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2021.04.14

シナモン創業者の堀田氏がDX戦略の勝ちパターンを解説|戦略デザインのポイントとは

最終更新日:

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大による移動の制限や、行政でのはんこの廃止などの流れを受け、さまざまな分野でデジタルツールが使われるようになっています。あわせてDXの注目も高まり、AI分野でも、AI-OCRや需要予測AIなどを導入する企業も増加しています。

DXやAIなどの言葉が飛び交う中、これから企業の優位性を高めていくためには、AIやDXを戦略に落とし込み、会社全体で変革を進めていく必要があります。

2021年4月14日、国内を代表するAIベンチャー企業、株式会社シナモン 創業者 堀田 創 氏と『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』の著者としても知られる尾原 和啓 氏により、『ダブルハーベスト 勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン(以下ダブルハーベスト)』が刊行されました。

今回は、数々の大企業のAIやDXの戦略に携わってきた堀田氏に、今までの経験から見えてきたDX戦略の勝ちパターンについてインタビューしました。

『ダブルハーベスト』で伝えたい想い

ダブルハーベストとは、「1回収穫して終わり」ではなく、AIを組み込んだ戦略を正しくデザインし、自走する仕組み(ループ構造)をつくることで、二重、三重に実りを収穫し続けられることを指します。(本書より引用)

ーー今回はどのような経緯でIT評論家である尾原氏と『ダブルハーベスト』を出版することになったのですか。

堀田氏

私と尾原さんでブレストする機会は日常的でした。そして、数を重ねるごとに、「AI活用の勝ちパターンのフレームワーク」が見えるようになってきました。それを体系的にまとめることになったのが出版のきっかけです。

2人で考えをまとめ直している時に「ループ」という概念を使うことにより、さまざまなことが説明できそうだと思いました。

ーー『ダブルハーベスト』はどのような方に読んでいただきたいですか。

堀田氏

組織でDXのプロジェクトを設計する方や、そのプロジェクトに関わる方々に読んでいただきたいです。

DXのプロジェクトを担当する方は、必ずしもAIの技術に詳しい必要はありません。ビジネスに関するある程度の知識があれば、AIやDXの事業の戦略を立てることはできるからです。

「技術を知る」よりも「ビジネスパターンを知る」ことが重要で、プロジェクトで起こりうるあらゆるパターンを含めて考えると、全体像が見えるようになります。『ダブルハーベスト』を通じてそのような啓発ができればいいと思っています。

また、DXに関わる方だけではなく、ベンチャー企業の経営者やプロダクトマネージャーにも読んでいただきたいです。

ベンチャー企業の経営陣の方々はDX戦略について関係ないと思う方も多いと思いますが、AIを活用しない場合でも、社内のあらゆるデータをすべて貯めておき、いずれ使える時が来ると考えたら、関係ないと思う起業家や経営者の方はいないのではないでしょうか。

例えば、フィットネスを経営している方がいたとします。ジムの中にカメラを1台設置するだけで、どのような会話があるのか、どのようなトレーニングメニューに取り組んでいるのかがわかるようになります。

すぐに解析できなくても、データがあるだけで次のアクションに移すことができます。とにかくデータを貯めてみる、仕掛けてみることが大切なのですが、なかなか行動できず、自社の強みを活かせていない経営者の方は多くいます。

この本を通じて、そのような方々の刺激になればいいという社会的な想いが強くあります。

DX時代のトレンドは「自然言語処理」へ

ーー株式会社シナモンが設立されてから5年が経ちますが、業界のトレンドはどのように変化しているとお考えですか。

堀田氏

2016年から2018年は、画像認識や自然言語処理などの「技術」に注目が集まっていました。2018年からはAIを搭載した「アプリケーション」、2020年はAIから「DX」に流行が変わりました。

技術面では、自然言語処理に関する解像度が上がっています。

例えば、画像処理では、シーンごとでのマクロなタスクになるので、市場が広がらずAI活用は進みません。ですが、自然言語処理の領域は発展すると、さまざまな技術と結びつけることができるので、活用の幅が相当広くなっていきます。

自然言語処理の分野は、文脈を読むことができ自然言語処理モデル「BERT」や、文章自動生成AI「GPT-3」の発表により、その可能性が注目を集めており、社会貢献が期待されています。

▼参考記事
データベースの概念を変えるLINEの超巨大言語モデル開発|日本語対応の難しさ | AI専門ニュースメディア AINOW

堀田氏

自然言語処理は、AIの核となるトレンドだと思うので、今後も続いていくでしょう。この分野は「活用するほど売り上げが伸びる領域」ですので、投資すればするほどビジネスが大きくなるため、各企業の投資額も増えていくと考えるのが自然です。

