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新型コロナウイルスの感染拡大により、政府が緊急事態宣言を発出し、多くの国民が外出自粛を余儀なくされました。これに伴い、人と人の対面を前提としていたさまざまな産業が打撃を受けています。
また、国内の多くの企業がテレワークの導入などを進め、それと同時にAIなどのITスキルを学べるプログラミングスクールの多くが講義をオンライン化するなどの動きを見せています。
開校前から大きく注目されていた「42 Tokyo」は六本木にスペースを構え、Macを大量に設置するなど、対面を前提として設計され、2020年4月の開校に向け、試験などを行ってきました。
コロナの影響を大きく受ける中、学びを終わらせないために「42 Tokyo」がどんな取り組みをしてきたのかを一般社団法人 42 Tokyo事務局長の長谷川氏に伺いました。
目次
「42 Tokyo」の概要
42(フォーティーツー)は、フランス発のエンジニア養成機関です。
- 24時間利用可能な施設
- 学生同士で課題を克服するピアラーニング
- 学費完全無料
などの新しい仕組みを取り入れ、大きく注目されています。
2019年11月7日、合同会社DMM.comは42の東京校として「42 Tokyo」を設立し、入学試験「Piscine」を 2020年1月6日(月)から開始しました。全3回のオンラインテストで合格者計 933 名が参加予定でした。
一方で新型コロナウイルスの影響を受け、「42 Tokyo」 はPiscine(3月実施分)・入学(Kickoff)日を延期しています。
▼「42 Tokyo」について詳しくはこちら
「42 Seoul」が先駆けてリモート学習環境を整備、一方で「42 Tokyo」は!?
講師が不在で、チームによる課題解決を前提とし、対面形式を採用していた42では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、リモートでも課題解決型学習(PBL)が可能な環境を迅速に整備しました。
世界に先駆けて新型コロナウイルスの影響を受け、リモート学習環境を整備したのは「42 Seoul」(ソウル, 韓国)です。
一方で、「42 Tokyo」は新型コロナウイルス感染拡大下で、まだ開校しておらず、まだ入校していない生徒に対して独自にリモート学習環境を提供するために多くの工夫が必要でした。
「42 Tokyo」の遠隔教育の取り組み
独自のカリキュラムを用意
まだ入校前の生徒に対して、「42 Tokyo」が取り入れたのは、新型コロナウイルスに関連するAPIを用いてボットを作るカリキュラムづくりです。
上記の画像内のの例のように、「/covid JPN」とコマンドを打つと、感染者数:1953人、死者数:56人、回復者数:424人と、2020年3月31日時点での新型コロナウイルスに関連する情報をボットが返しているのがわかります。
まだ学習前の生徒に対し、APIを活用してボットを作る初歩的なカリキュラムが迅速に用意されました。
コードは、GitHubなどを通して相互にレビューを行う
「42」の醍醐味は、講師が不在で生徒同士が学び合う互助による教育効果を生み出していることです。
オンライン環境になっても同様のスタイルは崩さず、生徒同士で作り上げたコードレビューを相互に行い、自分流のコーディングだけでなく、他者のコーディングを学んだり、課題を解決するためのコミュニケーションスキルを学んだりできます。
ー 実際にどのような流れでコードレビューが行われているのでしょうか?
長谷川氏:生徒は課題を解き終わると課題をGitHub上に提出し、次にレビューのマッチングに進みます。自分がレビューしてもらいたい時間を選ぶと、相手がランダムにマッチングし、相手に自分のコードを説明する流れです。
オンラインではDiscord上でレビューチャンネルを作り、そこでレビューを行っています。このチャンネルは生徒であればだれでも見学ができるようになっています。なので、まだ進んでいない人がこそっとヒントを得たり、解き終わった生徒がチャチャを入れにきたりと賑わっています。
レビューを見学する行為は校舎でも行われていましたが、オンラインになったことにより、見学のハードルが下がり、より活性化しました。
ー 初学者同士のコードレビューでもスムーズに進むのでしょうか?
