
月末になると請求書の仕訳入力や勤怠の不備チェックに部署総出で追われ、人を増やす以外の解決策が見つからないという状況に陥っていないでしょうか。
AIエージェントは、目的を与えると手順の組み立てから実行までを自ら進めるAIであり、判断を含む事務作業まで任せられます。
ただし、任せる業務の見極めを誤ると現場が使わなくなり、結局は手作業に戻ります。見極めが合えば、年4,000時間規模の削減を実現している企業もあります。
本記事では、部門別に自動化できる事務作業10選、任せる業務を見極める3つの基準、RPAとの分担方法、企業事例、導入の5ステップまで解説します。
読み終える頃には、自社の事務作業を「AIエージェントに任せる」「RPAに任せる」「人が残す」の3つに仕分けでき、稟議資料に使える出典つきの実績も持ち帰れます。
目次
AIエージェントが事務作業を自動化する仕組み
AIエージェントが事務作業を担える理由は、RPAや生成AIとの動き方の違いにあります。3つの違いを順に確認します。
AIエージェントは目標を与えると手順を自ら組み立てる
AIエージェントは、目標だけを伝えれば必要な工程を自分で洗い出し、実行まで進めるAIです。
大規模言語モデルの推論能力を土台に、社内システムや外部ツールを呼び出しながら、次に何をすべきかを状況に応じて決められるためです。
たとえば「今月分の請求書を処理して」と指示すると、メールから請求書を探し、記載内容を読み取り、会計システムに入力し、金額が合わない案件だけを担当者に上げるところまで進めます。
作業の指示ではなく目的を渡せばよいため、業務の手順書を細かく書き起こす負担から解放されます。
RPAは決められた手順しか実行できない
RPAは、あらかじめ登録した手順を正確に繰り返す自動化ツールであり、手順から外れた状況には対応できません。
動作の判断基準がシナリオとして固定されており、画面の配置や書類の形式が変わると処理が止まるためです。
請求書の読み取りを例にすると、RPAは「この位置に書かれた金額を取る」という指示で動きます。取引先ごとにレイアウトが違えば、その数だけシナリオを作り分ける必要があります。
この違いを知っておくと、RPAが止まり続ける業務を無理に作り込まず、AIエージェントへ切り替える判断ができます。
生成AIは文章を作るところで止まる
ChatGPTなどの生成AIは、質問に対して答えや文章を返すところまでが役割であり、システムへの入力や送信は人が行います。
生成AIは入力された内容に応じて出力を返す仕組みであり、自ら業務システムを操作したり、次の工程へ進んだりする機能を持たないためです。
取引先への督促メールで比べると、生成AIは文面の案を提示するまでにとどまります。AIエージェントは入金状況を照合し、未入金の相手だけに送信するところまで担当します。
この差を押さえておくと、生成AIを導入したのに事務作業が減らなかった原因を説明でき、次の投資判断を誤りません。
【部門別】AIエージェントで自動化できる事務作業10選
AIエージェントで自動化できる事務作業は、部門別に以下の10種類へ整理できます。
- 経理:請求書の受領から仕訳入力、経費精算の申請チェックと差し戻し
- 人事労務:勤怠データの不備確認と修正依頼、応募者の書類選考と面接日程調整
- 総務:社内問い合わせへの一次回答、契約書のレビューと更新期限の管理
- 営業事務:見積書と提案資料の作成、受注データの基幹システム入力
- 全社共通:会議の議事録作成とタスク抽出、社内文書の検索と要約
自社に当てはまる業務を具体的に把握すると、検討対象をその日のうちに絞り込めます。
【経理】請求書の受領から仕訳入力まで
AIエージェントは、取引先ごとに形式が異なる請求書でも内容を解釈し、会計システムへの仕訳入力まで進められます。
金額や品目の位置を座標で覚えるのではなく、書類の文脈から「何の費用がいくら請求されているか」を読み取れるためです。
メール添付とクラウド共有が混在していても、受領元を横断して回収し、勘定科目を推定して起票します。前月と金額が大きく異なる案件だけを担当者に確認依頼として回せます。
取引先が増えるたびに処理ルールを追加する運用から抜け出せるため、月末の残業を構造的に減らせます。
【経理】経費精算の申請チェックと差し戻し
経費精算では、申請内容と社内規程を照らし合わせ、不備のある申請だけを差し戻す作業を任せられます。
