最終更新日:
表参道にあるG’s ACADEMYにて株式会社キカガクの吉崎さんから「新規事業×AI」というテーマの勉強会が開催されました。
「機械学習の民主化後の世界」や「GUIツールの使い分け」「PoCのアンチパターン&正しい姿」「AIの学び方」などにフォーカスした内容です。さらに吉崎さんが温めていた新規事業案も特別に公開してくださいました。AI×新規事業に取り組んでいる方も必見の内容です。
キカガクの吉崎さんの記事はこちら!
目次
機械学習が民主化されたあとの世界
機械学習の民主化(AIの民主化)を掲げる企業が多くなっています。例えばDataRobotは「AIの民主化」を掲げて機械学習の自動化プラットフォームを構築することで、誰でも機械学習を使えるように取り組んでいます。他にも機械学習(ディープラーニング)を誰でも簡単に使えるようにするツールが多くリリースされています。
吉崎さん「機械学習の民主化で悪いことは基本ないのではないでしょうか。エクセルのように誰でも簡単に機械学習を使えるようになれば、プログラミングの工数が減ることで、仮設検証のスピードが上がります。」
GUIを取り入れることのメリット
機械学習が民主化する(誰でも使えるようになる)一つのプロセスとしてGUIツールの普及が挙げられます。GUIとは画面上でマウス操作で扱うことができるインターフェースで、プログラミングなしで機械学習のモデルを作ることができるようになります。
吉崎さん「ビジネスサイドはビジネスの本質を見極めてツールを選定します。エンジニアは作ることにワクワクしてしまうことがありますが、それが逆に弊害になってしまうことがあります。作ることを目的にせず、必要に応じてGUIを使っていくことが大切です。」
また、データの前処理からデプロイ(機械学習モデルを実装する)までボタン一つでできるようになることで、「実プロダクト」を意識することができるそうです。
吉崎さん「データの前処理からデプロイして推論するまでシームレスに行えるようになるので、実プロダクトに適用されることを意識できるようになると思います。」
将来機械学習を学ぶ必要はあるのか?
GUIツールが発展するとプログラミングをせずに機械学習のモデルを作ることができるようになります。では機械学習を学ぶ必要性はなくなってしまうのかというとそうではないようです。
機械学習ではデータの中にどのような特徴があるのかを数値化した特徴量や、最終的に何を目的として学習を行うかをはっきりさせるために目的関数の設計をしっかりと行うことが大切になります。独自の目的関数を設定するようなプロジェクトでは、まだGUIツールを使いきれません。
特徴量の設計の際にはドメイン知識(現場の知識)が不可欠です。どんなデータがあり、どんな特徴があるのかは、その領域で活躍している人だからこそ知り得る部分です。
また、目的関数については、独自の目的関数を要するときには汎用的な自動的なツールを用いることが難しくなります。
吉崎さん「目的関数のパターンは多くありません。共通する部分もあるので、今後は半自動化ツールのようなものも誕生していくと思います。」
PoCの後に進まない問題
機械学習関連の仕事をしている人は「PoC」という言葉をよく使います。PoCとは仮説検証のことで、機械学習をして、本当にしっかりした精度が出るのかを、小規模で事前に検証するプロセスが一般的になっています。
吉崎さん「データを解析してみないとわからないので、PoCでいきましょうという流れが定番になっています。しかし、何が目的なのかを最初に定義することが大切です。”精度が◯%出るまでPoCをします”は地獄です(笑)
そのためPoCを始める前に知見を持った人のアドバイスなどを受けるようにしたほうがいいでしょう。
またデータサイエンティストの人件費高騰によって、小規模なPoCといえども結構な費用がかかります。説得するためのPoCなのにPoCを始めるためにも説得が必要というジレンマも発生しています。」
PoCの罠
PoCは一般的に機械学習に必要なプロセスですが、検証をすればいいのかというと違ってきます。しっかりと目標を定めて手法を選択していかなければなりません。
特に精度に関しては100%の精度が出ない以上、人の手でカバーする必要性が出てきます。完全な自動化を求めると、PoCをしても目的に合わず、結局プロジェクトが閉じてしまうことになり得ます。
また、望ましいPoCの例としてビジネスにとっての価値でPoCの効果を測る必要があるそうです。
吉崎さん「例えば”一人あたり◯◯%のコスト削減に成功しました!”や”売上がどれくらい上がった”などビジネスにとっての価値でPoCの価値を図っていく必要があります。
また、精度が悪いとしても、工数がある程度は削減できる(チェックの工数が減る)ケースがあるので、使い手のUX向上を意識していくことが必要です。」
機械学習の民主化によってビジネスサイドだけでPoCができるようになる?
