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Chris I.氏が北米のAI市場を見る限りでは、「第三次AIブーム」の熱は冷め、AI技術の研究職に関する求人は減り、AI技術者の供給が需要を上回る景気後退局面に入りました。しかし、こうした見方はAI業界の一側面を見ているに過ぎません。AI研究に対する熱は冷めたかも知れませんが、既存のAI技術を活用して解決すべき問題は、まだ無数にあるのです。このように現状を見たうえで、今後もAI業界で働くにあたっての心得を同氏は以下のように書き記しています。
- 問題を解決するのに、最先端のAI技術は必要ない。むしろ、既存のAI技術を使って範囲の狭い問題をニッチなデータを使って解決することに商機がある。
- データ入力ミスを減らすような簡単なソリューションは、ムーンショットプロジェクトに劣らない価値がある。
- 簡単な機械学習モデルを実装することを体験すれば、AIが多くの人間の労働を奪うのはずっと先の未来であることを実感できるだろう。
- 機械学習ツールは簡単に使えるものになったが、まだ進化の余地がある。もっと簡単になれば、多くの企業が機械学習の恩恵に浴するだろう。
- データサイエンスより先にソフトウェアエンジニアリングを習得しよう。優れたソフトウェアエンジニアが優れたデータサイエンティストになるのは簡単だが、その逆は困難である。
以上のように述べたうえで、AIに関する誇大広告に惑わされることなく地道にスキルを磨き、現実の問題を解決していけば、必ず道は拓ける、ともChris I.氏は語っています。ソフトウェアエンジニアと機械学習エンジニアの両方を経験してきた同氏の言葉は、傾聴に値するでしょう。
なお、以下の記事本文はChris I.氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。また、翻訳記事の内容は同氏の見解であり、特定の国や地域ならび組織や団体を代表するものではなく、翻訳者およびAINOW編集部の主義主張を表明したものでもありません。
目次
技術の習得よりも価値創造を重視する人々の未来が明るい
免責事項:これはオピニオンの投稿です。私はコメントであなたの考えや反論を聞いてみたいと思います。
機械学習のフィールドには、暗がりや暗雲が広がっている。
雇用が凍結されているのだ。
…投資家はAIへの期待を完全に失うという仮説もある。Googleは機械学習リサーチャーの採用を凍結した。UberはAIチームの研究者の半分をレイオフした…機械学習の仕事よりもそのスキルを持つ人の方がはるかに多いだろう。
– Chip Huyen(※訳註1)
今や不景気なのだ。
みんながAIの冬について話している。
人工知能(Artificial Intelligence:AI)、機械学習(Machine Learning:ML)、データサイエンス(Data Science:DS)が最初の危機に陥るのは理にかなっている。これらはほとんどのビジネスにとっては贅沢品だ。
しかし、だからといって未来が明るくないわけではない。
あなたが価値を創造すれば、未来は明るいのだ。
Huyen氏によれば、上記のようにAI業界は一時の熱狂が冷めつつあり、AI研究に投資する企業が少なくなるかも知れないが、機械学習ツールを必要とする企業はまだ多数ある、とのこと。
さらに、AI業界志望者に対して、機械学習よりも先にソフトウェアエンジニアリングを学ぶことを勧めている。というのも、優れたソフトウェアエンジニアは簡単に優れた機械学習エンジニアになれるが、その逆は難しいからである。
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AIの冬はほとんどのAI/ML/DSの職種に影響を与えない
AIの冬とは、AI研究への資金と関心が低下している時期のことである。
しかし、私たち機械学習エンジニアのほとんどは研究をしていない。確かに論文を読んでアイデアを得て、イノベーションを起こす…しかし、既存の技術も使っている。
加えて、MLを搭載した製品の人気は、必ずしもこれからなされる研究量とは関係がない。
むしろ応用されていない研究が増えている。因みに、数十年前に発明された機械学習の実装に関しては、産業界はまだ遅れをとっていない。
「AIを搭載した」製品が今人気なのは、新しい研究成果だからではなく、MLがアプローチしやすいからだ。
