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同氏が解説するノウハウは、もはや個々のAIシステム導入を成功に導くためのものではありません。同氏が説くのは、企業活動の隅々にまでAIの利活用が文化として浸透している企業になるためのノウハウです。企業活動全体に関係しているので、こうしたノウハウはAI戦略と呼ばれるのです(個々のAIシステム導入のノウハウは「AI戦術」と言えるでしょう)。
以上のようなAI戦略は、以下のような5つのポイントにまとめることができます。
AIファーストな企業になるための5つのAI戦略
データカルチャーの構築 | データを生成・収集し、AIを活用する基盤を整備する。社員を教育して、データから洞察を得られるようにする。 |
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問いかけ | そもそもAIによって何を解決したいのか定義する。問題を明らかにしたら、問題解決のための成功指標を設定する。 |
コミュニティへのアクセス | AIコミュニティに積極的にアクセスし、技術や文化を交流させ学習する。 |
環境整備 | AIシステムを運用するための環境を整備する。環境整備には技術上の選択が伴う。 |
信頼の獲得 | AIを活用していることに関する信頼を得る。そのためには、AIの決定を説明できなければならない。 |
以上のようなポイントが解説されるようになった背景には、企業の関心が個々のAIシステムを導入する戦術的なものから、AIによって企業全体を再構築しようとする戦略的なものに移行しつつあることが指摘できるのではないでしょうか。
なお、以下の記事本文はParul Pandey氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。
今日の経営幹部のためのAI戦略における5つの重要なポイント
人工知能は、今日ではバズワードから現実的なものに進化した。機械学習システムの専門知識を持つ企業は、人工知能ベースのテクノロジー企業への移行を検討し始めている。機械学習文化をまだ持たない企業は、それを導入するための戦略を考案しようとしている。AIにまつわる誇大広告に取り囲まれながらAIブームに対して遅れをとることを恐れるなかで、企業のAI戦略にどのように乗り出したらよいのか?この問いかけは繰り返されるので、もはや今日では一般的なものとなったように思われる。そういうわけでこの記事では、AI戦略を実装する際に企業が直面する課題、機会、可能性のいくつかをもう少し掘り下げようと思う。
目次
今日のAIにおける重要な課題:3つのT
会社でAIエコシステムを構築するにあたっては、多くの課題がある。これらの課題はすべて、以下のような3つの主要な見出しでまとめることができる。
- 才能(Talent):才能のある個人たちをひとつのチームをまとめることは、今日の多くの企業にとって最も重要な懸念事項の1つである。
- 時間(Time):もう1つの重要な要素は時間だ。AI戦略を実装することで、どれだけ速くビジネスの結果を得ることができるかを確認することは不可欠である。
- 信頼(Trust):信頼とは機械学習モデルに対する信頼と、モデルの結果を規制当局や利害関係者に説明する能力のことを意味する。
以上の問題に対処するための推奨事項の一部を以下に示す。これらの推奨事項は、長年にわたって多くのH2O.aiの顧客やユーザと話し合ってきたなかで策定されたものだ。
1.データカルチャーの構築
生成される大量のデータをコツコツと集めて、それを理解するためには、企業は最初にデータカルチャーを構築する必要がある(※訳註1)。以下では、企業でデータ駆動型のカルチャーを構築する際に留意すべき3つの重要なポイントを示す。
データ収集
データカルチャーを構築するには、将来を見越してデータの収集を開始する必要がある。今日のデータは、マーケティング部門、営業部門、製品監視、顧客分析などのさまざまなソースから取得できる。これが基本的な基盤となる。
データをアクセス可能にする
収集されたデータは、人々がアクセスできるようにしなければならない。この要件は、データがアクセスしやすい形式であるべきことも意味する。この要件を満たすことによって、人々が集めたデータを使って有意義な洞察を得やすくなる。
適切な人材を見つける
