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こんにちは、編集長の亀田です。
みなさん、初めてゲームに触れたのはいつ頃でしょう?
年代によって様々だと思うが、子供の時に体験したゲームの記憶って鮮明に残ってたりするもの。ゲームは娯楽であるが、生活の一部になって、より身近になったと感じる方も多いのでは?
前回も株式会社スクウェア・エニックスの三宅さんにFainal Fantasy XVのメタAIでゲームAIについて紹介しましたが、ゲームAIからリアルを変えていく、そんなビジョンを目指している「モリカトロン社」をご紹介したいと思う。
※ 過去掲載記事
「FINAL FANTASY XV」の自由に動けるオープンワールドはAIのおかげ ~リアルでのメタAI活用がAI発展の鍵に!?~
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森川幸人氏のご紹介
1959年生まれ、1983年筑波大学芸術専門学群卒業。PlayStationの初期から、積極的にAIをゲームに取り入れ、自ら設計、開発を行う。AI搭載ゲームの代表作として「ジャンピングフラッシュ!」(ソニー・インタラクティブエンタテイメント、以下SIE)、「がんばれ森川君2号」(SIE)、「ここ掘れ!プッカ」(SIE)、「アストロノーカ」(スクウェア・エニックス)など。2003年に発売された「くまうた」(SIE)は、翌年文化庁メディア芸術祭にて審査員推薦賞を受賞。AIを取り扱った著書に、「マッチ箱の脳?使える人工知能のお話」(新紀元社)、「絵で分かる人工知能?明日使いたくなるキーワード68」(三宅陽一郎共著、サイエンスアイ新書)など。その他、「ゲームとAIはホントに相性がいいのか?」(CEDEC2008)、「ゲームとAIの相性はどうよ?」(バンタンデザイン研究所、2016年)など講演実績多数。
目次
20年前、ゲーム×AIが認められなかった
約20年前、PlayStation®が登場した頃にゲーム制作を手がけられていた森川氏。
如何に面白いゲームを生み出せるかプランナーやエンジニアが技術の凌ぎを削っていた時代に、森川氏は人工知能をゲームキャラクターに入れて自律させようと試みたそう。
「キャラクターが自ら会話してくれたらワクワクするし、開発の効率化が図れるから一石二鳥だよね」という森川氏。当時、パラメータ調整は全部手でやっていて、大変開発工数が掛かっていた、しかし、ゲーム業界人はパラメータ無いことを認めてくれなかったそうだ。
ゲームAI専門の会社の設立背景
その後、ゲームAIについては主張することを諦めて、ガラケーやスマートフォン向けのゲーム開発をしていたという森川氏。そして、2012年からディープラーニングをゲームで活用したいという問い合わせが入り始めたそう。
もしかしたら、今ならゲームAIの考え方が理解されるのではと考えて、仲間と共に再度企業することを決意したそうだ。
現在、ゲームAIの会社を立ち上げてからは、ソーシャルゲーム企業からの問い合わせが多く、コンシューマー向けのゲーム会社からは問い合わせは少ないそうだ。
この点に関して、森川氏は「ゲーム業界は、職人気質があるのかもしれない。人工知能が作ったコンテンツに想いがないし、クオリティも人間を超えられるはずがないという思い込みが多いのかもしれない」と考えている。
人間とAIの共同作業が最高のコンテンツを生み出す
最近はオープンワールドだったり、高クオリティのゲームが好まれているが、制作方法は会社によって異なる。
あるオープンワールドを舞台にしたゲームでは、キャラクターもモンスターもAIが自律して行動や会話を行い、パラメータ調整も自律して行っているが、別会社のオープンワールドを舞台にしたゲームでは高度なAIではなく、古典的なAIと人間の手で制作と調整が行われているそう。
森川氏は、「下工程はAIで良いはず。すべて人間の手でやる必要はなく、限られたリソースをユーザにとって満足いくコンテンツに向けるべき、人間と分業すれば良い」と話してくれた。
ソーシャルゲームでは数字をシビアに管理しないとすぐにサービス終了になってしまうため、ディープラーニングや機械学習を用いた、データ分析やシナリオ生成が盛んに行われているそうだ。「据え置きのゲームでも考え方は同じであるはずだが、そういった風潮にはなっていない。やはり、ビジネスのKPIにインパクトを与えることが理解できないと、ゲームAIの実用性は響いてこないと動かないのかもしれない」と森川氏は話してくれた。
モリカロトンで提供するゲームAIのラインナップ
ゲームAIは、ゲームコンテンツ内の様々な場面で活用することができるが、モリカトロンでは会話AIエンジンの提供から開始するそうだ。
