HOME/ AINOW編集部 /47%のプロジェクトがPoC(実証実験)に至らない。AI活用の課題は「課題がわからない」こと。−AIに関する調査結果が公開
2019.08.14

47%のプロジェクトがPoC(実証実験)に至らない。AI活用の課題は「課題がわからない」こと。−AIに関する調査結果が公開

最終更新日:

2019年8月9日、東京 丸の内にて日本経済新聞社が主催するイベント「Data Science Fes 2019」のプレフォーラムが開催されました。AINOWは「Data Science Fes 2019」のメディアパートナーです。

今回は、このイベントにて公開された、2018年度から実施された調査「産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」の結果をお伝えします。この調査はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託を受けて、PwCコンサルティング合同会社が実施しました。

47%のAIプロジェクトがPoC(実証実験)に進まない約4割の企業のAIの導入における課題は「課題が不明」などの結果が明らかになりました。

登壇したのは、日本ディープラーニング協会(JDLA)の理事/事務局長の岡田隆太朗氏とPwCコンサルティング合同会社の渡邊新太郎氏です。

岡田隆太朗氏 / 日本ディープラーニング協会 理事/事務局長

渡邊新太郎氏 / PwCコンサルティング合同会社

 

産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査

この調査は「ユーザ」と「ベンダー」に分類して実施されました。ベンダー(機械学習の開発企業)のほうが技術の理解度が高く、ユーザのほうが活用に困っているという仮説によるものです。

「ユーザ」と「ベンダー」の割合は以下です。

「平成30年度成果報告書 産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」の内容をもとにAINOW編集部が作成

また、この調査におけるAIの定義は「知的な意思決定を行うことができる情報処理技術全般」となっており、数値だけでなく文字、音声、画像や動画など、さまざまなデータを扱うアルゴリズムも含むものとされています。

AI活用の有無

まずは全体のAIの活用状況を見ていきましょう。

全体の母集団のAIの活用状況はユーザ、ベンダー共に約40%でした。売上高が100億円以上の母集団は活用割合がやや上昇し、50%を超えています。

また、経営レベルでの取り組みに関しては、ユーザ、ベンダー共に60%を超えており、AIへの関心は経営層が平均的に高いことがわかります。

引用:「平成30年度成果報告書 産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」

AI活用に向けた障壁

次にご紹介されたのは、AIのプロジェクトの企画・検討から実運用に至るまでのプロジェクト数の下落率です。ベンダー企業におけるプロジェクトの件数が示されています。

企画・検討のフェーズから、PoC(実証実験)のフェーズに進む部分でプロジェクト数が47%も下落することがわかっています。

企画段階から、AIの特徴にあった検討を行い、的確に次のフェーズに移していくことが重要です。

引用:投影スライド「平成30年度成果報告書 産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」より

活用しているAIの種類

企業が活用するAIの種類は、ユーザの中では統計解析を活用したAIが最も多く、機械学習が次に続く結果になりました。

一方で、ベンダーでは機械学習が最も多く、統計解析と深層学習がほぼ同率で続く結果です。

引用:「平成30年度成果報告書 産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」

フェーズごとの課題

続いてはフェーズごとの課題です。

ユーザ企業全体でAIの導入におけるフェーズ別の課題の集計の結果は、なんと企画立案段階から、実運用にいたるまで約4割の企業が課題を把握していないことがわかっています。

先述のAIの導入にいたる各フェーズの下落率では、企画・検討フェーズからPoCへのステップで、47%のプロジェクトが下落していました。この調査結果を合わせて考えると、AI導入では課題が明確ではなく、曖昧な理由でAIの導入を進めていることも多いのではないでしょうか。

また、3割近い企業が、機械学習モデルの学習のために量・質を備えたデータが不十分であると回答しています。機械学習の活用の可能性を考えたデータ収集を行っていくことが大切です。

引用:「平成30年度成果報告書 産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」

また、ベンダー企業における課題意識も同様の結果になっています。

引用:「平成30年度成果報告書 産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」

AI人材の充足状況

各企業のAi人材の充足度についてです。

全体で見ると、約46%の企業がAI人材が不足していると回答しているだけでなく、43.2%の企業がAI人材のニーズがないとしていることが特徴的です。

売上高が100億円以上の企業や、AIの実用化が進んでいる企業、経営レベルで取り組みがある企業は、AI人材のニーズがないと回答する割合は低くなっています。

一方でこれらの企業はAI人材の供給が足らないという回答が50%を超え、AI人材不足が顕在化していることが伺えます。

AI人材の採用においては、プロジェクトをしっかり作り、求人要件が明確にしていくことで、AI人材のニーズ創出に繋がります。

 

