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2018.1.13 取材・編集:おざけん@ozaken_AI
おざけんです。
シンギュラリティ。汎用人工知能が発明し、AIが新たなAIを生み出すことができるようになる。人間が想像することのできない超越的な知能が誕生する瞬間。AI・人工知能が人間より賢くなり、人類の進化速度が無限大に到達したように見える瞬間とも言われます。
近年ディープラーニングが話題になって以来、この「シンギュラリティ」について耳にする機会も多くなりました。
2018年1月13日「シンギュラリティ」をテーマにしたイベントがソニー、シンギュラリティ大学、全脳アーキテクチャ若手の会の3団体によって共催されたので取材に行ってきました。イベントレポートをお届けします。
目次
シンギュラリティ大学 x SONY x 全脳アーキテクチャ若手の会 「多様な視点で見つめるシンギュラリティ」
技術、ビジネス、行政とそれぞれ異なる視点からシンギュラリティは訪れるのか、または訪れた時に世の中がどのように変わっていくのかについて各スペシャリストが講演し、パネルディスカッションを通してAIが将来与えるインパクトや社会のあり方について考えていくことを目的としたイベントでした。
理系だけでなく、文系の人も数多く参加し、「シンギュラリティ」が多くの関心を集めていることが伺えました。
ソニー株式会社の下村さんより開会の挨拶がありました。
シンギュラリティについてみなさんは自信をもってこれだといえますか?
下村さんは自身を持って「これだ!」と言えないそうです。だからこそ議論が必要です。原因と結果で構造的にシンギュラリティを理解することが大切です。
では、「シンギュラリティでロボットに管理されるのか?仕事がなくなるのか?」
これはシンギュラリティの結果であり、もっと背景原理や時間とともにどう変化するのかなどにもっと目を向けるべきであると下村さんは考えているそうです。
シンギュラリティ議論のポイントは以下。
- 指数関数的に進化していくこと
- 人間とAI(ロボティクス)の融合
- 再帰性(改良した自分を作る自分)
みなさんも、シンギュラリティを起こす前提条件の理解や、シンギュラリティまでに多くのことが同じ前提条件で起きることを理解して、能動的に貢献していきましょう。
続いてはExponential JapanのJovan Rebolledo氏からシンギュラリティ大学についての説明が。これについては独占取材の上、別の記事でご紹介します!
それでは早速、それぞれのセッションの内容を見ていきましょう。
若手から見たシンギュラリティとその将来展望 (全脳アーキテクチャ若手の会創設者: 大澤 正彦 氏)
オープニングは全脳アーキテクチャ若手の会の設立者の大澤正彦さんによるセッションでした。
「シンギュラリティが起こると言われている2045年に、みなさんは何歳ですか?」
という問いかけから始まった大澤さんの講演。
多くの人は2045年には高齢者になってしまいます。
ということは…
2045年に仕事のピークを迎える今の若者がもっとシンギュラリティやAIについて考えなければいけないということですよね。
また「シンギュラリティって受け身になりがちなんですよね」という大澤さんの鋭い指摘も。確かに、シンギュラリティはいつか起こるものだという認識はありますが、能動的に「起こそう」という考えの人はあまりいないのかもしれません。
人間は、今までさまざまなテクノロジーを能動的に創り上げてきました。
「シンギュラリティにも同じように能動的な言葉を使うべき。」と再度強調してセッションが終わりました。
強い志を持ってやって、さまざまな協力してシンギュラリティに能動的に関わっていけるといいですね。
大澤正彦さん過去取材記事
それぞれの立場から見るシンギュラリティ
ビジネス: 齋藤 和紀 氏 (Exponential Japan) 「シンギュラリティ時代を生き抜く人と企業の条件」
収穫獲得の法則と言われるように指数関数的(Exponential=エクスポネンシャル)に革命が起こっています。特にテクノロジーは変化が指数関数的に倍々になっています。(ドラえもんのひみつ道具「バイバイン」みたいな)
スマートフォンの普及によって当たり前になっている写真も飽和状態になってきています。
将来的にはVR、そしてARになり、だんだん現実とは区別がつかなくなると斎藤さんは予想しています。これも指数関数的な進化です。
未来的には、いろいろなものがあり余るほど豊富な状態になります。寿命も伸びているかもしれません。いろいろなものが指数関数的に伸びるのです。
そんな時代には楽観志向が大事だと斎藤さんは話します。
今、経営者は「産業構造が変わっていくぞ。」ということを考え始めています。
国家とか社会システムがブロックチェーンなどで変わるということを考えないといけなくなっています。
企業のオーナーは一番それを感じ始めているのです。
ではどうしたらいいのでしょうか。