機械学習の民主化によりGUIツールで誰もが簡単な機械学習モデルを構築できるようになれば、初期段階ではデータサイエンティストがいらず、ビジネスサイドだけでPoCをして検証をすることができるようになります。
吉崎さん「ビジネスサイドがツール感覚で機械学習を使うことになるため実現場での応用までサポートできます。
また、エンジニアはPoCを終えてから本格的な開発のみに従事するようになるため、よりプロフェッショナルとして求められるようになるのではないでしょうか。そうなると、ミドルクラスのエンジニアの需要が減り、エンジニアのプロフェッショナルか、機械学習を使って仮説検証ができるビジネスサイドかのどちらかのキャリアに大きく分かれていくと思います。」
これからの機械学習の学び方
キカガクを吉崎さんが設立して1年半が経ち、機械学習を取り巻く環境は大きく変わったそうです。
吉崎さん「とにかく機械学習を学べる環境が増えました。そして、エンジニアでなくても”学習と推論”の過程があることを理解できるようになったのが特徴だと言えます。」
しかし、キカガクで多くの人に機械学習について教えてきた吉崎さんはまだまだ課題があるとおっしゃっていました。
吉崎さん「手軽に学べるようになった一方で、最後までやりきれる人の数が少ない状況にあります。オフラインの研修で学び終えても、学び続けることも難しく、モチベーションの維持が難しいです。
さらに、実績のない人は採用されない現状があり、人材不足に直面しても転職できる人は少ないと思います。」
キカガクの調査によるとオンライン研修を最後まで終えられる人は約20%だといいます。Udemyで90%以上終えられている人は12%で実態値はモット低くなっています。
吉崎さん「モチベーションを維持して最後まで続けられるようにする工夫が必要です。」
この課題に直面したキカガクさんは「teach4me」というサービスを新たにローンチしています。
teach4meについて詳しく知りたい人は以下の記事をご覧ください。
AI事業化のケーススタディ
最後のセクションでは、吉崎さんが現在取り組んでいる別の新規事業案を紹介してくださいました。まだ事業化しておらず、一緒に運営してくれる人材も募集しているそうです(笑)
ポイントは労働集約型です。
吉崎さん「機械学習では人間が与えた教師データの規則性を再現します。新しい価値創造はしません。さらに精度100%が出ないため人間によるカバーが必要になってきます。だからこそAIによって成り立つようなビジネスモデルではなく、人間だけで成り立つような事業を作っていくことが大切です。だからこそ労働集約型はポイントです」
吉崎さん「多くの会社はAIを使っていると表では言っていません。例えば自動車メーカーは裏でAIなどのテクノロジーを駆使して効率化を進めていますが、それを大々的に公表していません。
人が介在するビジネスモデルはスマートではありませんが、単価が高い傾向にあります。だからこそAIを打ち出さずにビジネスを成立させて、その後にAIでコストを削減して、そのコストを利益にしていくモデルが賢いと思っています。」
吉崎さんが考え出した「MTGのファシリテーション代行」事業
では吉崎さんが考え出した新規事業とはどのようなものなのでしょうか?
吉崎さん「AIブームの裏にはAIに仕事を丸投げしたいという人間の欲望があると思います。日々の業務フローを言語化できる人は少なく、AIを使えるレベルにある人は少ない状態じゃないでしょうか。」
吉崎さん「また、MTGがやたらと多い日ってありますよね?アジェンダが決まっておらず、報告だけがだらだら続くミーティングや、いつまで立ってもネクストアクションが決まらないミーティング、議事録だけでいいじゃん!となりそうな発言機会のないミーテイングなどミーテイングに対する課題は多くあると思います。」
吉崎さん「しかし、外注しようとしても会社独自の風土や背景を理解できていないと依頼することが難しくなってしまいます。背景を伝える時間ももったいないですし、共通言語がなく適当な言葉が見つからない場合もあります。」
吉崎さん「だからこそ考え出したのがMTGのファシリテーション代行事業です。コンサルタントもミーティングのファシリテートをしたりしますが、高単価で、タスクの進捗管理はしてくれません。MTGのあとまでフォローしてくれる必要性があるのではないでしょうか。
だからこそ、たとえば小学校2年生以上の子供を持つ母親にファシリテーターをしてもらうことで、だらだらとしたミーティングから開放させ、さらに議事録やタスクを整理する作業からも開放されます。」
解決できること
吉崎さんは新規事業を考えるにあたって「企業側」「働く側」「ビジネス作成側」の3つのグループに対して何が解決できるかを言語化するようにしているといいます。
吉崎さん「最終的にはファシリテータの母親と企業との連絡をチャットボットを使って効率化したり、小さな部分からAIを使っていくことでコストを下げていき、利益に還元していくことができるようになると思います。」
あとがき
センサーデータであればAzure Machine Learning (Microsoft)は公式ドキュメントがしっかりしているので、使いやすくてオススメだと吉崎さんはおっしゃっていました。画像系では Custom Vision APIがオススメだそうです。
AIの民主化(機械学習の民主化)は、とてもよく聞くワードでしたが、なかなか民主化後のエンジニアやPoCの姿を想像する機会は今までありませんでした。貴重な機会でした。
特にプロフェッショナルのエンジニアか機械学習をGUIで使えるビジネスマンかの二極化していくのではないかという予想については同意です。実績がないとキャリアを積みにくい機械学習エンジニアですが、今後はビジネスにも出ていき、ビジネスサイドで機械学習の知識を活用して企画などをしていくキャリア選択も生まれてくるのかもしれません。
■AI専門メディア AINOW編集長 ■カメラマン ■Twitterでも発信しています。@ozaken_AI ■AINOWのTwitterもぜひ! @ainow_AI ┃
AIが人間と共存していく社会を作りたい。活用の視点でAIの情報を発信します。