NVIDIA以外の選択肢を!「ディープラーニングの民主化」を目指すGPU EATERの「お値段以上戦略」とは

 

「これまで研究一辺倒になっていたディープラーニングですが、最近になり実用化が加速しています。

さまざまな分野でさまざまな事例が生まれ、企業の大小を問わず多くのプロダクトが誕生しています。これからますます増えていくでしょう。

それとともに、ディープラーニングを動かす基盤コストが議論になっています。現在のディープラーニングのGPU環境(計算環境)にはNVIDIAのGPUとCUDA(NVIDIAが提供するライブラリ)以外の選択肢がなく、価格高騰を抑止する手立てがないためです。

NVIDIAのGPU価格が高騰することによって、ディープラーニングを使った製品の研究開発や提供が遅れてしまうことに対して強い危機感を持っています。」

そう語るのはクラウドコンピューティングサービスGPU EATERを運営する米国法人Pegaraの市原さんです。

NVIDIA一辺倒のディープラーニング業界に疑問を感じたことがGPU EATERをローンチさせるきっかけになりました。

その目的は、「ディープラーニングの民主化」です。そう意気込む市原さんですが、ディープラーニングのクラウド市場に一石を投じることができるのでしょうか。

今回はPegaraの市原さんと中塚さんにインタビューしました。

市原 俊亮さん(左)
株式会社RAIJIN代表取締役社長、株式会社ウェブクルー取締役社長室長を経て中塚と共に米
国デラウェア州法人Pegara, Inc. を創業、最高経営責任者へ就任。MIT Technology Review
Japanアドバイザ、日本経済新聞社運営「COMEMO」キーオピニオンリーダ。

中塚 晶仁さん(右)
株式会社パンカク、Crava, Inc.最高技術責任者を経て市原と共に米国デラウェア州企業
Pegara, Inc.を創業、最高技術責任者へ就任。「ITエンジニアのためのDeep Learning」発起
人。スキルの高さは米パロアルト研究所出身研究者に「日本の宝」と評されるほど。

きっかけとなったのはNVIDIAのEULA事件

PegaraがGPU EATERをローンチするきっかけは2017年の12月に遡ります。NVIDIAがコンシューマーGPU向けのドライバの利用許諾契約(End User License Agreement ; 略してEULA)を改定し、データセンターでの利用を禁止しました。一部で話題になっており、ご存知の方も多いかもしれません。

具体的には以下の通りです。

NVIDIAのGPUを利用するためにはNVIDIAが提供する専用のドライバが必要です。そのためコンシューマーGPUである「GeForce」、または「TITAN」ブランドの製品を使うには、EULAに同意しなければなりません。

また現在データセンタへ設置している同製品を撤去したくない場合、ドライバをアップデートしてしまってはEULAへ違反するため、アップデートが不可能になります。

※併せて「GeForce」や「TITAN」ブランドの製品を利用した商用ホスティング利用や公開パフォーマンスや放送も禁止されました。

市原さんと中塚さんは、この状態が続けばディープラーニングの民主化が阻まれてしまうと危機感を募らせたといいます。しかし、同時に感じたのは、NVIDIA以外の選択肢の必要性です。

これをきっかけにGPU EATERの開発に着手し、約2ヶ月半という短期間で2018年3月1日に英語版をリリース。3月8日に日本語版をリリースしました。

Pegaraが理想とするクラウドコンピューティングの競争

もともとはアメリカで法人を運営

市原さんと中塚さんは2015年からアメリカで法人を設立し、活動をしていました。

事業内容はアルツハイマー型認知症予防を目的とした生活改善です。その一環としてディープラーニングを利用した「料理の認識」技術の開発に挑戦していました。しかし、ボリュームの判定や、一つのプレートにたくさんの食事が乗っている場合の判定など困難がとても多かったと言います。

また、AIに対する人間の感情は「不気味の谷」と呼ばれる現象が生じます。AIが人間らしくなればなるほど人間は好意的な反応を示すものの、あるポイントに達するとその肯定的だった感情は減少していきます。その境目となるポイントが不気味の谷への始まりです。「その不気味の谷を超えることができなかった」と市原さんはおっしゃいます。

