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今、中国の技術が大きく注目を浴びています。世界の時価総額ランキングではアリババやテンセントなど、中国を代表するIT企業が上位にランクインするなど、その勢いは止まることを知りません。
今回は中国のAIトレンドをTwitterなどで積極的に発信している “AI姉さん”こと國本知里さんに中国のAI技術がどう凄いのか、またその理由は何なのか、伺いました。
目次
チェルシー | AI姉さんって誰!?
AI姉さんこと、國本知里(チェルシーは英語名)と言います。
人工知能関連スタートアップで、生産性向上のためのAIプロダクトの事業開発をしています。
また、グローバルAI関連の最新ビジネス事情をTwitterで発信しています。どう日本のAI活用を進めるのか?AI先進国はどう違うのか?を普段リサーチをしていまして、特にAI活用推進国として中国に注目しています。
なぜ中国がアツいのか?今回は中国AIの凄さについて話したいと思います。
いま中国のテクノロジーがすごい
中国の実装力はケタ違い!?
AI先進国というと、アメリカ・EUなどを思い浮かべるなかで、なぜ中国もAI先進国なのかというと、AIを社会に適用するその「実装力」にあります。
実はAIの研究が進む一方でその技術を社会に実装させることは簡単ではありません。PwC合同会社が2018年度から実施した調査でも実に半分近い47%のPoC(実証実験)まで進まずに頓挫していることがわかりました。詳しくはこちらの記事を参照してみてください。
一方で、”Center for Data Innovation” による中国・EU・アメリカのAIに関する比較レポートによると、中国は社会実装数とデータ量においては圧倒的に一番とわかっています。そのためパイロットテスト(PoCのこと)の段階に進む企業の数も、アメリカやEUが30%を下回る一方で、中国は50%以上という結果になっています。
中国において、AIの社会実装が大成功しているいい例としてモバイル決済があります。モバイル決済の使用率は90%超えと言われますが、今やAlipayを代表とするスマホレスの顔認証決済も進んでおり、AIをはじめとするテクノロジーにより人々の生活がデジタル化されています。
Innovative digital technology such as those by Alipay can help promote inclusive growth, according to a new report by the Luohan Academy research institute, presented in #Davos at #wef2019. Read the full story in @Alizila : https://t.co/HcKzPLrlZn pic.twitter.com/lk78D5bL18
— Alipay (@Alipay) January 25, 2019
中国の圧倒的な実装数やデータ量は企業の規模にも関係します。世界のユニコーン企業が300社以上ある内、評価額1位はBytedance(TikTokの会社)、2位はDiDi(中国版Uber)とAIをフルに活用した中国のスタートアップが名を連ねています。
また、AI領域に限定したユニコーン企業においても、SenseTime・Megvii(Face++)・CloudWalkという顔認証技術スタートアップがトップ10に入ってきています。
中国政府は影の立役者!
中国のAI業界が成長した立役者は中国政府です。中国政府のAI業界における攻勢について2つ挙げたいと思います。
中国政府は2030年目標へ推進
ここまで中国でAIが加速した大きな理由は、中国政府が2017年に発布した「次世代AI発展計画」です。これは2015年に発布した国家戦略「中国製造2025」を補完する、AI戦略に特化した計画です。
「次世代AI発展計画」の内容は、2030年までに中国のAI総合力を世界トップに持って行き、中国を世界の「AIイノベーションセンター」にするというものでした。そして、その目標達成に際して3段階に渡ってマイルストーンを置いています。
- 第一段階:2020年までに世界水準に達し、AIが新時代経済成長のエンジンとなる。(産業規模1兆元=約15兆円)
- 第二段階:2025年までに中国の一部のAI技術が世界をリードする。進歩の度合いを「中国製造2025」に合わせる。(5兆元=約76兆元)
- 第三段階: 中国のAI総合力を世界トップに持って行き、中国を世界の「AIイノベーションセンター」にする。(10兆元=約150兆円)
このように中国は政府主体のトップダウンによる目標を作り、国家全体でAI領域における急成長を遂げています。この点は欧米とは明確に違うでしょう。
中国AI・5レンジャーとは?
中国政府はさらに「国家AI戦略実現のためのプラットフォーム」を指定しました。指定されたのは、中国最先端5大企業「BATIS」。各領域で担当となるリーディングカンパニーが選定、支援を受けており、私は「中国AI・5レンジャー」とも呼んでいます。
アメリカではGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)がボトムアップでイノベーションを生み出してきたのに対し、BATISへは中国の国家プロジェクトとしてトップダウンで国の予算を配分しています。
- Baidu:自動運転(スマートカー)
- Alibaba:都市ブレーン(スマートシティ)
- Tencent:医療画像認識(ヘルスケア)
- Iflytek:音声認識
- Sense Time:顔認識
このように、民間企業が主体となってAI産業を創出し、政府は資金や規制面から企業を支援しています。 その中でも特に、2大巨頭となったAlibaba・Tencentのプラットフォーム経済圏内でさまざまなサービスを提供するAIスタートアップが生まれて続けているのも特徴ですね。それに関しては後ほど説明します。
中国の AIがすごい!その3つのワケとは?
