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ヤマトホールディングス株式会社は、2020年1月に経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を発表しました。
「YAMATO NEXT100」とは、「宅急便のDX」「ECエコシステムの確立」「法人向け物流事業の強化」の3つの事業構造改革と、「グループ経営体制の刷新」「データ・ドリブン経営への転換」「サステナビリティの取り組み」の3つの基盤構造改革で構成されており、持続的な成長を目指しています。
今回はヤマト運輸株式会社の執行役員(DX推進担当)である中林紀彦氏に、構造改革の裏側に関してインタビューしました。
「YAMATO NEXT100」とはなにか
YAMATO NEXT100は、ヤマトホールディングス株式会社が2020年1月に策定した経営構造改革プランです。
ヤマトホールディングス株式会社は、2017年に発表した、創業100周を迎える2019年に向けた中期経営計画「KAIKAKU 2019 for NEXT100」の成果と課題、外的環境の変化を踏まえた上で、今後のヤマトグループにおける中長期の経営グランドデザインとして「YAMATO NEXT100」を策定しました。
顧客や社会のニーズに応える新たな物流のエコシステムを創出し、次の時代も豊かな社会の実現に向け、持続的な貢献を果たす企業を目指した経営グランドデザインです。
データ・ドリブン経営への転換
ーーYAMATO NEXT100が発表されてから2年が経ちました。ここ2年でどのような動きがありましたか
2年前に発表されたYAMATO NEXT100の中では、データ・ドリブン経営への転換をかかげ、DX全般はこの※デジタル戦略推進部という大きな組織全体で行っています。
私は、データ・ドリブン経営の中でDX推進を担当しており、YAMATO NEXT100にある5つのデータ戦略を進めています。 データ戦略では、初めにデジタル基盤である「Yamato Digital Platform」の構築から始めました。その基盤の中で顧客からの出荷データや荷物を運ぶリソースデータなど3つのデータセットを整備し、それらを用いてデータ分析や業務量予測を行うなど、データ・ドリブン経営を推進しています。 現在は、そのためのチームビルディングや環境構築も含めて、データ整備、※ML Ops提供を進めています。 |
※デジタル戦略推進部:各オペレーションをトータルに支えるITの開発、およびデータ活用を通じて、お客さまとヤマトグループの企業価値向上を担います。
データを活用した新たな価値提供を創出する「デジタル企画グループ」やデータ運用の最大化によりデータ・ドリブン経営を推進する「デジタル開発・運用グループ」等で構成します。(引用:ヤマト運輸)
▼ML Opsについてはこちら
ーーどのような組織体制で進めているのでしょうか
チームでいうと4階層の組織を作成しました。まずは、デジタルプラットフォームの階層です。これは情報を格納するデータレイクだけではなく、ヤマトの新しいサービス基盤として、クラウドファーストのデジタルプラットフォームを作成しています。
その上で、データが正しく効率的に使われるよう整理するデータマネジメントの階層があります。この階層では細分化されていたデータを綺麗にし、より分析しやすいデータに整え、必要なデータをデータサイエンティストに提供するコンシェルジュ機能も備えています。 最後にデータサイエンティストチームです。このチームは2階層になっていて、1つ目は、EC事業統括や輸配送統括など、各統括に対応するチームを作っています。統括ごとに特色、特徴が違うため、それぞれの課題に対してデータを使ってどう解決するかアイデア出しを行います。 2つ目では、データサイエンスのCoE(Center of Excellence)チームがあります。このチームでは、ML Opsのモデル構築やML Ops環境を使用した機械学習モデルの構築、Tableauなどを使ったデータの可視化を行うチームがあります。 この4階層の組織で5つのデータ戦略を進めています。 |
ーーわずか2年でここまでのチームを作った例はとても少ないと思いますが、何か意識した点はありますか
