アランチューリングという名前を聞いたことがないという方、名前は知っているけど、何をした人なのかは知らないという方がいると思います。
この記事は、そういった人たちに向けて、アランチューリングについてわかりやすく紹介しているものです。
アランチューリングとはどんな人だったのか、どんな功績を残した人物なのか、知りたい人は、是非この記事を読んでみてください。
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目次
アラン・チューリングとは
アランチューリングとは、1912年6月23日、ロンドンで生まれた数学・暗号解読・計算機科学の研究者です。コンピュータ科学の父とも呼ばれ、解析不可能と言われたナチスの暗号、エニグマを解析したことで知られています。
その他にも、現代にまで残る数々の功績を残し、彼をモデルとした映画が制作され、イギリスの紙幣にもなりました。
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アラン・チューリングはどんな人だったのか
さまざまな功績を残したアランチューリングでしたが、幼いころから数学や物理学の分野でめざましい才能を発揮し、数々の伝説を残しています。
ここでは、アランチューリングがどのような人生を送ってきたのか、どのような晩年を迎えたのかを紹介します。
アラン・チューリングの生涯
1912年にイギリスのロンドンで誕生したアランチューリングは、幼い頃から数学と科学の分野において才能を発揮し、微分積分学などの難問を早くから解いていたようです。以下のような伝説も残っています。
- わずか3週間で文字を習得
- まだ習っていない微分積分の問題を解く
- 16歳でアインシュタインの論文を補足
彼はケンブリッジ大学のキングス・カレッジに進学し、卒業後も特別研究員(フェロー)としてキングスカレッジに残って計算可能性理論やコンピューター科学を研究しました。
1939年に第二次世界大戦が始まると、ナチス・ドイツが使用していた暗号機エニグマの解読を任されます。そして、暗号解読機「bombe」の開発に成功し、エニグマを解析した功績から、戦後には大英帝国勲章を授与されました。
その後、1946年頃にイギリス国立物理学研究所へ移ります。そこでイギリス初期のコンピューターである「ACE」を設計し、現代に続く情報化時代の基礎を形作りました。このことから、現在も「ソフトウエアの生みの親」「コンピュータ科学の父」といった異名が残っています。
アラン・チューリングの晩年
幼い頃からその才能を発揮し、さまざまな功績を残してきたアランチューリングでしたが、その晩年はあまり知られていません。その理由は、戦争が終結すると、彼の業績は「軍事機密」として、抹消され、口外することも許されなかったからです。
また、アランチューリングは対人関係に問題があり、当時は犯罪とされていた同性愛者であったとも言われています。そして、晩年になってそのことが周囲に発覚し、戦時の功績を公表することもかなわず、同性愛者であるという理由で名誉をはく奪されました。
男性ホルモンによる薬物投与の治療を受けましたが、その後、服毒自殺します。42歳でした。
アランチューリングが考える機械 – 停止性問題
チューリングは「人間には扱えて」「機械には扱えない」概念があると考えていました。これが停止性問題です。
難しいと思うので、停止性問題についてわかりやすい例を紹介します。
Aさんは保健所から「バカ犬」とそうでない犬とを分ける作業を頼まれていた。
そこで彼は、自分の飼っている利口な犬レオに、その仕分けをさせることを思いついた。
方法は単純。保健所の犬たちに鏡を見せ、自分の姿を見て吠える犬を「バカ犬」とし、「バカ犬」であるならばレオにワンと吠えさせて選別した。
あっという間に、たくさんいた犬は賢いレオによって選別された。
明くる日、その話を聞いたあるペットショップのオーナーが、たくさんいる犬の中から「バカ犬」じゃない犬を選び出したいという話をAさんに持ちかけた。
そこでAさんは、レオに「自分の姿を見て吠えない犬」だけにワンと吠えさせて選別した。こうして、レオは「賢い犬を見分けて吠える犬」として話題となった。
そこに現れたのが、アラン・チューリングだった。
鼻高々にレオを自慢するAさんの前で、レオに一枚の鏡を立てこう聞いた。
「この犬は賢いかい?」
