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2024.07.31

【2024年7月版】世界各国のAI規制とガイダンスの動向まとめ

広島AIプロセスフレンズグループに参加する諸国の国旗。画像出典:広島AIプロセス公式サイト

はじめに

2023年5月に開催されたG7広島サミットにおける広島AIプロセスの創設以降、世界各国はこのAIに関する国際的枠組みに賛同しながら、それぞれの国内向けにAI規制とガイダンスを整備してきました。

本稿では、2024年1月から7月までの期間におけるAI規制とガイダンスに関する動向を、国際的取り組みと主要AI各国に分けてまとめていきます。

(※注釈1)2023年12月までの世界と各国のAII規制とガイダンスの動向については、以下のAINOW特集記事を参照。

世界と各国のAII規制とガイダンスに関する過去記事

サマリー

本稿で解説する世界と各国のAI規制とガイダンスの動向を表にまとめると、以下のようになります。

国名

動向

国際的取り組み ・広島AIプロセスに賛同する国と地域が53拡大
・2024年3月開催のG7産業・技術・デジタル大臣会合で、2024年内に中小零細企業におけるAI導入に関する報告書の作成合意
・2024年6月開催のG7プーリア・サミットで、持続可能な開発のためのAIハブの設立を目指すことで合意
・2024年5月、AGIの実現可能性とリスクを論じた「先進的AIの安全性に関する国際的科学レポート」(中間報告版)が公開された。
・2024年4月、国連総会でAIの善用に関する決議が採択された。
日本 ・2024年4月「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」の発表。
・2024年5月開催の第9回AI戦略会議で、今後のAI制度整備に関する指針を公開。第10回会議では「AI制度研究会」の設置が議題となった。
・2024年3月、文化庁が「AIと著作権に関する考え方について」を発表。
・2024年7月、経済産業省が「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」を発表。
アメリカ ・2023年10月に発表したAIに関する大統領令に沿ってAI政策を推進。
・2024年4月にはAIによる科学的発見を推進する政策発表した。
EU ・2024年5月、欧州委員会がAI規制法承認
・AI規制法の運営を担当するEU AI事務局も設立。同室はGPAI規制に関する実施規範などを策定する。
イギリス ・AI安全性研究所が活発に活動。AIモデル評価プラットフォームなどを発表する。
・2024年7月には、イギリス、EU、アメリカの競争当局がAIの競争に関する共同声明発表した。
カナダ 2024年3月、AIの競争に関するディスカッション・ペーパーを公開。カナダ国内から意見を募集した。
中国 ・2023年8月に施行された生成人工知能サービス管理暫定弁法をうけて、2024年1月までに40以上の中国産AIモデルが中国政府によって承認される。
・AI向け半導体の貿易をめぐって、アメリカと中国の対立が深刻化

国際的な動向

生成AIは国境を超えて活用されるため、その安全な運用には国際的枠組みが不可欠です。以下では、そうした枠組み作りの近況として、広島AIプロセス、G7プーリア・サミット、AI安全性サミット、そして国連の動向を紹介します。

広島AIプロセス

総務省は2023年12月25日、広島AIプロセスに関連する文書とニュースを集約する広島AIプロセスウェブサイト立ち上げました。2024年5月2日には、同サイトの「お知らせ」で同プロセスに賛同する国と地域が紹介されました。同プロセスはG7サミットから誕生したものですが、2024年7月時点で以下に挙げる53の国と地域が賛同を表明しています。

広島AIプロセスに賛同する国と地域(英語表記におけるアルファベット順)

アルゼンチン共和国、オーストラリア連邦、オーストリア共和国、ベルギー王国、ブルネイ・ダルサラーム国、ブルガリア共和国、カナダ、チリ共和国、コロンビア共和国、キプロス共和国、チェコ共和国、デンマーク王国、エストニア共和国、フィンランド共和国、フランス共和国、ドイツ連邦共和国、ギリシア共和国、ハンガリー、アイスランド、インド共和国、アイルランド、イスラエル国、イタリア共和国、日本、ケニア共和国、大韓民国、ラオス人民民主共和国、ラトビア共和国、リトアニア共和国、ルクセンブルク大公国、マルタ共和国、メキシコ合衆国、オランダ王国、ニュージーランド、ナイジェリア連邦共和国、ノルウェー王国、ポーランド共和国、ポルトガル共和国、ルーマニア、セルビア共和国、シンガポール共和国、スロバキア共和国、スペイン王国、スウェーデン王国、タイ王国、トルコ共和国、アラブ首長国連邦、イギリス、アメリカ合衆国、欧州連合

