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建築業界は全般的に「時間外労働の上限規制、技能者の高齢化、資材の高騰」などを背景に生産性向上や匠の技の継承が喫緊の課題となっています。
そんな中、産業の課題を起点にAIなどの最新テクノロジーを駆使し、業務や業界構造のリデザインすることを目的とした東大松尾研究室発のスタートアップ企業、「燈株式会社」が2021年2月に設立されました。
そこから同社は、DXソリューション事業とAI SaaS事業の2本を柱として事業を展開し、これまでに大成建設や東洋建設といった大手建設企業との連携を発表しています。
そして2022年7月には、同社が建設業向け請求書処理業務DXサービス「Digital Billder/デジタルビルダー」の一般提供開始と、加和太建設との地方建設業におけるDX推進を目指した連携の開始を発表しました。
今回は、そんな産業の課題をAIなどの最新テクノロジーによって解決し、技術大国ニッポンの再興を目指す燈株式会社のCEO 野呂侑希氏(サムネイル画像右)と共同創業者でありAI SaaS事業部長を務める石川斉彬氏(サムネイル画像左)に同社の最新の取り組みと今後のビジョンをインタビューしました。
野呂侑希: 高校1年時にYahoo!のハッカソンにエントリー、審査員特別賞を受賞。東京大学入学後に企業のインターンを経て、人材会社を創業し、代表取締役としてグロース。その後、東大松尾研究室主催の GCI (2020summer) で優秀賞受賞。松尾研究所にて、上場企業とのAIプロジェクトにエンジニアとして参画。加えて、企業への共同研究の提案・コンサルティングに従事。2021年燈株式会社を創業、 代表取締役CEOに就任。 直近では『Forbes JAPAN(フォーブスジャパン) 30 Under 30 2022』に選出されるなど、次世代の日本を牽引する存在として注目を集めている。 |
石川斉彬: 上場企業やスタートアップ企業など4社のインターンに参加し、その中で主に法人営業を担当。その後、東京大学の同じクラスで野呂氏と出会い、彼のビジョンに賛同。共同創業者として燈株式会社の設立に携わる。現在は同社のCo-Founder | AI SaaS 事業部長として「Digital Billder/デジタルビルダー」の展開や新規プロダクトの開発を行っている。 |
目次
技術大国ニッポンの再興を目指して
会社立ち上げの理由
――色々な社会課題がある中で、どのような課題を解決したいと考えられていますか。
野呂氏: 我々は「日本を照らす燈(あかり)となる」というビジョンを掲げています。背景としては、自分が物心ついたから段々と日本の産業、特に隆盛を誇ってきた製造業や建設業などが経済的に停滞ムードとなっていたんですよね。ただかつて、日本が技術大国と言われていたのは知っていたので、自分の会社のテクノロジー・技術によって技術大国ニッポンを再興させたいという思いがあるんです。
元々日本には素晴らしい産業があって、トヨタなどグローバルな競争力を持った企業もたくさんあるのですが、産業全体としてデジタル化やAIの変革の波などで若干遅れてしまっているので、そういったデジタル・テクノロジー面のサポートによって、企業のポテンシャルを最大限に引き出していきたいと考えています。
日本の強みである産業に再び燈を照らす
――日本の強みである産業に再び燈を照らすといった形でしょうか。
野呂氏: おっしゃる通りです。元々のポテンシャルがあって、その業界ならではの技術を持っていながらもデジタル面では遅れを取ってしまっている企業をターゲットに事業を展開しています。
そしてその事業としては、短期・中期・長期のポートフォリオを組んでいます。短期ではコンサルティング業務、中期ではSaaSという考え方で、そうした業務から生まれた技術の種や認識した課題をサービスに落とし込むというサイクルで回しています。さらにその先には、長期的な事業として実際に建設業を行うというようなサポーターからプレーヤーへシフトしていく流れを考えています。
建設業界全体と地方建設、マクロとミクロの事業展開
