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2020.04.13

衛星データを活用する時代に ー衛星データプラットフォーム「Tellus」が描く未来

最終更新日:

TwitterなどのSNS投稿や企業の売上データ、社内情報など、今さまざまな情報が収集・解析され、ビッグデータとして社会の中で活用されています。

そんなビッグデータの一つとして衛星データが注目されています。地上のデータを広範囲に長期間観測可能な衛星データは、人の流れや気候などの世界中のマクロなデータを収集するのに最適で、ビシネスでの活用の可能性に満ちています。

しかし、これまでの衛星データは、その処理や加工に高い専門性や高価な設備が必要なことから民間ビジネスではあまり活用されてきませんでした。

こうした衛星データを活用しづらい環境を変えるべく経済産業省の宇宙産業政策としてさくらインターネットが運営しているのが、ユーザーに原則無料でデータを提供する衛星データプラットフォーム「Tellus」です。

「Tellus(テルース)」はVer.2.0が2020年2月27日(木)より提供開始され、操作性が改善されるだけでなく、Tellus上にて「ツール」と呼ばれるデータ、アルゴリズム、アプリケーション等を広く一般の法人や個人が安全に取引可能なサービス「Tellus マーケット」がリリースされました。

今回はこのオープンなプラットフォームTellusの開発のキーマンである山崎秀人氏にインタビューを行いました。

山崎 秀人(やまざき ひでと)
■ xData ALLIANCE Project シニアプロデューサー
■ 経歴
オーストラリア国立大学RSM修了。2001年宇宙開発事業団(現:JAXA)入社。国際交渉業務、ALOS(だいち)の防災利用事業、はやぶさプロジェクトの帰還業務に従事。2019年5月からさくらインターネット株式会社にて現職。

衛星データを活用して新たなビジネス領域へ

まずはじめにTellusの概要を伺いました。

ーーTellusについて詳しく教えてください。

山崎氏:宇宙データプラットフォームのTellusは、経済産業省の事業としてさくらインターネットが受諾をしています。システム開発と運用、利用促進を担っているのがさくらインターネットです。

Tellusは、さくらインターネットのクラウド上に構築しているので、潤沢なコンピューティングリソース(CPU/GPU)が備わっているのが特長です。その上にTellusOSというインターフェースが乗っかっています。わかりやすく言えば、いわゆる地理空間情報を示すGoogleマップのようなインターフェースです。

もう1つはPythonベースでTellus OSのデータを引っ張ってきて解析できる分析ツールのインターフェースです。

他にも、Tellusの公式メディア「宙畑」の運用やラーニングイベントデータコンテストを開催しています。データサイエンティストの方々にビジネスとして使ってもらうために、ラーニングイベントで使い方などの技術を獲得してもらい、さらにデータコンテストを通じて腕を磨いてもらえる仕組みになってます。

また、Tellusの利用促進を目的とした民間企業のアライアンスであるxData Allianceというパートナーシップがあります。さくらインターネットは事務局を務めるとともに、パートナー企業からの声を伺い、Tellusというインフラの環境改善を実施しています。AI分野、デ―タ利用分野の企業に加えて、ビジネス領域はその分野を専門とする会社でユースケースを議論してもらったり、投資領域の会社には新しいサービスができたら投資の検討をしてもらったりと多様な領域の企業に参加頂いて運営しています。

Tellusの公式ホームページ(https://www.tellusxdp.com)

ーー今までにはどんなコンテストを実施してきたのですか?

