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2020.12.04

時価総額3500億円超のAIベンチャー企業、Preferred Networksに迫る

最終更新日:

現在、日本にあるAI企業の中で、株式会社Preferred Networks(PFN)は最も大きな注目を集めているAIベンチャー企業です。

2020年10月時点で、PFNの推定時価総額は3,572億円とされています。

起業から10年以内の未上場企業で、時価総額10億ドル(約1000億円)を超える企業はユニコーンと言われており、2020年11月現在、日本にユニコーン企業は7社しかありません。PFNは、数少ない日本のユニコーン企業の中でも1位の時価総額を誇っており、大きな注目を集めています。

今回は、PFNの事業内容や特徴にフォーカスしつつ、同社の凄さと注目される理由に迫ります。

Preferred Networksとは

株式会社Preferred Networksは、AI開発を手がけるベンチャー企業です。主にディープラーニングやロボティクスの活用で、医療や交通システム、製造業などあらゆる分野にイノベーションを起こすことを目指しています。

企業概要:300名の社員を抱える日本を代表するAI開発企業

社名 株式会社Preferred Networks
設立 2014年3月26日
所在地 東京都千代田区大手町1-6-1大手町ビル
取締役 代表取締役 最高経営責任者 西川 徹
代表取締役 最高執行責任者 岡野原 大輔
取締役 最高技術責任者 奥田 遼介
社員数 約300名(2020年12月現在)

ビジョン:現実世界を計算可能にすることを目指す

PFNのビジョンは以下の通りです。

『現実世界を計算可能にする。自分たちの手で革新的かつ本質的な技術を開発し、未知なる領域にチャレンジしていく。』

私たちはソフトウェアとハードウェアを高度に融合し、自動車やロボットなどのデバイスをより賢く進化させます。

常に変化する環境や状況に柔軟に対処できる賢いデバイスができれば、物理世界をリアルタイムにセンシングし、現実世界そのものが計算可能になります。

技術を使って、自分たちが見たことが無い、まだ知らない世界を知りたい。
すでにわかっている領域で勝負するのではなく、技術の力で想像を超えた世界に挑戦していきます。

出典:https://preferred.jp/ja/company/who/

このビジョンを見ると、PFNが高い視座を持ち、未知の領域に挑戦する社風だと分かります。

PFNはビジョンを掲げるだけでなく、それがきちんと事業内容や組織論に落とし込まれています。後述で紹介する事業内容やPFNの特徴を見ると、ビジョンがどのように体現されているか、詳しく知ることができるでしょう。

沿革:トヨタやNTTなど多くの大企業と連携

2006年、CEOの西川氏やCOOの岡野原氏らによってPFNの前身となるPreferred Infrastructure(PFI)が、創業されました。東京大学大学院出身の彼ら以外にも、世界的なプログラミングコンテストに参加した優秀な技術者を集め、合計10人のメンバーでスタートしました。

PFNには、PFI時代から「提携企業の下請けをしない」という決まりがあります。下請けを行わないことで、自分たちがやりたい事業、開発したい技術に専念できるからです。

これは現在のPFNの事業内容にもつながっており、現在多数の大企業と対等な関係で業務提携することができています。

2014年 3月 Preferred Networks設立
 10月  NTTと資本業務提携
トヨタ自動車と共同研究開始
 2015年 6月  ディープラーニング向けフレームワークChainer公開
 ファナックと業務提携
8月  ファナックと資本提携
9月  NVIDIAと技術協業
12月  トヨタ自動車より10億円の資金調達
 2016年 7月  DeNAと共同で株式会社PFDeNAを設立
 2017年 5月  Microsoftと協業
 お絵かきコミュニケーションアプリ「pixiv Sketch」と、線画自動着色サービス「PaintsChainer」が連携
 8月  トヨタ自動車より105億円の追加出資
12月  みずほ、日立など合計5社から20億円超の資金調達
 2018年 4月 ファナック、日立、PFNの3社で合弁会社「Intelligent Edge System」設立
10月  PFDeNAとの共同研究で少量の血液でがん14種を判定するシステムの開発を開始
12月  SEMICON Japan 2018にて専用アクセラレータMN-Coreの開発と、それを利用したスーパーコンピュータMN-3の開発を発表
 2019年 5月  日本ベンチャー 大賞(内閣総理大臣賞)を受賞
6月 JXTGホールディングス(現ENEOSホールディングス)から約10億円の資金調達を実施
12月  オープンソース深層学習フレームワークのChainerの開発終了とPyTorchへの移行を発表
2020年 1月 オープンソースの機械学習向けパイパーメータ自動最適化フレームワーク「Optuna」を正式公開
 7月  やる気スイッチと提携し、小学生向けのプログラミング教材「Playgram」を開発
PyTorchユーザー向けの深層強化学習ライブラリ「PFRL(ピーエフアールエル)」を公開
8月 三井物産株式会社との合弁会社「Mit-PFN Energy株式会社」を設立