建設業界への着手
――事業の事例を見ると建設業界がほとんどだと思うのですが、建設業を中心に展開しているのでしょうか。
野呂氏: そうですね。我々はバーティカルで展開するというのが起業時の考えであったので、長期的には他産業でもやっていこうと考えていますが、まずは建設業界という軸で展開しています。
最初はコンサルというところから始まって、何社かとお付き合いしていくうちに建設業全体の課題というのが見えたので、それをサービスに落とし込んでいったという形ですね。
建設業界全体、そして地方建設業の課題
――そうした建設業界全体の課題と、一方で燈株式会社がDXに力を入れている地方建設業の課題をそれぞれ教えてください。
野呂氏: まず、建設業界全体の課題としては時間外労働規制の強化や高齢化による技能者の減少、紙業務中心な環境による生産性の低下などが挙げられます。
一方、地方建設業に関しては大手の建設企業に比べると持っている予算の面から着手できる事業が限られてしまうという課題があるので、そういった企業に燈を照らすために我々のテクノロジーを活用していきたいと考えています。
加和太建設との連携発表
そんな課題の解決に向けて、今年7月に燈株式会社は加和太建設との連携を発表しました。
野呂氏:連携の概要としては、請求書SaaSの現場実証や、現場の点群データを可視化(BIM化)するところのお話をさせて頂いて、建設DXの導入と地方建設業の業務効率化について重点的に連携を深めるという形になりました。
今回の加和太建設さんとの連携を進めるにあたって、実際に我々が現地に伺い、現場を視察させていただいたのですが、改めて地方建設企業が周囲の建物の建築実績から見て、地域のインフラとして機能していると実感しました。ただ、大手のような大規模な予算は持っていないというところで、我々の技術・サービスを活用して最大限のポテンシャルを引き出していきたいと感じました。
建設業界で実現したい未来
――建設に関わる中で、建設業界がこんな風になったらというような展望はありますか。
野呂氏: 新卒の方が建設業界はホワイトだからという理由で就職するような業界にしていきたいですね。
建設業はキツいであったり労働時間が長いといったイメージがあるのですが、デベロッパー業界はワークライフバランスが取れるといったイメージで就活生からも人気です。なので、我々が建築業の生産性向上というところに貢献することによって、建設業のイメージ向上や山積した課題の解決に繋げていきたいと考えています。
業界に特化した新しい請求書システム Digital Billder/デジタルビルダーとは
建設の現場における現状
――改めて建築の現場ではどの程度アナログなやり取りを行っているのでしょうか。
石川氏: とにかく紙のやり取りが多いです。請求書や発注書、図面なども紙の現場が多いですね。設計図書といった情報もデータ化されておらず、紙のままなので情報共有がなかなかスムーズにいかないというのが現状です。
Digital Billder/デジタルビルダーの一般提供開始
そのようなアナログな現状を効率化するための新しい請求書サービスとしてDigital Billder/デジタルビルダー(以下デジタルビルダー)が2022年6月から一般提供開始となりました。
石川氏: サービスの概要としては、請求書の受領、内部の承認、保管、さらにはシステムへのデータ入力などが全てこのサービスで完結するという仕組みです。
現状では、紙で請求書をやりとりしている企業がほとんどなので、請求書の移動や運搬にかかる手間や、整理保管にかかるコストなど、紙を使用しているため発生する業務を電子化することによって、その業務を大幅に削減できるシステムとなっています。
デジタルビルダーの他にはない強みとは
――請求書システムはIT企業などもサービスを展開する領域ですが、デジタルビルダーが他のサービスと差別化している点を教えてください。
石川氏: 建築業界に特化してサービスを開発し、建設業界特有の業務に対応する機能を揃えている点が差別化ポイントです。具体的には、このシステムは工事ごとに請求書を取り扱うことが可能です。