規程の文章をそのまま読み込ませられるため、金額上限や対象範囲といった条件を人が数値ルールへ翻訳する必要がないためです。
領収書の日付と申請日のずれ、交通費の経路の妥当性、接待費の人数記載漏れなどを確認し、該当する申請者へ理由を添えて差し戻します。
チェック担当者は例外的な申請の判断だけに集中でき、承認までの日数を短縮できます。
【人事労務】勤怠データの不備確認と修正依頼
勤怠管理では、打刻漏れや時間外労働の超過を検出し、本人と上長へ修正依頼を送るまでを自動化できます。
勤怠データの異常は件数が多い一方、対応内容は「誰に何を依頼するか」という定型的な判断に集約されるためです。
締め日前に全社員の打刻状況を点検し、欠勤申請のない未打刻や深夜勤務の申請漏れを抽出します。そのうえで、当人にはチャットで、上長には一覧形式で通知を出します。
締め日直前に労務担当が全員へ個別連絡する運用がなくなり、月次の負荷の山を平らにできます。
【人事労務】応募者の書類選考と面接日程調整
採用業務では、応募書類の要件確認から面接候補日の提示までを続けて処理できます。
職務経歴書という自由記述の書類を評価軸に沿って読み解く作業と、複数人の予定を突き合わせる作業を、同じエージェントの中でつなげられるためです。
募集要件と経歴の一致度を整理して採用担当へ渡し、通過者には面接官のカレンダーの空きから候補日を提示します。返信があれば会議を登録し、案内メールまで送ります。
応募から初回面接までの日数が縮まり、選考中の辞退を減らせます。
【総務】社内問い合わせへの一次回答
総務への問い合わせ対応は、社内規程やマニュアルを参照した一次回答をAIエージェントに任せられます。
質問の大半は既存文書に答えが書かれており、担当者の作業は文書を探して要約する工程に費やされているためです。
「慶弔休暇は何日取れるか」「備品の購入申請はどの様式か」といった質問に対し、根拠となる規程の該当箇所を添えて回答します。判断が必要な相談は担当者へ引き継ぎます。
総務担当は制度設計や改善提案に時間を回せるようになり、問い合わせ対応で1日が終わる状況から抜け出せます。
【総務】契約書のレビューと更新期限の管理
契約実務では、条項の抜け漏れ確認と、自動更新期限の管理を継続的に担当させられます。
契約書の点検は自社の基準と照合する作業であり、基準を文章で与えれば判断を再現しやすいためです。
先方から届いた契約書を自社の雛形と比較し、責任範囲や解約条件の相違点を一覧化します。締結後は期限を登録し、更新の可否を検討すべき時期に担当者へ通知します。
気づかないうちに不利な条件で自動更新されるといった事故を防げます。
【営業事務】見積書と提案資料の作成
営業事務では、商談内容をもとにした見積書の作成と、提案資料の下書きまでを進められます。
商品マスタや過去の見積履歴を参照しながら、顧客ごとの条件に合わせて内容を組み替える作業が中心になるためです。
営業担当が商談メモを渡すと、該当する製品と数量から価格を算出し、過去の取引条件を踏まえた見積書を作ります。提案資料は類似案件の構成を流用して初稿を用意します。
営業事務が資料作成に追われる状態を解消でき、確認と調整という付加価値の高い工程に専念できます。
【営業事務】受注データの基幹システム入力
受注処理では、注文書の形式が顧客ごとに違っていても、基幹システムへ正しく登録できます。
注文書の項目名や並び順が異なっても、記載内容の意味からシステムの入力欄を判断できるためです。
FAXの注文書、メール本文の注文、EDIのデータが混在していても、品番と数量と納期を抽出して登録します。品番が特定できない場合は、候補を添えて担当者へ確認を求めます。
入力ミスによる誤出荷や納期遅延が減り、顧客からの信頼を損なうリスクを抑えられます。
【全社共通】会議の議事録作成とタスク抽出
会議運営では、録音から議事録を作るだけでなく、決定事項と担当者つきのタスクまで切り出せます。
発言の書き起こしに加えて、誰が何をいつまでに行うと述べたのかを文脈から判断できるためです。
会議後に議事録を共有し、あわせてタスク管理ツールへ担当者と期限を登録します。期限が近づくと担当者へ通知を送り、進捗を確認します。
決まったはずの施策が実行されないまま流れる状況を防ぎ、会議の成果を確実に次へつなげられます。
【全社共通】社内文書の検索と要約