データの管理と活用は、本質的にチームスポーツとなる(※訳註2)。つまり、企業はモデルやアルゴリズムを作成するために専門家を必要としているのはもちろんのこと、専門家にデータを渡す前に、そのデータから有用な洞察を発見できるさまざまな技術的能力を持つ人々も必要としている。データから洞察を発見するために、企業は既存の従業員をデータ活用のために訓練できる。というのも、既存の従業員は仕事に不可欠なドメイン経験があるからだ。機械学習の導入は、ビジネスの変革であると同時に文化的な変革ももたらす。社内文化を変革するために、企業はゼロから新しいチームを作成する代わりに少数のデータサイエンティストを雇い、彼らを支援する経験豊富な既存スタッフの一団を使うことができる。
- データサイエンストランスレーター:ビジネス上の問題をデータサイエンスの問題に翻訳する役割を担う人材。ビジネスユーザとエンジニアの橋渡し役。
- 行動心理学者:データ分析から得られたヒトの行動パターンの原因を特定する役割を担う人材。心理学や人類学の素養があるのが望ましい。
- データストーリーテラー:データが示す事実やその事実が意味することをひとつのストーリーにまとめて伝える役割を担う人材。データサイエンスプロジェクトの成果から何らかの行動につなげる助けとなる。
2.適切な質問をする
適切な質問をすることは、企業でデータカルチャーを作るために不可欠だ。新規顧客をどのように獲得するのか、そもそも新規顧客とはどんな客なのか、サプライチェーンをどのように最適化するかは、今日のほとんどのビジネスで答えが必要な質問の一部である。ビジネス上の問題を定式化することは、AI実装の足がかりとして機能することがある。ビジネスに関連する質問を思い付くためには、企業は分析的なマインドセットを持ちながらもクリエイティブで、直感的な感覚ではなくデータに裏付けられた解決策を持っている人を必要とするのだ。
どのような問題を解決するのか?
現在、AIと機械学習はほぼすべての業界で活用されている。よく知られている事例のいくつかは、以下の表の通りである。
以上のような業界でAIを使用するというアイデアは、時間とお金を節約し、競合他社に対して競争力を高めることにつながる。読者諸氏の会社が上記のユースケースや似たようなビジネス上の問題のいずれかを扱っており、従来の方法のみに依存している場合、その会社は後れをとっていると悟るべきだ。
結果を決定する
適切な質問をすることで、その質問からどのような結果が得られるかも決まる。重要なアイデアは会社の高レベルの目標をビジネス上の問題に変換し、その問題に対する結果をも決定する。
成功を測る
企業はまた、成功を測定するための指標を考案しなければならない。成功の定義は企業によって異なるかも知れないが、最終目標は同じようなものとなる。どの企業にとっても、利益を上げて価値を提供することが最終目標であろう(※訳註3)。
3.コミュニティとつながる
コミュニティは、あらゆる企業の変化を推進する上で重要な役割を果たす。コミュニティに接続する方法には、オンライン(ウェビナー(※訳註4))とオフライン(ミートアップ)の両方がある。ミートアップ、ウェビナー、トレーニングセッションを開催することにより、知識を交換して他の人から学ぶことができる。他の人から学び、セッションに参加し、関連する知識を共有することは、コミュニティにつながる素晴らしい方法だ。コミュニティにつながるのに、住んでいる場所などもはや関係ない。世界中に機械学習コミュニティがあり、読者諸氏が住んでいる場所のすぐ隣でローカルな集会があるかも知れないのだ。
コミュニティとつながるもう1つの重要な理由として、今日のデータサイエンティストや研究者のほとんどが他の人とコラボレーションしたがっていることが挙げられる。AI界隈のテクノロジーは急速に進歩している。こうしたなかコミュニティとつながることによって、人々は正しい質問をし、その質問を他の人と共有し、他の人といっしょに考えることに参加し、そんな他の人全員から学ぶことを求めている(※訳註5)。言うまでもなく過去10年間における最先端の研究のほとんどは、皆が参加したがっている学術コミュニティとオープンソースコミュニティに由来しているのだ。
4.技術的な懸案事項
使用するテクノロジーを決定することは、ビジネスに大きな影響を与える可能性がある重要な懸案事項だ。
オープンソースかクローズドソースか?
