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2018.05.16

「日本企業はコンサバティブでリスクを取れない」NVIDIAがディープラーニング協会に参加した理由

最終更新日:

日本ディープラーニング協会(以下JDLA)の2本目のインタビュー記事です。前回はクロスコンパスの社長の佐藤さんをインタビューしました。

ディープラーニング業界には「かけ橋」のような人材が必要だと言っていたことが印象的でした。詳しくはぜひ記事を読んでみてください。

【佐藤理事インタビュー】ディープラーニング協会は国内のAI状況をどう見ているのか

今回は、産業活用促進委員会で理事を務めるNVIDIAのエンタープライズ事業部 事業部長の井﨑 武士さんを取材しました。産業活用促進委員会はJDLAの中でも、ディープラーニングの活用が進むように取り組みを進めている部門です。

NVIDIAさんだけでなく、さまざまな企業が参画してディープラーニングの活用が進むように取り組みを進めています。

井﨑さんは大手メディアでも話されていたり、精力的にディープラーニングの普及に取り組む先駆者です。なんと東大の松尾豊教授と同級生なんだとか。まずは井﨑さんをご紹介します。

井﨑 武士さん
1997年東京大学工学部材料学科卒業後、1999年東京大学大学院工学系研究科金属工学専攻修了。1999年日本テキサス・インスツルメンツ株式会社に入社。DVDアプリケーションプロセッサ、携帯電話用カメラ映像、画像信号処理プロセッサ、DSPアプリケーションの開発を経て、デジタル製品マーケティング部を統括。エンターテイメント製品からインダストリアル製品にいたる幅広い領域のビジネス開発に従事。2015年NVIDIAに入社し、深層学習(ディープラーニング) のビジネス開発責任者を経て、現在エンタープライズ事業部を統括。

ゴールデンウィーク中にもかかわらず、こころよくインタビューに応じてくださいました。スマイルがとても素敵です。まずはどんな仕事をなさっているか伺いました。

ーー普段はどんな仕事をなさっているんですか?

「普段はエンタープライズ事業部の事業部長として事業全体を見ています。特に会社のセールス目標や、戦略を見ていますね。
同時にディープラーニング技術を広げていく活動も行っています

そのためにマーケットディベロップメント、市場形成に取り組んでいます。ディープラーニングの活用が進むにはまずは市場を広げていくことが不可欠です。

簡単に言うとエコシステムを作っていくということです。ディープラーニング業界のインフルエンサーとの連携をとって活動を広げています。

ーーNVIDIAさんはゲーム業界でも有名ですが、いつからAIに取り組まれているんですか?

NVIDIAはディープラーニングの波が来る頃、2014年の夏に国内でディープラーニングに関する教育を始めました。ディープラーニングについて知っている人がほとんどいなかった当時からディープラーニングを広めるためにセミナーを開いていました。2015年には500人、2016年1000人と指数関数的に参加人数が増えていきました。

でも当時は専任のビジネスディベロップメントは私一人だけだったんですよ…

他に、ミートアップなども定期的に開催していましたね。

それから、だんだんと連携してくれる大学の先生も増えていきました。スタートアップの連携も増え、会社としてスタートアップとの協力も積極的に行っています。

NVIDIAにはインセプションプログラムがあります。スタートアップは最初のころは知名度が低いので、プログラムに参加しているスタートアップにはマーケティング活動の協力などを行っています。

インセプションプログラムは、AI とデータ サイエンスに取り組むスタートアップ企業の成長を後押しする活動。スタートアップ企業の製品開発、プロトタイピング、導入などの重要なステップを支援する。

具体的には教育環境の提供や、マーケティング支援ならびに企業が何が得意かを見て、企業同士のビジネスマッチングもしています。

ーーNVIDIAといえばハードメーカーというイメージが強かったのですが、ハード以外の活動も多いんですね。

実はハードメーカーとは、社員の誰も思っていません笑

CUDA(NVIDIAのGPU向けのプラットフォーム)を開始して以降はソフトウェアの投資を非常に強化しています。

全社員が12000人以上いるのですが、約80%がエンジニアで、その約半分がソフトウェアエンジニアなんですよ。

これはなぜかというと、ユーザが使いやすい環境を作ることが必要で、ユーザファーストを実現するためにソフトウェア環境が重要だと考えているからなんです。

ディープラーニングのソフトウェアの投資は2012年ごろからやっています。さまざまなディープラーニングのフレームワークのディベロッパーさんにつかっていただける環境を作っていました。
そのおかげでNVIDIAは環境が全部揃っているのが強みですね!あらゆるプラットフォームに対応することができます。

他にも自動運転に必要なソフトウェアも作っていますよ。」

ーー自動運転にも取り組まれているんですね。どんな取り組みなんですか?

