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現在、アメリカでは(そして日本でも)AI人材の争奪戦が激しさを増しています。社外から新規にAI人材を雇用するのが難しい現状の解決策として、同氏は自社の社員をAI人材に育成することをすすめています。同氏が提案するAI人材育成方法は、以下のような4項目にまとめられます。
- 社内のITチーム以外の部署からAI人材育成候補者を探す。
- (オンライン無料講座のような)既存のAI教材を組み合わせて、自社用のAI人材育成教材を作成する。
- ビジネスチームと技術チームを交流させる。
- 試行錯誤できるOJT環境を整える。
以上のような人材育成に取り組むにあたっては、技術的知識だけではなくソフトスキルも兼ね備えるようにスキルのバランスを保つべき、とKesari氏は述べています。
なお、以下の記事本文はGanes Kesari氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。また、翻訳記事の内容は同氏の見解であり、特定の国や地域ならびに組織や団体を代表するものではなく、翻訳者およびAINOW編集部の主義主張を表明したものでもありません。
目次
社外の人材が不足していたり、高価であったりする場合に、AIスキルを構築するための実用的だがあまり一般的ではない方法とは何か
アメリカに拠点を置くフォーチュン200企業のアナリティクスリーダーは、厳しいプレッシャーにさらされていた。彼女のチームは、世界的なエネルギー企業にいる45,000人の従業員をサポートしていたが、ビジネスユーザは満足していなかった。アナリティクスの成果物は遅れることが多く、品質にも問題があった。
アナリティクスチームはIT組織の一部であり、空きポジションを埋めるのに苦労していた。必要なスキルは、ITチームのなかでは見つからなかった。彼らのオフィスはアメリカの大都市から車で60マイル(約97キロメートル)ほど北上したところにあったので、人材を集めるのは容易ではなかった。
何とか雇った数人の人材を育てるのも簡単ではなく、彼らはしばしばビジネスの理解に欠けていた。その結果、アナリティクスチームは人員不足、過重労働、そしてビジネスユーザの怒りにさらされることで有名になってしまった。
こんな話に心当たりはないだろうか。
データサイエンスの人材を採用することは、今日、企業が直面している最大の課題の1つだ。オライリーが2021年に実施した「企業における人工知能(AI)の導入に関する調査」(※訳註1)によると、「熟練した人材の不足、または必要な職種の採用が困難」という課題が最も多く報告された。組織全体でAIへの投資が増加するなか、AI人材の争奪戦が過熱しているのだ。
AI採用のボトルネック
AIを活用するために必要な5つのスキル
AIソリューションの構築には、データサイエンティストだけが必要だというのは誤解である。AIは、データがあってこそ成り立つものだ。質の高いデータを収集し、管理し、保存する必要がある。データが揃ったら、AIの設計、構築、導入を成功させるために、以下のような5つのデータサイエンスのスキルが必要になる。
- ドメインの専門知識:適切なビジネス課題を選び、適切なアプローチを構築するためのスキル
- 機械学習(ML):データインサイトの特定とAIモデルの構築のためのスキル
- ソフトウェアエンジニアリング:モデルをソフトウェアアプリケーションとしてパッケージ化するスキル
- 情報デザイン:ワークフローを設計し、ユーザがモデルのインサイトを利用できるようにするスキル
- マネージャーとしての専門知識:データプロジェクトの不確実性を管理し、ユーザの採用を確保するスキル(※訳註2)
以下では、外部の人材が不足していたり、高価であったりする場合に、以上のような多機能なスキルを社内で育成するための、あまり一般的ではない4つの方法を紹介する。
- AI導入により改善できる業務を特定する。
- AIを導入する業務を特定したら、プロトタイプを試作してAI導入時の効果を評価する。
- AI導入の効果を確認したら、AI導入によるROI(投資利益率)を算出して経営幹部を説得する。また、AIを導入しても業務フローに人間が含まれることを周知する。
1.ITチーム以外の人材を探す
Splunk社のチーフテクニカルアドバイザーであるLisa Palmer氏は、「どの組織も、意識の低さから現在のスタッフを十分に活用できていません」と述べている。ITチームは社内における人材探しを技術チームに限定することが多い。「しかし、IT部門以外のビジネス部門には、多才で奥深い人材がいることに驚くことでしょう」とも彼女は述べている。
組織内に隠れた逸材を発見するためには、各社員が自認するスキルのリストを管理することから始めなければならない。このリストは半年ごとに更新し、同僚がオープンに検索できるようにして、使いやすくて役に立つものにすべきである。Palmer氏は、各個人のスキルを「エキスパート」「機能的」「初心者」「成長が望まれる課題」の4つのカテゴリーに自己分類することを勧めている。こうした取り組みにより、採用ニーズのあるチームは、AIに必要な5つのコンピテンシーに関して準備の整ったスキルを持つ個人や成長意欲のある個人をスカウトできる。
2.公開されているコンテンツを利用して、データサイエンスのカリキュラムを調整する
社内チームをスキルアップさせるための適切なコンテンツを見つけるのは難しいことだ。トレーニングポータルやMOOC(Massive Open Online Course)が急速に普及しているにもかかわらず、そうしたカリキュラムが組織の特定のニーズを満たしていないことがある。このような優れた教育コンテンツにオンラインでアクセスでき、その多くがしばしば無料なので、自社のためにコンテンツを作り直すのは意味がないように感じるかも知れない。
