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2017年に9DWを取材してから約1年が経過しました。
9DWはAI・人工知能技術の開発企業として、様々な企業や省庁と共に開発に取り組んでいます。2017年に開催された東京ガールズコレクションで世界中で支持されているファッションコーディネートを学習したAI審査員を開発したことでも話題になりました。
多くの企業がAIの導入にづまづいている中、9DWはさまざまな企業との取り組みだけでなく政府との取り組みも進め、その技術力の高さが大きく評価されています。
そんな9DWは2018年10月11日に発表された「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」 (戦略的イノベーション想像プログラム)に採択されました。
今回は、9DWの新たなオフィスを取材し、AIホスピタルで取り組む研究開発内容や、ここ1年での開発実績などを伺いました。
インタビューに応じてくれたのは代表の井元さんです。キーワードは「成長することができる人工知能技術」と「脱GPUに向けた分散学習」。
目次
AIホスピタルに採択 / 横須賀共済病院と取り組む「患者/スタッフに優しい病院作り」
AIホスピタルは、産官学が連携することで、カルテの自動入力や画像診断、最適な治療法の選択などで「AIを使った医療」を取り入れたモデル病院を2022年度末までに10軒作ることを目標に始められた取り組みです。
慢性化している医師不足や医療費の増大などの問題をAIの力で克服しようとしています。政府は5年間で百数億円を投じる予定で、文部科学省/経済産業省・厚生労働省が中心となって進めているプロジェクトです。
9DWは元より横須賀共済病院とともに看護師と患者の対話内容をAIによる音声認識を用いて記録する取り組みを進めてきました。
井元さん:病院内は雑音が多く、音声認識による記録は難しかったのですが、人の声を分離させることで認識精度を向上させています。また、もう一つの問題として病院内で使われる独特な略語があります。略語をうまく認識させるために追加学習を可能にして、病院ならではの環境にも配慮してシステムを作っています。
将来的には、自動的に電子カルテに看護師と患者の会話内容が反映されるようなシステムを構築したいと考えています。
爆速になった義歯デザイン 他の業界にも可能性あり?
2018年6月に9DWはクルツァーと共同で、歯科用のCAD(3Dの設計)の共同開発を行うと発表しました。クルツァーは三井化学の全額出資子会社のドイツメーカー。歯科材料を開発、製造しています。1年後に商品化し、全世界の歯科技工士向けに販売することを検討しているといいます。
井元さん:義歯のデザインはハーバード大学なども行っていますが、9DWの手法は違ったアプローチです。ゼロベースで、AIによる学習だけで3Dの義歯のデザインを達成しています。三井化学の社内で行われるエキスポで展示をしたところ、プロの歯科技工士よりもクオリティが高いんじゃないかと言われたほどの成果がでました。
義歯のデザインは従来から9DWが取り組んできた研究です。1年前に9DWをインタビューした際には、約20秒ほどの時間で義歯のモデルを出力できるとおっしゃっていました。しかし今はさらにアップデートし、約5秒で義歯のモデルを出力できるようになったそうです。
これには「成長するAI」を作り上げていることがポイントだといいます。9DWのAIコアシステムの特長は複数種類のデータの同時解析を主としたシステムの認知力向上です。画像や動画、時系列データや数値、自然言語や音声などさまざまなデータを横断的に解析して、その分野に特化した成長するAIシステムを提供しています。
さらにポイントとなるのは学習時に「CPU」を使用しているということ。普通であればGPU(ゲーム向けの処理装置)を用いて計算を行います。しかし、9DWの義歯作成のプロセスではCPUを利用しているといいます。しかもGPU利用時とほぼ同じ時間で計算することが可能だというから驚きです。
井元さん:9DWでは脱GPUを進めています。しかし、CPUに頼るといってもGPUより時間が遅くなっては意味がありません。GPUとほぼ同じ速度で学習することが可能になっています。AIにおいては分散処理がキーになりつつあります。9DWが強いのは学習部分や判定部分を分散処理できるからです。
データ量がとても多いベンチャー企業でも、保有している計算環境で処理しきれません。しかし、9DWでは226倍くらいの高倍率で圧縮したデータでも、この精度を達成しています。
政府との取り組みも加速 総務省に採択されたワークスタイルリフォームプロジェクト
2018年に泉大津市が総務省モデル事業に採択されました。AIを活用して市民サービスの向上や業務の効率化を推進する「ワークスタイルリフォームプロジェクト」という取り組みです。
もともと井元さんは積極的にAIに関する講演会を行っており、泉大津市長と意気投合し、タイミングよく募集のあった総務省のモデル事業に応募し、採択に至ったそうです。
このプロジェクトでは9DWが泉大津市の公共サービスの業務の中でAIの適用可能性を調査し、市がAIで対応することが適当であると判断した業務にかかるAIの開発を行っていきます。
9DWは約2ヶ月ほど泉大津市のそれぞれの業務に関してヒアリングなどを行い、以下の3つの開発を進めていくといいます。
- バスの運行の効率化(乗る人の認識してデータ化することで、バス停の配置の効率化を行ったり、運行スケジュールの改善を行う(急行を用意するなど)。将来的にはバスの自動運転化も計画している
- 市役所に設置しているカメラを用いた、デスクの配置の効率化
- 音声認識を用いた議会の議事録や年金、国民健康保険などの相談の会話のログ化)単にログにするだけでなく、要約をしてドキュメントの体裁にする
井元さん:とても勢いのある市長で、ぜひやろう!と言ってくださいました。近隣の市も興味を持ってくださり、四条畷市や交野市など7市と共同でプロジェクトを行うことになりました。
研究所設立でさらに研究開発を強化。フェーズは「汎用化」に !
高い技術力を武器に、政府やさまざまな企業とのAI研究開発を進める9DW。新たに研究開発に特化したラボを設置するといいます。メンバーは非公表だといいますが、世界中の天才を集めて、より汎用的なAIの構築にあたっていくといいます。
井元さん:GoogleとDeepMindとの関係に似ています。
国内のAI開発の勢いは遅いです。サービス化や儲けることばかり考えている面も見受けられます。進化するAIも作れていません。9DWはラボを設立することで、さらに開発を進めていきます。
9DWの抱えるAI開発案件の数は国内でもトップレベル。常に数十の案件を並行させ、経験値も並々ではありません。
分散学習や成長するAIなど確かな技術力を有する9DWへの声かけはとても多く、某大手自動車メーカーからも驚きの声が上がったほどだそうです。
記事として紹介できるケースがまだ少ないですが、今後も少しでも9DWの動きをAINOWとしてお伝えできればと思っています。
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