AIの活用に注目が集まって数年が経ち、2020年現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進があらゆる企業で謳われています。
企業内でのさまざまな部署の業務がICT技術によってアップデートされようとしており、さまざまな業務に合わせてSaaS(Software as a Service)も多く誕生し、マーケティングやセールス、法務などあらゆる業務に効率化の波が押し寄せていると言えます。
今回の記事では、企業内でも「経営」に着眼し新型コロナウイルスの感染拡大の影響で加速するM&Aの未来を考察した上で、M&A自体もAIでどのようにアップデートしていくのかについて解説していきます。
インタビューにお答えいただいたのは、クラウド型企業分析AIサービス:Finplusを運営するTIS株式会社サービス事業統括本部ペイメントサービスユニットフィナンシャルサービス部 部長の小林 秀史氏です。
国内のM&Aの現状 ーM&Aの件数は過去最高に
ーー現状の日本のM&Aの状況を教えてください。
昨今、日本市場は成熟し、各企業は新たなビジネスチャンスを求めてグローバル展開を進める一方で、従来に比べて経営判断がより難しくなっています。
特に、中小企業においては経営者の高齢化や人手不足といったさまざまな問題が顕在化しています。このような状況の中で、中小企業のM&Aの件数は、2017年に3000件、2018年は3850件、29兆円規模となり、件数・金額ともに過去最高で近年増加傾向にあります。
また、日本企業の後継者の不在率はなんと約7割にも及ぶという深刻な状況で、後継者を探す一つの手法としてM&Aを活用する会社が増えています。
事業承継の中でも第三者承継も年々増加しており、2018年に546件、2019年には616件と増加傾向にあります。円滑な事業承継を実現するために、政府からも事業支援策が発表されるとともに、事業引継ぎ支援センターによるマッチング専門機関が48か所設置、且つ、事業承継補助金なども提供されています。また、事業者の高齢化から黒字廃業を回避するために、第三者承継支援総合パッケージが今後10年間60万社(6万者×10年)の第三者承継実現のための取り組みがなされています。
これらのデータからも読み解けるように、近年のM&Aの増加要因としては、日本の少子高齢化や人口減少を背景に、後継者不在の企業による事業承継や、海外市場への進出を図るために海外企業の買収などが積極的に行わていることではないでしょうか。M&Aを検討する目的はさまざまで、M&A需要の高まりを受けてM&Aの在り方が多様化しており、経営戦略のひとつとして行われることもあります。
また、中小企業の経営者が抱える「後継者問題」や「人手不足」といった課題を解決する手段のひとつとしても、M&Aは有効活用されています。
- 中小企業庁「中小企業白書」
- 帝国データバンク「全国「後継者不在企業」動向調査(2018年)」
- 中小企業中「2020年度 中小企業白書 小規模企業白書」
ーー日本のM&Aの課題はなんでしょうか?
さまざまな目的でM&Aが活用されていますが、前提として、M&Aは案件組成からPMI(Post Merger Integration)まで専門的、且つ、多様な知識が必要です。
M&Aのアプローチには、上場企業など大企業における経営戦略上のアプローチと、中小企業を中心とした成長戦略/後継者不足等からくるアプローチの2つのパターンがあります。
現在日本における課題は、前述の通り、人口減少に伴う後継者不足への対処です。
後継者不足が理由である場合、M&Aを活用することにより、廃業を回避することができる一方、取引先との事業継続、従業員の雇用確保を行うことが可能になります。ただし、そのためには事業継続性を共感できる譲渡先の確保、統合・合併後の社内混乱等の防止、など適切な準備、対処が必要です。
つまり、現状を踏まえて、以下3点を中心とした各種対策が求められていると考えています。
- 一定期間内に適切にM&Aを実現させるためのアレンジメントができる必要がある
- 相当数のニーズに対する実現手法を十分に確立する必要がある
- 譲渡後の適切な経営が必要である
中小企業庁「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」
今後のオープンイノベーション
ーーオープンイノベーションなどが注目を集める中、M&Aにおいて今後はどのような発展が必要ですか?
M&Aプラットフォーマーなどのプレイヤーが参画し、イノベーションがはじまっています。特に、小規模事業者向けのM&Aに対するマッチングは、M&Aサービスの拡充によってハードルも下がりつつあるので、促進される可能性があると考えます。
これは、案件情報に対する接触機会を増やすことにより、より迅速な交渉開始が可能となっており、選択肢の多様化に寄与しています。 一方で、交渉開始また開始後には、それらのプラットフォームの特徴を考慮し、検討を進める必要があります。
登録された情報、開示した情報の安全性や料金体系、支援スコープなどに差異があり、自身の適正にあったサービスの活用が求められます。またマッチングを主としたサービス提供範囲であることが多く、マッチング後の契約交渉・契約締結は自分自身(仲介者、専門家を含む)で行う必要性があります。手続きを進めるにあたり、M&A可否要否を初期判断で行うタイミングから、相応の負荷がかかることを忘れてはなりません。
各種ステップはありますが、バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)を行う初期の段階、譲り渡し側の財務・法務・ビジネス・税務などの実態把握の目的で行う
デューデリジェンスにAIテクノロジーを利活用することにより、高度有識者による専門的なデータ分析業務から解放され、より迅速な意思決定がバリュエーションを行いたいユーザ自身で可能となると考えられます。
TISは、AIを活用したクラウド型企業分析AIサービス「Finplus」を提供しており、経営判断の一助としてご活用いただいています。
ーー経営判断の一助となるクラウド型企業分析AIサービス「Finplus」について詳しく教えてください。
Finplusは、財務諸表をインプットとして、「財務諸表分析」「株式分析」「経営分析」の3つの観点で対象企業を分析し分析結果を提供するサービスです。Finplusでは、分析の対象となる会社の直近3年分の貸借対照表・損益計算を「Finplus」へアップロードしてから、最短1日で、PDF形式の約50ページに及ぶ詳細な企業分析レポートが提供されます。
この作業は従来、担当者が人手と時間をかけて入力分析するか、専門家に分析依頼していたものでしたが、Finplusによって財務諸表のアップロード後、最短1日で分析結果を確認できるようになり、また、コストも定額サービスを利用することで1回あたり10万円程度に抑えることができます。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、環境変化を踏まえたビジネスモデル転換の必要性が高まり、それに合わせて迅速な経営戦略の意思決定が重要になっています。
迅速な経営戦略の意思決定を実行するためには、経営層がFinplusのようなサービスを活用し、柔軟な意思決定を行っていく必要があります。
ーーFinplusの今後の展望を教えてください。
前途でも述べた通り、企業を取り巻く経営環境の変化のスピードが激しくなっています。経営の迅速な旗振りが求められるなか、Finplusは、このような状況下で迅速な意志決定をするための一助として、経営判断(企業に対する株式価値評価)をサポートします。また、経営判断をするには、資料を分析して戦略を立てるなどテキストを通して行われていることが多いと考えます。
つきましては、有価証券報告書を分析して方向性を決める上で役立てるなど、自然言語処理技術の発展によって、今まで以上に効率的な経営判断が可能になると思いますので、TISはFinplusのみならず、今までの財務分析と非財務の要素を含めた総合企業評価の研究開発やサービス提供に取り組んで参ります。
おわりに
DXに大きく注目が集まる現在、それぞれの職種における業務を分解して、どのようにAIなどのICT技術で変革が進んでいくのかを考察することが重要です。
経営の迅速な旗振りが求められるいま、Finplusを始めとしたサービスにより経営のあり方がどのように変革していくのか、引き続き注目です。
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