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2021年4月7日〜9日に開催された「第5回 AI・人工知能 EXPO【春】」で9日、日本ディープラーニング協会(JDLA)の理事長である松尾 豊 氏がセミナーに登壇しました。
オフラインでの実施にも関わらず、1,000人以上の聴講者が集まり大きな注目が集まりました。
松尾氏は「DX時代のAI(ディープラーニング)活用最前線」をテーマに、ディープラーニングを活用したさまざまなビジネス事例や最新技術の紹介とともに、DXにおけるAI・ディープラーニングの重要性についての解説に加え、JDLAが3月30日に発表した新方針「DL for DX」について説明しました。
今回の記事ではこちらの松尾氏が登壇したセミナーをレポートします。
目次
ディープラーニングは技術から活用のフェーズに
松尾氏はディープラーニング技術自体に注目されていた3〜4年前と比較して、ここ1〜2年は「ビジネスやDXの取り組みの中でどうディープラーニングを活用していくか」という捉え方に変化しきていると語りました。
また松尾氏は、日本でもDXの事例が多く出てきていると話し、以下の事例を取り上げました。
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ディープラーニングの今 -日本での活用が大きく遅れる懸念
ディープラーニングの最新の技術的トレンドに関する紹介で松尾氏は、「2012年にディープラーニングの画像認識精度が大きく向上したことでブレークスルーになり、2018年には自然言語処理の分野が大きく発展した」と話し、その精度が大きく向上してきていることを説明しました。
2020年に米OpenAIが開発した汎用言語モデル「GPT-3」は自然言語処理分野に大きな衝撃を与えたことについても言及し、自然言語処理だけでなく画像や映像にも活用が期待されていることを述べました。
英語の文を入力しHTMLで出力するといったツールもGPT-3で作ることができます。自然言語処理を学習するにあたってAIが使用するのはweb上の文章データです。つまり、Web上のHTMLコードと自然言語の関係性も学んでいます。そのため、英語での指示を入力するとそれをWeb上で実行するHTMLコマンドをすぐ出すことが可能です。これは自動プログラミングのようなもので、プログラマーの仕事がなくなる日も近いかもしれません。
(中略)
「NeRF(ナーフ)」は正確な画像表現を可能にします。従来のピクセルなどの画像だと拡大するとぼやけてしまい細部がわからなくなりますが、「NeRF」がニューラルネットワークで物体のあらゆる角度からの見え方を学習することで「どこから見るか」を問わず常に鮮明な画像表示が可能です。「NeRF」の技術は人間の脳が画像を認識する方法に近いのではないかと考えています。
まだ一部でしか知られてませんが、これから実用的にもいろんな場所で活用されていくのではないかと思っています。
米カリフォルニア大学バークレー校、米Googleの研究部門であるGoogle Research、米カリフォルニア大学サンディエゴ校による研究チームが開発した画像生成技術。さまざまな角度から撮影した写真をニューラルネットワークを用いて学習させることで、自由な視点から物体を立体的、写実的に見ることができます。
松尾氏は、GPT-3の先進的な開発が英語圏、中国語圏で進んでいる一方で、日本は活用で遅れをとることになるのではないかと懸念を示しました。
GTP-3は巨大なモデルでの学習が必要なため、1回の学習に数億円以上かかると言われており、資本力が必要になってきます。日本は資本の戦いになると負け始める傾向にあり、今そういう雰囲気が漂いつつあります。
なお国内ではLINEが大規模な言語モデルの開発に参入を発表し、開発を続けています。
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現実のデータをいかにデジタルにするかが重要
DXは紙の書類をOCRなどの技術を活用してデジタル化する「デジタイゼーション」とデジタルになったものを活用して効率化・価値の向上する「デジタライゼーション」に一般的に分類されます。
松尾氏は、「日本のDXの特徴はデジタイゼーションをしてからデジタライゼーションするというステップバイステップで取り組む風潮がある」と話し、日本と海外のDXの取り組み方の違いを説きました。
例えばタクシーの配車でいえばもともと客、オペレーター、ドライバー間の連絡は全て人力で行われていました。AIによる配車の自動化を実現するにあたり、データ化して効率化してから新モデルを作るというやり方が採用されています。
しかし、海外ではいきなりUberのような新しいモデルを作ってしまいます。
小売の場合でも日本の場合は紙をデータ化して、顧客データを個別化するという流れが一般的です。しかし海外だとAmazonGOのようにアプリや商品・顔認識などのディープラーニング技術を活用していきなり新モデルの店舗を実現しました。
DXが実現するのは、今ある業務の改善ではなく新モデルです。今後は全ての業務が単純化されほぼ全て自動化されます。
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松尾氏は続けて、こうしたディープラーニングの発展によってできるようになったことをDXの取り組みフローを要素分解して解説しました。
重要になっているのは、現実世界、リアルにあるデータをどのようにデジタルにするかです。従来からPOSデータや移動履歴を追うことはできました。今新しくできるようになっているのはこの(下図の)赤文字の部分です。
例えば顔、文字、画像といったリアル状況の活用、データを用いた予想の精度が上がる、自然言語生成や機械制御の自動化も可能になっています。これらの技術をどういう業務に使うのか、どう組み合わせるのかというのがこれから重要になってきます。
DXによって今までできなかったことの実現や新しい付加価値が発見できるのです。この変化はあらゆる業界、産業で今後起こります。
経営陣や一般社員のリテラシーを強化する必要がある
みなさんの会社にはデジタルやAIのリテラシーが高くない人も多いと思います。そういった方とのコミュニケーションに苦労している人も多いのではないでしょうか。特に開発やITに直接関わりのない経営陣や一般社員に対する働きかけは重要です。AIやDXのプロジェクトを進め技術に活用しソリューションにするには、技術に関する勉強や全社の理解度を高める必要があります。
新AI基礎講座「AI For Everyone」2021年5月6日開講
JDLAではビジネスパーソン向けのG検定(Deep Learning for GENERAL)とエンジニア向けのE資格(Deep Learning for ENGINEER)を提供しており、AI人材の育成を目指しています。G検定の受験者数は累計5万人を突破し、近年「取得したい資格ランキング」でも上位に入っています。
「ただ、これらの資格は難易度が高く、AI初学者には敷居が高かった」と松尾氏は述べ、JDLAで新たに開始する無料で受講できる新オンライン講座「AI For Everyone」について説明しました。
JDLAでは新たにAI基礎講座「AI For Everyone」を2021年5月6日に開講します。一般のビジネスパーソンや経営者がAIやディープラーニングをどのようにビジネス活用するかを理解する入り口になる講座です。
今後もディープラーニングは大きく発展していきます。ディープラーニングの活用を目指す意識の高い皆さんが企業で活躍しやすいような環境を作っていく必要があると考えており、JDLAではその支援を行なっていきます。