人間は経験に基づき直線的にしか考えられません。しかし、技術はさらに加速しています。
キャリアは、団塊世代のような終身雇用のキャリアよりも、フリーランスが増えたりキャリアがだんだん変わってきて、この変化は加速している。
中国のテンセントは今の事業は10年後にはなくなっていると確信しており、だからお金は全て次のの技術に投資すると延べているそうです。
日本としてもどうにかしなければなりません。
あらゆるものづくりは3Dプリンターで破壊的脅威にさらされます。
また今後10年でインドで10億人の知的な労働者も誕生します。
これからのビジネスモデルは「自己増殖をもたらす仕組みが大事」だと斎藤さんは強調します。
特に自律分散と協調が大切です。
キャリアに関して言うと個のエンパワーメントが必ず起きます。なので、みなさんは「シンギュラリティのオブザーバーではなくイノベーターになってください」と締めくくりました。
技術: 三宅 陽一郎 氏 (株式会社スクウェア・エニックス) 「シンギュラリティとゲームAIの未来」
ゲームとAIの第一人者である三宅さんからは「シンギュラリティとゲームAIの未来」というテーマでお話しいただきました。
シンギュラリティについて三宅さんは「閉じた問題」と「開いた問題」をキーワードに話していました。「シンギュラリティは人間と人工知能の関係が新しい段階に移ること」だと三宅さんは言います。
閉じた問題=専門的な問題は、今現在でも人工知能が人間を凌駕しています。専門的な状況とは完璧に定義された状況のことです。これに対して専門的ではない総合的な状況(=開いた問題)に対しては、人工知能は基本的には対応できません。
人間が得意とする問題群と今人工知能ができる問題群を合わせて、人工知能が全てをカバーするときに完全なシンギュラリティは起きると三宅さんは言っていました。
今の人工知能は人間に与えられたフレームの中で実力を発揮しています。これからシンギュラリティに向けて、人工知能がフレームを自ら設定できるようになるのか。この4つのマトリックスの考え方は非常に重要です。
行政: 原 克彦 氏 (文部科学省 研究振興局 情報担当参事)「シンギュラリティと行政」
文部科学省 研究振興局の参事官 原さんからは、日本の行政における人工知能への取り組みについての紹介がありました。
日本では2016年から人工知能技術戦略会議という組織が設立され、これが国における人工知能の発展の司令塔的役割を担っています。
人工知能技術戦略会議は、当初は文部科学省、総務省、経済産業省の3省がそれぞれ研究開発にあたり、経済産業省傘下のNEDOなどが産学連携を推進して社会への浸透を担っていました。
昨年の11月からは前述の3省に追加して、国土交通省や農林省、厚生労働省が参加し、それぞれが所管する分野の社会実装が推進されるとされていて、省庁の中でもAIの取り組みは広がりを見せているようです。そして内閣府が政府全体としてのとりまとめなどをおこなっています。
参考資料:人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップ
http://www.nedo.go.jp/content/100862412.pdf
参考資料:国際的な議論のための AI開発ガイドライン案
http://www.soumu.go.jp/main_content/000499625.pdf
シンギュラリティを見据えて今後も開発ガイドラインなど、行政が積極的に環境を整備していって欲しいですね!
パネルディスカッション「シンギュラリティに至る道」
- (画像左から)
- 三宅 陽一郎 さん
- 齋藤 和紀 さん
- 下村 秀樹 さん
- 原 克彦 さん
- 大澤 正彦 さん
- 妹尾 卓磨 さん(モデレーター)
今回はTwitter上で「#wbawakate」というハッシュタグを使って参加者も発信できる参加型のイベントになっていました。大澤さんがTwitter上での参加者からの意見を登壇者のみなさんにぶつけます。
まずはこんな質問が。
ーー行政の人は客観的なのでしょうか?行政としては何が解決したらいいのでしょうか?(妹尾さん)
原さん
「客観的に見えるかもしれませんが、客観的過ぎてもダメですね。私たちには当事者意識も求められていると思います。
私たちは、研究を進めるために広くAIが社会に使われていく環境を整えます。今の社会の仕組みは社会に適用できなくなるので、新しいことにチャレンジできる風土を作ること、社会に多様性を維持することが大事です。フレームを作れるような人を育てていくことも大事。
単に与えられた答えを解決するだけじゃダメになってきています。」
ーー若者に何してほしいですか?(妹尾さん)
原さん
「行政が若者に注文をつけるのはどうかと思いますが、社会人の先輩としては経験を溜めてほしいです。
私は研究以外にもいろいろ、やりたいモチベーションがあるので、役人になっていろいろなところに出向できるので個人的には幸せです。
研究の人もそれぞれの知識が活用できると思うので、それぞれ深めていってほしい。ジェネラルに!