「自動運転は、車側で情報を処理しているものが多いんですよね。

ゼンリンのようなマップメーカーがHDマップを作っていますが、道路を工事しているとマップの状況と現実の状況が違ってきます。

HDマップ:クルマの自動運転で活用するための高精細な3次元(3D)地図のこと。

マップとリアルの違いをサーバに送り、マップを再更新して自動運転車の行動に反映させる仕組みが必要ということです。

また、自分がどの位置にいるかのローカリゼーションも大事です。経路を決めるパスプランニングも大切で、その点で開発を強化しています。」

なぜ自動運転車にとって地図がそれほど重要なのでしょうか。運転免許を持っている方は、普段のなにげない買い物や通勤も当然のことと考えているかもしれません。

しかし、運転のプロセスは信じられないほど複雑です。自動車メーカは、複数のセンサからの入力情報を処理し、周辺の環境を正確に理解できる、強力な車載スーパーコンピュータを自動車に装備する必要があります。

詳細な地図をこの計算式に加えれば、問題はシンプルになります。人間のドライバーは、次の角で起こりそうなことがわかっていれば、危険に対して用心するよういっそうの注意を払います。自動車自体がドライバであるときも同様です。

だからこそNVIDIAは車載コンピュータの開発を始めとして、自動運転技術の開発にあたっているのです。

ではここから本題に移っていきましょう。なぜNVIDIAのような企業がディープラーニング協会に参画したのでしょうか?

ーーハードだけでなく様々な活動をされているんですね。日本ディープラーニング協会に参画したきっかけはなんですか?

「率直に言うと松尾先生からお話いただきました。松尾先生とは大学の同期なんです笑

ディープラーニング協会の前身として【ディープラーニングを考える会】というのがJDLA設立の1年前くらいからあったんです。

その設立の際に松尾先生からメールが来て、「NVIDIAとして参加しませんか?」と誘われたのが参加するきっかけです。活動内容は今と似ており、JDLAの準備団体みたいな感じでした。

産業活用や、試験についてなどについて、忙しいメンバーの時間を縫ってひたすら話していましたね!

産業活用をどうやって促進していくかを考えたときに、ディープラーニングが正しく活用されて、日本の国際的な競争力が高まってほしいと感じたこともあり、参画することを決意しました。」

ーー約1年間、活動されてきて協会の活動の実感はいかがですか?

「会員はみんな本業があるので、時間の無い中でやるので大変だなぁというのが率直な思いです笑

協会としては、資格試験などを世の中に出せたことは成果だと思っています。

委員会活動を欠かさず毎月繰り返していることもいいことですし、少しずつ計画が実行段階に入ってきています。

ディープラーニング協会の参加者も増えてきて、だんだんと勢いがついてきたと思っています!」

ーー産業活用促進委員会として活動されていますが、なぜ日本ではディープラーニングの産業活用が進まないのでしょうか?

日本は新しい技術を取り入れることに対してコンサバティブなんですよ(怒)

日本社会の特徴です。失われた10年ではないですが、バブル崩壊からチャレンジ精神がなくなっているんです…..

怖い橋は叩いても渡らないみたいな風潮がありますよね。

ディープラーニングなどのAIって、それぞれの企業が安易に活用していこうとしますが、先行投資が必要です。環境やデータの整備などです。

今の日本企業の多くは、ある程度の投資回収プランを作らないと決済が降りません。儲かるかどうかを計算してテクノロジーを見ることは、今はとても難しいんです。

しかし、新しいテクノロジーの導入に億劫になっていると、日本の企業はさらに国際社会で遅れていきます。

『やれば儲かるのに』と松尾先生は言いますが、私も同感です。

新しいテクノロジーには、なにかしら儲かるすべがあるので、投資リスクをとっていける企業が強いと思うのですが…投資リスクをとれる会社が少ないんですよね…」

ーー最近ディープラーニング業界の状況はいかがですか?

