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2019年2月13日虎ノ門ヒルズでTHE AI 3rdが開催されました。
今回は、登壇者の1人である電通の児玉拓也氏のセッションをご紹介します。
企業内のさまざまな業務で人工知能(AI)が活用されるようになってきています。
大手広告代理店である電通は自社内に全社横断型のプロジェクトチーム「AI MIRAI」を設置し、積極的にAI活用を進めています。
THE AI 3rdではAI MIRAIの代表である児玉拓也氏がAIに関してAIのプロジェクトのそれぞれの段階の失敗例を参考に活用サイドから「AIの乗りこなし方」を共有してくださいました。
目次
失敗があったからこそ成功した電通のAIプロジェクト
電通は広告業界において他社に先駆けてビジネスへのAI活用を進めています。
主な活用領域はマーケティングです。例えば、「SHAREST」は過去の視聴率や世の中のトレンドなどのデータを分析し広告塔化を最適化するサービスです。また、AIコピーライター「AICO」は自動で広告コピーを大量に生成します。
電通が自社のAI活用推進を目的に設置した全社横断型のAIプロジェクトチーム。
さまざまな領域で、開発・協業のトライアル&エラーを重ねAIのビジネス活用の「実践知」を溜めていくタスクフォース。
児玉氏はまずAIプロジェクトの実態として以下のような数字を提示しました。
何らかの形で結果が出たAIプロジェクトの数
→15/46完全に失敗したお蔵入りAIプロジェクトの数
→11/46
つまり、AIプロジェクトには失敗するケースも多いのです。
失敗例に学ぶ AIプロジェクトの勘所
電通のAIプロジェクトの成功の裏には、多くの失敗があります。児玉氏が自身のAIプロジェクトの失敗から学んだ勘所を開発のフローごとに提示してくださいました。
まずは、AIプロジェクトの流れを確認しておきましょう。
プロジェクト設計
↓
データ収集
↓
アルゴリズム開発
↓
評価
【プロジェクト設計】勘と経験がAI活用のチャンス
〜失敗例〜
いままで人間がやっていた業務を置き換えようとプロジェクトをスタート。画像認識系であり、なんとなくAIでできそうなので開発に着手した。しかし求められる精度が高く、また既に人間が効率的に対応しているので、結局使い物にならなかった。結局開発費が無駄に…
この失敗から学んだAIプロジェクトの落とし穴
- AIを使うこと自体が目的化している
- 「なんとなくAIでできそう」から始まる
- AIであれもこれも、こんなことまでやりたいとAIありきになっている
AIを使って具体的に何をしたいのかはっきりしないままプロジェクトに取り組むことが失敗に繋がります。
それではどのような場合にAIを導入すれば良いのでしょうか。
児玉氏によると「勘と経験」で行っていた業務がAI導入のポイントだといいます。
逆に、もともと精度が低い部分にAIを導入しても精度が変わらない可能性が高く、高精度が当たり前な部分ではAIだけの不安から結局人手が必要になります。
「解決すべき課題と求められる精度をしっかりと見定めてから走れ」
児玉氏は業務内の課題を明確化し、どのようなAIを使ってどの課題を解決するかを決める重要性を強調されました。
【データ収集】データの見極めがAI開発の8割
〜失敗例〜
AIを使って既存サービスをアップデートするプロジェクトだった。
しかし教師データが少かったため、学習済みAIを活用した開発に着手。
それなりに使えそうなシステムが完成した。ところが、AI利用料と既存サービスの金額がまったく整合しておらず、リリースのドラフトまで書いたのにお蔵入りとなった。
この失敗から学んだAIプロジェクトの落とし穴
- データ量が絶対的に不足
- データが散逸しており統合が大変
- 「データ獲得のために新規事業を……」
データはAIを開発するにあたって最も大切な部分だと言っても過言ではありません。
「データの見極めがAI開発の8割」
どのデータを学習させて、何を推測するのかを丁寧に設計することが大切です。
また、データ獲得のために新規事業を始めるのは危険です。その事業が成功するとは限らないからです。そのため、今あるデータから始められるプロジェクトに絞りましょう。
「まずはデータに関する肌感覚を身につけよ」
目的のアウトプットのために膨大なデータから必要なデータを精査するにはデータに関して肌感覚を身に着けておく必要があります。AI開発にはデータへの肌感覚を持った人材を巻き込むことが大切です。
【アルゴリズム開発】トライアンドエラーが成功の鍵