▼PFNの直近の動き知りたい方は、こちらの記事がおすすめです。

国内ベンチャーNo. 1の時価総額

2020年9月に発表されたPFNの推定時価総額は3,572億円で、国内スタートアップ企業の中でもダントツの1位です。

未上場企業の時価総額が3000億円を超えることは非常に珍しく、東証マザーズに上場している企業でも、時価総額が3000億円を超えている企業は4つしかありません。

事業内容

PFNはAIを活用して多くの事業を手がけています。今回はその中でも特に注目度の高い7つの事業をご紹介します。

自動運転やコネクテッドカーに関する技術開発

PFNはトヨタ自動車と共同で、自動運転やコネクテッドカー(ICT機能を搭載した車)に必要不可欠な物体認識技術や車両情報解析などのシステム開発を行っています。

ぶつからない車の開発

PFNはトヨタ自動車と共同で、自動運転ミニカー『ぶつからない車』の開発を行っており、CES 2016トヨタブースに展示されました。

以下の動画は、ぶつからない車がCES2016で展示された時の映像です。

AIで自動制御された白い車が数台ある中、1台だけ人間が操作する赤い車があり、不規則な動きをします。赤い車が白い車に近づいたとき、白い車は自動で衝突を回避しています。

現実世界で車を動かす際、常に知っている状況に出会うとは限りません。ぶつからない車は、ディープラーニングを使って学習することで、自動運転車が未知の状況に直面した時でも対応できるようにしています。

CityScapes Datasetを使ったセグメンテーション

他にもPFNは、ドイツのダイムラー社、マックス・プランク研究所、ダルムシュタット工科大学のチームが公開しているデータセット「Cityscapes dataset」を活用し、自動運転に必須な領域分割システムの開発を行っています。

上記の画像から分かるように、人、車、自転車、ガードレール、トンネル、交通標識、信号などのさまざまな物体を認識しています。

分散深層強化学習によるロボット制御

同社では、“分散深層強化学習”の技術デモを作成し、ロボットカーが0から自分で操作を学習していくシステムを開発しました。

このデモにおけるロボットカーは、人間が動作を指示するのではなく、強化学習という技術を使い、ロボットが自分で適切な動きを学習します。

具体的に説明すると、ロボットに速い速度で進むと報酬を与え、壁や車などの障害物にぶつかる、逆走するなどの行為を行うと罰を与えるように設定しています。そしてロボットは、報酬がより多くなる動きを自分で学習していく、という仕組みです。

学習初期は何回も失敗しますが、徐々に動きを改善していくため、最終的には、安全で効率的な動きができるようになります。

人間の生活空間で仕事をするロボットの開発

PFNはロボットが身近な場所で活躍する社会の実現に向けて、パーソナルロボットの研究開発を行っています。

アジア最大級の規模を誇るIT技術とエレクトロニクスの国際展示会、CEATEC JAPAN 2018でPFNは、トヨタ自動車の生活支援ロボット「HSR」を使い、最先端の深層学習技術を応用した「全自動お片付けロボットシステム」を展示しました。

同ロボットは、物体認識・ロボット制御・音声言語理解技術に最先端の深層学習を用いて、物をつかむ、置く、動作計画を立てる、人の指示に対応するなど、さまざまなことができます。

特に「物を掴む」という動作は、ディープラーニングの恩恵を大きく受けます。物の形状や素材によって安定した掴み方、持つ場所が変わるからです。

プログラマーが、一つひとつの物の掴み方や持つ場所をルールベースで指定してプログラムを書くのは、物の量が多すぎるため非常に大変です。しかし、ディープラーニングを活用することで、なんども試行錯誤を繰り返しながら自らものの掴み方などを学ぶことができ、最終的には適切な掴みができるようになります。

深層学習を用いたオミックス解析・ 医用画像解析・化合物解析

PFNではディープラーニングを用いて、オミックス解析(ゲノム情報を基礎として、生体を構成しているさまざまな分子を網羅的に調べること)・医用画像解析・化合物解析を中心に研究開発と事業化を行っています。

