世の中は、過去20年前に比べて大きくデジタル化が進んでいます。それに伴いデジタル庁は、2021年からデジタル化を促進する月として10月をデジタル月間と定め、日本のデジタル化を加速させる期間を設けました。
そんな中SB C&S株式会社は、デジタル月間の取り組みとして「デジタルの日特別オンラインセミナー」や「デジタルの日特別セール」を開催しデジタル月間を盛り上げました。
そして今回、オンラインセミナーで登壇をしたSB C&S株式会社 AIMINA事業推進室の村松貴耶氏とソフトバンク株式会社Axross事業課の課長である藤原竜也氏、TASUKI事業課の課長である佐藤哲太氏に、それぞれが生み出した3つの事業の詳細と今後の展開についてインタビューしました。
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目次
学べて作れて試せる、SB C&Sが目指す総合AIプラットフォーム「AIMINA」
「AIMINA」とは
AIプラットフォーム「AIMINA」は、AIを手軽に学べる・作れる・試せる、クラウド型AIプラットフォームです。AIで試したいアイデアを、「AIMINA」のプラットフォーム上で業務で蓄積したデータを使って最適なAIを生成し、AIのシミュレーションまでAI開発の一連の流れを試すことができます。
先日インタビューをした「AIMINA」のインタビュー記事は、こちらからご覧いただけます。
ーー現在、4つのカテゴリーで約20種類のAI手法を提供していますが、今後追加する予定のAI手法はありますか。
村松氏:今後追加していきたいと思っているAI手法は、お客様からのお問い合わせが多い時系列解析のカテゴリーを2種類追加する予定です。加えて、画像異常検知AIを既存のモデルからチューニングをして、精度向上を目指しています。
ーー「AIMINA」の有償版を公開してから約6ヵ月経過しましたが、利用者の反響を教えてください。
村松氏:2022年11月現在では、数百を超えるアカウントが登録されています。「AIMINA」を利用している業種は、建設業をはじめとして、製造業や小売業など多種多様な業界の方が利用しています。私たちは、自社でAI活用をしている企業のお手伝いや社内でAI活用が進んでいない企業のサポートまで行っているため、そういった他社事例を今後公開していきたいと思っています。
また「AIMINA」は、他のAIプラットフォームにはないAIの活用事例を紹介したり、AI教育に力を入れているため、AIを学ぶ段階で興味を持った事例などを実際に「AIMINA」で試してみるといったフローは固まりつつあります。
導入部署としては、DX推進課や事業企画部などが多く、業務の流れを見直し、AI活用によって効率化をしたいという目的をもった企業の利用が多い印象です。
ーー「AIMINA」で作成したAIモデルを現場で活用しているケースはありますか。
村松氏:5月に有償版をリリースする前から先行して「AIMINA」を利用しているユーザーが、現在いくつかのモデルを試す段階から現場で活用をする段階にしたいという相談があります。
そのため、今後は5月以降から「AIMINA」を利用している企業からも、実運用をしたいという声が増えてくると思います。
ーー「AIMINA」をどのように利活用しているのか具体的な事例を教えてください。
村松氏:たとえば製造業では、画像系を中心に異常検知や物体検知などの検証に使用しているケースが多い印象です。また地方自治体では、県下の中小企業の活発化のために、AIを活用したいという声があり、地方自治体と共同でAI利活用の啓発活動に取り組んでいます。
今後の展望
ーー今後の展望を教えてください。
村松氏:「AIMINA」をもっと多くの方に利用していただきたいと考えているため、「AIMINA」のユーザーがどのようなことを行いたいのかをヒアリングして、どのAIモデルを使うのが課題解決につながるのかを提案し、「AIMINA」の活用を支援していきたいと思っています。
また地方自治体などでは、AI活用推進における体系構築がまだ整っていないため、業務体系を改善したり、その改善方法自体を体系化した支援を構築していきたいと考えています。
実務に使える知識を学べる教育サービス ソフトバンク「Axross Recipe」
「Axross Recipe」とは
「Axross Recipe」とは、「プログラミングを学んだが実践で活用できない人を減らしたい」という想いのもと、エンジニアのノウハウを”レシピ”という独自コンテンツで提供するプラットフォームです。