社内のナレッジ活用では、複数のシステムに散らばった文書を横断して探し、要点をまとめて返せます。
ファイルサーバー、社内Wiki、チャットの履歴といった保管場所をまたいで検索し、必要な部分だけを抽出できるためです。
「昨年の同じ案件でどう対応したか」と尋ねると、関連する報告書と当時のやり取りを集め、経緯と結論を整理して提示します。出典のファイル名も示されます。
資料を探すためだけに周囲へ聞いて回る時間がなくなり、担当者が異動しても業務の質を保てます。
AIエージェントに任せる事務作業を見極める3つの基準
任せる業務の見極めには、以下の3つの基準を使います。
- 業務のどこに判断の余地があるかを確認する
- 入力データの形式が揃っているかを確認する
- 誤った処理が起きたときの影響範囲を確認する
この3つを飛ばして導入すると、現場が使わなくなり手作業へ戻る結果を招きます。
業務のどこに判断の余地があるかを確認する
最初に確認すべきは、その業務のどの工程に人の判断が入っているかです。
AIエージェントの強みは判断を含む工程にあり、判断が一切ない業務ではRPAのほうが安く速く動くためです。
請求書処理でいえば、データを会計システムへ転記する工程に判断はありません。一方、記載された品目から勘定科目を決める工程には判断があります。後者がAIエージェントの担当範囲です。
工程単位で切り分けられると、業務全体を一度に置き換えようとして失敗する事態を避けられます。
入力データの形式が揃っているかを確認する
次に見るのは、業務に入ってくるデータがどれだけばらついているかです。
形式が揃っている業務は既存ツールで十分に処理できる一方、ばらつきの大きい業務ほどAIエージェントの効果が大きくなるためです。
自社様式の申請書だけが流れてくる業務は優先度が下がります。反対に、取引先ごとに様式が違う注文書や、自由記述で届く問い合わせメールは、効果が出やすい業務です。
ばらつきの大きい業務から着手すると、投資に見合う削減効果を早い段階で示せます。
誤った処理が起きたときの影響範囲を確認する
3つ目の基準は、AIが誤った処理をした場合にどこまで影響が及ぶかです。
AIエージェントは誤った内容を出力する可能性を完全には排除できず、影響の大きい業務では人の確認工程が前提になるためです。
社内向けの議事録作成は、誤りがあってもその場で訂正できます。一方、取引先への支払実行や労働時間の確定は、誤れば決算修正や労務トラブルにつながります。
影響の小さい業務から順に広げれば、取り返しのつかない事故を起こさずに自動化の範囲を拡大できます。
事務作業をAIエージェントとRPAで分担する考え方
AIエージェントとRPAは、以下の3つの考え方で分担させると効果が高まります。
- 手順が固定された作業はRPAに任せる
- 例外や解釈が発生する作業はAIエージェントに任せる
- 1つの業務フロー内で両方を組み合わせる
どちらか一方を選ぶ発想にとらわれると、既存のRPA投資を無駄にしてしまいます。
手順が固定された作業はRPAに任せる
手順が変わらず例外も少ない作業は、引き続きRPAに任せるほうが合理的です。
RPAは同じ処理を確実に繰り返すことに特化しており、動作が安定しているうえ、実行あたりのコストも抑えられるためです。
決まった様式のデータを別システムへ転記する処理、毎月同じ条件で出力する売上レポート、定時に実行するバックアップなどが該当します。
安定して動いている仕組みを残せるため、これまでのRPA構築の工数を捨てずに済みます。
例外や解釈が発生する作業はAIエージェントに任せる
想定外のパターンが頻繁に出る作業は、AIエージェントへ移すと停止の回数を減らせます。
RPAは例外のたびにシナリオの追加が必要になる一方、AIエージェントは初めて見る形式でも内容から判断して処理を続けられるためです。
取引先の追加ごとにシナリオを作り直している請求書処理、問い合わせ内容によって回答先が変わる社内ヘルプデスクなどが移行の候補です。
シナリオの保守に人手を取られる状況から抜け出し、自動化の対象を広げられます。
1つの業務フロー内で両方を組み合わせる
実際の成果が出ている現場では、1つの業務フローの中でAIエージェントとRPAを役割分担させています。
判断を要する前工程をAIエージェントが担い、確定した情報をシステムへ流す後工程をRPAが担うと、それぞれの弱点を補えるためです。