中国のAIが強いのはなぜなのか、ここからは別の視点で3つの理由をみてみましょう。
AI分野における常識は「Data is king」
中国AIを代表する元Google Chinaのトップで、現在はVCでもあるKai Fu Lee氏による「AI Superpowers」は世界的にヒット書籍となっています。彼が指摘するアメリカと中国の違いは以下です。
アメリカ:Research Driven (研究中心)・Expert is King (専門家が全て)
中国:Apprication Driven (応用中心)・Data is King (データが全て)
OSS(オープン・ソース・ソフトウェア)が発展し、AI技術が世の中に安価に出回ることでAI参入障壁が下がっている今、多くのアプリケーションにはAIのスーパーマンは必要ないことも多くなっています。
そこで、中国は大量の若い技術者を抱え、TikTokをはじめとする中国発のイノベーションプロダクトを大量に生み出しています。
そしてAlipay・Wechatpayのように大量のデータを集め、強いプロダクトを作り、ユーザーを増やし、より稼ぎ、より優秀な技術者をさらに採用していくサイクルが出来上がっています。
今日、AIは発見から実装のフェーズになってきているとKai Fu Lee氏はいいます。
新しいアルゴリズムを発見した人が有利だった時代ではなく、実装したものが勝つ時代にシフトしつつあります。
そのような時代において、Alibaba創業者ジャックマーを代表するように中国にはハングリーな起業家が多いことや通称:「996」と呼ばれる朝9時~夜9時まで6日間働く、中国ハングリーカルチャーが根付いていることが、多くの資金とデータを持って、ビジネスをつくるスピードが圧倒的に早い、中国の推進力となっているのです。
テンセント&アリババによる2大経済圏の影響力
モバイル決済が90%を超える中国では、Alibaba・Tencentをはじめとする2大プラットフォームがヒエラルキーのトップにいます。
顧客のことを知っているほうが偉いという業界構造に変わっており、その下にDiDiやフードデリバリーのサービスを提供する会社がいて、その下にメーカーが来るというレイヤーになっています。
これまで中国といえば、BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)と言われておりましたが、検索事業以外の事業軸を育てられなかったことや決済におけるプラットフォームをもたなかったことでBaiduは既に2大巨頭から大きく離されています。
このAlibabaとTencentの経済圏のなかで、そのデータを活用したサービスが提供できるか、勝てるかどうかが中国AI関連スタートアップにおいても重要になっています。
Alipayの顔認証にはMegviiiのFace++の技術が用いられていますが、MegviiもAlipayに技術を提供することで成長し続けているAIスタートアップのひとつです。
この例では、AlibabaにとってはMegviiの技術のおかげで全体的なサービスの質が上がるというメリットがあり、Megviiにとってはプラットフォーム内で多くの利用者に使ってもらうことでデータを蓄積できるというメリットがあるため互恵的な関係となっているのです。
日本のAIスタートアップもいかにデータを集めれるかがひとつポイントになっていますが、中国はサービスとして提供する・2大経済圏とともに成長しつつ、大量のデータを収集しているのです。
データは社会で利用してこそ意味がある
「アフターデジタル」著者である藤井さんが述べられているように、現在、オンラインですべての行動データを取ることができるため、最適なターゲットの選定だけでなく、最適なタイミング・コンテンツ・コミュニケーションが提供できるようになっています。
また藤井さんは、Alibaba・Tencentの2大プラットフォームをはじめとする中国企業においての競争焦点は製品単体ではなく、体験(エクスペリエンス)全体での価値になってきている、と言います。
例えば、DiDi(ライドシェア企業)というサービスを普段から使っていると、ランチタイムにはランチ場所をリコメンドしてくれ、帰宅時間にはスーパーマーケットに寄ることをリコメンドしてくれるといった、移動サービス以外のサービスも提供してくれます。
日本だとデータを取られることに懸念の声が大きいためサービスに利用することに慎重になりやすいですが、中国ではサービスの体験設計を非常に心地よいものにするためにはデータの利用をいといません。そのおかげで、より便利で、楽で、使いやすいサービスを提供できるため、ユーザーもどんどんサービスを使い、体験としてよいものはシェアされ続け、最終的に生活の基盤となっていきます。
これはまさにユーザーにどんな体験をしてほしいかをまず設計し、その中でより最適にするためにデータ・AIを活用しているということです。
日本でのAIの取り組みの場合は、まず技術ありきで考えることが多くないでしょうか。どんな体験を提供するかを磨くと自然にデータはついてきて、AIを活用したビジネスは広がっていくのだ、と私は中国のAI事情をみて感じています。
今年からは5Gが広がることで、さらにXR(AR・VR・MR)などのユーザー体験をさらに拡大するビジネスも多く増えます。WiMi Hologram Cloudという中国最大のホログラムプラットフォームも今年IPO予定で、スピーチや会議の遠隔3Dホログラム参加というサービスやARホログラムによる店舗カウンターなども加速すると見込んでいます。
日本が生き残るためには
このように中国は欧米とは違った戦略で圧倒的な強さを見せていますが、日本はこの現状の中でどのような戦略を取るべきでしょうか?
先ほど紹介したKai Fu Lee氏は、AIの4つの波があると言います。
- Internet AI(インターネットAI)
- Business AI(ビジネスAI)
- Perception AI(認知AI)
- Automation AI(自動AI)
逆張りですが、私は日本においてはBusiness AI・Automation AIに勝機があると思っています。
日本の労働生産性がG7の中で最下位となっていて、働き方改革も加速しています。
繰り返しの多い業務をAIや自動化ロボットを活用することで減らし、より付加価値の高い業務にいかに取り組むかです。
また中国においては、アプリケーション・サービスを通じたデータ量だけでなく、中国人のハングリー精神でビジネス推進がもの凄いスピードで進んでいます。
現在日本だと「AIで仕事を奪われる」とネガティブ・キャンペーンが多いです。日本が一番にでも学ぶべき部分は実はマインド部分なのではないでしょうか。
「最新技術が凄い」といった技術ドリブンだけではなく、ユーザーのどのような課題をどのように解決するのか、イシュードリブンかつハングリー精神を持ちながらビジネスを作っていけるかが中国から学ぶべき点であり、日本がAI業界で勝ち抜くための重要な要素になると思います。
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