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2018.02.13 取材・編集:おざけん@ozaken_AI
2017年は怒涛のAI・人工知能のラッシュでしたね。多くの会社がAIにビジネスチャンスを見出した1年だったのではないでしょうか。
チャットボットなどは、コストセンターとなっていたカスタマーサービスを代替するなど、toC toB問わず導入を検討していることも多いでしょう。
確かにAIと呼ばれる機械学習のテクノロジーは大きな可能性を秘めています。しかし、技術だけでは使われるサービスにはなりません。ユーザとの接点となる部分を適切にデザインし、長くユーザに愛される工夫が大切でしょう。
今回、取材させていただいたのはStockMarkという会社です。ただの受託開発にとどまるのではなく、AIをいかに社内に浸透させていくか、さらにAIを活用していかにユーザーに愛されるプロダクトを生み出すか等、プロセス・デザインを重視する「AI アルケミスト」というサービスをこの度リリースします。
実際に何を課題として感じているのか、そのために何をするのかをStockMarkのチーフアルケミストの森住さんと東大の矢谷准教授をインタビューしてきました。
AIのプロジェクトと従来のプロジェクトの違い
AIは既存プロジェクトと同じようなマネジメントができるでしょうか?
AIを発注するビジネスサイドが見落としがちなのは「学習用のデータの有無やデータの取得方法の検証が必要なこと」「リーンキャンバスといわれるようにスモールスタートでプロトタイプを洗練させていくこと」の大切さです。
今、AI技術としてもてはやされる機械学習技術は多量のデータをもとに意思決定能力をもつことができます。つまりデータの量や質がそのままAIの質に直結します。自社が蓄積したデータにはどんなものがあるのか、どのようにデータを取得していくのかなど従来のプロジェクトとは違った視点が重要になります。
森住さん「AIは定量分析を拡張するだけでなく、今までできなかった定性的な問題も分析してくれるようになっています。これは今までと全く異なる思考プロセスです。
だから現代の安定経済を築いた10を100にしていくような経営者の方々にはわけのわからない世界のはずです。そういった方々はAIの時代が来ても判断のしようがありません。そういった方々の態度変容を促していくようなこともしていかなければいけないと考えています。」
AI Alchemist Program
StockMarkは「Anews」というサービスを運営をしている会社です。AIがニュースを収集し、チームに最適なニュース配信をするサービスで、今では500社以上に導入されていてAINOWも注目しています。
しかし、今回始めた「AI アルケミスト」は、方向性をガラッと変えたサービスです。
なんといっても東京大学の矢谷研究室とコラボして「デザイン思考」を取り入れた開発プログラムになっていることが特徴です。
ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(以下HCI)という人とコンピューターの関わりを研究する研究室を持つ。現在はAI・人工知能やIoTのシステムの新たなアプリケーション開発を重点領域にしており、ユーザの行動変容を促すようなインタラクティブなシステムの開発や評価を行っている。機械学習や統計分析、自然言語処理などにも取り組んでいる。
具体的にはAIの導入の検討からサービス開発までの一通りのプロセスを支えるプログラムで、デザインからプロトタイピング、人材教育までサポートするそうです。
プロトタイピングの領域に関しては、ユーザとの接点の構築が大切となるため、この部分で矢谷研究室と共同して独自のプロトタイピング設計を提供するといいます。既存のAPIから独自の開発まで幅広く対応するそうで、特にStockMarkは自然言語処理技術に優れており、StockMarkでスムーズに開発可能です。
プロトタイピングについては、StockMarkだけが開発をするのではない点も面白いです。チームを率いる森住さんをはじめとしたStockMarkのネットワークを有効活用して、尖ったテクノロジーを持つベンチャーと企業のマッチングもサポートするといいます。
そして、AIといえば社内へ導入したあとに効果検証ができなかったり、メンテナンスコストがかかることが難点。
そこでトレーニングを行って教育をすることで、社内にAIの第一人者を育て上げ競争力を磨く手伝いをしてくれるといいます。
AIベンダーや社外のパートナーを幅広く巻き込むことでAI人材育成のサポートをするようです。確かにAIを開発して社内で使っていくときに、正しい知識を有している人材が社内に1人でもいることで、円滑にAIの運用ができるようになります。
ーーなぜこの矢谷研究室と組むことになったんでしょうか?
森住さん「目に見えるプロトタイピングのところでは、矢谷先生の研究室がAIを使ったUX・ユーザエクスペリエンスを研究していらっしゃるので、今回お声掛けしました。」
矢谷先生「HCIとはユーザが技術をどう使うという研究分野なんですが。私たちの研究室で知的生産性をどう上げるか研究する文脈でAIという技術を使っているというところがあります。その部分をご一緒させていただこうと考えました。」
ーーAI Alchemistが目指すのはどんな世界ですか・
森住さん「AIってどこかのベンダーだけがAIを創り上げて時代を作るのではなく、お客さん側が当たり前のようにAIを使うようにならないといけないと考えています。従来のITのように、AIを当たり前に使うような流れを全部の企業に広めていきたいです。
その意味で、トレーニングを取り入れて組織や風土も変えていけるようにフォーカスしています。そもそも日本の企業はITリテラシーがないと思っていて、それがAIになるともっとわかりません。トレーニングを終えた人材が企業を先導していけるようになることも願っています。」
ーー矢谷先生は、なぜStockMarkと一緒にプロジェクトをやると決めたのでしょうか?
矢谷先生「産学連携をしていかなければならないなという課題を感じていました。今回はじめて企業と一緒になって取り組むため、僕にとってはチャレンジです。
私の研究するHCIはユーザに使ってもらってもらわない限り研究が進みません。だからこそ、企業と組むことで、いろいろなところで試せるということは共同研究のあり方として面白いなと感じています。
学術界は論文を書くことが目標になってしまいがちで、その先にあるものを見失ってしまいがちです。私自身も勉強させていただきながら、学術界に産学連携などの今までと違った研究のあり方を広める一端を担えればと思っています。」
編集後記
このAI Alchemistの取り組みには2つの素晴らしい点があります。
1つ目は言うまでもなく「AIのUXデザインを重要事項においていること」です。森住さんがおっしゃっていたようにAIが当たり前に使われるようになるには、そのデザイン設計が大切です。今後、社会にフィットしたAIのデザインがAI Alchemistを通して生まれてくるといいなぁと感じています。
そして2つ目はこのプロジェクトが産学連携の素晴らしいユースケースにナルということです。矢谷研究室が抱えていたユーザが実際に使うことが必要なHCI研究の課題と、StockMarkのAI開発のデザイン設計をもっと豊かにしたいという課題がうまくマッチしているからです。
今後どんなプロダクトをAI Alchemistが生み出していくのか。どんなAIデザイン設計がされるのか今から楽しみでなりません。
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