同社は、血液によるがんの早期診断の実用化を目指し、2016年7月に株式会社PFDeNA(株式会社DeNAとの合弁会社)を設立、2018年11月にアメリカでPreferred Medicine, Inc.(三井物産株式会社との合弁会社)を設立しました。

PFNと株式会社PFDeNAは共同研究を行っており、ディープラーニング技術を活用して、血液中に存在するリボ核酸の遺伝子発現量を元にがんの有無を判定できる高精度なシステムの開発を目指しています。この研究が進むと、少量の血液採取で14種のがんを早期発見できるようになり、高精度かつ身体的・費用的にも患者負担が少ないがん検査が普及することが期待されます。

Preferred Medicine,Incは、単一の血液検査からがんを早期発見、早期治療、薬剤選択、などのサービスを提供しているバイオヘルスケアソリューション企業です。分子生物学、機械学習、ヘルスケア事業開発における世界レベルの専門家が集まっており、研究ベースで活動しています。

同社が開発する血液検査では、簡単な単一血液検査で複数種類のがんをステージ1の早期段階から検出することができます。個別のスクリーニング検査をすることなく、簡単に高い精度でがんの検出ができるため、医療分野において非常に画期的な進歩だと言えます。

イラスト、マンガ、アニメーションへの深層学習応用

キャラクター生成プラットフォーム 『Crypko』

PFNは、キャラクター生成プラットフォーム 「Crypko」の開発を行っています。Crypkoでは、ディープラーニングの1種であるGAN(Generative Adversarial Network)が活用されており、アマチュアでもプロレベルのアニメ顔画像を無限に生成できます。また、パーツごとにユーザーの好みを反映させたり、生成したキャラクターに滑らかな動きをつけて、自然な表情をつけたりできます。

線画自動着色サービス『Petalica Paint』

さらにPFNは、「PaintsChainer」というディープラーニングを使ったオンライン線画自動着色サービス「PaintsChainer」を開発しました。PaintsChainerは、白黒などで描かれた線画ファイルをアップロードするだけで、完全自動着色または色指定の自動着色ができます。現在、同サービスは運営会社がPFNからピクシブ株式会社に変更されており、名称もPetalica Paintに変わっています。

ディープラーニングフレームワーク『Chainer』とエクステンション

Chainer(チェイナー)』は、PFNが開発・提供していた、Pythonベースのディープラーニング向けフレームワークです。

ChainerはGoogleやFacebookのフレームワークと並んで、人気が高いフレームワークでした。しかし、2019年12月にPFNは、研究開発で使用する深層学習フレームワークをFacebook「PyTorch」に順次移行すると発表し、Chainerの開発は終了しました。

ニューラルネットワークを使用した学習を行うための機能がオープンソースで提供されていました。Python 2.x系および3.x系で利用でき、GPUによる演算もサポートしていて、世界的に活用されるディープラーニングのフレームワークでした。

Chainerの特徴として、「柔軟性」「高性能」「直感的」の3点が挙げられます。初心者でもとっつきやすいように開発されており、作成したモデルを柔軟に編集することも可能です。

また、Chainerの拡張機能として以下の5つのライブラリ・パッケージも開発されていました。

ディープラーニング専用プロセッサー『MN-Core』

ディープラーニング専用プロセッサー『MN-Core』(出典:PFN公式サイト

PFNは、ディープラーニングの「学習」フェーズの高速化に向け、ディープラーニングの特徴である「行列演算」に最適化した専用チップ「MN-Core」を開発しています。MN-Coreは、近年のチップ開発で特に重要視される電力性能(消費電力あたりの演算性能)において、世界最高クラスの性能を誇っています。

MN-3は、MN-Coreを搭載した深層学習用スーパーコンピュータです。2020年11月の省電力性能ランキング「Green500」では、世界2位にランキングされました。なお、前回2020年6月版では世界1位を獲得しています。

PFNは今後、MN-3向けのソフトウェア開発を進めることで、自動運転、ロボティクス、創薬をはじめとするPFNのさまざまな研究開発にMN-3を活用していく予定です。

PyTorchユーザ向けに深層強化学習ライブラリ 「PFRL」

PFNは、ディープラーニングのフレームワーク「Chainer」を終了した後も、AI分野の開発基盤を整備し、公開していく姿勢を見せています。

PFNは2020年7月30日に、PyTorchユーザー向けの深層強化学習ライブラリ「PFRL(ピーエフアールエル)」をオープンソースソフトウェア(OSS)として公開しました。Chainerを提供した際にはChainerRLとしてライブラリを公開していましたが、その後継となるものです。