企業がAIを実装する旅を始める時、オープンソースソフトウェアとクローズドソースのどちらか、あるいはその両方のなかから何を求めるかについて選択する必要があるかも知れない。機械学習とAIの先駆者の多くは、たいてい自分たちの技術をオープンソース化している。こうしたオープン技術を使うのは、先駆者以外の人にとって良い出発点となることだろう。先駆者に続く新しいAIプレーヤーが成熟したら、彼らをサポートするベンダーが必要になるかも知れない。彼らのなかには、自身のパッケージ製品の管理者も兼ねるベンダーとなることを選択できるプレーヤーもいることだろう。そんな事例として、オープンソースのH2O-3の場合、この製品を開発するH2O.aiは管理者でありベンダーでもある(※訳註6)。
クラウドまたはオンプレミス?
この質問への答えは、どれくらい早くAI実装を始めたいかという事実に依存している。AI実装を新たに始めていて、なおかつ既存の開発管理システムがない場合は、クラウドで簡単に始められる。クラウドを使うことでハードウェアの調達、ソフトウェアのセットアップ、セキュリティ、インフラストラクチャ、およびメンテナンスの問題が解消する。ただし、適切な開発管理インフラストラクチャが既に整っている場合、オンプレミスという選択肢はコストの最適化に役立つ。多くの企業は、要件に応じてクラウドとオンプレミスを切り替えるかどうかにかかわらず、ハイブリッドモデルを好む傾向にある。こうしたハイブリッドモデルの採用は素晴らしいプラクティスである(※訳註7)。
データ
繰り返すが前述したように、データは重要なポイントである。いかにしてデータを生成し、保存し、そしてアクセス可能とするかを理解することが最も重要なのだ。データプライバシー、データガバナンス、データ系列(※訳註8)のような事柄は、企業が適切に対処する必要があるポイントの一部なのだ。
5. AIへの信頼
機械学習モデルは「ブラックボックス」と見なされるべきではない。つまり、予測の背後にあるロジックを明確に説明または特定できるべきなのだ。モデルの決定を適切に説明し、確固とした文書を用意し、結果からバイアスを排除できることは、AIに対する信頼を構成する要素を根付かせるために企業が答える必要がある重要な懸案事項の一部である(※訳註9)。
また、AIによる差別について解説したAINOWコラム記事『「AIによる差別」の現状とは?事例、原因、世界各地の取り組みを紹介』では、海外におけるAI倫理の取り組みが紹介されている。そうした取り組みのひとつとして、欧州委員会が発表した『信頼できるAIに関する倫理的ガイドライン』がある。このガイドラインでは、実用的であると同時にその挙動が倫理的であるAIを「信頼できるAI」と定義し、こうした信頼できるAIが満たすべき7つの要件を挙げている。
現状からどこに向かうのか?
それでは、現状からどこに向かうのか?上記の5つの重要な点を検討し、そうした重要事項をチームで話し合うことで、企業はAIファーストな企業になる旅を始めるための感覚や方向性をつかむことができる。現在解決しようとしている問題を考えて特定し、どのようにすれば自社にとって役立つように機械学習とAIを活用できるのかを確認するのだ。AIカルチャーとはゼロから発展されなければならないものであり、すべての重要なタスクと同様に時間と忍耐、そしてリソースが必要となるのだ。
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参考事項
この記事は、H2O.aiに所属するIngrid BurtonとVinod Iyengarが作成したウェビナー向けYouTube動画「今日の経営幹部のためのAIに関する5つのキーポイント」からその内容を転載した。この動画において、彼らは企業がAI戦略に着手する際に経営幹部が注目すべきいくつかのキーポイントをシェアした。
原文
『How to effectively employ an AI strategy in your business』
著者
Parul Pandey
翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)
編集
おざけん