G7プーリア・サミットとその周辺

G7プーリア・サミットに先立つ2024年3月14日と15日、イタリアのヴェローナおよびトレントにおいて、G7産業・技術・デジタル大臣会合が開催されました。

G7産業・技術・デジタル大臣会合における集合写真。画像出典:経済産業省

この会合の成果物である閣僚宣言は62項目と4つの附属書から構成されており、19~25項目ではAIについて言及されています。この箇所では「中小零細企業(MSMEs)がデジタル・トランスフォーメーションの恩恵を受け、デジタル技術の可能性を最大限につかむことを目指す」ためにAI技術の積極活用が推奨され、「企業、特に中小零細企業におけるAI導入と開発の推進要因及び課題の分析に関する報告書」を2024年末までに作成することが宣言されています。

2024年6月12日から16日には、イタリアのプーリアでG7プーリア・サミットが開催されました。このサミットの成果をまとめた『G7プーリア首脳コミュニケ』の「人工知能、科学、技術、そしてイノベーション」には、AIに関する言及があります。その言及について重要箇所を箇条書きにすると、以下のようになります。

  • AIガバナンスに関する国際協調の継続。協調活動としては後述するAIソウル・サミット、2024年9月開催の国連未来サミット、2025年2月10日と11日開催のフランスAIアクション・サミットがマイルストーンとなる。
  • 2024年10月に産業・技術・デジタル担当大臣会合を開催し、広島AIプロセスを前進させる。
  • 「AIと労働」問題の世界規模の取り組み。この取り組みはGPAI(Global Partnership on Artificial Intelligence)が管轄する仕事の未来ワーキンググループなどが行う(注釈2)。
  • 世界的な持続可能な成長を実現するために、UNDP(United Nations Development Programme:国連開発計画)と共同して、持続可能な開発のためのAIハブの設立を目指す。
(※注釈2)AIに関する国際的パートナーシップであるGPAIは2024年7月3日、OECDと相互協力することに合意した。今後はGPAIとOECDが協力してAI問題に取り組む。

AIソウル・サミットと先進的AIの安全性に関するレポート

2024年5月21日と22日、韓国のソウルでAIの安全性に関する会合であるAIソウル・サミットが開催されました。この会合は、2023年11月にイギリスのブレッチリ―・パークで開催された第1回AI安全性サミットで予定されていたものでした。

AIソウル・サミットの成果として、ソウルAIビジネス誓約があります。この誓約は、OpenAIやGoogleといった14の世界的ハイテク企業が安全なAIの研究開発とAIによる経済成長のために協調することを宣言したものです。

以上のサミットの開催に先立つ2024年5月17日、イギリス政府は第1回AI安全性サミットで公約にかかげていた「先進的AIの安全性に関する国際的科学レポート」の中間成果物を発表しました。ヨシュア・ベンジオ教授を議長として作成されたこのレポートは、AGIの実現可能性とその管理について論じています。

先進的AIの安全性に関する国際的科学レポートの表紙の一部。画像出典:イギリス政府

上記レポートでは、AGIの実現可能性については研究者のあいだでも見解の相違があり、またAGIが人類に与える影響に関しても、悲観的な予想から楽観的なそれまで幅広く考えられていることを認めています。したがって、AGIの未来は不確実なものであり、その未来を決めるのは今後の社会や国家の責務である、と述べています。

なお、同レポートの最終版は、2025年2月に開催されるフランスAIアクション・サミットに先立って発表される予定です。

国連総会における「安全、安心、信頼できるAI」に関する決議

国連総会は2024年3月21日、AIの設計、開発、実装、使用における人権の尊重、保護、促進を強調する決議を採択しました。この決議案はアメリカ主導で作成され、120以上の国連加盟国が共同提案または支持しました。この決議とともに、以下のような4項目が表明されました。