現在、発売されているゲーム内のキャラクターは、一部作品を除いて、プレイヤーが話しかけると予め決められた会話をしてくる。会話内容は、シナリオの進行状況に応じて会話内容を変更したり、プレイヤーの言葉の拾い上げくらいしかない。
目指す会話AIは、キャラクターのプレイ状況も交えて、自由会話も成立するくらいにしようとしているそうだ。AI側の語りかけに応じて、それに応答したプレイヤーからの会話にても気の利いた会話ができるようにしたいそうだ。
この他に下記のようなゲームAIエンジンを提供予定とのこと。
キャラクターAI
パラメータ調整AI
自然会話AI
メタ/行動予測AI
エンタメ要素が会話AIの技術課題をカバーする
ビジネスで活用されている、会話AIを用いたチャットボットでは、時系列の流れや文脈理解、未来の話は難しすぎる。気の利いた会話ができるAIは数少ないと思うが、ゲーム内であればユーザの意図した会話を成立させられると森川氏は考えているそう。
会話には、構文解析・意味解析・自然会話の生成と手順が必要になるが、ゲーム内であれば、少しとぼけてみたり、キャラクターの振る舞いで会話に意味を持たせることができて会話の応答が少しズレていても、エンタメ要素でカバーできるのがゲームの面白さ。特定のタスクを遂行する会話AIが多いと思うが、長くユーザ気の引くものが提供していきたいと意気込んで開発をしているとのこと。
会話がアンケートみたいになってつまらない。テキストでいう「うん」の背景に含まれているニュアンスも読み取れるようにしたいとのこと。例えば、ボタンの回数やプレイ行動から推測して自然な会話に繋げていく。何をしているのか背景を理解して、言葉を理解するエンジンに仕上げているそうだ。
この会話データは、メタAIにも繋がっていく事で、ゲーム環境が変化して、ステージや敵モンスター、仲間キャラクターも現在の状況に応じた自然な会話をするゲームも実現できる事ができる。
リアルな生活にも影響を与えるエンタメAIとは?
モリカトロンの目指すエンタメAIが実現すると私達の生活はどのように変わるのか、エンタメAIの未来について語って頂いた。
AIを私達の生活で活用しようと考えた場合、サイズ感が大事だという。近所のコンビニに⾏くのには、チャリで⼗分。普段使いなら、燃費のいいハイブリッドカーで事は足りる。AIは、不必要に⼤きな仕組みになりがちだが、コストとリスクを削減するために、⽤途に応じて、最適な仕組みやサイズにする必要があると考えているそう。
その為、エンタメAIのキーワードは以下の5つのCからなるそうだ。
・Compact
・Casual
・Customise
・Cute
・Clever
人間の生活に溶け込んで行く実用的なAIを考えた場合、AI研究だけでは、与えられた環境が十分で成果はでるだろうが、現実環境で使うにはサイズが大きく、すぐに活用できないという。そこで、ゲーム開発のノウハウとAI研究のノウハウをあわせたエンタメAIを用意することで、日常生活にAIをより速く・精度も提供できるのではと考えているそうだ。
エンタメ要素だけでAIを作ることはできず、AI技術だけでもエンタメAIを作ることは出来ないという。AI研究の世界と、ゲーム世界で求められる学習速度(キャラの成⻑速度など)は全く違う、このギャップを理解していて、且つ、この問題を解決するノウハウを持っている必要があるそうだ。
このように、開発したエンタメAIを提供する先は、まずロボットになると森川氏は考えている。そして、その次は喋る鉛筆とか、文房具にAIを取り入れてみたいと話す。現在のAIではタスクをこなす事ができずに失望してしまうこともあると思うが、エンタメ要素をキャラクターに載せればそんな失敗も失望に変わることはない。
そして、今まで道具と思っていたモノが話すような、未知の楽しい体験をリアルで提供してエンタメAIを使える世界にしていきたいそうだ。
AIをおもちゃだと思って欲しい
最後に、森川氏からこれからのAI開発に必要なメッセージを頂いた。
AIのポテンシャルは高いと思うので、いじくり回して、遊びながら開発してほしいそうだ。ビジネス利用も大事だが、目的の遂行だけだとちょっと窮屈に感じる。
森川氏は「AIはおもちゃだと思ってほしい」という。
おわりに
スマートフォンの普及によって、据え置きが一般的だったゲーム環境は一変して、電車な食事中でもゲームをする人が増えて、日常風景になりました。この先、音声を利用したスマートスピーカーや家電にAIが搭載されて様々なデータを取得してAIがサポートしてくれる事が増えてくるでしょう。しかし、まだ技術の精度はそこまで高くなく、人間がこなした方が速い事も多々あります。
革新的な技術でも価値がなければ利用されないので、技術精度が高まる時間稼ぎとしても、エンタメAIは必須になると思いました。そして、エンタメ要素を技術に落とせるのはゲーム開発者だけ、人間を理解して楽しませる要素はゲームだけに限らなくなって来ているので、ビジネスでもエンタメを再度考えて行きたいと思いました。