山崎氏:2018年から開催している「Tellus Satellite Challenge」というコンテストには、世界中のデータサイエンティストの方から応募していただいています。

第1回は土砂崩れの検知を課題として扱いました。用いた衛星データはSARというものです。モノクロのレーダ画像から一見、目視では判別が困難な土砂崩れの地域を識別することの正確性を競うコンテストです。

第3回では北海道の海氷領域の検知をテーマとして扱いました。こちらもSARを用いました。この作業は現状データを人の目で判断しているのですが、今回は機械学習でどこまで正確に海氷領域の境界線が識別できるかをコンテストで競いました。

ーー衛星データというリアルでマクロな情報と自社内のデータと組み合わせることもできそうですね。

山崎氏:企業の秘匿データとオープンなTellusのデータを組合せて、新規サービスの検討等をして頂くことができます。企業の秘匿データをTellusにて公開する必要はありません。

流入数が大幅に増えているメディア「宙畑」でも、我々のをオープン&フリーのプラットフォームの取り組みを積極的に公開していて、多角的に衛星データの活用を後押しできていると思います。

衛星データを用いたビジネスのための市場の提供を開始

Tellusは、企業の新たなビジネスのためにマーケットを新たに開設しました。このマーケットは、衛星データを用いたサービスを売買できるプラットフォームです。

引用:Tellusマーケット(https://www.tellusxdp.com/market/)

ビジネス活用からデータ解析まで、多様なニーズに対応するTellusマーケットは日本全国のさまざまな分野に根ざした衛星データ活用をさらに促進しています。

その詳細について山崎氏に伺いました。

ーーどのようなマーケットでしょうか。

山崎氏:Tellus Market上にて、「ツール」と呼ばれる企業で持ち寄ったデータ、アルゴリズム、アプリケーションなどを自由に売り買いができる場です。
衛星デ―タについては、APIを介してTellusのデータをサービスで使っていただくことで、衛星データの活用がより進むと考えています。

ーーどのようなユーザーを見込んだサービスなのでしょうか。

山崎氏:理想は、データサイエンスを活用しているスタートアップから大企業まで、さまざまな企業に使ってもらうことです。
あらゆる方に気軽にログインしていただいて、衛星データを活用して、新しいビジネス創出をしていける世界を作れたらと思っています。もちろん既存事業とのかけあわせでも構いません。

ーー新たなマーケットを展開するということですがユーザー数はどのように推移していくと思われますか。

山崎氏:今現在(2020/04/08時点)ユーザーが1万4千人を超えていて、画像やデータ処理の専門的な技術のお持ちの人が200人以上にのぼっています。

日本の宇宙産業従事者は1万人もいないと言われています。Tellusだけで1万4千人以上のユーザーがいることはとても重要なことで、なおかつ10代から30代の若い層のユーザーを抱えているという点でも、今後の衛星データ活用が進むことが楽しみです。

現在、登録者の約7割が個人、約3割が法人ですが、今後は法人も増えていくと考えています。
また、ほとんどが国内ユーザーですが、英語版のサイトも開設しているので海外の展開も進めていくつもりです。衛星の強みはグローバルに観測できることなので、ユーザーも国内に限定する必要はないと思っています。

提供:さくらインターネット株式会社

活用したい分野によってセンサの種類を選ぶ

衛星データというとGoogleマップのような単に地上を映す画像などのデータを想像するかもしれません。

しかしTellusで扱う衛星データはそれだけではありません。

得たい情報によって使うべき衛星のセンサが異なります。センサが違えば識別できる範囲やものが違うと山崎氏は語ります。

ーー具体的にどのような衛星があるのでしょうか。

山崎氏:今搭載されている衛星データはこのくらいあります(下のスライドを参照)。

 

画像①提供:さくらインターネット株式会社

山崎氏:Tellusには光学衛星とSAR衛星(合成開口レーダー)の2つの衛星から取得したデータが搭載されています。

まず、「ASNARO-1」や「つばめ」などの光学衛星は、デジタルカメラに近いイメージなのですが、1つのセンサで複数の波長帯を同時に観測します。それぞれの波長帯ごとに、バンドと呼ばれる単位に分かれており、複数のバンドを組み合わせて合成画像を作ることができます。
どのくらいのものを識別できるかを「(空間)分解能」といいますが、「分解能50cm」だと1ピクセルあたり50cmのものを捉えられます。分解能50cmだと車の種類の認識は厳しいですが、車があることなど物体の種類を識別することはできます。

