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2020.01.30

AI時代にベーシックインカムが必要とされる理由とこれからの展望

最終更新日:

日常生活の中で、『ベーシックインカム』という言葉はあまり聞き覚えがないのではないかと思います。

しかし、これからAIが発展していくにつれて、ベーシックインカムという言葉を耳にする機会が増えるかもしれません。

そこで、この記事ではベーシックインカムとはそもそも何なのか、ベーシックインカムとAIはどのように関係するのかなどを、紹介します。

ベーシックインカムとは

では、そもそもベーシックインカムとは何なのでしょうか。

ベーシックインカムの定義

ベーシックインカムとは、「全ての国民が最低限の生活を送れるように、年齢や性別に関係なく、政府が一律に無条件で現金を給付する仕組み」のことです。

ここで最も重要なのが、全ての国民に無条件で給付されるという部分です。

ベーシックインカムと生活保護の違い

国民の生活を保障するための給付金制度として、生活保護を思い浮かべた人も多いと思います。では、生活保護とベーシックインカムの違いは何なのでしょうか。

まず、生活保護をわかりやすく言うと、働けない人や収入が少ない人の生活を支援する制度です。

そのため、生活保護を受けるためには一定の条件を満たす必要があります。特に、生活保護を受給する条件として最も重視されるのは、収入が厚生労働省の定める最低生活費に満たないことです。その他にも自分の家や車を持っている場合も生活保護を受けることはできません。

このように、生活保護を受けるためには様々な条件を満たしている必要があります。

一方、ベーシックインカムは先ほど紹介したように、全国民に無条件で給付してもらえます。また、ベーシックインカムは現金が国から支給される制度であるのに対し、生活保護は食費などが援助され、税金が免除される仕組みです。

つまり、一言で生活保護とベーシックインカムの違いを表すと、生活保護は生活に困窮している方のみが対象で、ベーシックインカムは国民の誰もが対象であるということです。

ベーシックインカムの歴史

ベーシックインカムは、1516年にイギリスの法学者トマス・モアが著書『ユートピア』でベーシックインカムの必要性を説いたことが起源とされています。

それから、ベーシックインカムの考え方は現代まで受け継がれ、実際に、実験的にではありますが実施されたこともありました。

現在ベーシックインカムが重視されている理由

なぜ、現在ベーシックインカムが重視されているのでしょうか。その理由は主に2つです。

新型コロナウイルスの影響で失業問題が加速したから

1つは新型コロナウイルスの影響で失業率が増加したことです。新型コロナウイルスの影響で、飲食店や自営業、中小企業などは大打撃を受け、その結果多くの人が職を失いました。

この中で、無条件で誰でも現金を支給してもらえるベーシックインカムは非常に魅力的な制度であり、注目されましたその一方で、もしベーシックインカムが実現すれば、社会保障制度の廃止や増税も考えられるという懸念もあります。

AIに人間の仕事が代替されるから

そして2つ目の理由はAIが発展し、人が行っている単純作業であれば代替できるようになってきているということです

そうすると、多くの労働者が職に就けない、十分な収入が得られないといった事態が発生するでしょう。そうなれば、既存の社会保障制度はニートやワーキングプア(※1)、長期的失業のような状況が想定されていないため、機能しなくなります。

(※1)ワーキングプアとは、正社員やフルタイムで働いているにも関わらず、生活保護の水準以下しか収入が得られない、就労者の社会層のこと。

つまり、AI時代には生活保護の対象者が非常に多くなり、現在の生活保護制度で行われている救済するべき人とそうでない人の選別は困難となるということです。その結果、全ての人を救済する制度であるベーシックインカムが注目されることになるでしょう。

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AI失業は起こらないという意見も

AIの発展により、人間の職が少なくなってしまうと言われている一方、AIが社会で活用されるようになっても大規模な失業が起きるわけではないという見方もあります。

確かにAIをビジネスに活用すれば定型業務を自動化し業務を効率化することができます。しかし、クリエイティブ分野などAIにはできない人間ならではの仕事には依然として人手が求められます。

また、AIによって消える仕事があったとしても、同時にAIによって新たに生まれる仕事もあります。そのため、雇用には影響がないという意見もあります。

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 AIとベーシックインカムの関係性

最も気になっている人が多いのは、実際に、AIとベーシックインカムがどのように関係しているのかということでしょう。AIとベーシックインカムの関係性として、主に以下の2つが挙げられます。

  1. 失業率向上でベーシックインカムが必要とされる
  2. ベーシックインカムの運用でAIが活躍する

①失業率向上でベーシックインカムが必要とされる

最もAIとベーシックインカムが関係するのは、AIの代替による失業率の向上です。

以上でも述べた通り、近年はAIが発展した影響で、もともと人間が行っていた仕事をAIを搭載したロボットが代替できるようになってきました。そしてコロナ禍で需要が増えた物流分野では、2017年、政府の「人工知能技術戦略会議」が、2030年までに物流を完全無人化する計画を発表しています。

そのため、現在人間の手で行われている肉体労働は、この2030年をめどに徐々に減っていくでしょう。そうなると、やはり雇用が減って労働者が働けなくなるなどの障害が生まれます。このように職を失った人々を支えるためにもベーシックインカムは考慮されていくことが予測されます。