「『AIAI』とみんなが騒いでバズ化していたのが、沈静化してきたと思っています。

ディープラーニングは技術の進化としては劇的ですが、『浮足立って飛びつくのか』『地に足を付けて活用していくのか』では違います。

今まで沸き立っていた企業が沈静化したといえるのではないでしょうか。AI・ディープラーニングを使ってできることとできないことがわかったので、沈静化したパターンが多いと思います。

ーーAIがバズワードを脱しようとしているんですね。ディープラーニング技術は今どんな段階なのでしょうか?

「ディープラーニングを導入する企業は増えてきていますし、画像認識や音声認識などの単純なタスクは多くの実例があり、また新たな分野としてマテリアルズインフォマティクスなども進んできています。

今後ディープラーニングを活用して新しい材料の特許をとっていく動きは活性化するでしょう。ゲノムインフォマティクスを用いた病気の発現メカニズムの解明や創薬への応用など、これからどんどんさまざまな産業での活用が進むと思います。」

マテリアルズ・インフォマティクスとは、情報科学を使って新材料や代替材料を効率的に探索する取り組み。これまでの材料探索は研究者の経験と鋭い直感に依存していましたが、物質特性をコンピュータ上で高精度に計算した材料データベースや人工知能などを活用するマテリアルズ・インフォマティクスによって、時間とコストを大幅に削減することが期待されています。この分野では、ディープラーニングを利用して、材料の組み合わせを計算する取り組みが進んでいます。

ーー具体的にはどの業界に注目していますか?

「日本の産業は6割が製造業なので、製造業に注目しています

それとは別に、社会的な意義でいうとメディカルの分野ですかね。

創薬や医療画像の分析などです。4月に行われたメディカル系の展示会の中でもディープラーニングの話題がたくさんあり、ディープラーニングに大きく梶をきっていたことが印象的でした。 」

創薬では、それぞれの素材の良い相性を発見するために、製薬会社がしのぎを削って取り組み、新たな薬が創出されています。しかし、組み合わせの検証には限りがあります。そこで、ディープラーニングを利用して、素材と素材の相性などを予測する活用が進んでいます。医療画像の分析においては、教師データとしての画像の準備が課題視されていますが、これが進めば、より効率的に医療画像の分析を進めることができます。

ーー産業活用促進委員会としてオープンイノベーションを進めていきたいそうですが、どんな取り組みをしていく予定ですか?

「データを利活用していくことが全てといっても過言ではありません。

データの利活用やオープン化を緩和していく活動を協会としてやっていきます。

カルテなどの個人情報は、今、病院間でデータを共有できないですよね。
今後はデータをオープンにどんどん共有していきたいです。そのためにデータ契約ガイドラインなどを作成して、データの共有の契約が少しでもしやすい環境づくりを進めています。」

ーー今後は他にはどんな活動をしていく予定ですか?

「今年はハンドブックの出版や、業界の情報整理を行っていきます。

またディープラーニングを使いたい企業と、開発企業をつなげていきたいと思っており、ぜひJDLAの取り組みに参画していただければと思います。」

編集後記

日本の企業がコンサバティブ。投資リスクを取りに行く会社が少ない。という重要な課題が見えたインタビューでした。

また、井﨑さんは製造業に注目されているんですね!日本ではFANUCがPreferred Networksと協業して製造業の改革に取り組むなど、ディープラーニングの活用が進んでいます。機械の故障の予測や、欠陥品の認識など、より製造業の効率化が進んでいます。

私は個人的には、建設業の効率化が進めばいいなぁと思っています。製造業の効率化が進む一方で、建設業の建設は業務効率化が進んでいません。コマツさんのような会社が、重機の自動運転などに取り組んでいますが、今後より建設業が効率化されればいいなと思っています。

日本ディープラーニング協会について詳しく知りたい方は以下のリンクをご覧ください。

日本ディープラーニング協会(JDLA)

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