  • オンライン・オフラインにおける権利保全:国連人権法を脅かすAIの使用は、オンライン・オフラインを問わず、その使用を控えるか中止すべき。
  • デジタル・デバイドの解消:発展途上国がAIによるイノベーションに取り残されないように、国際協力する。
  • 他分野への希望:すでに国連で取り組んでいる教育におけるAI活用だけではなく、安全保障などの分野でも議論を深める。
  • AIの主体的管理:AIによる支配ではなく、AIを支配することを国連全体で目指す。

日本の動向

日本では、2024年1月から7月までにさまざまなAIガイドライン関連文書が関係各所より発表されました。こうした文書にまつわるトピックとして以下では、AI事業者ガイドライン、AI戦略会議、文化庁、コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブックについてまとめます。

AI事業者ガイドライン

経済産業省は2024年4月19日、「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を発表しました(関係資料はこちらのウェブページから参照)。同ガイドラインを要約した「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」本編(概要)」によれば、同ガイドラインはAIに関係する者が「AIのリスクを正しく認識」したうえで、「イノベーションの促進及びライフサイクルにわたるリスクの緩和を両立する枠組み」を共創するために作成されました。

同ガイドラインにおけるAIに関係する者とは、AIシステムとサービスを開発するAI開発者、開発したものを提供するAI提供者、提供されたものを利用するAI利用者と定められています。

AI事業者ガイドラインにおける関係主体。画像出典:経済産業省

同ガイドラインは基本理念と指針を定めた本編と、本編の内容を実践する方法が書かれた別添(付属資料)から構成されています。さらに関係三者に共通する内容と各主体別に取り組むべき内容に細分化されます。

AI事業者ガイドラインの構成。画像出典:経済産業省

別添(付属資料)は、関係者が取り組むべき内容をチェックできるチェックリストと、チェックリストの内容を具体的に取り組む際のガイドとなる具体的なアプローチ検討のためのワークシートから構成されています。AI提供者であれば、自身に関係するチェックリストとワークシートを完成させれば、同ガイドラインを実践したことになります。

AI事業者ガイドライン別添のおけるチェックリスト。画像出典:経済産業省

AI事業者ガイドライン別添のおけるワークシート。画像出典:経済産業省

AI開発者とAI提供者に対しては、AIガバナンスの構築が求められています。具体的にはPDCAサイクルに似たAI開発と運用/評価を反復する体制の構築が推奨されています。

AIガバナンス体制の模式図。画像出典:経済産業省

なお、同ガイドラインは今後も必要に応じて内容を更新する予定です。

AI戦略会議

2024年5月22日に開催された第9回AI戦略会議では、日本のAI制度を整備するうえでの基本的な考え方をまとめた「「AI制度に関する考え方」について(概要)」が公開されました。同資料によると、日本におけるAI制度は前述のAI事業者ガイドラインのような法的拘束力の緩いソフトローを最大限活用しつつ、リスクの高いAIについては法的拘束力のあるハードローによる規制も検討する予定、とされています。また、広島AIプロセスをはじめとした国際的なAIガイドラインとの整合性も重要、と説かれています。

同資料には、日本のAI制度を整備するうえでの制度的ドメインを可視化したイメージ図も掲載されています。このドメインは関係主体として「AI開発者」「AI提供者・利用者」「プロバイダー」、AIによるリスクの度合いとして「影響大・高リスク」「影響小・低リスク」と定めたうえで、これらの組み合わせから構成されます。今後のAI制度は、このイメージ図の各制度的ドメインに該当する制度を整備していくことになるでしょう。

日本のAI制度ドメインに関するイメージ。画像出典:AI戦略会議

2024年7月19日に開催された第10回AI戦略会議では、以上の「AI制度に関する考え方」等をふまえて、AI制度について検討する「AI制度研究会」の設置が議題となりました。同研究会の審議内容は、今後公表される予定です。

