いま話題の量子アニーリングって何?量子アニーリングや周辺技術の研究開発の現状とか、今後の展開について聞いてきた! 

こんにちは、亀田です。
最近、量子コンピュータとか量子アニーリングとかいう言葉をよく聞きます。調べてみたけど、難しくてよくわからない……。
そこで今回は、量子アニーリングの研究の第一人者、早稲田大学高等研究所准教授の田中 宗先生に、量子アニーリングで何ができるのか? 量子アニーリングとは何か? そして量子アニーリングやその周辺技術は今後どのように発展していき、世の中に影響を与えるのかなど、難しい技術の仕組みよりも、活用方法など分かりやすいところに焦点を当てて、お話を伺ってきましたよ。

田中 宗先生のプロフィール

早稲田大学高等研究所准教授、JSTさきがけ研究者
2008年東京大学にて博士(理学)取得。東京大学物性研究所特任研究員、近畿大学量子コンピュータ研究センター博士研究員、東京大学大学院理学系研究科にて日本学術振興会特別研究員(PD)、京都大学基礎物理学研究所基研特任助教、早稲田大学高等研究所助教を経て、2017年より現職。また、2016年10月よりJSTさきがけ研究者を兼任。専門分野は物理学、特に、量子アニーリング、統計力学、物性物理学。NEDO IoTプロジェクト「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト」委託事業における「組合せ最適化処理に向けた革新的アニーリングマシンの研究開発」に従事している。量子アニーリングの研究開発を加速させるため、多種多様な業種の方々との情報交換を積極的に行っている。
http://www.shutanaka.com

 

そもそも量子アニーリングとは?
名前は聞いたことあるけど、仕組みまではよくわからないという方が大半ではないでしょうか? 量子アニーリングとは、組合せ最適化問題を効率良く解くことができる方法とか、機械学習の一部に使うことができるとか言われていますが、あまりピンと来ないですよね。田中先生のスライドが非常にわかりやすく、まとめられていますので参考にしてみてください。

田中先生から、量子アニーリングや量子技術に関する分かりやすい書籍を2冊紹介していただきました。一つは西森秀稔先生と大関真之先生による『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP)、もう一つは大関真之先生による『先生、それって「量子」の仕業ですか? 』(小学館)です。

今後注目がさらに高まりそうな量子アニーリングについて、人工知能開発に関わる皆さんが思うであろう疑問点を中心にピックアップしてみました。

量子アニーリングにできることは、ただ一つ!

亀田
量子アニーリングという言葉をよく聞くようになったんですが、量子アニーリングってそもそもなんですか?
田中先生
量子アニーリングの目的は、組合せ最適化問題を解くことなんです。組合せ最適化問題は、たくさんある選択肢からベストな選択肢を選ぶ問題のことですよね。これを高速に解くと期待されている技術なんです。
亀田
あれ、できることは組合せ最適化問題だけなんですか?
田中先生
がっかりしました(笑)? ですが、組合せ最適化問題って色々なところにあるんですよ。たくさんいるアルバイトの人たちのシフトを決めたりとか、宅配便を効率良く届けるとか、それって、パターンがものすごくたくさんあって、その中からベストなものを選びたいじゃないですか。
亀田
あー、確かに。色々なことに使えそうですよね。
田中先生
そうなんです。先ほどは身近な例を出しましたけど、最近はサービスも多様化されて来ています。例えばシェア化なんていうのも最近よく話題にあがりますよね。カーシェアリングとか。その場合、モノとヒトを結びつける、いわゆるマッチングが必要になるわけです。マッチングも、見方を変えれば、膨大な選択肢からベストな選択肢を探し出す問題といえますよね。このように最近では、この組合せ最適化問題を高速に解くことが世の中で強く求められています。なのでこれを速く解くことができたら嬉しい。量子アニーリングはそれを解決するんじゃないか。そういうことで、最近様々なところで注目を集めています。