〜失敗例〜
AIを使ってあることを予測するプロジェクトだった。ベンダーの提案によると、複数のアルゴリズムの組み合わせが必要とのことだった。プロジェクトが高額だと思いながら、モヤっとしたまま、ひとまず提案通りに進行した。しかし、なかなか精度が上がらず、開発費用を浪費してしまった。
児玉氏が考えるアルゴリズム開発の際の落とし穴
- 開発サイドの提案を理解できない
- 見積もりの確認ポイントがわからない
- どのベンダーも「得意です」と言っている……
AI開発の成功も失敗も経験することが成功のための糧になります。
AI MIRAIではトライアンドエラーを社内の集合知として社内で蓄積しています。また、経験豊富なメンバーを招き、フォローしてもらえる体制を作っています。
そして最終的に、機械学習開発の半分程度を内製することでクイックで確度の高い開発が可能になっています。
「とにかく早く失敗する。失敗経験のある者をそばに置く。」
失敗は成功のための重要なプロセスです。早い段階で失敗を経験し学ぶだけでなく、失敗経験のあるメンバーの知見を積極的に活かすことが鍵です。
【評価】開発したAIを使う人は誰か
〜失敗例〜
AIを使って新しい知見を得るプロジェクトだった。テキストマイニングが主で、シンプルなAIでできそうなので開発に着手し、それなりに使えそうなシステムが完成した。しかし、新しいシステムは既存の業務フローにプラスオンするもので、また利用想定者と開発担当者が違っていたため、過疎化した。
児玉氏が考える評価の際の落とし穴
- 「完成したら誰がいつなぜ使うのか」の 練りこみが不十分
- 「便利なものを作れば使ってもらえる?」
いくら開発者が便利だと思っても、そもそもニーズがすくなったり、他の手段を使えば解決できたり、業務の中で使うタイミングがわかりにくかったり、便利さ以外のところでも課題はあります。
便利でも使ってもらえばければ意味がありません。開発の際には、利用者が使うことを考えることで使われるシステムを作ることができます。
電通では本当に業務に役に立つシステムを開発するために「鉄の掟」が定められています。
AI MIRAI 「鉄の掟」
- 最後には誰がどうやって使うのか、どうビジネスにつながるのかを必ず明確に。 ここに議論を惜しまない。 (予算使用を承認するほぼ唯一の条件)
- 開発部門に任せない。できる限り利用者に近いメンバーを巻き込んで開発をすすめる。
AI MIRAIではAI専門の部署を作らず全社横断的にAIに取り組んでいるのが特徴です。それによって、利用者に使ってもらえる効果的なシステムの開発に繋がると言えます。
児玉氏は「ほんとうに必要なのは技術力の高いベンダーではなく同じ目線に立ってともに取り組み、ともに失敗してくれる経験豊富な伴走者」と強調しました。
AI活用を推進するために必要な視点〜ROIの罠〜
ROI(Return of Investment:投資利益率)とは投資に対してどれだけの見返りがあるかを示す基準です。
しかしこのR(見返り)は誰から見たRでしょうか。
立場によってRは変わる
AI開発の場合、Rは視点を変えれば全く違うものになることもあります。
AI開発の成果物を経営目線、現場目線、そして社外目線の3つの視点から考えてみましょう。
例えば、電通の「SHAREST」では現場以外の視点から見ると社内では気が付かなたったニーズの存在に気が付きました。
このように、それぞれの立場から得られる利益が全く異なっています。
RPAに一般化するとわかりやすいです。
現場から見て一見失敗のように見えた開発が、実は社外の人間から見れば非常に価値のあるものだったり、経営層から見ると大きな貢献であるというケースは多いです。
児玉氏は「さまざまな視点でプロジェクトを見て、多角的にROIを判断する」ことの大切さを強調されました。
まとめ
AI活用を成功させるために大切なことは2点です。
- 技術だけを考えるのではなく、ユーザーのことをちゃんと見て、課題に起点を置く。
- 現場目線だけでなく、AIが起こす変化を広い視野で、アイデアフルに考える。
「AIの機能に妄想する時代は終わりつつあるのかもしれない。でも、AIを味方につけた人間や組織を妄想する時代がこれからやってくるはず。」
最後に児玉氏はこう聴衆に告げ、セッションを終えました。
■AI専門メディア AINOW編集長 ■カメラマン ■Twitterでも発信しています。@ozaken_AI ■AINOWのTwitterもぜひ! @ainow_AI ┃
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