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2019年4月22日、東京 丸の内で開催されている「AI/SUM」において、世耕弘成経済産業大臣が登壇し、日本におけるAIの可能性について約10分に渡って語られました。
AIが溶け込んだ理想の社会は「ドラえもんの世界」
みなさん、おはようございます。ただいまご紹介をいただきました経済産業大臣の世耕弘成です。本日は日経新聞主催のAI/SUMにお招きをいただきました。心から御礼を申し上げたいと思います。AI/SUMの開催にご尽力をいただきました多くの関係者のみなさんにも感謝を申し上げたいと思いますし、こうやって世界中からご参加いただいたみなさまにも感謝を申し上げたいと思います。
日本ではいよいよ来週から新しい元号「令和」がはじまります。これから始まる新しい時代にどんな変化が待ち受けているか。変化の鍵をにぎるのはAIとデータであります。
本日は産業界、学術界、そして政府から国内外のトップレベルの方々がこの東京に集い、AIとデータの将来について議論がされることを心からうれしく思っています。
今年6月には日本が議長国となってG20を開催いたします。私もG20 デジタル貿易経済大臣会合の共同議長を務めます。このAI/SUMが、このG20に先立って日本のAIの可能性を世界に発信する機会となることを心から期待しています。
現在、世界中で第四次産業革命が進行し、あらゆる領域で膨大なデータが蓄積され、AIがそれを分析、そして活用していくことになります。AIが身近になれば、「Artificial Intelligence」すなわち「人工知能」の語幹ゆえに、AIが人間の雇用を奪ってしまうのではないか、AIに全てを管理されるのではないかといった不安の声も膨らんできています。私はそれは必ずしも正しい理解ではないと思っています。
AIが溶け込んだ理想の社会は、いうなれば、日本人なら誰もが知っている、私も小学生の頃から慣れ親しんでいるドラえもんの世界だと思っています。ドラえもんはAIを搭載した猫型ロボットですけれども、いつも人間である“のび太”くんに寄り添って手を差し伸べます。のび太くんはドラえもんに助けてもらいながら、自分も成長していく。人とAIが対立するのではなくて、共に進化して、そして人や社会が直面する課題を解決していく、それこそが第四次産業革命、Society5.0の目指す姿であります。
現在、日本政府が策定しているAI戦略の中でも社会的課題「SDGs」を解決するためのAI・データの活用を日本が目指すべき姿として位置づけさせていただいています。
本日のAI/SUMのサブタイトル「AIと人・産業の共進化」は、まさに政府のAI戦略と思いを1つにするものであります。一方で現在、日本はAI分野の技術面で正直に申し上げて、世界的に最も進んでいるとは言い難い状況にあります。しかし、日本にはAI・データを活用して世界をうならせるアイデアやサービスを生み出す3つのチャンスがあると私は考えています。
日本がAIを活用するための3つのチャンス
1つ目はものづくりの現場に眠るリアルデータです。先端素材で有名な昭和電光には過去数十年間に渡る膨大な、しかし手書きの技術文章が蓄積されてきました。これは企業の競争力の源泉そのものであります。この手書きのデータをAIベンチャーのシナモンが開発をしたAI文字認識技術で手書きの資料を電子テキストデータベース化しました。
その結果、今まで30分かかっていた技術文章の探索時間を10秒に短縮することができ、生産性を飛躍的に高めることに成功いたしました。各国が国を挙げて戦略的な取り組みを行う中、私は日本が持っている豊富なリアルデータをさまざまなものにつなぐことで新たな価値を生み出すコネクテッド・インダストリーズに日本のグローバルな勝ち筋を見出しているところであります。
2つ目は国内に眠る豊富な健康関連データであります。国民皆保険制度の日本には、膨大な健康データがあります。また、あまねく国内に行き渡った母子手帳の電子化によっても日本で生まれる全ての赤ちゃんの健康データが入手可能になります。こういったデータを分析すれば病気を未然に防ぐ方法が見つかり、人生100年時代に人類に新たな希望をもたらすかもしれません。
3つ目は日本が抱えるさまざまな課題の存在であります。日本は少子高齢化に伴う、人手不足に直面をしています。その一方で高度成長期に建設をし、更新期を迎える大量のインフラやプラントを抱えています。一見すると、絶望的な組み合わせとなるわけですけれども、AI・データの時代においては、このピンチこそがチャンスになります。