専用マシンが次々登場する時代

亀田
量子アニーリングというキーワードで調べると、ものすごく計算が速いということが書かれています。その代表例がカナダの会社D-Wave SystemsによるD-Waveというものだというのはわかったのですが、いわゆるスパコンとは何が違うのでしょうか?
田中先生
スパコンは皆さんが想像するように、様々な情報処理ができる汎用のコンピュータです。そしていま私たちの生活に密接に関係するところで役に立っています。それに対して量子アニーリングは、先ほども言ったように組合せ最適化問題専用の計算技術なのです。その計算方式をハードウェアレベルに落とし込んだ代表例がD-Waveなのです。
亀田
そうなんですね。汎用と専用、全然違いますね。ところで、量子アニーリングが機械学習に応用できると言う話を聞いたことがあるのですが。
田中先生
はい、D-Waveが実際にできた。じゃあどうしようと色々な人が考えました。色々使っているうちに、ボルツマン機械学習や関連する機械学習の枠組みに対して、量子アニーリング専用機が使えるんじゃないか、こういう発見をした人たちがいるんですね。そしてこれからも量子アニーリング専用機を用いた新しい機械学習処理の方法が生まれるかもしれません。実機があるからこそ、様々な人がこのマシンをどうやって使いたおそうか、こういう野心的な考えが出てくるのです。
亀田
なるほど。具体的にマシンがあると、試してみたくなる人たちも増えますし、技術が広がりそうですよね。他には似たマシンはないのでしょうか。
田中先生
実はいま、D-Wave Systems以外にも、量子アニーリングマシンの開発が進んでいます。海外の勢いはすごいですよ。今年6月に開催された量子アニーリングの国際会議AQC2017(詳細はこちら)では最新のハードウェアの開発成果が報告されました。他にも、量子アニーリングとは別の仕組みなのですが、様々なところで組合せ最適化問題を解く専用マシンの開発が進んでいます。これらの開発も注目すべきです。
亀田
具体的にはどんなものがあるのですか?
田中先生
D-Wave Systems以外の量子アニーリングハードウェア開発でいうと、IARPAプロジェクトとか、MIT、Googleなどが挙げられます。また日本でも、私が参画している国家プロジェクトのNEDO IoTプロジェクト「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト」では、量子アニーリングマシンの開発のため、日夜研究が進められています。あとは量子アニーリングとは別の仕組みの組合せ最適化問題専用マシンは、日本の国家プロジェクトである、ImPACTによる光パルスを用いたコヒーレントイジングマシンや、日立製作所によるCMOSアニーリング、富士通研究所によるデジタルアニーラーが挙げられます。このようにいま、着々と組合せ最適化問題の専用マシンの開発が進んでいます。これからも様々なタイプの組合せ最適化専用マシンが登場するかもしれません。

量子アニーリングの実際のところ

亀田
量子アニーリングが組合せ最適化問題専用の計算技術であり、それをハードウェアとして作り上げたのがD-Waveであるということはよくわかりました。ではD-Waveの実際の使い方を教えて下さい。
田中先生
量子アニーリングマシンは、このようなフローチャートに従って使うことができます。
田中先生
まずはじめに、実はここがいちばん大事なのですが、解きたい組合せ最適化問題を用意します。
亀田
そうなんですか!?
田中先生
はい。実社会の問題を解決する上では、ある一つの組合せ最適化問題を解けば良い、という状況は少ないですよね。たくさんの情報処理の中に、組合せ最適化問題が内在する。それを見つけ出してくることが実は大事なのです。先ほど話した機械学習もそうで、何らかの組合せ最適化処理がある、じゃあそこに量子アニーリングを使おう、という発想です。
亀田
なるほど。
田中先生
次に、用意した組合せ最適化問題をイジングモデルと呼ばれる統計力学のモデルに変換します。
亀田
なぜそのようなことをする必要があるのですか?
田中先生
量子アニーリングマシンができるのは、実はこのイジングモデルの安定状態を求めるということなのです。なので、量子アニーリングマシンに入力するために、この手続きが必要なんですね。量子アニーリングマシンに相性の良い言語に置き換えると言っても良いかもしれません。このあたりについては、共同研究者の方がブログでまとめていただいています(Nextremerの方による記事はこちらにあります。またブレインパッドの方による記事はこちらにあります)。
RCOの方による記事は(こちら
田中先生
次に、組合せ最適化問題から生成したイジングモデルの係数を入力します。あとは少し待つことで、量子アニーリングマシンが量子アニーリングを実行し、最終的に答えが出るという仕組みです。
亀田
実際にD-Waveを使った研究はどのようなものがあるのですか?
田中先生
D-Waveを使った研究は既に結構出てきています。今年出た代表的なものだけに絞って言えば、NASAによる航空写真から森林を検出する問題や、フォルクスワーゲンによる最適交通路の発見、更にはロスアラモス国立研究所による行列分解がありますね。最後のものは、私の共同研究者の方がブログにわかりやすい記事を書いています。更に、つい最近量子アニーリングの国際会議AQC2017で発表したリクルートコミュニケーションズ(以下、RCO)の方々との共同研究として、特徴量選択やディスプレイ広告最適化、情報推薦などに対してD-Waveを用いました。