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問題を解決するために最先端のAIは必要ない
AIが人気なのは古い機械学習でも通用するから、と述べたが、最先端のAI技術は使うまでもない、とも言える。つまり、逆もまた真なりなのだ。
古典的なアルゴリズム+ドメイン知識+ニッチなデータセットを使えば、ディープニューラルネットなど使うまでもなく、ほとんどの現実的な問題を解決することになるだろう。私たちのほとんどは、最先端のAIが必要な自律自動車に取り組んでいない。
AIビジネスを成功させるにはビッグデータよりニッチなデータが重要であることを、私は以前に公開した記事『AIの民主化など関係ない。データを囲い込んで、どこでもAI企業を立ち上げる方法』で書いた(※訳註2)。
私の考えでは極端に技術力を重視して、反対に問題解決のメンタリティや一般的な開発スキルを軽視する姿勢が、大規模なハイテク企業以外で過大評価されている。
テック業界以外の分野では、ずっと以前に自動化すべきであった退屈な作業や手作業がまだたくさん残っている。そして、そうした仕事を自動化するには、画期的なことを必要としないのだ。
一般に言えば、AIモデルの開発には大量の学習データが必要である。こうした学習データを創業当初から保有しているAIスタートアップは少ない。そのため、大企業が保有するビッグデータに依存するか、オープンソースのデータを活用することが余儀なくされる。
Chris I.氏は、解決する問題の範囲を絞りこめば、比較的少量の学習データで実用的なAIモデルが構築できると主張する。そして、絞り込まれた問題を解決するAIモデルを構築するには、問題に対する深いドメイン知識が必要になる。それゆえ、ドメイン知識と絞り込まれた問題に関するニッチなデータがあれば、AIスタートアップでもデータを収集しながらAIビジネスを展開できるのだ。
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機械学習を利用するが、世界を変えることよりも価値を生み出すことに焦点を当てる
(どんなものであれ)問題を解決したら、みんなが勝つ。
シリコンバレーは、地域社会や知り合いの生活を改善するのではなく、ムーンショットを目指すべきだと思い込んでいる。
私はUberが大好きなのだが、それは世界を変えた。しかし Uberを存続させるために 四半期ごとに50億ドルのコストがかかるなら(※訳註3)、何かが間違っているのかも知れない。
確かに、一部の企業は長期的プランに取り組んで70億人に影響を与えようとしている。しかし、「退屈な」業界でのデータ入力ミスを減らすような単純な改善もまた、価値を生み出すのだ。
The Vergeの記事では、Uberをはじめとしたライドシェアビジネスは成長傾向にあるが、このビジネスの成長は交通渋滞といった社会問題を引き起こすことを指摘している。
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MLを学習することがAIの恐怖と戦う最善の方法
自動化が雇用を奪うという話を聞くが(※訳註4)、そんな話をよく聞くのは恐怖ほど売れるものはないからだ。技術的な失業がすぐそこまで来ているからではない。
機械学習について考えてみよう。そして、機械学習を使って現実の問題を解決するためにモデルを概念化し、訓練し、実装してみよう。こうした開発過程がいまだにどれほど難しいかわかるだろう。そしてすぐに、全般的人工知能(AGI)による乗っ取りからいかに私たちが縁遠いかもわかるはずだ。
インフラはまだまだ発展途上であり、現実のデータは乱雑としている。
KaggleからCSVをダウンロードして特定の問題のためにAIモデルを訓練すれば、その問題を解決するために必要な99%は終わったようなものだ。
機械学習モデルの構築をもっと多くの人が実際にやってみれば、AIに仕事が奪われる心配などせずに夜はぐっすり眠れるようになるだろう。
アメリカのAmazonの梱包作業場では、300人の労働者が2~3人によって管理されている。管理者は、作業員の梱包数だけでなく梱包ペースをも機械的に管理している。そして、梱包ペースが低下すると作業改善の指導を行い、作業が低効率な状況が続くと解雇される。反対に、優秀な作業員にはAmazon Echo等と交換できるAmazonポイントが贈られる。
