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エッジAIが近年注目されています。エッジAIは2020年度は43億円弱だった市場規模が2030年度には664億円にまで拡大すると予測されています。
従来のAIのようにクラウド環境で情報の処理を行う必要がないエッジAIはデバイスのみで迅速な処理ができ、特に即時対応が求められる領域で活用が広がっていくでしょう。
そのため、IoTと非常に相性が良く、IoT技術の成長・拡大に伴って、エッジAIの開発の重要性も増していくと予想されます。
エッジAIとは
エッジAIとはその名の通り、エッジ(端)に搭載されているAIのことです。ここでいうエッジとはカメラや車、工場の機械デバイスのことで、そのようなエッジの端末に直接AIを搭載し、情報処理をする技術です。
ここでは「エッジAIとクラウドAIとの違い」「エッジAIの種類」「エッジAIのメリット」を紹介します。
エッジAIとクラウドAIとの違い
エッジAIに対して、クラウドAIとは大量のデータをネットワークを通してデータセンターなどに送信し、データセンター内のハードウェア(CPUやGPU)を利用して高速学習するものです。
GoogleやAmazonのチャットボットなどのようなGAFAのサービスなどをはじめ一般的なAIの多くがクラウド型AIとして提供されています。以下が両者の大まかな違いです。
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2つのタイプに分かれるエッジAI
クラウドAIとエッジAIの違いについて解説しましたが、実はエッジAIにも2つのタイプがあります。
- エッジAI上で推論(判断)のみ行い、クラウドとの接続で学習データやモデルの更新をするタイプ
- エッジAI上で推論と学習を行い、クラウドとの接続を必要としない完全独立型のタイプ
の2つです。
ディープラーニングなどの機械学習技術は、膨大なデータ処理を必要とするため、エッジデバイスで学習を行うと、長時間に渡って学習を行う必要があります。
そこで、リアルタイム性を要する推論(判断)部分だけをエッジデバイス側で行い、学習はクラウド上で行う形が一般的になっています。
エッジAIとIoTの関連性
総務省の「令和2年 情報通信に関する現状報告」では、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけとして、IoTは生活・経済活動の維持に不可欠な技術になっていくとされ、デジタル化はさらに加速度的に進むと予測されています。
IoTとはInternet of Thingsの略で、さまざまな「デバイス」がインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組みです。近年では、スマートスピーカーやスマートフォンと連携したスマート家電なども普及が進んでいます。
では、エッジAIとIoTにはどのような関わりがあるのでしょうか。
例えば、IoTデバイスがデータを集めて、AIで統計的に処理することや学習させたモデル(AI)をIoTデバイスに搭載することが可能になります。このように、エッジAIとIoTには、密接な関わりがあると言えるでしょう。
エッジAIを活用するメリット
エッジAIを活用するメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- リアルタイムでの処理
- 通信コストの節約
- セキュリティ強化
リアルタイムでの処理
クラウドAIの場合、端末から送られたデータを処理し、その後再び端末に送信するため、時間がかかります。
IoTの普及によって膨大なデータをリアルタイムで処理する必要性が高まり、エッジAIが注目されるようになりました。クラウドAIが処理するよりも、現場に近い端末に組み込まれたエッジAIで処理する方が、より速く処理することができます。
通信コストの節約
端末で集積したデータをクラウドに送る際には、不要なデータの選別によってコストを抑えることができます。
また、AIを開発するときにも通信コストはかかります。AI開発には多額のコストがかかってしまいますが、エッジAIはさまざまなデバイスでの利用が可能であるためAIをたくさん開発する必要がないことから、低コストで開発することができます。
セキュリティ強化
プライバシーの問題が常につきまとうデータ管理に対しても、クラウド上にデータを送らずに端末内での処理に留めてくれるため、不正アクセスの機械が減ることから情報保護の観点からも優れているといえます。
エッジAIを活用するデメリット
メリットがある一方、エッジAIにはデメリットもあります。デメリットとして、以下の2つがあります。
- 大規模な処理が困難
- システムの複雑化
大規模な処理が困難
エッジAIを搭載する端末は1台当たりのコストを抑えるために、リソースは低く設計されており、サーバーのような強力なリソースはありません。このため、クラウドAIのように大規模な処理を行うことを苦手としています。
システムの複雑化
クラウドAIに利用される端末はデータの収集とクラウドへの転送が主ですが、端末で完結できるエッジAIで利用される端末は複雑なシステムを持つことになります。
