HOME/ AINOW編集部 /機械学習エンジニアは10年後には存在しないだろう。
2020.06.09

機械学習エンジニアは10年後には存在しないだろう。

最終更新日:

著者のLuke Posey氏は、機械学習エンジニアのキャリアを積んだ後にAIスタートアップSpawner.aiを創業するかたわらMediumに記事を投稿しており、AINOW翻訳記事『無闇にデータサイエンティストを雇うのをやめよう。』の著者でもあります。同氏が最近Mediumに投稿した記事『機械学習エンジニアは10年後には存在しないだろう。』では、近い将来、「機械学習エンジニア」という職種が実効的な意味を持たなくなる、と予想が論じられています。

 

第三次AIブーム黎明期の頃、機械学習エンジニアは数学と統計学に関する専門知識を習得しているという希少さゆえに、高く評価され高額報酬を手にしていました。この職種には、最先端の技法を製品やサービスに落とし込む「研究者兼技術者」という立ち位置が依然として求められています。

しかし、近い将来、機械学習エンジニアには研究者としての側面が求められるなくなるだろう、と同氏は指摘します。というのも、機械学習システムの開発環境が整備されるにつれて、一般的なエンジニアがAPIを使って機能を実装するようにして機械学習の機能を実現できるようになるからです。そして、機械学習は数ある技術的スキルのひとつとなり、かつては希少だった「機械学習エンジニア」は多数の「機械学習に詳しいソフトウェアエンジニア」となるのです。

以上のような「機械学習の陳腐化」とでもいうべき現象に着目する論者は少なからずいて、そうした論者を以下のようなAINOW翻訳記事で紹介してきました。

あなたのAIスキルはあなたが思っているよりも価値がない【前編】

「コーディングなしでAIを実装」を謳うノーコードAIプラットフォームが世界各地で台頭している現状も加味すると、機械学習の陳腐化は不可避と言えそうです。この現象は「AIの民主化」を促進する好ましい側面がある一方で、「AIシステムの粗製乱造」を招くリスクもあるので注意が必要でしょう。

なお、以下の記事本文はLuke Posey氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。

ちょうどよいアイキャッチ画像が見つからない時は、ネコの画像を挿入しよう。画像出典:Unsplash

業界の光景は急速に進展している。

注記:この記事は個人の意見を述べているだけなので、どうぞご自由に機械学習エンジニアに関する読者諸氏の意見もシェアしてください。そうすれば、機械学習業界を正しい方向に向かわせ続けることができるでしょう。

機械学習は、すべてのソフトウェアエンジニアのツールキットの一部として当たり前のものに移行するだろう。

どの分野でも、初期の頃には専門的な職務が与えられ、時間の経過とともに当たり前の職務に置き換わっていく。機械学習もまさにその一例のようなのだ。

以上の主張を噛み砕いていく。

職種としての機械学習エンジニアは、AIやデータサイエンスのように企業においてバズワードとして大げさに煽られた結果として誕生したものだ。機械学習流行の初期の頃、この職種は非常に必要不可欠な職種だった。それゆえ、多くの人に少しばかり素敵な額の給料が大盤振る舞いされたのだ!しかし、機械学習エンジニアとは、この職種が何であるか尋ねる人に応じて様々な性格を持つ。

機械学習エンジニアの純粋な信奉者に言わせれば、この職種のエンジニアは研究室で考案されたモデルを製品化する。彼らは機械学習システムをスケールし、リファレンス実装(※訳註1)を本番環境に対応したソフトウェアに変え、しばしばデータエンジニアリングとクロスオーバーする。通常、彼らは強力なプログラマーであり、扱うモデルに関する基礎的な知識も持ち合わせている。

(※訳註1)リファレンス実装とは、不特定多数のエンジニアを対象として用意された任意の機能を実装する際に参考になるソースコードや製品のこと。学術目的と商用目的の両方で見られる。

