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こんにちは。エンゲル・イザワです。
企業の採用・育成・評価・配置(HR)とクラウド、ビッグデータ、AIなどのテクノロジーを結び付けた領域、「HRテック」。今回は「採用」に注目して、AIがどう活躍しているのかまとめてみた。
目次
AIで書類選考、面接までも?!
ついにこの領域にもAIが企業の採用活動に新しい風が吹き始めている。ソフトバンクではAIツールであるIBM Watosonを書類選考に活用し、これまでエントリーシート(ES)を確認していた時間など、75%も作業時間を削減できたという。
書類選考だけではない。面接さえもAIに行わせようとする試みもある。
株式会社タレントアンドアセスメントはAI面接サービス「 SHaiN 」を開発。面接の時間や場所を選ばないという利点に加えて、人間による採用面接で課題視されてきた評価のばらつきが改善され、採用基準の統一が図れるようになるという。
ソフトバンク、AI活用で新卒採用業務を75%削減
AI面接サービス「SHaiN」
AI×採用で可能になるもの。AIは候補者をどう評価するのか
AIで採用はどう変わる?隠れた原石をみつけられるか
これまでの採用と、AIを利用した採用で大きな違いは何だろうか。これまで、候補者の能力を推し量るため、目に見えやすい学歴や所属などのステータスに比重が置かれがちだった感は否定できない。
しかし、そうしたステータスはどの企業も注目してしまうだけに、結果的に採りたい学生を採れないというデメリットがあった。
一方で、ステータスだけでなく、人だと気づきにくい小さな傾向を学習し発見できるのがAIだ。具体的な例をあげれば、ESに繰り返し使われている言葉などから本人の能力や姿勢を予測することができる。
脱ステータス依存、機械学習で可能に
従来であれば「ガッツのある人」を探す場合、「体育会系」というステータスに頼っていた場合も多いのではないだろうか。その場合、「体育会系でもガッツのない学生」を誤って採用してしまったり、逆に「体育会系でなくてもガッツのある学生」を取りこぼしてしまったりする可能性がある。また、そもそも「体育会系=ガッツがある」というのは迷信なのではないかという指摘もある。
そうしたデメリットを、機械学習が解決してくれる可能性がある。
NECは独自に開発したAIシステム「RAPID機械学習」を用いた人材採用を提案している。過去の求職者のデータ(ES・適正テストなど)とその採用結果を「RAPID機械学習」に学習させ、そのモデルと新卒者のデータを照らし合わせれば、人材の絞り込みができる仕組みだ。
これを次のように活用すれば、これまでより「ガッツがある人」を効率的に探せるようになる。
① 現在働いている社員の中からガッツのある人を選び出す。
② 選びだされた社員が就活生だった頃に提出したESをAIに読み込ませる
③ AIが「ガッツがある人」がどのようなESを書くのか学習する(例えば、ESに「積極的」という言葉が出てくる回数が多いなど)。
④ 学習したAIに、就活生のESを読み込ませることにより、「ガッツがある」可能性の高い候補者が抽出される
このように機械学習によって、ステータスに依存しない採用が実現する可能性があるのだ。
さらに、性格や行動特性を計るテストと組み合わせるという方法もある。
教育支援ベンチャーのIGS(東京)はAIを活用して性格や行動特性を診断するアプリを開発。候補者がスマートフォン上でいくつかの質問に回答することで、創造性や決断力、論理的思考、課題設定などの項目が数値化される。友人数名らにも候補者を評価してもらいスコアを調整する。そうして得られたデータを、社員のデータと合わせることで、採用担当者はどんな候補者が入社後に活躍できそうなのかを見ることができる。
これを利用すれば、ガッツのある社員の性格と似た学生を探し出すことができる。
AIによって脱ステータス依存の流れが期待できそうだ。
NECが進化させたディープラーニング技術。RAPID機械学習
SPI、ESに続く第3の新卒採用評価ツール、GROW360
人事担当者は注意したいAI×採用の落とし穴
ここまで採用分野でのAIの可能性について議論してきた。しかし、いくつかデメリットもある。
原理的な問題:誤差
第一に、AIそのものの弱点として誤差が必ず発生する点だ。原理的に予測とは誤差と常に裏合わせだ。予測精度が99%でも1%の確率で、自社に入れば将来大活躍するはずだった人財を逃してまうかもしれない。また予測正答率が99%でも、求める人材を発見できない可能性は十二分にある。このあたりの精度の数字まわりについては前回の記事を参考にしていただきたい。
間違った過去を繰り返す可能性
またAIは過去のデータから学習する。それが思わぬトラップになる可能性もある。例えば業務内容に対して性格があっている人を採用するために、社員に性格検査を行い、AIに学習させ、似たような性格をもつ候補者を抽出する場合を考える。
ここでは、現状で正しい採用が行われていることが前提となっている。しかし、現状では実は、業務内容にあった性格の人は採用できてないとしよう。その場合でも、AIは社員のデータをもとにして、似たような性格を持った人を選び出す。つまり、再び性格の合わない人が採用されることになり、過ちが繰り返されてしまうのだ。
時代の変化に対応できない可能性
さらに過去の採用が正しかったとしても、まだ問題がある。それは時代の変化だ。時代に応じて、当然求められる人材も変わってくる。過去に活躍した社員と似たような候補者が現在の職場で同じように活躍できるかはわからない。例えば、今までは仕事の正確性が高くマメな性格な人が活躍していたとしても、少し先の未来ではもっとクリエイティブな人が必要になるのかもしれない。未来に向けて必要な人材を確保したいなら、過去に縛られるAIはあまり役に立たないだろう。
問題点を踏まえたうえで、部分的な導入がベストか
これらの問題点に加えて、AIには学習が難しい項目があることもあることも見逃せない。例えば、人当たりの良さなど、無機質なAIにはわからないが職場では大切になってくる項目だ。そうしたことを踏まえると、最終的には人を評価するのはやはり人でなければならない部分も大きいだろう。以上のような問題点を十分に考慮することが必要だ。例えば、ソフトバンクでは、AIが不合格としたESを人が見ることによって、原理的な誤差によるダメージを防いでいる。そのような形で、採用プロセスのどの部分をAIに任せ、どの部分を人でやるのか、しっかり検討していくべきだろう。