通常の請求書システムは企業ごとに請求が分かれているのですが、建築業では工事現場ごとの請求が必要となってくるので、従来のシステムだと電子化しても結局人間が手で工事現場ごとに請求書を仕分ける必要などがありました。
しかし、このデジタルビルダーは工事現場ごとの請求に対応できるので、建築業の請求システムにフィットしており、生産性が損なわれることはありません。
さらに、AIスタートアップという特徴を活かして、独自のAI-OCR(紙に書かれている文字を認識し、デジタル化する技術)を開発・実装しているため、データ入力の業務を省略することもできます。
今後の建築業界、今後の燈株式会社
燈株式会社の今後
――建築業は2024年から残業規制の強化が決定しているなど、さらなる変化が見込まれる業界ですが、燈株式会社としてはどのようなアプローチを取っていきますか。
野呂氏: 請求書の紙のやり取りや待ち時間を減らすためのデジタルビルダーはもちろんなんですけど、現場データを探す時間の削減のために我々が大成建設さんと発表した「設計図書のデータ構造化」といったシステムも広めていきたいと考えています。
これらのシステムにより、確認の業務が減ったり、データを探す時間が減ったりするので、残業時間の削減や業界のホワイト化に繋げていけると考えています。
建築業界で働く人を支えるツールをこれからも
――ロボットがまだ建設の現場で実用化されていない中で、人がどう働きやすくしていくかを考える必要性がありそうですね。
野呂氏: おっしゃる通りです。実は建設業界を見ていく中で、建設業にはとてもクリエイティブな仕事が多いことに気づいたんですよね。人間の”よしなに何かをやる力”、つまり雰囲気を感じ取って上手くいくように都合を合わせる力というのが必要な仕事なんだと感じました。
例えば、図面通りに建物を建てようと思っても建てられるわけではなくて、図面のここはこうであるということを頭で解釈しなければ上手くいかないことがあるんですよね。
そういったクリエイティビティが必要な仕事が多い一方、書類作成業務などに要する時間が長いのも建設業の特徴なので、人間を助けるツールとして今後もサービスを提供していきたいと思います。
そして我々はデジタルビルダーをはじめ、建設業界に特化したサービスをこれからも多数開発・提供し、建設業界の生産性向上やホワイト化にも貢献していく所存です。
デジタルビルダーを他社が追いつけないレベルのプロダクトへ
――デジタルビルダーの展望を教えてください。
石川氏: より建設に特化した機能の追加を行っていきたいと考えています。その一つ目としては、AI-OCRをさらに建設業向けにアップデートしていきます。建設業の請求書は手書きの請求書や業界特有の項目が多いので、これまでのAI-OCRソフトでは精度が高くならないという課題がありました。なので、我々は専門用語などの追加によって識別精度を高め、他のどの請求ソフトにも負けないシステムを作り上げます。
二つ目としては、発注業務から繋げるということを考えています。請求は発注と紐づくので、請求に発注を繋げることができれば、発注金額における月ごとの請求金額をまとめて管理することができるようになります。
そうすれば、これまで紙で行っていた発注業務も電子で一元化することが可能となり、業務負担や時間をかなり削減できると思います。
まとめ
燈株式会社は産業の課題解決と技術大国ニッポンの再興を目指し、AIやテクノロジーを駆使して独自のDXサービスを開発・提供しています。
特に、建築業界の山積する課題に対して「デジタルビルダー」や「設計図書のデータ構造化」といったシステムの力で立ち向かい、建築業全般の生産性の向上に繋げています。
さらに、事業の柱の1つであるDXソリューション事業では、課題抽出からAI開発、それらの運用といったDXの導入をまとめて行える強みがあり、大成建設や東洋建設といった大手建設企業との連携を行ってきた実績もあります。
また、日経アーキテクチュアの2022年6月23日号で「建築をアップデートするベンチャー100」の中の1社に選ばれるなど、今後の彼らの動向にも目が離せません。
AINOW編集部
難しく説明されがちなAIを読者の目線からわかりやすく伝えます。