ーーー市原さん

「料理の認識精度が上がれば上がるほど結果に対して不愉快に感じてくることが増えてきました。なぜなら一つの料理を認識するにしても、日本人ならこう、欧米人ならこうだろうみたいな期待される結果が異なるんですよね。

例えば、野菜がザクぎりされたスープがあったとします。日本人から見たら「煮物」にしか見えないものだとしましょう。しかし、欧米人からすれば「野菜スープ」としか見えないものです。

日本人であれば「煮物」を「野菜スープ」と認識されたら不愉快ですし、欧米人が「煮物」などと言うわけのわからないものを受け取ったら不愉快なわけです。

問題は、単一のオントロジーで分類してしまっては期待される結果を返せないと言うところなのですが、精度があがればあがるほど(自分たちと同じ)人間と違う結果を返すことへ拒否反応を示すようになってきたことから「不気味の谷がある」としたわけです。」

コンピュータの知識獲得の困難さを克服するための試みとして,知識の共有化や再利用の方法共有・再利用可能な形式に整えられた知識をオントロジーという用語で呼ぶ場合がある。

ディープラーニングの民主化を目指す「GPU EATER」とは

ディープラーニングの民主化を目指す。それは、NVIDIAのEULA事件をうけた市原さんと中塚さんの覚悟です。一強ともいえる今のディープラーニングのクラウド環境。そこに選択肢を増やすためにGPU EATERは生まれました。

最高技術責任者の中塚さんは以下の3点がGPU EATER の特長だといいます。

ディープラーニング技術を活用した製品を提供・研究する中小企業・スタートアップを主なターゲットとしており、「1時間10円」「5分で利用開始」というお手軽さが売りです。

世界初のAMD製のGPUベースのディープラーニングクラウドで、ある程度のサンプルプログラムはあらかじめ用意されています。各種ライブラリもインストール済みで、とにかく早いスタートダッシュが切れることが特長です。

中塚さんに話を伺うと、GPU EATERのキーワードは「お値段以上」なんだとか(ん…ニトリみたい!)。どういうことなのでしょうか。

ーーー中塚さん

「TOYOTAは世界中で受け入れられています。DAISOやCoCo壱番屋もカリフォルニア州の人々に受け入れられています。なぜでしょうか。それは『お値段以上』の価値があるからです。

常にお値段以上の価値をお客様に提供し続けています。

私たちも、グローバル競争で勝つためにはお値段以上の体験を提供しなくてはなりません。

単なるローコストモデルで勝ちきれるほどグローバルは甘くはありません。過剰な値引きは持続可能性がありませんし。我々はサステナブル(持続可能)でなくてはなりません。

ディープラーニングはコストエフィシェントな場所(利益を出しやすい分野)からどんどん浸透していきます。まずは、インフラ・固定費が高すぎる現状をなんとかしなくてはならないと思っています。」

お値段以上を目指すことになったきっかけは、市原さんがPegaraを創業する以前、共同創業者らとアジアに旅をする際に「AirASIA」へ搭乗したことだそうです。

ーー市原さん

「AirASIAの”Now Everyone can fly”と言うスローガンに強いインパクトを受けました。今まで世界を旅することで多くを学んできたので、発展途上国に暮らす人が海外を自由に旅行できる基盤を作っていることに感動したんです。

これまでディープラーニングをサービスに組み込む機会を得ることすら難しかった人や、機会を多く得ることが難しかった人へさらなるチャンスを提供したい。そんな強い思いがあります。」

市原さんが例に上げるのは、子会社のあるフィリピンです。

ーー市原さん

「フィリピンではGPUがそもそも手に入らなく、また電気代が高いので自由に研究できる環境とはいえません。そういった人たちへも機会を提供してきいたいです。

アップストリームを狙っている企業は提供価格をどんどんあげていくことで利益を増やしますが、GPU EATERはが誰もマネすることができないレベルまで創意工夫を繰り返し、価格を下げ、利便性をあげていくアプローチを取っていきます。ローエンド型破壊的イノベーションモデルを意識しています。ローエンドを抑えることができればハイエンドも狙うことができると考えています。