文化庁発表「AIと著作権に関する考え方について」

文化庁管轄で著作権の運用を審議する文化審議会著作権分科会法制度小委員会は2024年3月15日、AIと著作権の関係についての見解をまとめた「AIと著作権に関する考え方について」を発表しました。この資料を要約した「「AIと著作権に関する考え方について」【概要】」によれば、AIと著作権の関係は、以下のような3つの観点から考察できます。

  • AI開発・学習段階:著作物を含んだ学習データを活用してよいのか
  • 生成・利用段階:AI生成物が著作権侵害に該当する要件とは何か
  • AI生成物の著作物性:AI生成物には著作権が生じるのか

AIと著作権に関する3つの観点。画像出典:文化庁

AI開発・学習段階で生じる問題に関する法的根拠は著作権法第30条の4で規定されており、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為(非享受目的の利用行為)は、原則として著作権者の許諾なく行うことが可能」とされています。

AI開発における著作権法第30条の4の規定。画像出典:文化庁

しかしながら、以上の原則から外れるケースも多数あり、例えば既存著作物の類似物を生成することを目的として、著作物を学習するのは「非享受目的」ではない、と解釈されます。

生成・利用段階における問題は、通常の著作物と同様にAI生成物が既存著作物に関して「類似性」と「依拠性」が認められると、著作権侵害となります。

AI生成物の著作権侵害要件。画像出典:文化庁

AI生成物の既存著作物に対する依拠性については、学習データに既存著作物が含まれていたかどうかが不明な場合があります。このような場合でも、高度な類似性が認められると依拠性が立証される可能性があります。

AI生成物の著作物性については、AIが自律的に生成したものについては著作権は生じません(AIは著作権所有者にはなれない)。AIを道具として使って創作物を制作した場合、その生成物に著作権が生じる可能性があります。この場合、AIを使用した制作者の「制作意図」や「創作的寄与」が認められるか、によって著作権発生の可否が判断されます。こうした判断は個々の生成物に応じて判断されるので、AIを活用した生成物に無条件に著作権が認められるわけではありません。

AI生成物の著作物性の要件。画像出典:文化庁

なお、以上の見解は現状の著作権法にもとづいて解釈されたものであり、法的拘束力のあるものではありません。これらの見解に関する詳細は、前出の資料を参照してください。

コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック

経済産業省は2024年7月5日、ゲームやアニメをはじめとするコンテンツ制作におけるAI利活用の事例と注意点をまとめた「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」を発表しました。同資料で引用されている生成AI活用事例には、生成AIがストーリーと画像を生成するマーダーミステリーゲーム『Red Ram』、ラフデザインからキャラクターを生成する『AI x アニメプロジェクト』、マーケティングターゲットの特性を考慮した広告コピーや画像を生成する『極予測AI』などがあります。

生成AI活用事例としての『Red Ram』。画像出典:経済産業省

同資料には、コンテンツ産業ごとの業務と関連する法的なAIリスクをまとめた表も掲載されています。例えば、ゲーム産業ではキャラクターデザインにおけるAI活用で著作権や意匠・商標に関する侵害リスクが生じます。

ゲーム産業における各種業務と法的なAIリスクの対応表。画像出典:経済産業省

なお、同資料の内容は前出のAI事業者ガイドライン、文化庁発表「AIと著作権に関する考え方について」、さらには内閣府管轄のAI時代の知的財産権検討会が作成した「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ」を参考にしています。それゆえ、同資料はコンテンツ産業事業者がこれらのガイドラインを実践するための具体的な手引書となります。

アメリカの動向

アメリカでは2023年10月に発表された「安全、安心で信頼できる人工知能の開発と利用に関する大統領令」にもとづいて、ガイドラインの整備や政策の提言がありました。

AIに関する大統領令の進捗

前出の大統領令の履行にともなって、ホワイトハウスから以下のような2つの発表がありました。

2024年3月28日、ハリス副大統領はAIに関する大統領令が発表されて150日が経過したことにより、同令の履行を確認するとともに、履行にともなう新たな方針を発表しました。その発表の要点は、以下の通り。