一般ユーザー向けに展開をしている「Axross Recipe」と、法人向けに展開をしている「Axross Recipe for Biz」の2つのサービスを展開しており、一般ユーザーはレシピを「投稿する側」とレシピを「学ぶ側」の2つの視点から利用することができます。そして法人向けには、オンライン学習サービスと体験型のAIハンズオン研修を提供しています。
ーー「Axross Recipe」の特徴を教えてください。
藤原氏:現役エンジニアや実務経験者のノウハウを教材化する、というアプローチで最新技術の活用に特化したプラットフォームです。toC、toB両方に向けたサービスを展開しており、toCでは投稿されたレシピを自由に学ぶことができ、toB向けには、法人のDX人材育成仕様に特化した、体系立てて学べるeラーニングプランと企業に人気な体験型のAIハンズオン研修プランの2つを展開しています。
ーー「Axross Recipe」を開発しようと思った経緯を教えてください。
藤原氏:私自身がエンジニアだった時に、プログラミングスクールに通って基礎文法を学んだのですが、実践的に求められるスキルとのギャップがあると感じていました。そこで、そのギャップを埋めたいという思いから、ソフトバンク株式会社およびグループ会社の従業員を対象とした新規事業提案制度「ソフトバンクイノベンチャー」で「Axross Recipe」を立ち上げました。
「Axross Recipe」は、「目指したい姿の向こう側へ」というビジョンを掲げていて、ただAIを学んだりPythonを学ぶだけではなく、AIを使って自分の目指したい姿に進んでいけるようになったり、AIとPythonを使ってビジネスで活躍できる人材になるといった一歩先に進むことができるサービスです。
ーー企業向けに展開をしている「Axross Recipe for Biz」ではどのようなサービス軸を持っていますか。
藤原氏:研修という言葉を聞くと、講師が一方的に座学で知識を教える風景を想像するかもしれませんが、「Axross Recipe for Biz」では講師が一方的に教えるわけではなく、現場の学び合いや、実践的なノウハウのシェアをもとに研修をすることがサービスの軸になります。
ーー「Axross Recipe」では、どのようなコンテンツを配信されていますか。
藤原氏:法人向けに提供をしている研修の例でいうと、ソフトバンク株式会社で実際に利用しているAIのビジネス活用例や、ソフトバンク株式会社のプロジェクトマネジメントが経てきた経験やノウハウを教育カリキュラムに取り入れています。
個人向けに提供しているレシピに関しては、現役のエンジニアに自身の経験を基に書いていただいており、AIを搭載したレコメンドの開発や、自然言語モデルを使用した感情分析(ポジネガ判定)、類似文章検索など、さまざまな目的に合わせたテーマを学べるサービスになっています。併せて、法人向けには、法人限定の基礎コンテンツなどを中心に提供しています。
ーー「Axross Recipe」を利用した方からの反響を教えてください。
藤原氏:エンジニアには、G検定やE検定で基礎知識を学習したが業務で活かせなかったりと、実務とのギャップで苦労している方がたくさんいます。
しかし、「Axross Recipe」を使ったことで、個人と法人の受講者の皆様から、実際に業務で使える知識として学ぶことができたという声をいただいています。こういった実務に使える知識は、個人ブログやさまざまな記事に散らばっていますが、「Axross Recipe」はそれらの良質なコンテンツが全て1つにまとまっているサービスなので、使い勝手がいいという声も上がっています。
また、「Axross Recipe」のレシピ投稿の限定公開機能を活用して、現場のノウハウを社内でシェアリングするために利用している企業もあります。
今後の展望
ーー今後の展望を教えてください。
藤原氏:これからはAIのみの利用ではなく、AIを使ってデータ活用を中心とするDXの社会実装が進んでいくと思います。そのため、AIに関する人材ニーズも高まってくると思うので、当社の法人部門とも協業しながら企業、自治体、教育機関などのDX人材の内製化を支援していきたいと思います。
また、現在は東京大学と協業して次世代AI人材育成を目的とした教育プログラムの企画や運営をしているので、そこで培ったノウハウを含めて、人材の管理につなげていきたいと考えています。
AI開発で必要不可欠な高品質データを作成 ソフトバンク「TASUKI Annotation」
「TASUKI Annotation」とは
「TASUKI Annotation」とは、AIモデル開発に必要なアノテーションデータ(教師データ)の収集・加工を代行するサービスです。アノテーション対応種類は、画像・自然言語・動画・音声の計4つに対応をしています。