例えば、コールセンターでクレーマーを対処しようとした時に、自然言語処理機能を備えたAIによりそのトラブルと似たようなケースの対処法を提示した場合、「検索」というユースケースを圧倒的に超えると思います。

人の負荷を軽減できるため、今後も自然言語処理を活用する機会は増えていくと思います。

戦略と自然言語処理の掛け合わせ

ーーDXに取り組む中で、戦略と自然言語処理の掛け合わせは重要になってくるのでしょうか。

堀田氏

そうですね、その2つを掛け合わせた上で、他者を圧倒できるUVP※1を作れるかどうかが重要になります。

おそらく今後は、誰にでも役立つ機能よりどのような意味を提供しているのかを注目して見られるようになると思っています。

転職活動で例えるなら、「他のサービスよりもマッチングがうまくいく」「不安を抱えずに転職活動に打ち込める」といった感情価値に根ざしたりと、さまざまな角度でバリューの打ち出し方が見つかります。

パーパス(目的)ドリブンで考えて「感情価値で他社と差別化する」という戦略になった場合、サービスのユーザーとのコミュニケーションの中で、感情価値を計測して引き上げることになります。そのような場合、「いかに人っぽいコミュニケーションが含まれているか」という話に行き着くことがあります。

そうなると完全自動化よりも、実際に人が対応し、お客様の反応と合わせてデータを貯めることにより、「お客様がいつ安心するのか」のような感情データで結果的にAIの学習を促進できるようになります。

中長期で考えると、その方が結果的に「感情理解」を強みとしてお客様一人ひとりを大事にしながら、AIの力でスケールすることが出来るかもしれません。

ですので、私は結局パーパスに立ち返って考える必要があると思います。差別化ポイントを決めたら、それ以降の戦術は差別化ポイントごとで変わるはずなので、その議論の中で必要になるデータを集めることで、汎用性が高い自然言語処理と掛け合わせることで、勝ちの戦略につながっていくということです。

※1 UVP:Unique Value Propositionの略称。組織や個人が提供する独自性のある価値のこと。

ダブルハーベストの成功事例

ーーダブルハーベストを実践している企業の中でも成功している事例はありますか。

堀田氏

損保ジャパンが2021年の3月にリリースした「入院パスポート」がいい例だと思います。損保ジャパンは、DX専門の部署が設立されていて※2、さまざまな取り組みをしているんですよね。

「入院パスポート」は、2次元バーコードから実費型医療保険の申し込みできて、5分程度で手続きを終えることができます。また、原則24時間以内、最短30分で保険料を受け取ることができるようになっています。

この事例は、「データを取得する際にUXの満足度がどれだけ高いか」と、「バリエーションのプロセスのオートメーション」の2つがポイントになっています。どちらもデータを貯めているので、ユーザーが使うごとに精度がどんどん上がっていきます。

他の企業が同じようなサービスを展開した場合も、他社が30分かかることを損保ジャパンは5分でできるようになると思います。

注目されるようなDX事業を始めたら、他社に真似されることが多いですよね。真似されたタイミングでどれだけ先行者利益を担保し続けられるかがダブルハーベストのポイントです。

はじめは他社と差別化できるかもしれませんが、その後は他の大企業に追い越されることも十分に考えられるので、そうならないようにUXを突き詰めておくことが重要になります。そうすることで、同じようなサービスがリリースされても「安心できる」「不安がない」という理由で他者と差別化し続けることができます。

その先行者利益をワンタイムでなく「勝ち続ける仕組み」に引き上げるためには、「お客様がどの点に不安を感じているか」ということや、「どのように解決しているか」が分かるデータを継続的に貯める仕組みが必要になります。はじめは新しいサービスで話題を作り、その後は他社が同じようなサービスを開発しているうちに、より先の研究を進めていくことまですることで、勝てる戦略になると思います。

成功事例から学ぶパーパスドリブン

ーー『ダブルハーベスト』でもありました「自社のサービスの強みを活かしながら、データを活用する」ことは、DXの基本だと思います。自社の強みを把握した上で、データドリブンでさらにAIを活用することが重要になるのでしょうか。

堀田氏

そうですね。ここでの強みは「現在の強み」ではなく、「未来の強み」ということです。

DXに取り組むにあたり「顧客に対する感情価値を大切にしている」とか、パーパスレベルまで落とし込んで「未来でこうあるべきだ」と考えた時に、需要予測の目的に関する売り上げなどを話していたら、それは実現できないと思います。

しかし、部署単位でそういうことをしてしまうケースがあるので、パーパスを重要視する必要があるのです。DXに取り組む目的は、需要予測で売り上げを最大化することではなく、自社のサービスの本来の価値をユーザーに届けることです。