  • 政府機関によるAI使用時の安全性の確保:政府機関がAIを使用する場合、セーフガードを策定して実施することが義務付けられる。
  • AI利用の透明性拡大:政府機関がAIを使用する場合、AI使用時のリスクへの対処法や、リスクをもたらさない範囲でAIのコードや学習データを公開しなければならない。
  • 責任あるAIの利用:政府機関は気候変動、公衆衛生、交通機関の管理など公共性の高い問題にAIを使用すべきである。
  • AI人材の育成:政府機関はAI活用を推進するために、AI専門家を雇用する。またAI人材育成のための訓練プログラムに500万ドルの追加予算を充てる。

2024年5月16日、バイデン政権は企業が労働者に対してAIを使用する場合に遵守すべき原則を発表しました。その原則において注目すべき事項は、以下の通り。

  • 労働者のエンパワーメント:職場において十分にAIの恩恵を受けていない労働者は、AIシステムについて意見を述べる権利を有する。
  • AI使用の透明性:雇用主は職場で利用されるAIについて、労働者や求職者に透明性を確保すべき。
  • 労働者の支援:AIに関連して職務転換が生じた場合、雇用主は労働者のAIスキル獲得を支援すべき。

レポートにもとづいた政策提言

2024年4月29日、PCAST(President’s Council of Advisors on Science and Technology:科学技術に関する大統領諮問委員会)は、科学的発見加速のためのAI活用に関するレポート発表しました。同レポートでは、科学的発見のためのAI活用に関する行動指針が提言されました。その提言における注目すべき事項は、以下の通り。

  • 計算資源とデータの提供:産学官のAI研究者がAIリソースを公平に利用できるように、NAIRRパイロット(National Artificial Intelligence Research Resource Pilot:全米人工知能研究リソースパイロット)の取り組みを拡大する。
  • 連邦データへの安全なアクセス確保:科学研究のために匿名化された連邦データセットへの安全なアクセスを拡大する。
  • AIによる信頼できる科学研究:バイアスがあったり有害であったりするようなAI研究のリスクを管理する。

EUとイギリスの動向

EUにおけるAI規制法の進捗

欧州委員会は2024年5月21日、AI規制法承認しました。同法はリスクの高いAIには厳しい規制を課すリスクベースのアプローチを採用しており、同法の違反に対しては罰則が適用される場合があります。

AI規制法公式サイトには、同法の施行プロセスをまとめたタイムラインが掲載されています。同法は2024年6月から7月のあいだにEU官報に掲載後20日が経過すると発効し、同法の第1章から順次適用されます。全章が適用されるのは、発効後36ヵ月後となります。

AI規制法公式の発効に向けて、EU AI事務局が設立されました。同局を紹介する2024年6月7日公開の記事によると、同局は140人の職員で構成され、同法の運用に従事します。2025年4月までには、GPAI(General Purpose AI:汎用目的AI)規制に関する実施規範を策定します。

GPAIの定義は同法第51条に定められており、「指標やベンチマークを含む、適切な技術的ツールや方法論にもとづいて評価された高い影響力を有する」AIとされています。それゆえ、GPAIはいわゆるAGIと同義ではなく、近い将来登場する高性能な基盤モデルが該当する可能性があります。

イギリスの動向

以下では、2024年1月から7月までのイギリスにおける注目すべきAI規制とガイダンスをめぐる動向を時系列に沿ってまとめます。

  • 2024年1月29日、公務員が生成AIを使用する際のガイダンス公開。同ガイダンスは、生成AIに対する個人情報の入力禁止などを定めている。
  • 同年2月9日、2023年11月開催の第1回AI安全性サミットをうけて設立されたAI安全性研究所の活動方針を定めた文書公開。同文書には、AIモデルのリスク評価法などが記載されている。
  • 同年4月1日、イギリスとアメリカのあいだでAIの安全性に関する提携合意された。この提携には、AIの安全性に関する共同テストの実施などが含まれている。
  • 同年5月1日、AIに対する規制当局の戦略的アプローチ公開。同アプローチには、規制当局に対する1,000万ポンドの資金提供などが含まれている。
  • 同年5月10日、AI安全性研究所がAIモデル評価プラットフォーム「Inspect」を公開。同プラットフォームを使うと、AIモデルの推論能力、AIエージェントの自律的タスク遂行能力等が測定できる。
  • 同年5月21日、10ヵ国とEUがAI安全性研究所を軸とした国際的ネットワーク設立の支援に合意。合意したのは、オーストラリア、カナダ、EU、フランス、ドイツ、イタリア、日本、大韓民国、シンガポール共和国、アメリカ、イギリス。
  • 同年7月23日、イギリス、EU、アメリカの競争当局が、生成AI基盤モデルおよびAI製品の競争に関する共同声明発表。同声明では、特定の基盤モデルやAI製品による市場の独占を阻止し、公平な市場競争を実現することが記載されている。