ーー「TASUKI Annotation」の特徴を教えてください。
佐藤氏:「TASUKI Annotation」は、AIエンジニアが作業時間の60%以上をかけているといわれるアノテーション1作業を代行する事業です。
このサービスの特徴は3つあり、AIを使った半自動作業による効率化、アノテーションしたデータをスコア化して評価し、高い技能を持ったアノテーターを育てる仕組み、そしてアノテーション業務を高品質で行うためのアジャイルを開発化させる仕組みを導入しています。
- アノテーション : AI の分野では、「データに対して、メタデータと呼ばれる情報タグを付与する作業」、つまり画像などのデータに意味づけをして、教師データを作成することを指します。
ーー「TASUKI Annotation」では、AIを使ってアノテーション作業を半自動化していますがどのように実現しているのでしょうか。
佐藤氏:アノテーション作業に使用するAIを自社で内部開発しているため、質の高いAIを使うことができるのが1つの理由です。また、アノテーションの自動作業に使用するAIをいくつか用意することで、依頼される案件に合うモデルを利用することができます。
質の高いAIをいくつも用意することができるのは、当社ならではの強みだと思っています。
ーー「TASUKI Annotation」を作った経緯を教えてください。
佐藤氏:私は、もともと製造業に取り組んできましたが、AIを活用して日本の産業を盛り上げていきたいと思い、ソフトバンク株式会社に入社しました。しかし、AIの開発プロジェクトに携わり、アノテーション業務がエンジニアの時間をひっ迫していてエンジニア本来の業務に時間をさけていないと感じました。
そこで、アノテーション業務を変えるために、ソフトバンク株式会社およびグループ会社の従業員を対象とした新規事業提案制度「ソフトバンクイノベンチャー」でアノテーション業務のサービスを立ち上げたのがきっかけです。
ーー「TASUKI Annotation」のサービスの軸は何ですか。
佐藤氏:アノテーション業務で時間を奪われているエンジニアの方々を助けるためのサービスとして「TASUKI Annotation」を立ち上げました。日本は世界からみてもAI後進国と言われており、AIの人材不足が問題となっている中で、その貴重な人材が60%の時間をアノテーション業務に使っているのは非効率的です。
アノテーション業務をAIで自動化することで、AIエンジニアにはより専門性があり、生産性の高い業務に取り組んでほしいと思っています。
ーーアノテーション作業は、イレギュラーがあったり難易度が高い業務だと思います。どのように品質を一定に保っていますか。
佐藤氏:重要なポイントは、高品質なアノテーション業務をこなせるアノテーターを育てることと、依頼者の要望をしっかり把握できるようにアジャイル化をすることの2点だと思っています。
「TASUKI Annotation」は、プラットフォーム上でリアルタイムの進捗を確認することができます。そのため、作業者と依頼者がアノテーションの細かいやり取りをいつでも行うことができるので、難易度が高いアノテーション業務も品質を保って納品することができます。
ーー「TASUKI Annotation」を利用している業界は、どの分野が多いですか。
佐藤氏:「TASUKI Annotation」は、製造業の方々に多く利用されていますが、医療や建設、ドローンや衛星といった画像関係のAI開発を行っている事業者からの依頼も多いです。
また、AI開発会社やSIerからの依頼もあり、受託系の会社から事業会社まで多くの方々に利用されています。
今後の展望
ーー今後の展望を教えてください。
佐藤氏:「TASUKI Annotation」は、まだまだ普及が進んでいないので、たくさんの方が利用できるように成長をさせていきたいと思っています。また、アノテーション代行をするためのアノテーションツールのUIが優れていて、そのツール自体を使いたいという要望も出ているのでそういった要望にも応えていきたいと考えています。
さいごに
今回は、AIを手軽に学べて作れて試せる「AIMINA」、実務に近い知識を学ぶことができる「Axross Recipe」、高品質なアノテーション作業を代行する「TASUKI Annotation」を取材しました。
今回取材した3つのサービスを使うことで、PoC段階から実運用までAI開発のすべてを行うことができます。日本はAI後進国と言われていますが、さまざまなサービスを活用することでAI人材不足やAIの利活用が進んでいくのではないかと思っています。
今後、SB C&SとソフトバンクがどのようなAI事業を展開して日本のAI革新を進めていくのか注目です。