活用シーン5選
では、エッジAIは実際にはどのような場面で活用されているのでしょうか。ここではエッジAIを活用した5つの実用例を紹介します。
- 監視カメラ:Avinton株式会社|エッジAIカメラ
- 自動運転技術:Headwaters(ヘッドウォータース)|SLAMの開発
- スマートフォン:Apple(アップル)|iPhoneのSiri
- 人物行動分析:日本電気株式会社(NEC)|人物行動分析サービス
- 混雑状況配信:NTTドコモ|混雑状況測定AI
監視カメラ:Avinton株式会社|エッジAIカメラ
Avintonでは、エッジAIを監視カメラに活用しています。
AIカメラを利用することで、人の目に変わってAIが自動的に検知したいものを検知、監視、解析できるようになります。高度な画像解析と物体検出技術を製造現場の効率、安全性の向上、マーケティング活動に活かすことで、目視では実現できなかった分析が可能になります。
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自動運転技術:Headwaters(ヘッドウォータース)|SLAMの開発
Headwatersは、2017年に自動運転分野に進出し、自己位置推定と環境地図作成を同時に行うSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)の開発などを行いました。エッジAIを活用し、リアルタイム画像解析を自動運転をはじめスポーツでのリアルタイムデータ化と機械学習による予測などに活用を広めています。
スマートフォン:Apple(アップル)|iPhoneのSiri
スマートフォンは、多くの人が使っている最も身近な端末です。現在はiPhoneのSiriなど、スマートフォンの音声アシスタントにはクラウドAIが使われています。しかし、今後エッジAIに切り替わっていくことが予想されています。
人物行動分析:日本電気株式会社(NEC)|人物行動分析サービス
日本電気株式会社はエッジコンピューティングソリューションを多数手がけており、その内の一つに「画像解析技術を活用した人物行動分析サービス」があります。
このサービスでは従来分析できなかった来店者の購買に至るまでの行動や、何も買わずに帰った非購買者行動が、分析できるようになりました。この技術には、人物検出、追跡による動線抽出可能な画像解析技術を活用しています。
混雑状況配信:NTTドコモ|混雑状況測定AI
この「混雑状況測定AI」というアプリは、カメラに映った人数・位置・密度などのデータをリアルタイムに測定できます。
これにより、駅や空港施設などの公共機関や屋外イベント・展示会などの混雑状況、そして人の通行量調査、商業施設やスマートシティ・都市開発における混雑状況などを測定できるようになりました。
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エッジAI活用企業事例10選
エッジAIを活用している企業もあります。ここでは10個の企業を紹介します。
- NEC|人物行動分析サービスに活用
- 株式会社JVCケンウッド|カメラに活用
- ヤフー株式会社|アルゴリズムに活用
- コニカミノルタ株式会社|センサーデータに活用
- 株式会社クボタ|農機の自動化に活用
- ソニーグループ株式会社|放牧牛管理に活用
- 株式会社東芝|音声認識に活用
- ミサワホーム株式会社|配送システムに活用
- 株式会社NTTドコモ|映像データに活用
- 株式会社北洋銀行|詐欺防止に活用
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NEC|人物行動分析サービスに活用
NECの人物行動分析サービスは、カメラ映像をエッジAIに送り、人物をカメラ映像から抽出、人物の動きの予測を行って追跡します。また、取り込んだカメラ映像や解析エンジンが途中作成するデータはその場で破棄して、抽出した人物の座標データのみを保存しているため、個人が特定できるようなデータは残らないことも特徴です。
株式会社JVCケンウッド|カメラに活用
株式会社JVCケンウッドのカメラは、サーバーやクラウド側で映像や画像のAI処理を行う従来のカメラと異なり、エッジ(カメラ)側でAI処理を行うという特徴があります。そのため、処理結果のみをサーバーやクラウドへ送信し、処理スピードの向上と情報漏洩リスク低減が期待できます。
ヤフー株式会社|アルゴリズムに活用
ヤフー株式会社では、Yahoo!知恵袋のリアルタイム不適切投稿判定、Yahoo! JAPANのアプリ内検索などでアルゴリズムが利用されており、エッジAIを使ったiOSアプリも提案されています。
コニカミノルタ株式会社|センサーデータに活用
コニカミノルタ株式会社では、現場(エッジ)から高品質な画像データを収集するデバイス実装技術、さまざまなセンサーデータを統合し高度な認識・判断を行うAIプラットフォーム、これらの差別化技術を組み合わせた「画像IoT/AI技術」の開発を推進しています。
株式会社クボタ|農機の自動化に活用