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②ベーシックインカムの運用でAIが活躍する

そしてもう1つAIとベーシックインカムが関係するのが、ベーシックインカムの運用です。ベーシックインカムはうまくいけばメリットの多い理想的な制度ですが、運用の方法を間違えるとデメリットが非常に大きくなってしまいます。

そのため、何通りものパターンを大量に素早く計算し、最適な方法を導き出せるAIは、ベーシックインカムを運用する上で、重要になるでしょう。

ベーシックインカムを導入する3つのメリット

ベーシックインカムを導入するメリットを3つ紹介します。

  1. 貧困対策になる
  2. 少子化対策になる
  3. 行政コストの削減につながる

①貧困対策になる

1つ目は貧困対策になるということです。

ベーシックインカムは全ての国民を無条件で救済できます。そのため、無職で収入がない人、働いていても収入が少ない人などの生活も楽にすることができます。

②少子化対策になる

2つ目は少子化対策になるということです。

ベーシックインカムは年齢にも関係なく給付されるものです。そのため子供も支給対象となり、子供が多ければ多いほど、支給される金額が大きくなります。その結果、子供がほしくても経済的理由で諦める家庭が少なくなり、少子化対策にもつながります。

③行政コストの削減につながる

3つ目は社会保障などの行政コストの削減につながるということです。

現在の社会保障制度には多くの制約があり、生活保護も受けるためには様々な条件を満たしていなければなりません。そのため、現状では多くの執行コストがかかっています。

一方、ベーシックインカムは全ての国民に一律で給付するため、これらのコストを削減できます。

ベーシックインカムを導入する3つのデメリット

では、ベーシックインカムを導入するデメリットとして何があるのでしょうか。

  1. 労働意欲の低下につながる
  2. 財源の確保が難しい
  3. インフレを引き起こす

①労働意欲の低下につながる

1つ目は労働意識の低下です。

ベーシックインカムではたとえその人が働いていなくても、全ての国民に給付されます。そのため、働かなくてもお金が貰えるならば、働きたくないという人が増えるかもしれません。

②財源の確保が難しい

2つ目は財源の確保が難しいということです。

給付を求める全ての国民に支給するとなれば、相当な金額が予想されます。よって、この財源をどう確保するかが課題となっています。

③インフレを引き起こす

3つ目はインフレを引き起こすということです。

ベーシックインカムで所得が増えればお金を使う人は増えると考えられます。お金を使う人が増えれば必然的に貨幣の流通量も増え、お金の価値が下がりインフレに繋がります。

ベーシックインカムを導入した海外の事例

海外では、1970年代から既にベーシックインカムの実験導入がされています。しかしまだ本格的にベーシックインカムを導入している国はまだなく、一時的に導入してみたり、一部の地域で実験的に導入されています。

その中から、ベーシックインカムを導入した海外の事例を紹介します。

フィンランド – 一律給付で幸福度は上昇

フィンランドでは2017年から2年間、Kela(フィンランドの社会保険機関)から失業手当を受け取っている人の中から、無作為に選ばれた2000人の失業者に毎月560ユーロを支給するという、ベーシックインカムの実験が実施されました。

その結果、雇用の面では受給者とそれ以外の人々の間に大きな差は生まれませんでした。

しかし、心理的な面では、ベーシックインカムを受給した人々のほうが自分たちの生活により満足し、心理的なストレスや、鬱、悲しみ、孤独を感じない傾向や、記憶や学習、集中力といった認知能力を肯定的に捉える傾向もありました。また、経済的な幸福度や社会制度や他者への信頼も高まりました。

ナウル共和国 – 資源の枯渇により財政破綻

ナウル共和国は、リン鉱石と呼ばれる天然資源が豊富であったことから、税金無し、インフラ無料に続き、ベーシックインカムを導入しました。その結果、国民は働かず労働は外国人に任せ、ベーシックインカムだけで生活していました。

しかし、20世紀末にリン鉱石が枯渇し、ベーシックインカムもインフラも維持できなくなってしまいました。国民は長期にわたるベーシックインカム生活によって労働の概念すらも失い、失業率90%という状況が続きました。

今後日本でベーシックインカムは導入される?

では、今後日本でベーシックインカムが導入されることはあるのでしょうか。

この可能性は0ではないと言えるでしょう。

しかし、ベーシックインカムにはメリットとデメリットがあるため、デメリットをどのように解決してメリットを引き出すかが重要となります。

また、AI時代にベーシックインカムが重視されることを紹介しましたが、現在実用化に向けて開発が進められている量子コンピュータは、このような変数の多い事柄をシミュレーションして「最適解」を求めるのが得意であると言えます。

この量子コンピュータを使ったAIが実用化されれば、AIがこのベーシックインカムの最適な利用を導き出すようになるかもしれません。

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まとめ

本記事ではベーシックインカムについて、AIとの関係や導入するメリット・デメリット、そして今後についても紹介しました。

ベーシックインカムが何なのか、また、これからベーシックインカムが重要になっていくのはなぜなのかわかっていただけたと思います。ベーシックインカムを導入するべきか悩んだ時には参考にしてみてください。

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