企業が本来届けたい価値に立脚してDXを旗振りすることで、必要な場所に必要なだけコストを割けるようになります。そうすることで、ユーザーの満足度も上がっていきます。

ですので、何を改善しようか考えた時に、目の前のKPIだけを考えるのではなく、パーパスドリブンで「本当に実現したいことは何か」ということにストイックに向き合い、そこにAIを集中投下することが重要だと思います。

ーーAIを戦略的にデザインする時のポイントを教えてください。

堀田氏

戦略をデザインする上で大事なことは、「UVPを極めていくこと」や、ヒューマンインザループ※3の考え方を組み込むことです。

AIを活用して価値を最大化しようとした時に、「フルオートメーションで作業を効率化しよう」という発想になるケースがあるのですが、5割自動化や7割自動化などのラインで考えた方がAIの活用領域は増えると思っています。

例えば、「Webサイトに呼び込んでから、チャットボットに誘導する」流れを考えた時に、AIが活用されているチャットボットの前の段階で、9割のユーザーがコールセンターに行ってしまうことがあります。これはヒューマンインザループを考えられていないため、AIを活用できていないのです。

「仕事を100%代替できる」と言った方がインパクトは大きいですが、現在の段階でそのようなケースは限られているため、100%代替できると言ってしまうと活用の幅は狭まってしまいます。

AIは人間の代替になるのではなく、あくまでも人をアシストする形でAIを活用することで、AIの効果は発揮されるため、ヒューマンインザループの考え方も大切にしています。

※3 ヒューマンインザループ:機械学習をさせた際に、一度ラベル付けをしたデータが認識されない場合に、人が介入して例外となるデータを取り込むこと。

ーー業務をタスクに分解して、AIに任せるタスクと人が担当するタスクを定義してヒューマンインザループを作ることが重要ということですね。

堀田氏

その通りです。長年同じ職種に就かれている方は、コミュニケーションコストを考慮すると自分で処理した方が早いことも多々あると思います。この場合、業務をオートメーションにすれば単純に人件費を削減できるわけではなく、トータルコストを見極める必要があります。

本来なら1年間で10個のプロダクトをリリースしたいが、7個で妥協しているなど、スケールできない場合、この考え方は有効になります。生産性も上がり、それによって価格も下がり、アウトプットの量も増えていくと思います。

このような場合でも、データを貯めることが重要になります。例えば、Zoomでミーティングする時に、録画することでコミュニケーションの改善につながることがあります。AIに関係なく、根拠となるデータがあることで、改善の精度は大きく違います。

細かいタスクでもデータを取ることで、その後自動でフィードバックしてくれるサービスに活用でき、コミュニケーションやセールスの改善につながることもあるので、人とAIのタスクを分解することは重要です。

DX戦略で失敗する2つの組織

ーーDX戦略でうまくいかない組織はどのような組織でしょうか。

堀田氏

まずは、矮小化されたビジョンを前提に現場が動いてしまうことです。

AIを活用していくというメッセージや、AIの活用フィールドやポテンシャルだけを現場に伝えても、変革は起きません。DX戦略は、経営層がデータと共存した5年、10年先のことを考えたビックピクチャーを練ることで効果を発揮します。その粒度までビジョンを描けていないと、AIを実装する現場も動かないのだなと実感しています。

次に、ビジョンがフレキシブルではない組織ですね。

例えば、2年前から自然言語を使わずにタスクを処理していた組織に自然言語処理への変更を提案しても、「2年前からこの方針で決まっていて、動いてしまっているので変えられません」と言われてしまうケースがあります。そのような場合は、AIを提供する私たちも動けなくなってしまうため、成果を出しきれなくなってしまいます。

先を見据えたビジョンがない」ことと、「ビジョンや戦略をもう変えられない」ことがDX戦略でうまくいかない組織の特徴です。

ここ数年で技術は大きな変化を遂げていますよね。昔は大量のデータが必要とされていましたが、今は少量のデータで機械学習ができるようになったり、BERTの発表により、画像処理から自然言語処理へ注目が集まるようになりました。

技術の変化と同時に、DX戦略の勝ちパターンもどんどん変化するので、組織の柔軟性がキーポイントになります。

さいごに

社内でDXを推進する時には、経営者を中心に5〜10年先の未来の像をパーパスドリブンで言語化してメンバーに伝えることが重要です。

現場任せにしてしまうと、AIの価値が発揮できずコストが無駄になってしまうので、戦略をデザインする時は人とAIのタスクを分解させた上で、DXの取り組みに取り組むといいでしょう。

今回、取材に協力していただいた堀田氏は『ダブルハーベスト 勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』という書籍を刊行しています。

DXのプロジェクトを推進する上で、戦略デザインについて悩んでいる方は、是非一度手に取ってみてください。

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