株式会社クボタでは、無人運転可能なトラクターを開発し、ビッグデータを駆使したデジタル農業の実現を目指しています。トラクターには高精細カメラを付けて、高速通信規格「5G」も駆使することで、10年後には、さらにレベルの高い無人自動運転の実現を目指しています。
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ソニーグループ株式会社|放牧牛管理に活用
ソニーグループ株式会社は管理作業を低コストで実現できるような仕組みを構築しました。放牧牛に取り付ける首輪型デバイスとクラウドアプリケーションで構成されたPETERです。首輪型デバイスはエッジAIで、放牧牛の飲水・摂食、立位、伏臥位など複雑な姿勢情報をAI処理によって推定可能です。これによって、人間の代わりにAIが牛を管理することで人件費を削減でき、コストを抑えることが可能になります。
株式会社東芝|音声認識に活用
株式会社東芝は、話者認識AIを開発た。このAIには端末上でも高速での動作が可能な音声キーワード検出機能がついています。この技術では、家電がネットワークへの接続の必要がなく、3回の発話での話者登録に加えて、音声での操作や、話者に合わせた機器の動きを変更することまでもできるようになります。
ミサワホーム株式会社|配送システムに活用
ミサワホーム株式会社が建設した持続可能な未来につながるコンセプト住宅に、移動式ドローンポートと対応したドローン配送システムが実装されました。ドローンによる荷物配送に対応した設備は、高齢者や体の不自由な方の外出回数低減、介護中や育児中などで外出が困難な人に向けて日用品や医薬品の注文配送ニーズに応える生活様式を見据えた機能も備えています。
株式会社NTTドコモ|映像データに活用
株式会社NTTドコモは、映像エッジAIプラットフォームとして、「EDGEMATRIX」を開発しました。これは、膨大なデータ量を迅速に処理できるエッジAIを活用した映像ソリューションを、手軽に導入できるプラットフォームです。
株式会社北洋銀行|詐欺防止に活用
株式会社北洋銀行では、監視カメラからATM の前で電話をかけている姿勢を骨格推定で検出しています。そして、不審な動きがあった場合、銀行内の職員にパトランプで通知します。職員が状況に応じて適切な声がけを行うことで、振り込め詐欺を未然に防ぐことができます。
エッジAIのプロセッサー
プロセッサーとは、簡単に言うと「AIが処理を行うための脳となる部品」です。
エッジAIではその端末に、クラウドAIではサーバーに搭載されており、さまざまな種類があります。
性能と電力で比較した図が左側。左の図を元にコストパフォーマンス(性能と消費電力との比率)と汎用性で比較した図が右側の図です。これは新製品の登場で関係性が変わることもあるので一例としてみてください。
AINOW編集部作成
エッジで利用される計算プロセッサは、低消費電力が重宝されます。
そのため、上記の図からでは「消費電力が少なく、ASICのコストパフォーマンスが良いからASICを使えばいいのでは?」と考えてしまいがちですが、近年のアルゴリズムの複雑さ・高速化の進化にASICが追いついていない場合もあり、一概にコストパフォーマンスだけではプロダクトの良し悪しを測ることはできません。
GPU型
IoTに向いており、汎用性があるのがGPU型です。
SoC(システムオンチップ)により、低消費電力・小型化が図られているプロダクトも散見されます。例としてNVIDIAのTegraなどです。しかしそれでも消費電力は大きいのが難点です。
ASIC型
特定の用途に関してはASIC型に軍配が上がります。
特定のアルゴリズムを一定期間使用する場合、ASICの電力効率は群を抜いて良いです。ただ特化している分、昨今のアルゴリズムの変化に対応しきれていない場合もあります。
FPGA型
FPGA型は日々成長しているアルゴリズムをすぐに実装・展開可能な柔軟性が特長です。ただ基本的には低速で電力消費が高いため性能を重視する場合には要検討です。
エッジAIの鍵となるプロセッサー分野には多種多様のプロダクトがあるため、丁寧に比較検討して自分のニーズに一番合う計算プロセッサーを見極める必要があります。
エッジAIの今後
現場で完結する、リアルタイムでの処理を行うことができる、さらにはさまざまなデバイスで利用ができるなど、汎用性の高いエッジAIは今後更に広範囲に渡って応用される分野でしょう。
医療や建築、地域行政などどのような分野でも応用を利かせることが可能なエッジAIが今後どのように発展を遂げていくか、注視して追っていく必要があります。
まとめ
現在、エッジAIは非常に注目されている技術です。この記事ではエッジAIに関する初歩的な知識が得られるようにしています。
さまざまなAI関連技術のうち、日系企業がクラウド型AIでGAFAMなどに追いつくことは厳しいと言われています。一方、エッジAIには組み込み技術が必要であり、日本の技術力が活かせる部分であることからエッジAI関連では日本も十分世界に通用する可能性があります。長い歴史の中で日本のお家芸としてきた組み込み技術がエッジAIに十分に生かされることで今後、世界にも通用するプロダクトが多く生まれて来るかもしれません。
これから到来すると言われているIoTのカンブリア爆発が起こるためになくてはならないエッジAIの今後の発展に目が離せませんね。