三宅さん
「人工知能は使いこなした人が勝ちます。個人とAIがペアになったときに誰が最強かという議論になります。
人工知能をいかに自分の一部として使いこなして、「個人でもここまでのことができるの!?」という人がこれからのトップランナーになると思います。人工知能は数年すると当たり前のように誰でも使うツールになっていて、ブームといわれなくなります。ちょっと前だとエクセルができないっていうのがこれからは人工知能でも同じ話になる。」
斎藤さん
「シリコンバレー全体では、明るい楽観的なマインドセットがあります。明るい太陽のもとで自分にできることを考えているんです。
あとはポイントを見極めることに集中していますね。シリコンバレーでは技術が安くなったときにイノベーションが起きると思っています。人工知能に対してシリコンバレーではパワープレイを仕掛けていると思います。今の若者ももっとパワープレイを仕掛けるべきですね。」
下村さん
「エクスポネンシャルという視点に戻りたいです。変化が早くなったというが、これからもっと早くなります。その感覚を持っているかが大事。それをロジックとして持っている人が勝ちます。そういう人たちが将来展望をして描いた未来は経営者からは理解できない。そのときにきたーと思っていればいい。だんだんそのギャップは埋まってくるから早くその思考をもって適切なロジックを描いた人が勝つ時代になると思います。
エクスポネンシャルって寝る前に100回くらい言いましょう(笑)」
ーーシンギュライティに足りてない要素は?(妹尾さん)
Jovanさん
「AI自体の進化だけでじゃなくて、AIがいろいろなもの(バイオロジーとか政府とか)にナチュラルに人の生活に溶け込んでいくのがシンギュラリティのイメージです。AIというのはシンギュラリティには出てきません。全ての基盤にAIがあるだけで、AI単独の議論はされていません。それが重要です。シリコンバレーでは誰もAIだけで話をしません。」
ーー文系の人ははシンギュラリティでなにができるでしょうか?(妹尾さん)
原さん
「シンギュラリティを迎えるために、社会学者など文系科目を学んだ人も取り込んでいかなければいけません。シンギュラリティはいつか社会と折り合いをつけて技術を開発していかなければならなくなります。法律やガイドラインを決めるときには経済学や法学を学んだ人との議論が大切になります。
それを理解しながら自分の専攻を深めていくことが大事だと思います。」
斎藤さん
「知らないからこそ、できることがある時代です。一つの分野ではなく知らないからこそ、門外漢の分野に飛び込んでいけます。
文系理系にこだわっているのはもったいなく、どんどんやりたいことをやっちゃうのが大事かなと思います。」
下村さん
「理系の人は思ってることがあっても、表現をしないことが多いです。マクロになってしまいます。
ディープラーニングなど技術的には理解していますが、それが起こす変化は全く違います。質が違う変化が起こるからこそディープラーニングがもてはやされています。
外側から見る客観的な視点というのは、ひょっとしたら文系の人のほうがあるのではないかと思います。」
おわりに
イベントの最後には交流会が催されました。多くの参加者が残り、シンギュラリティについての話に華を咲かせていました。
斎藤さんとJovanさんが乾杯の音頭を。
このイベントを通してわかったことがあります。
一つは「多くの文系の学生もシンギュラリティ、社会の変化に大きく興味があること。」
そして「文系の学生と理系の学生がシンギュラリティに向けて、議論することが大事ということ。」
これから、さまざまな分野でAIが活用されていきます。三宅さんが言っていたようにAIがあって当たり前の時代が来るでしょう。
その時代の到来に備えて、国や分野、産業の垣根を超えた議論が今後も進んでいくことを期待しています。
2018.1.13 取材・編集:おざけん@ozaken_AI
■AI専門メディア AINOW編集長 ■カメラマン ■Twitterでも発信しています。@ozaken_AI ■AINOWのTwitterもぜひ! @ainow_AI ┃
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