この例では、レオが「バカ犬」でなければ、鏡に写った自分の姿を見てほえないはずですが、そうすると「賢い犬を見分けて吠える犬」であるレオがその姿を見てもほえないということは、鏡に写ったレオは「バカ犬」であるということになってしまい、矛盾が生じます。
このことから、アランチューリングは機械が人間を完全に再現することは不可能であり、建設的な議題として、「考え方(プロセス)は考慮せず」、「結果(出力)の正しさに着眼すべき」であると展開しています。これが、彼の功績の1つとして数えられるチューリングテストです。
また、以下のような名言も残しています。
ヒトの代わりに考える機械をつくることはできない
この名言は、アランチューリングが機械についてどのように考えていたのかが端的に著されています。
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アラン・チューリングの功績
これまで述べてきたように、アランチューリングは多くの功績を残しています。ここでは、主な功績として挙げられる3つを紹介します。
それぞれ解説します。
チューリングマシン
まず、チューリングマシンとは、1936年にアラン・チューリングが発表した論文の中で「計算する」ことを定義した仮想的な計算機です。構造は単純で、この計算機で計算して、機械がデータを出力できるならば計算できる、データの出力が不可能ならば計算できないと定義されています。
この計算機は、コンピューターの仕組みの原理・基礎を使っていて、チューリングマシンはコンピュータの原型と言えます。チューリングマシンについて深く知ることで、現在あるコンピューターの能力を理解できるでしょう。
チューリングテスト
そして、チューリングテストです。チューリングテストとは、コンピュータプログラムなどのような特定の機械が人間的であるかどうかを判定するためのテストです。簡単に言うと、ある機械が人間かAIかどうかを見極めるためのテストであると言えるでしょう。
彼はこのテストによって、機械が知能をもつことはありえないとする定説に反論しようと試みました。
AIを相手にキーボードとディスプレイのみで会話します。自由に質問もできるので、AIにそれなりの思考能力がなければ「人間らしく回答」できません。
30%以上の審査員がAIを「人間」と間違えると、そのAIの人間らしさは合格と考えられています。しかし2014年、ロシアが作成したチャットボット「ユージン・グーズマン」は33%の審査員が人間だと判断しました。このように、AIの技術もアランチューリングが生きていた時代から進歩してきていることがわかります。
ナチスの暗号エニグマを解析
最後に、最も有名なのが、ナチスの暗号エニグマを解析したことです。エニグマは1918年にドイツで発明されてナチスに採用された暗号装置で、当時解読することは不可能であるとされていました。
しかし、エニグマには1つの弱点がありました。それは、1日の送信量が多いため、パターンのサンプルを多く敵側に与えてしまうことです。このことから、アランチューリングはエニグマを解析することに成功しました。
チューリングボンベの仕組み
エニグマ暗号の鍵は、159,000,000,000,000,000,000通りと言われています。そこから正解を導き出すことはほぼ不可能でしょう。そこで、アランチューリングは高速な計算機械により、探索時間を短縮することを考えました。
その高速な計算機械を指すのが「チューリングボンベ」というもので、電気式のアナログ探索装置と呼ばれています。このチューリングボンベでは、ひとつずつ探す総当たりではなく、探索空間をある程度区切って探すことで、正解を導き出すという手法が取られました。
これにより正解を15分ほどで見つけることが可能になり、エニグマ暗号の解読は成功したのです。
アラン・チューリングについて書かれた本3選
アランチューリングについて書かれている書籍も多くあります。ここでは、特におすすめできる3冊を紹介します。
それぞれ解説します。
チューリングの計算理論入門
内容
コンピュータの原理としてのチューリング・マシンを解説するとともに、決定問題を解決した有名な「チューリング・マシンの停止問題」も分かりやすく説明しています。さらに計算量と、7大難問の一つ「P=NP問題」についても、わかりやすく解説されています。
読者レビュー