深層強化学習は、強化学習とディープラーニングを組み合わせる手法で、指標(報酬)があっても、どうすれば、その指標を伸ばせるのかの手法がわからない対象を攻略する際に最適です。

プリファードネットワークスの特徴

これまでPFNの概要や事情内容についてご紹介してきました。なんとなく、PFNがすごい企業だということはお分かりいただけたと思います。

しかし、なぜPFNは世界中から大きな注目を集め、こんなにも時価総額が高いのでしょうか。それは、PFNに3つの大きな特徴があるからです。

AI分野の圧倒的技術力

PFNの最も大きな特徴は、圧倒的なAI技術力の高さです。自前で高いAIシステムを開発・構築できる世界レベルの技術者が集まっています。

同社の社員数は約300人で、そのうちの約8割が技術者です。技術者の中には、GoogleやApple出身のエンジニア、プログラミングの世界大会入賞者など、優秀なエンジニアが在籍しています。

同社が開発するAIシステムは、大企業からも注目され、トヨタ、NTT、ファナックなどの企業が出資・業務提携を行っています。特にトヨタ自動車からの出資額は総額100億円を超えており、PFNの技術力に信頼を寄せていることが分かります。

組織力の高さ

PFNは会社の技術力の他に、「ゴールデンチーム」「スーパーエンジニア集団」「頭脳集団」というように、組織論において注目されることも多いです。

PFNが組織として注目される理由は、社員の圧倒的な成長力にあります。

PFNは、何か尖った知識を持つ技術者が集まった組織です。彼らが課題に向かうとき、それぞれの専門知識を生かした意見を交わすことで、お互いに色々な分野の専門知識を得ることができます。結果的に、社員のレベルが上がり、同時に組織の技術力も向上していきます。

また、Preferred Networksには以下の4つのValueがあります。

・Motivation-Driven(熱意を元に)
・Learn or Die(死ぬ気で学べ)
・Proud,but Humble(誇りをもって、しかし謙虚に)
・Boldly do what no one has done before(誰もしたことがないことを大胆に為せ)

どれもユニークなValueですが、中でも『Learn or Die(死ぬ気で学べ)』に、PFNの特徴が現れています。

最新の技術を取り扱っているPFNでは、新しい技術をキャッチアップする学びか欠かせません。PFNの優秀な技術者たちが貪欲に学んでいるからこそ、技術力の高い組織であり続けているのだと思います。

AI事業領域の広さ

PFNのディープラーニングを活用した事業領域は、AIシステム開発からフレームワーク開発、教育事業まで多岐に渡ります。

また、以下のように同社はさまざまな企業から出資を受けており、業務提携を結ぶことで事業領域の幅を大きく広げています。

  • トヨタ自動車とは自動運転の物体認識技術
  • NTTデータはビッグデータ解析
  • ファナックとはロボット技術

さらに、PFNは出資されるだけではなく、ベンチャー投資も行っています。

2020年6月、ゲーム会社やアートハウスにゲームクリエイティブ制作を行ってきた株式会社フーモアに、りそなキャピタルと合同で1億3000万円の投資を行いました。

PFNの今後

今後PFNはロボット事業に力を入れていくことが予想されます。

CEOの西川氏とCOOの岡野原氏が書いた『Learn or Die 死ぬ気で学べ
~プリファードネットワークスの挑戦~』という本に、「パソコンが身近になったようにロボットが身近になるときがくる」このようなフレーズがありました。

現に、PFNはロボット事業に大きく力を入れており、「全自動お片付けロボットシステム」の開発を行っています。

自動車が今の倍増えることは考えにくいです。しかし、ロボットが10倍、100倍に増える可能性はあります。いつかPFNが開発したロボットを持つことが当たり前になるかもしれません。

まとめ

今回は、日本を代表するユニコーン企業「プリファードネットワークス」について紹介してきました。

PFNは国内トップクラスのAI技術を誇る企業ですが、世間的にはあまり有名な企業とは言えません。ただ、今後自動運転やロボット技術が進歩すれば、同社の注目度は上がっていくでしょう。

また、同社の時価総額がどのくらい増加するのか、上場したときの株価はいくらになるのかという部分にも注目です。

PFNの存在・事業内容を知ることで、AIに関する知識を深めることができます。AIリテラシーを高めたい方は、今後PFNの動向を追ってみると良いでしょう。

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