ヒューマンリソシアは、求人広告文の生成にAIエージェント基盤「つなぎAI Powered by Dify」を使い、定型の作業工程にはRPA「WinActor」を組み合わせています。
>プレスリリースはこちらから
既存のRPA資産を活かしながら自動化範囲を広げられるため、追加投資を最小限に抑えられます。
AIエージェントで事務作業を自動化した企業事例
実際に成果を公表している事例を4件紹介します。いずれも公式のプレスリリースで数値が公開されています。
ヒューマンリソシア:求人原稿の作成で年4,800時間を削減
ヒューマンリソシアは、求人広告文の作成にAIエージェントを導入し、年間約4,800時間の削減効果を見込んでいます。
求人媒体ごとに記載項目が異なるため作業量が膨大で、従来は1件あたり約20分、年間で約16,000時間を要していたことが背景にあります。
月4,000件の求人広告文について、ペルソナ設定からテキスト生成までをAIで一貫して処理し、定型の工程をRPAと組み合わせた結果、作業時間を約3割短縮しました。2026年1月15日の発表です。
>プレスリリースはこちらから
作業件数の多い文書作成業務を抱える企業にとって、削減規模を見積もるための具体的な参考値になります。
富士通:サポートデスクの応対時間を71.5%短縮
富士通は、Salesforceの「Agentforce」を自社のサポートデスクへ採用し、平均応答時間をチャットボット比で71.5%削減しました。
従来のチャットボットでは回答にたどり着くまでのやり取りが多く、問い合わせ担当者の負荷が下がりきらなかったためです。
富士通お客様総合センターでのパイロット検証で得られた結果であり、Einstein Botでは8回のやり取りが必要だった問い合わせが、Agentforce for Serviceでは1回で解決しました。2025年1月20日の発表です。
>プレスリリースはこちらから
問い合わせ対応の件数が多い部門では、人員を増やさずに応対品質を保つ道筋を描けます。
日本電設資材:請求書処理で年約1,000時間の削減を見込む
日本電設資材は、経理領域にAIエージェントを導入し、年間約1,000時間の工数削減を見込んでいます。
月間約2,000通に及ぶ請求書の処理が経理部門の負担となっており、明細の入力と承認の工程に人手が集中していたためです。
「TOKIUM AI明細入力」「TOKIUM AI経費承認」に加え、AIヘルプデスクとAI出張手配を導入し、経理業務を横断して自動化しています。2026年5月12日の発表です。
>プレスリリースはこちらから
請求書の処理件数から削減時間を逆算できるため、自社の効果試算にそのまま応用できます。
大阪市:通勤届の審査業務を最大約40%短縮
大阪市は日立製作所と共同でAIエージェントの実証を行い、通勤届の申請と審査にかかる業務時間を最大約40%短縮できる可能性を確認しました。
通勤届は年間約10,000件に上り、そのうち約5,000件が4月に集中するため、特定の時期に業務が偏っていたことが背景にあります。
実証は2025年9月から2026年3月にかけて実施され、申請方法のナビゲート、申請内容のチェック、認定可否の判定、払戻計算という4つの用途が検証されました。2026年3月26日の発表です。
>プレスリリースはこちらから
申請と審査を伴う業務は民間企業にも共通するため、人事や総務の業務設計を見直す手がかりになります。
事務作業にAIエージェントを導入して得られる効果
事務作業への導入で得られる効果は、以下の4つに整理できます。
- 月末に集中する作業時間を削減できる
- 特定の担当者しか処理できない業務をなくせる
- 入力ミスや確認漏れを減らせる
- 業務量の波に左右されずに処理できる
効果を言語化しておくと、稟議で問われる導入理由に一貫した説明ができます。
月末に集中する作業時間を削減できる
最も分かりやすい効果は、締め処理に伴う作業時間そのものが減る点です。
請求書の読み取りやデータ入力といった、時間当たりの処理件数で測れる工程を機械側へ移せるためです。
前述の事例では、求人広告文の作成で年間約4,800時間、請求書処理で年間約1,000時間という削減見込みが公表されています。
残業代と派遣費用の削減額を試算できるため、投資回収の見通しを経営層へ示せます。
特定の担当者しか処理できない業務をなくせる
AIエージェントの導入は、業務の属人化を解消する取り組みとしても機能します。