チューリングマシンについて詳しく書かれている。入門と書いてあるが、プログラミング経験者や理系大学生以上じゃないと理解が難しい。 オートマトンからチューリングマシン、特に計算できる=チューリングマシンで記述できると言うのがよくわかる。アルゴリズムや、コンピュータもここが起点となっている。昨今のエンジニアはどのようにプログラムが動いているかなど気にする必要はないが、ぜひ一読しておきたい。
計算の意味を、ある状態が外からの刺激によって変化すること。と単純化して考えていることが面白かった。 そこまで単純化して考えることで、汎用性の高い計算モデルができたのだと思う。そしてこれを原理として、実際のコンピュータを作った人達もまたすごいなと思った。 また、停止性判定問題というのを初めて知った。これを証明した人がアラン・チューリングで、その証明の仕方がゲーデルの不完全性定理と似ていて背理法と自己言及のパラドックスを使ったものだったということに類似性を感じた。
引用:読者メーター
チューリングと超パズル: 解ける問題と解けない問題
内容
知恵の輪、ルービック・キューブ、帽子パズルなどなど、チューリングの作品をモチーフに、多種多様なパズルの世界を、たくさんのイラストとともに楽しく描かれています。通常では扱わない解けないパズルもとりあげ、その理由も論理的に解説します。
読者レビュー
タイル、図形、線形などの視覚的なものから、数学的、論理的なパズルまで幅広く大変刺激を受ける。 個人的には数学的についていけないパズルはともかく、論理的なパズルに歯が立たない自分がやや情けなくなる!
普通のパズル本は、問題があって、解答もあって、自分で取り組んで答えが合ってれば、めでたしめでたし。しかし、この本は一味違う。個別のパズルを解くテクニックが重要なのではなくて、そのパズルが解けるか否かが判定できる組織的な判定法があるかないかに焦点が当てられている。内容が高度なわりに、各章、あっさりめに書かれているため、細部までしっかり理解しながら読み進めようとすると大変だが、考え方の道筋を追うだけであれば、十分読める。収録されているパズルの種類も多いので、おもしろい
引用:読者メーター
マンガ エニグマに挑んだ天才数学者 チューリング
内容
第二次世界大戦中にドイツ軍が使用した暗号機「エニグマ」。解読不可能といわれた暗号機に対抗するため、巨大暗号解読器を開発して戦争を終結させ、計算可能性理論を確立し、人工知能の父とも謳われる天才数学者とは、いったいどんな人物だったのかが書かれています。
読者レビュー
優れた数学者であり、ナチスドイツの暗号「エニグマ」の解読に多大な役割を果たし、コンピュータの基礎となる研究もされた偉大な人。けれど同性愛で有罪となり「化学的去勢」を命じられ、失意のまま自殺した人生。しかし、チューリングを同性愛者として迫害したことについて英政府の謝罪を求める署名活動が高まり、政府は2009年に謝罪。さらに、チューリングへの恩赦、あるいは有罪判決の撤回を求める声が高まり、政府は2013年に恩赦を与えた。そして、次期のイングランド銀行50ポンド札の肖像となることが決まった。これぞ波乱の人生!
ドイツの暗号化機械エニグマを解読し、解読機械の作成にかかわった天才科学者。 しかし、彼の功績は暗号解析という特殊な立場上、一般の人には公開されず、同性愛者の変人として一生を終えたチューニング。 そんなチューニングの生涯を漫画にした、読みやすく且つ判り易い一冊。
引用:読者メーター
アラン・チューリングがモデルの映画
アランチューリングは、彼をモデルにした映画も作られています。その映画が「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」です。
この映画では、主役のチューリングをベネディクト・カンバーバッチが演じ、話題になりました。現在はU-NEXTで配信されています。
アランチューリングについて知りたい人は、こちらの映画を見てみるのも良いでしょう。
まとめ
今回は、アランチューリングとはどんな人だったのか、どのような功績を残した人物だったのかを解説し、彼についてもっと知りたい人のために書籍や映画も紹介しました。
この記事を読んで、アランチューリングは現在にも大きな影響を与えた人物だったことがわかったのではないでしょうか?
アランチューリングに興味を持った人は、今回紹介した書籍や映画などを参考に、より深く調べてみてください。