また、CTOの中塚の生きるミッションは「真実を知る」ことです。「お値段以上」の戦略を取ることにより彼の理念を実現することにもつながると考えています。」

AMDのGPUの認知度はまだ高くないけど

GPU EATERでは、AMD製のGPUが多く使われています。

AMDはIntelと共によく知られた半導体の製造メーカーです。かつてはCPUにおいて世界トップのIntelのセカンドソースとしてIntelと同じ仕様でCPUを供給していました。今はセカンドソースは廃止され、AMDは独自の開発でCPUを製造しています。今となってはIntelに継ぐCPUのシェアを誇る半導体メーカーになりました。

2006年にカナダのATI Technologiesという会社を買収して、GPUの製造にも着手しました。2010年にATIのブランドを廃止し、AMDのブランドとして「RDEON」シリーズを発売し、現在もRADEONのブランドは継続しています。

業界でもあまり認知度の高くないAMD製のGPUですが、Tensor Flow1.3に対応したことで性能が2倍改善されたといいます。

以下の表をご覧ください。

「Radeon RX 560 +TF1.0.1」より下がAMD製のGPUの性能です。

CNNやRNN、LSTMなどの基本的なニューラルネットワークはもちろんその他の代表的なディープラーニングのモデルもAMD製のGPUで問題なく動作することをPegaraは確認したそうです。

しかし、AMDのGPUの認知度はまだ低いのが現状だといいます。AMD社製のGPU上でTensorFlowなどのディープラーニングプラットフォームが使えることを知っていたのは。全回答97件中17人だけでした。

AMD社製のGPUにも十分な実力があることが見て取れます。GPU EATERはAMD社のGPUと共にディープラーニングの民主化に挑んでいきます。

最後に市原さんが語ってくれました。

ーー市原さん
「我々にとってのお値段以上とは「想像を遥かに超える価値の提供」です。

我々の主たるターゲットは既にディープラーニング技術を使った製品を市場投入している先進国の企業ですが、発展途上国の人たちにも積極的に使ってもらえたらと考えています。

例えば、ベラルーシの大学生やインド人技術者が我々のサービスをロボティクスの研究に使えないか検討してくれています。

彼らが揃って口にするのは「AWSのGPUインスタンスはあまりに高すぎるから使えない」ということなんですよね。

これまでハイエンドGPUの恩恵を受けることができなかった人々が、GPU EATERの基盤を使って恩恵を受けています。ハイエンドGPUなら数時間で終わる処理でも低スペックGPUでは日単位の実行を要すると言うケースも多々あります。そうしているうちに先進国の研究者と差が開いてしまいます。GPU EATERはそのようなアンフェアを減らしていくことができると確信しています。

また、Deep Learningの製品開発者を支援していくためのソフトウェアプラットフォームであるAI EATERの準備も着々と進んでいます。Deep Learningはエンジニアリングの総合格闘技なので、データサイエンス部分だけに集中できる代物ではありません。そのあたりのニーズに応えていくつもりです。マネする事は容易ではないと思います笑。

当初は、NVIDIA GeForceを安い金額でクラウド提供することで「お値段以上」の価値を提供することを考えていたものの、今はAMD GPUがDeep Learningで使えることを証明しながらGPUをクラウド提供していくことに強い価値を感じています。簡単なように聞こえるかもしれませんが、Deep Learningの奥の深さは実際にやっていなければわかりません。これからさらに挑戦を続けていきます。」

編集後記

力強い言葉で市原さんがインタビューを締めてくれました。

NVIDIAを批判するのではなく、ディープラーニングがもっと普及するために、新たな挑戦をする市原さんと中塚さんを応援したい想いで、記事を執筆しました。

NVIDIAさんがディープラーニング業界で多角的に貢献してきたことは事実です。

しかし、圧倒的なその強さを前に新たなプラットフォームが築かれてこなかったのです。

これからディープラーニングが農業や介護、製造など、それぞれの分野へさらに普及が進みます。

だからこそ新たな競争が生じて、ディープラーニングの開発環境がさらに整備されることを期待しています。

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