以上のような管理が半ば自動化された現場で働く労働者たちは、肉体労働による肉体的ストレスよりも、すべての挙動が管理されていることによる心理的ストレスを強く感じている。
現状では、AIによる労働の完全代替は実現していない。しかし、AIによる労働の管理は、現在進行形で実現し発展しているのだ。
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MLを簡単にするツールにはギャップがある
MLツールの使い勝手の良さは、過去10年間のどのアルゴリズムのブレイクスルーよりも、MLの採用に貢献している。
私たちは、ソフトウェアエンジニアがすぐに使えるコンポーネントを使ってMLソリューションを組み立てるところまで来ているが、まだ十分に簡単ではない。
ツールの進歩に伴い、純粋なMLの仕事は少なくなるが、MLを使って様々な問題を解決するソフトウェアエンジニアが急増しているように見える。また、「技術系」以外の企業が、MLの恩恵をより受けるようになるだろう。
もしあなたがMLのために素晴らしいツールを作るエンジニアになったら、私は一生お世話になることになるでしょう・・・。
– Chip Huyen
MLは世界中で価値を高めているが、私が思うにまだその表面を引っかいているだけなのだ。MLの真価を知るには、適切なツールが登場するまで待とう。
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最初にソフトウェアエンジニアリングを行う
あなたがAI関連の科目で高度な学位を持っていない限り、進んでソフトウェアエンジニアリングを学ぶようにしよう(※訳註5)。そして、AIの世界に進出しよう。
ソフトウェアエンジニアリングを学ぶことは、テック業界においてMBAを取得するようなものだ(かつてMBAは価値あるものだったのだ)。ソフトウェアエンジニアリングを学べば、その基礎を習得でき、フルスタックソリューションを作ったり、MLを促進するコードを理解したりすることができるようになるだろう。
求人も増えてきているし、業界の流れが変わると転職もしやすくなるだろう。
多くのソフトウェアエンジニアがML/DS分野にキャリアチェンジして成功している。しかし、その逆はほとんど見られない。
- データサイエンティストの年収はソフトウェアエンジニアより高いものも、求人数はソフトウェアエンジニアのほうが圧倒的に多い。
- 「データサイエンス」の定義が曖昧ので、データサイエンティストとして雇用されても、実際どんな業務に携わるかは不透明である。
- データサイエンティストを多数雇用する企業は稀なので、データサイエンティストとして雇用されると同僚がいなくて孤立する可能性がある。
- ソフトウェアエンジニアが取り組む問題は数多くの前例があり、見通しが利く。対してデータサイエンティストが取り組む問題は、そもそも解決策があるかどうかから検討しなければならない。
- そもそも企業がデータサイエンスを理解していないので、データサイエンティストとして雇用されると思わぬ苦労を背負うことになる。
- ソフトウェアエンジニアリングを学ぶと、データサイエンスを学ぶよりもソフトウェア開発に関する広範な知識とスキルを習得できる。
- 優れたソフトウェアエンジニアが優れたデータサイエンティストになるのは容易だが、その逆は困難。
- 機械学習ツールが使いやすくなれば、機械学習はソフトウェアエンジニアリングの一部に統合される。
- ソフトウェアエンジニアリングがAIによって代替される可能性は低く、代替されるとしてもずっと未来である。
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結論
AIの周りにはメガ誇大広告がある。そして、どんな上昇にも”下落”はつきものだが、準備ができていれば、下落が必ず悪い結果をもたらすわけではない。
(MLを含む)一般的なスキルセットを磨き、現実の問題を解決し、価値を創造することに注力すれば、するべきことが必ずあるだろう。
以下の記事では、株式会社アラヤの代表取締役CEOで、神経科学者の金井良太氏にAIブームの現状について伺っています。合わせてご覧ください。
原文
『ML Engineers Are Losing Their Jobs. Learn ML anyway』
著者
Chris I.
翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)
編集
おざけん