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2021.01.12

UXなしに2021年のAIは成長しない|UXドリブンなAI導入の3つのポイント

最終更新日:

2020年、データやデジタル技術を取り巻く環境は大きく変化しました。その要因となったのは、新型コロナウイルスの感染拡大による移動制限と、デジタル庁の創設に向けた行政改革です。

データとデジタル技術を取り巻く環境の変化は、AI(人工知能)にも多大な影響を与え、AI分野でも多くの変化が生まれました。

今回の記事では、2020年のAIを「要素技術化」という観点でまとめつつ、重要性が増すAIのUXについて解説します。

この記事は、AINOW編集部と富士通クラウドテクノロジーズ 林真亜子との共同執筆です。

林真亜子 富士通クラウドテクノロジーズ データデザイン部 データディレクター ・主に物流業や製造業の画像解析プロジェクトを担当 ・人工衛星データ提供サービス「Starflake」のプロダクト担当

2020年のAI|UXの重要性が高まった1年

DXの潮流でAIは一つの要素技術に

今、AIのUX向上が求められています。

背景には、2020年のDX(デジタルトランスフォーメーション)への注目の高まりがあります。DXの注目とともに、さまざまなツールの導入が進み、他のシステムとAIの連携を考慮する重要性が増加しました。また、行政のデジタル改革により、デジタルデータが増加し、AI活用の土台が整いつつあるともいえます。

2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大による移動制限、デジタル庁の創設に向けた押印などの規制緩和の2つの要因により、データやデジタル技術を取り巻く環境が変化しました。

上記の2つの要因は、「DXの台頭」の一言にまとめることができます。2020年には、さまざまなメディアでDXが取り上げられ、今まで以上に各分野でデジタル技術の活用が進もうとしています。

DXの定義は経済産業省が以下のように定めています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

新型コロナウイルスの感染拡大下では、移動制限によって業務に支障がきたされないように、各社がデータを共有するクラウド基盤の導入を進めたり、オンライン会議ツールなど、場所にとらわれないためのデータやデジタル技術活用が進みました。合わせて2020年は、SaaSなどのサービスの導入が進み、社内ツールの連携の重要性が高まり、AI技術の相対的新規性が下がった1年だったとも言えます。今後のAI活用では、現場で活用されるツールとの連携を考え、システム構成の全体図を描き、UXを向上させていくことが重要です。

行政改革では、特に注目されたのは、「はんこの廃止」です。從來の業務フローの効率化を阻害し、業務フローのデジタル化を妨げていた「はんこ」が、行政手続きの中でほとんど廃止される予定で、あわせて文書の管理ツールや、電子契約ツールの導入が今後さらに進むと予想される他、文書データの蓄積量の増加も予想されるでしょう。

AIに視点をずらせば、社会がデジタル技術やデータ活用を幅広く受け入れるようになり、AI活用の基盤が整った1年だったと言えます。

これから、AIの存在価値は大きく変化していきます。從來のようにAIの導入自体が目的と化すのではなく、解決すべき課題が明らかになり、AI導入の壁(データ不足、不明瞭な課題など)も少しずつ取り払われていくでしょう。

一方で、AI分野では非精度思考がさらに重要になります。精度だけではなく、実際に現場で、どれほどの効果を発揮するのか、成果が求められるようになってきています。技術的な試行錯誤も大切ですが、それ以上に現場での使われ方、現場が受け入れられる画面設計が重要です。

AIは幻滅期に入っているといわれています。つまり、AIの研究分野は進んでいるものの、画期的な技術進歩は頭打ちになってきているということです。「人間の限界を越えるような精度」や「奇をてらうユニークなAIサービス」ではなく、社会実装としてのAI活用が求められるフェーズへと入っています。

AIの実装に至る割合は17%に過ぎない

PwCコンサルティングがNEDOの委託を受けて実施した調査「平成30年度成果報告書 産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」によると、17%のAIプロジェクトしか実用に至らないことが報告されています。

「平成30年度成果報告書 産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」を元にAINOW編集部が作成

AIが実装まで至らない理由の中には「AIの知識不足」「導入効果への不安」「手軽に利用できるAIサービスがない」などが挙げられますが、どれもAI開発を行う当事者内での課題感です。一方で見落とされやすいのが、「社内の現場関係者の理解が得られない」という課題です。

AI白書 2020 P306内の図 3-4-21 『「検討中/関心あり」と回答した企業におけるAIを導入検討するに当たっての課題』を元に林が作成

特に業務上のプロセスを改善するためにAIを社内導入する場合、「AIが開発に至らない」だけではなく、社内関係者に価値を提供できるかを確認することが重要です。

これまでは「AIサービスをローンチする」とAIを使うこと自体への期待感が高かった一面もありましたが、実際は従来の方法が根強く残ったり、結局人がやったほうよいと判断され、現場に適用されないケースも多く存在しています。