エージェントに業務を任せるには判断の基準を文章として与える必要があり、その過程で暗黙の運用ルールが表に出るためです。
「この取引先の請求書だけは別の科目で処理する」といった個人の記憶に頼った運用が、設定ファイルや業務手順として残ります。
担当者の異動や退職が決まっても業務が止まらず、引き継ぎにかかる期間を短縮できます。
入力ミスや確認漏れを減らせる
人が繰り返し行う確認工程を機械に移すと、見落としによる差し戻しや修正対応を減らせます。
集中力の低下や作業量の多さによる確認漏れは人に固有の要因であり、機械側では発生しないためです。
経費精算の規程違反、勤怠の打刻漏れ、契約更新期限の見落としなど、件数が多く単純な確認ほど効果が出ます。
後工程での手戻りがなくなり、部署全体の実働時間を押し下げられます。
業務量の波に左右されずに処理できる
AIエージェントは稼働時間の制約を受けないため、繁忙期の業務量の増加を人員配置で吸収する必要がなくなります。
処理能力を人数で調整する運用では、繁忙期に合わせた人員を平常時も抱えることになり、固定費が膨らむためです。
大阪市の事例では、年間約10,000件の通勤届のうち約5,000件が4月に集中していました。このような偏りのある業務ほど効果が大きくなります。
繁忙期に向けた短期人材の確保に追われる状況から解放され、採用コストも抑えられます。
AIエージェントで事務作業を自動化する5ステップ
導入は以下の5つのステップで進めます。
- 対象業務を洗い出して優先順位をつける
- 業務フローを分解して自動化範囲を決める
- 小規模に試して出力精度を検証する
- 既存システムと連携して本番運用に移す
- 効果を測定して対象業務を広げる
順番を飛ばすと、効果の測定ができないまま契約だけが続く状態に陥ります。
STEP1:対象業務を洗い出して優先順位をつける
最初に行うのは、部門ごとの事務作業を書き出し、時間と件数で並べ替える作業です。
削減効果は「1件あたりの所要時間×年間件数」で決まるため、この2つを把握しないと投資判断ができないためです。
現場へのヒアリングで、月次の作業一覧と所要時間を集めます。そのうえで、前述の3つの基準を当てはめ、判断を含みデータのばらつきが大きく、影響範囲の小さい業務を上位に置きます。
削減効果の大きい業務から着手できるため、最初の成果を短期間で示せます。
STEP2:業務フローを分解して自動化範囲を決める
次に、選んだ業務を工程単位に分解し、どこまでをAIエージェントに任せるかを線引きします。
業務をまるごと置き換えようとすると検証の範囲が広がり、精度が出なかった原因を特定できなくなるためです。
請求書処理であれば、受領、読み取り、仕訳の推定、入力、承認という工程に分けます。そのうえで、承認は人が行い、それ以外をAIエージェントに任せるといった形で決めます。
責任の所在が明確になり、現場の不安を抑えながら導入を進められます。
STEP3:小規模に試して出力精度を検証する
本番導入の前に、限られた範囲で実データを流し、出力の正しさを測ります。
事務作業では正確さが前提条件であり、どの程度の割合で人の修正が必要になるかを数値で把握する必要があるためです。
1部門または特定の取引先に絞り、1〜2か月分のデータで検証します。誤りが出たパターンを記録し、指示内容や参照させる資料を調整します。
精度の実績を持って本番移行を判断できるため、導入後に現場から反発を受ける事態を防げます。
STEP4:既存システムと連携して本番運用に移す
検証を通過したら、会計システムや勤怠システムと接続し、日常業務の中で動かします。
AIエージェントが単独で動いても、結果を人が転記していては削減効果が生まれないためです。
APIでの接続可否を情報システム部門と確認し、接続できない場合はRPAを間に挟みます。あわせて、エラー時に誰へ通知するかという運用ルールも決めます。
人の介在なしに業務が最後まで流れるため、想定した削減時間を実際の数字として回収できます。
STEP5:効果を測定して対象業務を広げる
運用開始後は、削減時間と人の修正率を継続して測り、次の対象業務へ展開します。
最初の業務で得た知見をそのまま適用できる業務が社内に残っており、2件目以降は導入期間が短くなるためです。
導入前後の作業時間を月次で比較し、修正が必要だった件数の割合を記録します。数値が安定したら、同じ部門の隣接業務や他部門の類似業務へ広げます。
