼性をもつ検知AIを構築したいというニーズに答えたソリューションになっています。またこちらのトライアルでは、不良データの少なさが課題である企業に、シンセティックAIによって生産された大量の不良データが提供されるため、高精度な検知AIの構築が期待されます。
引用:データグリッド公式HP
株式会社データグリッドの今後
今後はシンセティックデータのリーディングカンパニーとして、技術力の高さはもちろん、ビジネスサイドに立った際の視点の広さ、ユーザー思考を持ち合わせた仲間とともに、いまだ誰も到達していない未来を創り出していくという強いビジョンを持っています。
また、長期的には、「シンセティックAI」「広範囲に渡る産業・領域別シンセティックデータの活用」を成長させていき、すべてのデータに命を与え、すべての人がクリエイティビティを発揮できる社会を目指しています。
「実在しない人物が、いきいきと動き出す。ひとつのデータから、高精度なデータを膨大に生み出す。データそのものが、あたかも命を宿しているかのように、姿かたち、表現を変えて、自動で生成されていく。」そういった世界を、シンセティックAIで実現してくれることでしょう。
株式会社データグリッドの採用情報
募集職種
株式会社データグリッドが募集している職種は以下の通りです。
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応募概要
給与
昇給年2回(年俸制) |
福利厚生
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休日
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採用フロー
「info@datagrid.co.jp」宛にご応募の旨ご連絡ください |
さいごに
本記事では株式会社データグリッドについて解説しましたが、いかがだったでしょうか?
AIという切り口で、社会的課題に取り組む姿勢に目が離せません。
今後、大規模なDX化が進んでいく社会で、どのような価値を提供してくれるのか、興味関心の尽きない企業です。
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