さらに、AIを実際に現場で使ってどれくらいの効果があるのか?の成果も求められるようになっており、技術的な試行錯誤以上に現場での使われ方、現場が受け入れられる画面設計(UXの設計)=UXドリブンなAIが重要になっています。

サイエンス部分(AI機能)の試行錯誤にかけられる予算は限られています。「現場で必要な認識精度」と「現場で許容できるシステムの操作の煩雑さ」を天秤にかけ、やらなくてもいいサイエンスの試行錯誤を初めからカットし、画面設計でカバーできる部分は初めから手を付けない、とすることで最低限の予算での現場導入を実現します。

UXドリブンなAI導入の3つのポイント

では、社内の関係者に受け入れられるAIを設計し、スムーズな導入を実現するにはどうしたらいいのでしょうか。ここでは以下の3つのポイントにわけて解説します。

  1. 現場のヒアリング
  2. プロトタイピングで検証を重ねる
  3. 実際に開発する

①現場のヒアリング

現場で活用されるAIを設計するために最も重要なプロセスが現場へのヒアリングです。ヒアリングは現場の課題=悩みの仕入れ作業です。良質な課題を仕入れてこそ、効果の高いAIを構築可能です。

しかし、現場の声を聞くと言っても、その方法論は曖昧になりがちです。単に現場の担当者と会話をするだけでは、現場の課題を効率よく収集できません。

そこで、この記事では、現場から課題を収集する方法として以下の2つをご紹介します。

i. 直接現場に足を運ぶ

最も単純かつ、重要な課題収集方法は現場に足を運ぶことです。アンケートの収集などの方法は簡単ですが、その分解像度が低くなってしまう恐れがあります。

実際に現場に足を運び、どんな点で業務が停滞しているのか、どんな悩みを抱えているのかを目で見て耳で聞くことで、具体的に課題を把握できます。

同時に、現場の人の作業環境の確認も必須です。例えば、軍手をつけて作業している人が、タブレットでAIを利用することは大きくUXを低減させてしまいます。また、現場のリテラシーや実際に利用する際のシチュエーションも確認しておきましょう。

例えば、高齢者が現場に多い場合は文字のサイズを大きく、寒い環境では手が震えるのでボタンのサイズを大きくするなど、小さな配慮が使いやすさを大きく向上させるでしょう。

また、現場へのヒアリングでは、システムを使う環境の確認も必須です。画像認識系のAIであれば撮影環境(照明の明るさなど)、音声認識系のAIであれば、現場の雑音の状態など現場の課題以外にもAIの阻害要因を確認しておきましょう。

ii.現場向けにアンケートを行う

現場で仕入れた課題が、その他の人にも共感されているかを調査する際には、アンケートの利用も効果的です。一方で、アンケートだけに頼ると数字だけで判断せざるを得ないなど課題の解像度が下がってしまう可能性があるため、注意が必要です。

アンケートを実施する際には、アンケートフォームを活用すると良いでしょう。Googleフォームを活用し、Googleスプレッドシートを連携して活用することがおすすめです。アンケートは「Who(誰が)」「What(どんな業務で)」「How much(どれくらいの時間をかけて)」「How often(どれくらいの頻度で)」「Why(なぜ困っているのか)」を具体的に記入できるようにしましょう。

また、アンケートでは、現場の当事者によって回答が異なる場合があります。人数を絞りつつアンケートを実施し、現場で得た課題が共通課題として認識されているのかを確認することが重要です。

②プロトタイピングで検証を重ねる

①で現場の課題を抽出したあとは、本当にその課題をAIを用いて解決可能かどうかを検証する必要があります。そこで、重要なのがプロトタイピングです。プロトタイピングで機能やアイデアを形にすることでユーザーから早めにフィードバックを得られます。

作成:林

プロトタイピングにはいくつかの手法がありますが、まずはAdobe XDやInvision Studio、Microsoft PowerPointなどを活用し、想定される画面を作り、現場の感触を確認すると良いでしょう。ときには手書きで画面を設計するレベルのものでも、現場の担当者の温度感を知るにはよいきっかけになるかもしれません。

プロトタイプ例:画像認識系のAI

また、プロトタイピングを作る際も、仮説を以下の5Wに分解して定義し、用途を整理すると良いでしょう。

(例)
Why:不良品かもしれない商品があるから不安だ
Who:現場の作業員/若手の品質検査担当
What:不良品の被疑がある商品3つ/ロットまわり
Where:工場の作業机・少し暗いかも
When:金曜日の午前中の検査時間