千代田化工という会社では近年、プラントの老朽化や保全費用の増加が課題となっていました。そこで、AIベンチャーのグリッドがディープラーニングを用いて運転状態予測や運転最適化を実現するAIモデルシステムを開発、そして導入、その結果メンテナンスの効率化によって、生産量が3%増加し、売上げの増加を成し遂げることができました。
AIは企業が利益を生むツールになるわけであります。
今回、AI/SUMではAI・データ分野のベンチャ企業が100社以上も参加をしていただいていると伺っています。こうした勝ち筋を日本全国に広げられるよう、私はコネクテッド・インダストリーズの概念のもと、データ連携、人材育成に注力をしていきたいと思っています。
まず、インフラなどの重要分野において、企業間のデータ共有・利活用を促進するためのデータ連携事業を推進いたします。この事業に合わせて企業がAIやデータの開発・利用に関する契約を結ぶ際の参考となるAI・データ契約ガイドラインの策定をして、データを共有しやすいビジネス環境を作ってまいります。
また、天才を発掘するための未踏事業、あるいは第四次産業革命スキル習得講座認定制度を通じて、AI・データ人材育成の裾野拡大に取り組んでまいります。さらに、未来のプラットフォーマーの可能性を秘めるAIベンチャー 「J-Startup」に政策資源を集中させて、その成長を後押ししたいと思っています。
コネクテッド・インダストリーズのために取り組むべき3つのポイント
そして今、コネクテッド・インダストリーズををさらに進める次の一手として、私たちが取り組むべきポイントが3つあると考えています。
まず、1つ目はアーキテクチャの設計であります。自動走行の実現には自動車だけでなく、地図データやインフラシステムとの連携が重要となるように、これからは従来の縦割りを超えて業種の壁が混ざり合う、新たなビジネスが次々に生まれてきます。
多種多様な企業がデータを共有・利用してAIを使いこなしていくためには全体の基盤となるアーキテクチャの設計が鍵を握ります。専門家を集約をして、設計機能を強化した上で、競争領域と協調領域の線引きをきっちりと行って、協調領域におけるデータの技術標準化などを進めてまいりたいと思っています。
2番目に、これまでの人材育成をさらに一歩前に進める実践の場でのAI・データ人材の育成であります。すでに私どもと議論をしている民間企業との間では、フランスの42に相当する新しいタイプのAI実践スクール「AI Quest」の設立が進んでおります。経産省としては、こうしたAI実践教育の動きを広げるべく後押しをしていきたいと思います。
最後に3つ目は、グローバルレベルでの情報発信の強化であります。世界中で AI・データをめぐる覇権争いが繰り広げられる中、AI・データが生み出す日本ならではの社会像・メッセージを発信していく必要があると思っております。
ネットワークは、まさに人間の筋肉であります。そしてAIは人間の頭脳であります。そしてその体の中を流れる血液が、まさに人間のデータでありますが、やはり最も重要なのは人間のハートであり、魂であり、これこそがまさにAI・データの時代に日本が日本らしさを発揮できる最も重要なポイントだと私は考えています。
この6月に日本ではじめて開催するG20の場で、AI・データによって実現すべき世界の姿やメッセージをしっかりと発信してまいります。
特に、G20 貿易デジタル経済大臣会合では、ホスト役であり議長である私から、先般ダボス会議で安倍総理が提言をした「データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT)」と共に、人間中心のAI、Society5.0の考えを発信していきます。
AI・データを安心して活用できるよう、信頼が担保された自由で開かれた国際データ流通網の構築を各国と目指してまいりたいと思います。
節目の年となる、この令和元年が日本にとっての本当の意味でのAI元年となるために、そしてAI/SUMが日本のAIに携わるみなさんの国内、そして世界での活躍に向けた起爆剤の舞台となることを期待をして私のご挨拶とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました
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