Sallie Mae社のデータガバナンスおよびデータ戦略担当ディレクターのWendy Zhang氏は、「複数のオンラインソースからコンテンツを集めて、独自のカリキュラムを設計する必要があります」と語る。トレーニングプランは、チームの経歴、役割、成功に必要なものにもとづいて作成されるべきである。こうしたアプローチは一挙両得をもたらす。つまり、価値あるオンラインコンテンツを再利用しながら、型にはまったアプローチの限界も回避できるのだ。
チームのスキルアップへのモチベーションを高めるには、トレーニングにゲーム性を持たせるとよいだろう。Zhang氏は、アメリカの金融サービス会社に勤務していたとき、チームが新しいスキルを身につけるために楽しいコンテストを開催した。役員とのランチという簡単な報酬で、チームメンバーのあいだで健全な競争心が芽生え、速いペースで学習できたのだ。
3.チームの技術的スキルとドメインの専門知識を橋渡しする
優れたAIソリューションには、ドメイン知識と技術的専門知識の適切な組み合わせが求められる(※訳註3)。スキルアップを経験した人は、視点が狭くなっていることが多い。技術的なトレーニングではビジネスアプリケーションに触れらないことが多く、その一方でビジネスの方向性が技術にもとづいていないこともある。
Fidelity Investments社のオンライン・アナリティクス・アカデミーは、ビジネスや技術的なバックグラウンドを持つ社員が、人工知能、ビッグデータ、アナリティクスのスキルを身につけるためのサポートをしている。同社のインテリジェント・オートメーション担当SVPであるTodd James氏は次のように述べている。「AIへの取り組みを始めたとき、データサイエンスチームとビジネスチームのあいだにあるAIに対する認識のギャップを解消する必要があることが明らかになりました」。
「この課題に対処するため、私たちはLearning Daysというアジャイルなルーチンを作成しました。このルーチンは、データサイエンティストがビジネスチームに対して、AIのユースケースの特定について実践的な例を用いて教育し、データサイエンティストチームとどのように連携するのがベストかを共有するためのプラットフォームを提供しました。一方、データサイエンスチームは、ビジネスパートナーから戦略、製品、ビジネスプロセスに関する同様の説明を受けました」とJames氏は付け加えた。Learning Daysは、AIに関する意識のギャップを埋め、より質の高いアイデアやプロジェクトの実施につながった。
- 社会科学:顧客から収集したデータから顧客の行動傾向を推測するには、人間の社会的活動を考察する社会科学が役立つ。
- データサイエンス:データサイエンスは収集したデータを分析する手法を提供してくれる。
- 経営科学:データサイエンスプロジェクトの成果を企業活動に落とし込むためには、ワークフローや組織体制の変更が伴う。こうした変更の遂行に関して、経営科学が役立つ。
4.仕事での実験と学習を可能にする
ジュリアス・シーザーの言葉を借りれば、経験こそが最高の教師である。どんなに新しい技術でも、それを実践して初めて血肉化するのだ。どんなに優れた講座やトレーニング方法であっても、チームに実験させ、失敗させ、仕事で学ばせなければ意味がない。
フォード・モーター・カンパニーの製造分析担当シニア・マネージャーであるMichael Cavaretta氏は「私たちはOJTの大の信奉者です」と語った。「私たちのチームは、生産工学からコンピュータサイエンスまで、さまざまなバックグラウンドを持ったメンバーで構成されています。ですから、技術的なスキルと特定のドメインスキルがちょうど良く兼ね備わった人材がチームに入ってくることはめったにありません」ともCavaretta氏は話している。
社内の採用候補者が成長マインドセットと学習への適性を持っている場合、OJTを設計できる。OJTを設計するには初心者と経験豊富な社員を組み合わせ、シャドーイング期間中(※訳註4)の期待値を明確に設定する必要がある。「シャドーイング期間中の初心者がすぐに取り組めるようなタスクを定義して、そのタスクから学習したことを応用できるようにします。(OJTのプロセスを)明確にするために、初心者が習熟度に応じて行うべき段階的なタスクを作成します」、と前出のPalmer氏はOJTについて語っている。
この記事におけるシャドーイングは、本来の意味から転じてOJTにおいてトレーナーが示す模範をトレーニーがすぐに反復する、という意味合いで使われている。
チームにおけるスキルのバランス
方法論があるトレーニングとその応用はチームのスキルアップを可能とし、以上に解説した4つのアプローチによってAI業務に必要なコンピテンシーに磨きをかけられる。そして、スキルを育てる環境を整えることで、AIコンピテンシーと好奇心、創造性、そしてコミュニケーション能力といったソフトスキルのあいだにあるバランスを保つようにしなければならない。こうした施策を実行した時こそ、あなたのチームは、単に興味深いだけでなく、ビジネスにインパクトを与えるデータサイエンス・ソリューションを構築する準備ができるのだ。
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この記事はThe Enterprisers Projectに初出しました。Mediumに掲載するにあたり、イラストを追加しました。
原文
『4 Novel Ways to Build AI Talent In-house』
著者
Ganes Kesari
翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)
編集
おざけん