しかし、以上の意味での機械学習エンジニアは普通のソフトウェアエンジニアのようにも聞こえる。

業界トップのテック系企業のいくつかに、機械学習エンジニアは彼らにとって何を意味するのかを尋ねてみると、十人十色の答えが返ってくるかもしれない。この結果は驚くべきことではないはずだ。機械学習エンジニアは比較的新しい職種であり、これらの求人を掲載している人たちは管理職なので、多くの場合、この分野を理解する時間がない(または理解しようとしない)年配者であるのだ。

以下では、いくつかのトップテック系企業の求人情報から抜粋した求人要項を引用したい。それらの内容が全く異なることに気づくだろう。

最初の求人要項は辛口だ。その内容を読んで、求めている人材が研究者ではないと確信できるだろうか。一体どんな機械学習エンジニアを求めているのだろうか。

  • 数学、統計、オペレーションズリサーチの博士号持ち。R、SQL、最新の機械学習技術の知識がある人材。

次のものはより典型例に近い。求人票は企業上層部が作るので、以下のような内容でも驚くべきことではない。

  • コンピュータサイエンスの学士または修士。ソフトウェア開発における1~5年の実務経験または学術経験。コンピュータビジョン、自然言語処理などの経験があれば尚良し。

最後に、ステレオタイプなMLエンジニアに関する求人要項を掘り下げてみよう。

  • コンピュータサイエンスの学士または修士。3年以上の機械学習システムと効率的なコードの構築経験。ビッグデータの経験があればプラスに評価。
(※訳註2)参考までに本記事執筆時点(2020年6月3日)でリクナビNEXTで閲覧できる日本における機械学習エンジニアの求人票の一部を引用する。

まずは、大手通信キャリア企業の関連会社が求めるスキル

【必須】◆Pythonもしくは関連言語を利用した機械学習モデル構築経験
◆統計学知識
IoT・AIを中心としたIT業界の最新動向・技術への興味
【歓迎】◆深層学習や強化学習などの機械学習技術の研究開発経験
◆AI分野で注目度の高いオープンソースを利用した経験 (Keras,Chainer,OpenCV, TensorFlow, Spark, Kubernetes など)
◆IoT領域におけるクラウド(特にMicrosoft Azure)構築や開発経験…

[学歴]高校 専修 短大 高専 大学 大学院

つぎは、インターネット広告業界におけるトップ企業が求めるスキル

【必須】■機械学習/自然言語処理/大規模分散処理などの実務経験
■英語で執筆された論文やドキュメントの読解力/研究発表を行う英語力
◎応募時に上記の技術領域における論文の採択実績もご教示ください…

[学歴]大学 大学院
[語学]英語 中級

最後に国内有名AIスタートアップが求めるスキル

【必須】複数人での3ヶ月以上のプロジェクト(画像・信号解析または機械学習を用いた)開発リード経験、TensorFlow, PyTorch, Chainerのいずれかの利用経験、Pythonでのコーディング経験、Linux上での開発経験、コンピューターサイエンスおよび関連技術分野での学士号、もしくはそれに相当する実務経験
・日本語もしくは英語でのコミュニケーション…

[学歴]高校 専修 短大 高専 大学 大学院

いくつかの企業が新しいアプローチを始めたので、ほとんどの企業がそれに従うと思われる。そのアプローチとは、コア要件としてソフトウェアエンジニアの職務をリストアップしたうえで機械学習に関する要件を求め、好ましい応募資格として経験年数を加える、というものだ。雇用者は、機械学習や他の技術に基づいていたかどうかに関わらず、システムの構築やスケーリングの経験を持つエンジニアを優先的に採用しようとする。

いずれにしても、機械学習を理解する人材が希少で、この職種への参入障壁が高い限り、機械学習エンジニアは不可欠なのだ。

機械学習エンジニアの役割は一般的なソフトウェアエンジニアに完全に引き継がれる、というのが私の導いた最も重大な信念だ。機械学習エンジニアの職務は、仕様を確認したり、上流にいるエンジニアからレファレンス実装を受け取ったりするのが標準となり、ソースコードを書いたり、アプリケーションの出荷とスケーリングに携わるようになるのだ。