実は量子コンピューターがなくても試せる量子アニーリング

量子アニーリングはシミュレーテッドアニーリングの親戚

亀田
RCOとの共同研究では、D-Waveを使用しているという話でしたが、田中先生とRCOが量子アニーリングの共同研究を始めたというプレスリリースでは、シミュレーションすると書かれており、D-Waveを使うわけではないのか、と当初感じたのですが。
田中先生
そうですね。もともとRCOとの共同研究では、当初D-Waveを使わず、量子モンテカルロ法と呼ばれる普通のコンピュータで実装できる方法を用いて準備研究を進めてきました。その結果、量子アニーリングマシンを実際に使ったらどうなるだろう? というのが私たちの共通する考え方でした。良いタイミングで、RCOと早稲田大学高等研究所、D-Wave Systems の三者で、D-Waveに関する日本発の公開のイベントを2016年5月に開催することができました。そうしたご縁もあり、2017年の1月にRCOの方々と私とでカナダにあるD-Wave Systemsに訪問したり、リモートでD-Waveを利用したりと、着々と研究を進めてきたというわけです。
亀田
なるほど、やはり当初は普通のコンピュータを用いた準備研究から始めたのですね。具体的にはどのような方法で検討したのですか。
田中先生
量子アニーリングはシミュレーテッドアニーリングと呼ばれるアルゴリズムの親戚みたいなものです。シミュレーテッドアニーリングは長年使われてきたアルゴリズムです。温度の効果からくる熱ゆらぎを用いた計算方法です。熱ゆらぎを徐々に弱めることにより、安定な答えを求めるという方法です。量子アニーリングでは、熱ゆらぎの代わりに量子ゆらぎを導入し、それを徐々に弱める。それによって安定な答えを求めるのです。要は、なんらかのゆらぎを導入し、それを徐々に弱めれば、アニーリングが出来るわけですね。普通のマルコフ連鎖モンテカルロ法でシミュレーテッドアニーリングを実装していさえすれば、量子アニーリングの実装は、実はそれほど難しくないです。実は私は2009年に、そのようなノリで、量子アニーリングの応用に関する研究を発表しました。これは情報系の方との共同研究で、大学院生の頃に始めた研究だったので、とても良い経験になりましたし。

今後の物理学からのアプローチと人工知能開発

亀田
人工知能開発は解決すべき課題も多いですが、様々な学問のアプローチを組み合わせる事で解決できる問題が増えてきそうですね。
田中先生
はい。まさにそう思います。私はたまたま友人や周りの方々に恵まれ、大学院生の時から、情報科学の方々との共同研究をすることができました。最初は言葉遣いの一つ一つがうまく噛み合わず苦労しました。その時に感じたのは、それぞれの研究者が学んできた学問領域をしっかりと取り組むことも大事だと思います。その上で、様々な学問分野に敬意を払い、一緒に何かを作り上げていくという気概が大事です。
田中先生
また最近感じるのは、中高生のポテンシャルですよね。私が中高生のときに比べて、情報が得やすい環境になっている。そのためか、以前よりも多くの中高生たちが情報技術に早い段階で触れられるようになっていると感じています。ある時に出会った高校生が、何かのコンテストに出るわけでもないのに、機械学習のソフトウェアを使って遊んでいるという話を聞いて驚きました。私たちが中高生のときにもプログラミングに興じていた人たちがいたようですし、もう少し昔になると、中高生時代に電子回路工作をしていたなんて話はよく聞きます。機械学習や、今回紹介した量子アニーリングなんていうものも、もっと多くの中高生が気楽に遊べる環境ができてくると、世の中が変わってくるのかな、と感じます。楽観的な視点ですが。
田中先生
そうそう、楽観的な視点で思い出したのですが、ポジティブな考えでものごとを捉えたほうが楽しいし、意味のある成果が出ると考えています。ネガティブな考えから入ると大抵、やる気もなくなりますし、手を動かさないで批判ばかりするということも起こりやすい。実際、様々な学問のアプローチを組み合わせる際に苦労する点は、そういう「目に見えない壁」なんだと思います。私は物事をあまり難しく考えず、ポジティブ思考なので、壁を感じることはほとんど無いですね。物理学をしっかり学んだ若い世代の方が、情報科学や別の学問分野に果敢に挑戦していくことにより、人類の知が少しずつ積み重なっていくと思います。
まとめ
最近あちこちで話題になる量子アニーリングについて、何に使うことができるのかを分かりやすくお聞きすることができました。
今回はすべてご紹介できませんでしたが、量子情報処理には様々な方式があるようです。今回は量子アニーリングについて紹介しましたが、いわゆる量子コンピュータ、つまり量子回路型と呼ばれる古典コンピュータの上位互換の方式についても、その成長ぶりには目が離せません。IBMやGoogleが活発に研究をしている様子をニュース記事などで目にします。より良い手法はバズワード化して認知されていきますが、誤った認識で情報が広がらないように、今後も本質と活用方法をご紹介していきたいなと思います。
AINOW
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