投資対効果を実績で示しながら拡大できるため、追加予算の承認を得やすくなります。
事務作業向けAIエージェントの選び方
製品を比較する際は、以下の4点を確認します。
- 既存の業務システムと連携できるか
- 権限管理と操作ログの機能があるか
- 現場の担当者だけで設定を変更できるか
- データの保管場所と国内法規制に対応しているか
機能の多さで選ぶと、自社の環境で動かせないという事態を招きます。
既存の業務システムと連携できるか
選定で最初に確認すべき点は、自社が使っている会計システムや勤怠システムとつながるかです。
連携できない製品を選ぶと、出力結果を人が転記する工程が残り、削減効果が半減するためです。
APIが公開されているか、標準の連携機能に自社のシステムが含まれているかを確認します。オンプレミスの基幹システムを使っている場合は、RPAを介した接続の可否も併せて確認します。
導入後に追加の開発費が発生する事態を避けられ、当初の見積もりどおりに運用を開始できます。
権限管理と操作ログの機能があるか
事務作業では機密情報を扱うため、誰がどのデータへアクセスできるかを細かく制御できる製品を選びます。
給与情報や取引条件は閲覧範囲が限定されており、AIエージェントが全社のデータを横断すると社内規程に抵触するためです。
部署や役職ごとの参照範囲を設定できるか、エージェントが実行した操作を後から追跡できるかを確認します。監査対応が必要な企業ではログの保存期間も重要です。
情報システム部門や監査部門の承認を得やすくなり、社内調整にかかる期間を短縮できます。
現場の担当者だけで設定を変更できるか
継続的に使うには、業務ルールが変わったときに現場で設定を直せる製品が望ましいです。
変更のたびにベンダーへ依頼する運用では、費用と待ち時間が積み上がり、使われなくなるためです。
指示内容を日本語の文章で編集できるか、参照させる社内文書を担当者が差し替えられるかを確認します。無料の試用期間があれば、実際に現場の担当者が触って判断します。
制度改定や組織変更に自力で追随でき、導入した仕組みを長く使い続けられます。
データの保管場所と国内法規制に対応しているか
最後に確認するのは、処理したデータがどこに保管され、学習に使われないかという点です。
個人情報保護法や電子帳簿保存法への対応が求められる業務では、保管場所と取り扱い条件が契約上の要件になるためです。
国内リージョンでの保管に対応しているか、入力データがモデルの学習に使われない設定があるかを確認します。あわせて、電子帳簿保存法の要件を満たす保存機能の有無も見ます。
法令面の懸念を先に潰しておけば、法務部門との調整で導入が止まる事態を防げます。
事務作業にAIエージェントを導入する際の注意点
導入時には、以下の4つの注意点を押さえます。
- 誤った出力をそのまま後続処理に流さない
- AIが読み込む機密情報の範囲を限定する
- 人が最終確認する工程を必ず残す
- 現場の抵抗感を想定して説明の場を設ける
これらを軽視すると、決算修正や情報漏洩といった取り返しのつかない事故につながります。
誤った出力をそのまま後続処理に流さない
AIエージェントは事実と異なる内容を出力する場合があるため、後続の処理へ自動で流す設計は避けます。
大規模言語モデルは確率に基づいて出力を組み立てており、ハルシネーションと呼ばれる誤りを完全には排除できないためです。
金額の桁を誤ったまま支払処理へ進むと、取引先への過払いが発生します。金額や日付には上限や範囲のチェックを設け、条件から外れた案件は人へ回す仕組みにします。
異常値を機械的に止められるため、担当者が全件を目視する負担を負わずに事故を防げます。
AIが読み込む機密情報の範囲を限定する
AIエージェントに与えるデータは、業務に必要な範囲だけに絞ります。
エージェントは社内システムを横断して情報を集める設計になっており、権限を広く与えると意図しない情報まで参照するためです。
経費精算を担当させる場合、参照先を経費関連のデータと社内規程に限定します。人事評価や給与のデータは接続対象から外し、必要が生じた時点で個別に検討します。
設定ミスによる情報漏洩の範囲を最小限にとどめられ、万一の際の影響を抑えられます。
人が最終確認する工程を必ず残す
対外的な送信や金銭の移動を伴う工程には、人が承認する手順を残します。