今のところ、機械学習の役割の多くは、これまで取り組んだことのない問題を機械学習で取り組むという奇妙な空間に存在している。その結果、機械学習エンジニアは多くの場合、半分は研究者で半分はエンジニアなのだ。私は、エンジニアリング全体を担当できる機械学習エンジニアにかなりの割合で遭遇していた。もっと狭い範囲のスキルセットを持っていても、新しい研究論文を読んで使えるコードにすることに多くの時間を費やしているエンジニアにも出くわして来た。

私たちは、チームのメンバーのひとりである機械学習エンジニアがプロジェクトというパズルの中でどこに当てはまるかを定義するという奇妙な岐路に立っている。

機械学習エンジニアは、研究→仕様の参照とPoCの実装→製品化のプロセスのどこに位置する?

私たちの働き方の結果として、自分たちの専門知識が中心的な話題であるかどうかに関わらず、議論に自分たちを割り込ませたり、ミーティングに参加したりする傾向がある。そして、招かれたミーティングで決まったあらゆることを受け入れることになる…私の考えでは、機械学習エンジニアはレファレンス実装を構築する業務の最後尾に属しており、あらゆる製品のコーディングを担当するようになるのだ。

これから先、ほとんどの企業は、プロジェクトをゴールに到達させるための研究努力をほとんど必要としなくなるだろう。ニッチなユースケースと深い技術的な取り組みだけが、特別なスキルセットを必要とするようになるだろう。エンジニアはAPIを消費するようになり、そうやって世界は先に進むだろう。機械学習はあらゆる新米エンジニアのツールキットのなかにあるありふれたツールになるのだ。機械学習に触れる機会が大学でもますます多くなっているので、すでにこのような状況を目の当たりにしているとも言える。大学の機械学習コースに行けば、満員御礼だ。ほぼすべての大卒生が、この分野に触れる機会を得て卒業することだろう。

今日の機械学習をめぐる状況は、分散システムエンジニアをホットな職種としたブロックチェーンに喩えることができる。ナカモト氏の論文(※訳註3)が発表された直後に着手されたブロックチェーンのプロジェクトの大半は、基礎技術とインフラストラクチャの構築に労力を費やしてきた。こうしたことを実行するためには、信じられないほど強力なエンジニアリングスキルを持っていなければならず、そうしたスキルをもつエンジニアはしばしば分散システムエンジニアと表現された。その後、ブロックチェーン技術が次第に抽象化されるシフトが見られた。そして、企業はブロックチェーンのユースケースを探し始め、エンジニアはこの技術を使って日夜新しいユースケースに関するシステム構築ができるようになった。こうしたブロックチェーンで起きた全般的な技術的シフトと同じものを、AIと機械学習でも見ることになるのだ。

(※訳註3)仮想通貨システムを構築するための基礎技術であるブロックチェーンは、2008年、サトシ・ナカモト氏が発表した論文から世に広がった。同氏の正体は、いまだ明らかになっていない。

いくつかの妥当な対立的論点

  • シリコンバレーのテーマである「ひとつのAPIがすべてを支配する(One API to rule them all)」というのはインチキだらけであり、機械学習では常にインフラレベルである程度のカスタマイズが必要になるだろう。自然言語処理においてHuggingFaceが行ったこと(※訳註4)が、他のあらゆる分野でも起こるだろう、というのが私の考えだ。つまり、シンプルなAPIで大多数のユースケースを征服できるようになるだろう。
  • 「機械学習エンジニアなんて、単なる意識高い系エンジニアが自称する肩書だ。それは数学と統計学のバックグラウンドを平均的なコンピュータサイエンス学科の卒業生より持った人材を意味しているだけだ」という言い分には、全くもって同感だ。それはただの肩書きだ。しかし、もし この職種が不要になったら、そんな肩書は果たして存在しているだろうか。ご明察の通り、機械学習エンジニアは文字通り単なる肩書に成り下がるはずだ。
  • 「私の組織における機械学習エンジニアは、この記事で論じられたような職種ではない」。そうであるならば、ぜひあなたの組織にとってこの職種が何を意味しているのか教えてほしい。私は常に現場を調査して、現状がどのようであるか、そしてどこに向かおうとしているかを把握している。あなたの展望をぜひ聞かせてほしい。
  • 「機械学習エンジニアなんて単なる肩書だよ。誰がそんな肩書にこだわるんだ」と言うあなたは正しい。しかし、まさにその肩書について考えるのが、興味深いのだ。
  • 「機械学習は新しいユースケースと研究が絶えず実現している新興分野であり、今後10年で減速すると考えるのは甘い」。そうした考えは、非常にあり得ることだ!
(※訳註4)HuggingFaceとは自然言語処理を強みとするAIスタートアップ。同社はBERTを実装するためのライブラリをいち早く提供したことで知られている。同社と同社が提供するライブラリについては、AINOW翻訳記事『2019年はBERTとTransformerの年だった』を参照。