プロトタイピングの作成では精度だけでなく、信頼度や現場の使い手の気持ちの考慮が重要です。既存の人の業務がAIによってそのまま置き換わることはほとんどなく、業務プロセスがどう変わるのかを設計するためにも、信頼度や現場の使い勝手が重要になります。

例えば、運輸業においてダンボールが破損しているのかを判定するAIを構築するとしましょう。ただ単にダンボールが破損しているとAIが判定しても、その結果に現場の人が納得してくれるとは限りません。

作成:林

そこで例えば、判定結果を表示するだけではなく、過去の類似の破損例を提示するような画面設計を取り入れたらどうでしょうか。過去の類似症例に紐付いた根拠を伝えることで、現場はさらに納得感を持ってくれるでしょう。

また、画面が煩雑になっていて、不必要な情報も多く掲載されていては、見やすさに欠けてしまいます。誰に、どんな情報が必要なのかを考えた上でプロトタイピングを作成し、現場の感触を確かめましょう。

また、達成すべき精度を確かめるためにも、プロトタイピングは必須です。

「AIを実際に学習させてみないとどれくらいの精度が出るかわからない」という意見も散見されますが、プロトタイピングを用いて、現場でどれくらいの精度が求めれているのかを確認するゴールの明確化が重要です。多くのプロジェクトでは、目標の精度に達しないことも多く、課題の設定を変えたり、画面の設計でカバーすることも多いのが現状です。予算が限られているからこそ、プロトタイピングを用いて現場の検証を重ね、AIの無駄な開発工数を削減することが重要です。

③実際に開発する

現場のヒアリング、プロトタイピングまで終われば、求められるAIの像が明確になってきているはずです。ここで、本格的にAIの開発を進めていきます。

特に重要なのは、現場のヒアリングやプロトタイピングで得た仮説通りにAIを構築できるかの確認です。

実際にデータを学習させ、現場で活用できるレベルのAIが実現できればプロジェクトの成功可能性は大幅に向上するでしょう。

「やってみないと分からないAI」は、社内コンセンサスが取れないと不信感マシマシになって、プロジェクトが打ち切られてしまいます。経営を巻き込んで継続した予算を取るには、プロトタイピングをベースに期待値を調整していくことが重要です。動くモノが一番の説得材料です!

2021年のAIは使われ方から逆算する

AIやDXは定義が非常に広い概念であり、中身を具体的に知ることが重要です。2021年のAI分野の発展のためにも、再度AIやDXの定義に立ち返ってみるのも良いでしょう。

AI専門ニュースメディア AINOW
AI専門ニュースメディア AINOW
https://ainow.ai/2020/10/13/228560/
日本最大級のAI・人工知能専門メディア

冒頭で述べた通り、2020年はデジタルツールの導入が今までになく急速に進み、DXが各分野で注目を集めています。2021年はさらに多くのデジタルツールが企業に導入されるようになり、AIを業務に導入する場合も、使われ方から逆算する考え方が重要になります。2021年は「やってみないとわからないAI」のリスクをいかに回避できるかがポイントになってきます。

AI機能(サイエンス)とシステム(画面設計)の要件のうち、前者はいわゆる「やってみないと分からない部分」です。

今まではAI機能から着手するケースが定石でした。しかし、完成品(現場導入)のイメージが湧いていない中、サイエンス部分の試行錯誤をすると精度というわかりやすい数字ばかりに目がいってしまい、そのAIが使えるのか、使えないのかのは判断までに膨大な時間と費用が必要になります。

今後は、システムの要件からAI開発に着手することで、現場からプロジェクトの担当者、経営層までが共通の導入イメージをもち、AI機能部分に無駄な時間を費やさない進め方が必要です。

おわりに

2021年はAIを含めたデジタル技術を活用でき、企業体質を変革した会社と、そうではない会社で、大きく競合優位性に差が開ける年になるでしょう。

今こそ、企業内の課題に立ち返り、現場で使えるAI活用を進めていくことが重要です。

共著者(林)が所属する富士通クラウドテクノロジーズでは、「DX/AI推進を担当しているがうまく進まない」「情報収集はしているけど今後どうすれば良いのか、どの課題から着手していくべきか迷っている」という方に向けたウェビナーを2021年1月21日13:15〜から開催します。

「現場で使えるAI」をキーワードに、以下の3点を詳しくご紹介します。

  • DX/AI・データ分析とは
  • AI・データを使ったDXの実現が全く進まないクリティカルな理由
  • AI・データ分析プロジェクトを推進する3つのポイント

2021年、よいスタートダッシュを切るきっかけにもなるウェビナーです。ぜひご参加ください。

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