総合的に様々なことを進めてきましたが、特にブランディング、データ戦略、チームビルディングがすごく大事だと思います。
ブランディングの観点では、ヤマトグループのDX戦略を紹介するオウンドメディア「YDX(Yamato Digital Transformation Project)」を立ち上げ、講演などで使用する資料は専門のプレゼンテーションデザイナーに作成してもらいました。 その上で、データ戦略自体も明確化しました。データサイエンスやDXは目的ではなく、手段です。YAMATO NEXT100の中に組み込み、しっかりデザインすることで、チームメンバーや社外にも明確にストーリーを説明できます。 また、当社のデータ戦略に興味を持ってくれる人材を意識して、DXやデータサイエンス、データドリブンを組み込み、発表できたことがよかったと思います。 あとは、人事制度もキーポイントだと思います。 |
ーーどのようなところが人事制度として効いたと思いますか
外資系のテックカンパニーの人事制度を参考にしながら専門職人事制度を設計しました。
データサイエンティストやデータエンジニア、クラウドアーキテクトなど、役割ごとに専門性を持った職種を定義して、そこに対して必要なスキル要素をジュニア、ミドル、シニアという形で大きく3段階にランク分けすることでキャリアアップできるような形にしました。 報酬も日系企業で同じような取り組みをしているところをエージェントにリサーチしてもらい、競えるような報酬に設計しています。 |
ーー外資系テックカンパニーの人事制度設計のことですが、報酬以外で良いと思った部分はありますか
自分の専門性に適した役職になれることだと思います。もちろん、総合職でジョブローテーションを行いながら、色々な経験を積むことも必要だと思いますが、客観性を持った評価指標に基づいてジュニア、ミドル、シニアでランク付けをする制度はよかったと思います。
メンバーシップ型やジョブ型と言われている従来の雇用方法に加え、入ってきたメンバーを戦略に基づいてアサインし、事業にどう貢献するのか、ということも含めて意識付けして動いてもらえているところです。 |
ーーキャリアアップの支援にどのようなことをやられているのでしょうか
デジタル専門人材だけでなく、全社員に、「Yamato Digital Academy」を積極的に受講してもらっています。相対するビジネスサイドでもスキルアップが必要なため、階層ごとにあった枠組みを準備しています。
受講内容の方向性や枠踏みは社内で内製化するようにしており、コンテンツ作成はパートナー企業にお願いしています。ただし、内製・外製で線引きをせず、社内外の人がうまく混ざり合うようなチームアップで活動してもらっています。 |
ーーここまで色々設計されると意思決定することがとても多くなると思いますが、ここ2年間で権限委譲はどのようにされてきましたか
全体的にフラットな組織を意識しているため、それぞれのチームリーダーに戦略や実行内容をある程度、任せています。大きな戦略も分割して各チームで戦略のインプットを行い、必要な機能の組織を作り、その中で自ら戦略を立てて実行しています。 |
今後の展望
ーー今後どのように進めたいと考えているか教えてください
データ基盤や組織体制が出来てきたので、今のメンバーも含め会社や社会、お客さまに対して新しい価値提供ができるように進めていきたいです。
BS(貸借対照表)やPL(損益計算書)にも貢献できるようにしたいです。短期的には、売り上げと利益にどう貢献していくのか、長期的にはサステナブル経営にも価値提供できる領域だと考えています。 |
さいごに
ヤマト運輸は、Support DX Summit2021にノミネートされるなど、DXの最先端を走る企業です。
わずか2年でデジタル組織の構造改革が行われ、チームを4階層に分け、メンバーの立ち位置を明確化や透明性の高い評価指標を準備することで、各チームでの意思決定、社員のモチベーション向上を実現しています。
データ基盤や組織体制が完成し、人材育成にも力を入れることにより、より実践的に活躍する人材が増え、ビジネスにおいてさらなるAI活用・DXが加速されるでしょう。
これからのヤマトのデータ・ドリブン経営とその動向に注目が集まります。
AINOWライター。
大学ではHuman-Agent-Interactionや組織運営について学んでいる。