この記事に対する私のお気に入りの反応のひとつが、ツイッターアカウントVariiからもらった以下のツイートである。

「あなたが言うように、機械学習エンジニアは単なる肩書です。ほとんどの雇用者はエンジニアに重複するスキルセットを持つことを期待しています。結局、どんな人が一掃されるかではなく、絶えず変化する業界に持続的に適応するに足る多芸な人について論じるほうが好ましく感じます」

私が学んでいる広いコミュニティからは、多くの素晴らしい意見が生まれている。そうは言っても、次のようなたったひとつの意見に関しては、私の考えは決して変わらない。その意見とは、何かに情熱を持っていれば、肩書や分野、トレンドには関係なく、自分の情熱を追求し、クールなものを作るための場所が必ずある、というものだ。

安全な場所にいて、どんどん構築していきましょう。

私は、毎週月曜日にデータセットをシェアして1週間コーディングするDataset Dailyという(無料の)アナリティクスグループを始めました。

Twitterで会話を続けましょう。


原文
『Machine Learning Engineers Will Not Exist In 10 Years.』

著者
Luke Posey

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

無料メールマガジン登録

週1回、注目のAIニュースやイベント情報を
編集部がピックアップしてお届けしています。

こちらの規約にご同意のうえチェックしてください。

規約に同意する

あなたにおすすめの記事

時価総額3500億円超のAIベンチャー企業、Preferred Networksに迫る

あらゆる産業のDXを推進するACESが3.2億円の資金を調達 – アルゴリズムのライセンス領域の拡大と事業拡大を加速

最先端テクノロジーと活用のヒントを学ぶ「Macnica MET2020」が12/11まで開催中!

ディープラーニングによる自動コーディングのTsunagu.AIが1億円の資金調達を実施

【事例つき】DX戦略とは?戦略成功に導く推進法からロードマップまで

スシロー、AI活用で会計を自動化 ーエッジAIで皿の数を計測

「ごちそうさま。」につながるAI活用 -吉野家が目指す従業員の付加価値向上

AIでM&Aが加速する未来

【リモート開催】AI特化型アクセラレーター「AI.Accelerator」14期デモデイレポート

データ可視化を簡単に始めるための5つの「追加の」オープンソースツール

あなたにおすすめの記事

時価総額3500億円超のAIベンチャー企業、Preferred Networksに迫る

あらゆる産業のDXを推進するACESが3.2億円の資金を調達 – アルゴリズムのライセンス領域の拡大と事業拡大を加速

最先端テクノロジーと活用のヒントを学ぶ「Macnica MET2020」が12/11まで開催中!

ディープラーニングによる自動コーディングのTsunagu.AIが1億円の資金調達を実施

【事例つき】DX戦略とは?戦略成功に導く推進法からロードマップまで

スシロー、AI活用で会計を自動化 ーエッジAIで皿の数を計測

「ごちそうさま。」につながるAI活用 -吉野家が目指す従業員の付加価値向上

AIでM&Aが加速する未来

【リモート開催】AI特化型アクセラレーター「AI.Accelerator」14期デモデイレポート

データ可視化を簡単に始めるための5つの「追加の」オープンソースツール