また、分解能が高い衛星は、観測できる幅が狭いのでグローバルに地図を作る事は難しいですが、定期的に特定の箇所を見るようなことに優れている衛星です。このレベルのデータを無料で公開しているのはおそらくTellusだけです。さらに細かく1ピクセルあたり30cm四方くらいまで識別できる衛星データも世の中でも入手可能です。ただ、このようなデータは他の企業で非常に高額で売られています。

「ASNARO-2」や「ALOS-2」などのSAR衛星(合成開口レーダー)は、マイクロ波(電波の一種)を発射し、地表で跳ね返ってきたマイクロ波を捉えています。光学衛星は雲があると見えませんが、SAR衛星の場合は雲でも貫通しますし、雨天時や夜間でも観測することができます。また、波長の長さによって、地上の物体の影響を受けるので、建物の影が見えるような目視に近い見え方をしたり、目視とは異なり、更地のような見え方をしたりします。

「GCOM-C」は地球の表面温度のデータなどを取得しています。環境衛星は、複数の衛星が協力しているので、一般的にデ―タの取得が早く、2,3日に1回は全球の情報を捉えることできますので、温暖化などの環境の動きをグローバルに見るのに適しています。

「GSMaP」は世界中の降雨量を可視化しています。これは2,3日に1回アップデートしているので、全球レベルで雨の領域が動いている様子などを見ることができます。

「ひまわり」は天気予報に使われているので知っている方も多いと思います。これは静止衛星なので、毎日同じところをずっと観測しています。ひまわりは日本を中心にアジア域だけを見ているので、観測域外の例えば、アフリカや南米のデ―タは取得できていません。

「AW3D」は、30メートル単位で地球の標高デ―タを表現しています。

また、Tellusでは、光学衛星、SAR衛星から取得したデータだけでなく、滞在人口や地上センサから取得した降雨量、経済統計など、その他の地上データも搭載し、複数のデータを組み合わせて分析することが可能になっています。

画像②提供:さくらインターネット株式会社

ーーどのような業界での活用を見込んでいるのですか?

山崎氏:日本だと、一般的には第一次産業と言われています。例えば、青森で生産されている青天の霹靂というお米は、その生産過程で衛星データを利用しています。
美味しいお米のキーはタンパク質の含有量らしいのですが、タンパク質が多すぎると硬くなって、美味しくなくなるそうです。そういった情報も衛星から確認することができます。米国などでは、衛星データを農家の方がタブレットで見ることで適切な収穫時期がわかるようになっていて、すでに一般的に活用されています。

なぜ今「衛星データ」なのか。

ーーそもそもなぜ、Tellusは生まれたのでしょうか。

山崎氏:衛星データというのは非常にマクロな情報なので、ビジネスになじまないと思われてきました。そこで、この衛星データと、経済統計やインバウンド情報といったミクロの情報と重ね合わせると面白いことが起きるのではないかと考えていました。例えば、日射量などを把握することで、太陽光パネルの設置位置などを計算したりすることも可能だと思います。ですが、このような新しいビジネス利用するために使う衛星データは、今まで有料でした。ひと昔前だと1シーンで100万円ほどになるデ―タもありました。

画像認識の機械学習を行うとすると10万シーンくらいの画像データが必要と言われています。ある企業が機械学習と衛星デ―タで新たなビジネスをトライする際に、その時点で、膨大な衛星データを購入しないといけないことになります。万が一、そのビジネスアイディアが失敗した時のことを考えるとリスクが大きく、新しいビジネスを起こすにはハードルが高かったんです。