引用:「平成30年度成果報告書 産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」

AIの市場予測

この調査では、AIによる市場規模についての結果も公表されています。

機械学習などのAI技術の活用が促進されることによる効果として、

  1. 設備投資の増減
  2. 従業員の増減
  3. 生産性の向上

が期待され、これらの効果により、潜在的な経済成長率の上昇が見込まれます。

引用:「平成30年度成果報告書 産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」

この考え方に基づいて、3つのシナリオが設定されました。

シナリオ1:AIの活用がさほど進行しない未来

内閣府の試算「ベースラインケース」、今の足元の潜在成長率並で将来にわたって推移していくという予測にもどついた算出

シナリオ2:既存産業でAIの活用が進展

シナリオ1のベースに加えて、既存産業において、機械学習などのAI技術が進展していく様子。医療の高度化や人材マッチングの質向上により労働人口の減少補填のケースなどが見込まれている。

シナリオ3:AI活用が加速的に進展し、新産業が創出される

シナリオ2に加えて、機械学習などのAI技術の活用が加速的に進展し、新たな産業の創出に繋がるケースです。自社の新規事業領域において、AIを活用して今まで世の中に存在しなかった製品やサービス開発を行い、企業の売上高が上昇するケースが見込まれている。

算出結果

それぞれのシナリオにおける2025年、2030年の設備投資、従業員の雇用、生産性について想定する状況をアンケートで集計した結果をお伝えします。

 

引用:「平成30年度成果報告書 産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」

2025年時点でのGDPはシナリオ1が556兆円に対し、従来型のAI(統計的機械学習)を活用したシナリオ2(従来型AI)では、581兆円、ディープラーニングなどの先進的なAIを活用したシナリオ2(先進的AI)では594兆円、そして、新産業が創出されるシナリオ3では、669兆円の資産効果が得られました。

2030年では、シナリオ1が576兆円、シナリオ2(従来型AI)が625兆円、シナリオ2(先進的AI)が635兆円、シナリオ3が773兆円になりました。

2030年には、新産業にAIが活用されたシナリオ3が他のシナリオを大きく突き放す結果となっており、今後AIを活用した新産業を国内で創出していく必要性が明らかになりました。一方、先進的AIと従来型のAIの経済効果の違いは2030年でも、10兆円程度しかなかったことも印象的です。既存産業では、課題にあったAIを従来型、先進型と括らずに、適材適所で活用していくことが重要です。

さいごに

AIの導入における課題は「課題が不明」が大多数を占めるという衝撃の結果でした。実際、約47%のプロジェクトが企画検討フェーズからPoCフェーズに移ることができていません。

依然として「AIをとにかく導入したい」という会社が多くを占めているということを明確に示しています。

また、多くのプロジェクトが実運用に移らないことで、必要としているAI人材の要件が明確でなく、採用難に陥っていることも考えられます。実際、全体の約43%の企業がAI人材のニーズがないと回答しています。

AIの導入を進めていくには、無理にAIを導入せず、AIにあった課題に適用し、プロジェクトを走らせることで、人材を取り込む箱をしっかり作っていくことではないでしょうか。

この調査結果について詳しくはこちらから。

日本ディープラーニング協会について

JDLAはディープラーニングの産業活用を促進するべく、人材育成などに取り組んでいる業界団体で、東京大学大学院工学系研究科 教授の松尾豊氏が理事長を務めています。AINOWはJDLAのメディアパートナーとして、JDLAに関連する情報を発信しています。合わせてご覧ください。JDLA関連の記事はこちらから。

日経新聞社主催、「学生データコンペティション」が開催!

日本経済新聞社は、大学生・大学院生・高専生を対象としたコンペを開催します。データ分析力、実装・運用力に加え、「データを活用して、課題を解決できる力」を問うコンペで、データ分析経験者1名を含む、3〜6名のチームで参加できます。

2019年8月26日、27日に開催されるミートアップに参加することが条件となります。ご注意ください。

スケジュール

8月20日(火)エントリー締切
8月26日(月)13:00〜19:00・27日(火)9:00〜15:30 ミートアップ(2日間)
会場:ウイングアーク1st株式会社(東京・六本木一丁目)
9月10日(火)提案資料提出締め切り
9月24日(火)最終選考進出チーム(6チーム)発表
10月9日(水)本選(最終選考)・表彰式
会場:日経クロストレンドEXPO(東京ビッグサイト)

学生データコンペティションについて詳しくはこちらから。

無料メールマガジン登録

週1回、注目のAIニュースやイベント情報を
編集部がピックアップしてお届けしています。

こちらの規約にご同意のうえチェックしてください。

規約に同意する

あなたにおすすめの記事

生成AIで“ウラから”イノベーションを|学生起業家が描く、AIを活用した未来

特許技術×AIでFAQを次のステージへ|Helpfeel

GPUの革新からAI時代の主役へ|NVIDIA

あなたにおすすめの記事

生成AIで“ウラから”イノベーションを|学生起業家が描く、AIを活用した未来

特許技術×AIでFAQを次のステージへ|Helpfeel

GPUの革新からAI時代の主役へ|NVIDIA