取引先や従業員に影響が及ぶ処理では、誤りが起きた際の責任を機械に負わせられないためです。
支払の実行、労働時間の確定、契約書の締結といった工程が該当します。AIエージェントには承認待ちの一覧を整えるところまでを担当させ、実行のボタンは人が押します。
責任の所在が明確になり、監査や取引先からの問い合わせにも説明できる体制を保てます。
現場の抵抗感を想定して説明の場を設ける
導入を成功させるには、自分の仕事がなくなるという現場の不安に先回りして向き合います。
事務作業を担ってきた担当者ほど自動化の影響を直接受けるため、説明がないまま進めると協力を得られないためです。
削減した時間を何に充てるのかを具体的に示します。あわせて、エージェントへ与える判断基準は現場の担当者しか言語化できないため、設計の主役として関わってもらう形を取ります。
現場が当事者として関与するため、運用開始後も改善が続く仕組みとして定着します。
AIエージェントと事務作業に関するよくある質問
AIエージェントと事務作業に関する質問は以下の4つです。
- AIエージェントの導入費用の相場はいくらか
- AIエージェントの普及で事務職の仕事はなくなるのか
- 中小企業でもAIエージェントは導入できるのか
- すでに導入しているRPAは置き換えるべきか
質問に対する回答を確認して、社内での検討を進める参考にしてみてください。
AIエージェントの導入費用の相場はいくらか
費用は提供形態によって大きく変わるため、相場を1つの金額で示すことはできません。
既存のSaaSに追加するオプション型と、自社の業務に合わせて構築する開発型では、費用の構造そのものが異なるためです。
会計や経費精算のクラウドサービスに付属する機能であれば、月額の利用料に上乗せする形で使えます。一方、基幹システムと連携させる構築案件では、初期費用と保守費用が別に発生します。
まずは既存サービスの追加機能から試すと、大きな初期投資なしに効果を確かめられます。
AIエージェントの普及で事務職の仕事はなくなるのか
事務職そのものがなくなるのではなく、担う役割が処理から確認と設計へ移っていきます。
AIエージェントへ業務を任せるには、判断基準を言語化し、出力を評価し、例外に対処する人が必要になるためです。
請求書を1件ずつ入力する作業は減ります。その代わり、どの条件なら自動処理を許すのかを決め、止まった案件を判断する役割が生まれます。
役割の変化を先に想定しておけば、担当者の再配置とスキル習得を計画的に進められます。
中小企業でもAIエージェントは導入できるのか
中小企業でも導入できます。既存のクラウドサービスに搭載された機能から始める方法が現実的です。
自社開発を伴わない提供形態が増えており、専任の情報システム部門がなくても運用できるためです。
会計ソフトや経費精算ソフトの付属機能であれば、既存の設定を活かしたまま利用を開始できます。1部門の1業務に絞れば、担当者が兼務のままでも運用を回せます。
限られた人員でも自動化に着手でき、人手不足を人員採用以外の方法で補えます。
すでに導入しているRPAは置き換えるべきか
安定して動いているRPAは、置き換えずにそのまま使い続けるべきです。
手順が固定された処理ではRPAのほうが安定しており、コスト面でも優れているためです。
見直すべきは、例外対応でシナリオの修正が続いているRPAです。この部分だけをAIエージェントへ移し、確定した情報をシステムへ流す工程はRPAに残す構成が有効です。
これまでの構築工数を捨てずに自動化の範囲を広げられ、追加投資を抑えられます。
事務作業の自動化は判断を含む業務から着手する
AIエージェントは、請求書の仕訳入力から社内問い合わせの一次回答まで、判断を含む事務作業を任せられるAIです。
成果を出すには、判断の余地があり、データのばらつきが大きく、誤っても影響が小さい業務を選ぶことが出発点になります。
まずは自部門の事務作業を書き出し、所要時間と年間件数を並べるところから始めてみてください。優先順位が決まれば、検証すべき業務は自然と絞り込まれます。
一方で、自動化の対象を選べたとしても、判断基準を言語化して指示へ落とし込み、出力を評価できる人材が社内にいなければ、運用は続きません。事務作業の自動化で成果を出す企業と出ない企業を分けるのは、この担い手の有無です。

