長谷川氏:生徒はPiscineという過酷な入学試験を受ける過程で、42流の学習方法がどんなものかを理解しているので、分断は感じません。学びに貪欲な生徒が多く、開校を急がねばと毎日気が引き締まります。
「オンラインになってから質問のハードルが上がったので、解決策を考え実装しよう」という生徒の動きがあって、プログラミングをPiscine前にしたことがなかった人もこのプロジェクトに参画しているくらい関係なく馴染んでいます。
オンラインで構築されたこのカリキュラムでは、入学予定の生徒のうち、97%近くが参加しており、うまく機能していることが伺えます。
活用するツールは!?
discord(コミュニケーションツール)
オンラインの学習環境を構築するためのコミュニケーションツールとして導入されたのは「Discord」です。
「Discord」は、ゲーマー向けの無料ボイスチャットアプリです。コミュニケーションツールとして定番の「Slack」のようなチャット機能とZoomのような通話機能が合わさったツールで、ブラウザ上で利用できます。
チャンネル毎に音声通話を開始できるほか、先述のボット構築のように、プラグインやbotの導入で機能を拡張できる点が特長です。
「42 Tokyo」では、「Discord」上のボット構築のカリキュラムだけでなく、「times」などのチャンネルづくりなどを生徒が自主的に取り入れ、学びの環境づくりが自然と進んでいるといいます。
各メンバーにSlackのチャンネルを1つ割り当てることで、Twitterのようにチームメンバーに気軽に情報共有が行える仕組み。#generalなどの共有チャネルに全員が悩みなどを書き込むと、大事な情報が埋もれてしまう恐れがある。そこで、「今困っていること」や「アイデア」を気軽に投稿できる自分のチャンネルを所有することで、コミュニケーションロスを少なく抑えることが出来る。チャンネルの命名規則は、#times_[アカウント名]などにするケースが多い。
ボイスチャンネル機能を使って、離れていても話せる環境
「Discord」では、チャンネル毎にボイスチャンネル機能が搭載されており、同じチャンネル内にいるメンバーと気軽に声で直にコミュニケーションを取れます。
「42」では、チームメンバーのコミュニケーションにより、自発的に学びが生み出されることが重要視されており、まさに「Discord」のように拡張性やコミュニケーション機能に富んだツールが、学びに直結していると言えます。
カリキュラム以外にもゲーミフィケーションを取り入れる
また、「42 Tokyo」では、ボットを構築するカリキュラム以外にも、ゲーム形式でメンバー同士で競い合いながらスキルを向上させる取り組みが取り入れられています。
そのうちの1つが「文字数チャレンジ」です。
あるコードを書く際に、いかに少ない文字数でルールを定義できるかを競うチャレンジで、生徒同士で活発に競争が行われていることが、以下の「Discord」のチャット画面からも伺えます。
結果は以下のように、国際的スポーツ大会の結果のような画面で共有され、遊び心も伺えます。
また、キャンパスを超えて、世界中の42のキャンパス14校が対向でゲーム大会が行われています。
イギリスの作家J・K・ローリングによる世界的なファンタジー小説「ハリーポッター」内の架空の競技「クィディッチ」のプレイヤーの動きをルールベースでプログラムし、その結果を競う取り組みです。
「42 Tokyo」が唯一、開校前のキャンパスとしてのチャレンジでしたが、なんとキャンパスランキング、個人ランキングの双方で1位を獲得しています。
リモート環境における学習環境づくりにおける心得
一般社団法人42 Tokyo 事務局長の長谷川 文二郎氏にお話を伺いました。
長谷川氏:リモートでの学習環境を作る際にも注意したのは、基礎的な環境しか作らないといういことです。一般的には、ツール選定の責任は教育者側に偏りがちです。一方で、生徒側が遊び心を持って、ハックできる環境を作ることも大事だと考えています。
生徒がプログラミングスクールを卒業し、社会で実際に働く上で、自主的にツールを選んだり、環境を作るスキルも重要です。昨今では、PBL(Project Based Learning:課題解決型学習)などの言葉がホットワードになっていますが、プロジェクトだけでなく、自主的に学べる仕組みを取り入れている「42 Tokyo」は参考に値するでしょう。
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