そこで私たちが政府の衛星データをフリーに提供し、新しいことをやりたい人のリスクを下げようと思ったことが、Tellus誕生のきっかけです。衛星から取得したビックデータはAI技術と組み合わせないと効率的に処理できません。AIのような最新の技術についても、Tellus上で利用できる環境を提供していこうと思っています。

機械学習とデータ処理の課題

現在Tellusのデータは無料で公開されていますが、リアルタイムで更新することはまだできていません。機械学習を用いたデータ処理の課題や、衛星データと機械学習との親和性はどこにあるのでしょうか。

ーー現在におけるデータ処理の問題はありますか。

山崎氏:あります。衛星データを自動で取得し、適切なフォーマットに変えて、クラウドで公開するというところが課題で、まだ開発中です。

特にスマートフォンやタブレットなどでタイムリーに情報を提供するアプリケーションに衛星データを活用してもらうとすると、定期的な衛星データ更新が必要です。しかし、例えば「ALOS2」という衛星1機では、回帰日数(同じところを撮るのにかかる日数)は14日になりますので、その他のデータを増やしていく必要があります。

ーー衛星データを処理する上で、機械学習はどのくらい必要とされているのでしょうか。

山崎氏:第1回 Tellus Satellite Challengeでの土砂崩れをケースとしたコンテストでは、画像データに土砂崩れが含まれるか否かの判定精度を競いましたが、データ分析による1位の方の正答率はおよそ57%でした。一見高い数字ではないですよね。人がやればいいんじゃないかというご指摘を受けることもあります。

ですが、膨大な衛星データを人力で分析すると非常に時間がかかります。例えば、東日本大震災の時には、世界中から多くの衛星データを提供を受けました。このデータの解析は人間が行いましたが、非常に多くのデータを提供いただいたおかげで、どのデータを優先して分析していいのかも判断できずに、結果、分析作業に多くの時間を要したと聞いています。

衛星データ分析のノウハウを機械学習させ、優先順位付けや分析自体を人間ではなくAIが行うことで、ユーザに必要な情報を提供することが可能になるかと思います。だからこそ、機械学習技法を用いたデータ分析を続けて、その精度をあげるべきだと思います。このまま学習を続けていき、8割くらいの正答率になれば実用に近くのではないかと考えています。

今後の展望 -データの増量と使いやすい環境作り

ーー現在、Tellusの活動や成果はどこまできていますか。

山崎氏:まだ、我々は何も成し遂げていないと思っています。まずは、今回リリースしたTellusマーケットの整備を行なっていきます。参加してくれた企業のビジネスが成功してくれて初めてTellusの成功と言えるので、よい事例がたくさん生まれるように、まずは多くの方に使ってもらえるようにしていきたいです。

ーーどういうプラットフォームにしていきたいですか。

山崎氏:今後は、データの種類を増やすのははもちろんですが、Tellus Marketで取引されるツール(デ―タ、アルゴリズム、アプリケーション)の量も増やすということ、それから使いやすい環境に整備していくことが肝心です。

あるデータセットを買いたいユーザもいるでしょうし、Tellusのデータと商用のデータを組み合わせて、サービスを作りたいユーザもいます。ご自身で技術があれば、自分で簡単なアルゴリズムで開発ができる環境もありますので、もしもリースがないとなれば我々も一緒に作ることも考えています。

終わりに

Tellusは、広く多くの人に新規ビジネス開拓のチャンスを与えられる取り組みとして非常に魅力的なプラットフォームです。

衛星データと聞くと敷居が高い印象を抱くかもしれませんが、これから様々な場面での利用が期待されています。Tellusではデータの知識や解析方法などを学べるセミナーや、データ分析のコンテストを開催するなど実際の利活用に向けてフォローアップもしてくれます。

そして新たにリリースしたTellusマーケットは、2020年の夏には課金対応を行う予定で、よりさまざまなニーズに対応したマーケットプレイスになるでしょう。

興味のある方は、ぜひ無料のTellus会員登録をして始めてみてください。

 

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