その他の地域の動向(カナダ、中国)

カナダの動向

カナダの市場競争を監督するカナダ競争局は2024年3月20日、人工知能と競争に関するディスカッション・ペーパーを公開しました。同ペーパーでは、AI市場が独占状態に陥るリスクが考察されています。具体的には、現在注目されている基盤モデルの開発には多大な学習データと計算資源が不可欠なため、限られた企業しか開発できなくなる懸念があり、特定の基盤モデルが市場で大きな位置を占めるとそのモデルにユーザが集中するネットワーク効果が働くことなどが指摘されています。

以上のようなAI市場の独占リスクに対して、カナダ競争局は同国のAI市場競争を促進する施策を実施することを明言しています。そして、このディスカッションペーパーに対する意見を2024年7月7日まで募集していました。

中国の動向

ロイター通信が2024年1月29日に報じたところによると、生成AIを規制する生成人工知能サービス管理暫定弁法が中国で2023年8月に施行されて以降、40以上のAIモデルが中国政府によって承認されました。同年8月にはインターネット検索大手のバイドゥやアリババ、そしてTikTokを運営するバイトダンスなどが開発したLLMが承認されました。2024年1月にはスマホメーカーのシャオミ開発のAIモデルなどが承認されました。

NHKが2024年5月15日に公開した記事は、14日にスイス・ジュネーブにおいてアメリカと中国の高官たちがAIのリスク管理について意見を交わしたことを報じています。この会合において中国側は、アメリカが中国に対してGPUをはじめとするAI関連半導体の輸出規制を強化していることに対して、「中国に対する規制や抑圧について厳正な立場を表明した」とされています。

ロイター通信が2024年7月17日に公開した記事によれば、アメリカのバイデン政権は日本やオランダに対しても対中半導体規制を課すことを検討しています。この通達の背景には、アメリカの技術が使用されている場合、同国政府は外国で製造されたものも含め、製品の販売を差し止める権限を持つと規定したFDPR(Foreign Direct Product Rule:外国直接製品規則)の存在が指摘できます。

まとめ

以上のようなAI規制とガイダンスに関する世界と各国の動向から、以下に箇条書きするような事項が明らかになります。

  • G7サミットから誕生した広島AIプロセスは、世界全体のAI規制とガイダンスに関する枠組みになりつつある。
  • G7諸国は、広島AIプロセスをふまえながら国内のAI規制とガイダンスを整備しつつある。
  • 世界共通のAIリスクであるAIが生成した偽・誤情報の対策については、国際的な大きな成果はまだない。
  • AGIの安全な実現に関する国際的な議論は、スタート地点に着いたばかり。
  • 国際的な新たなAIリスクとして、少数の企業によるAI市場の独占に対する懸念があり、各国で対策を検討している(※注釈3)。
(注釈3)AIモデル開発の市場独占リスクに関しては、AINOW特集記事『AI Index Report 2024から見るAI業界の現状と日本AI企業がとるべき戦略』の見出し「寡占化に向かう大規模AIモデル開発」も参照のこと。

AI生成の偽・誤情報に対する対策とAGIの安全な実現に関する議論については、来年2月にフランスで開催されるAIアクション・サミットまでには何らかの進捗が発表されることでしょう。

AINOWでは今後も世界と日本のAI規制とガイダンスについて、その動向と進捗を伝えていきます。


記事執筆:吉本 幸記(AINOW翻訳記事担当、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1、生成AIパスポート、JDLA Generative AI Test 2023 #2取得)
編集:おざけん

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