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2024.10.02

生成AIで“ウラから”イノベーションを|学生起業家が描く、AIを活用した未来

最終更新日:

生成AIの急速な進化により、私たちの生活やビジネスのあり方が大きく変化しつつあります。ChatGPTをはじめとする生成AIツールの登場は、多くの人々に衝撃を与え、AIの可能性と課題について改めて考える機会をもたらしました。

こうした中、AIを活用したビジネスや教育の分野で注目を集めているのが、株式会社Uravationの代表取締役CEOを務める佐藤傑(すぐる)氏です。早稲田大学在学中に起業し、AI研修や受託開発を手がけるすぐる氏は、生成AIの可能性を最大限に引き出しつつ、人間とAIの新しい関係性を模索しています。

本インタビューでは、すぐる氏(@SuguruKun_ai)に生成AIの現状と課題、そして未来の展望について語っていただきました。

好奇心が導いた生成AIとの出会いと起業への道

ーー自己紹介をお願いします。

すぐる氏:株式会社Uravationの代表取締役CEOを務めております佐藤傑(すぐる)と申します。元々は1年間ほど生成AIの個人事業主(フリーランス)として活動していましたが、今年の2月に共同で起業し、現在はAI法人研修や受託開発を行う会社の代表を務めています。実は、現在大学4年生で休学中なんですが、共同創業者も大学で出会った仲間で、一緒に早稲田AI研究会というサークルを立ち上げました。

ーーすぐるさんがAI(生成AI)に興味を持たれたきっかけはなんだったのでしょうか。

すぐる氏:AIに興味を持ったきっかけは、ChatGPTのウェブ版がリリースされた日に遡ります。その日に偶然何度もChatGPTの情報を目にする機会があり、気になってすぐに使い始めました。それまでは法学部で文系寄りの勉強をしていたのですが、ChatGPTとの出会いが大きな転機となりました。

最初は趣味的な使い方から始まりましたが、次第にビジネスへ活用できる可能性を感じるようになりました。自分自身が好奇心旺盛なタイプで、新しいやり方を探求するのが好きだったこともあり、ChatGPTの持つ影響力や可能性に強く惹かれていきました。

実は小学生の頃から、YouTubeでゲームの解説動画を作ったり、海外の情報を日本に紹介したりする活動をしていました。そういった知的好奇心と情報発信への興味が、生成AIという未開拓の領域と出会って、大きな相乗効果を生んだように思います。

生成AIの持つビジネスやマーケットへの影響力の大きさを考えると、これは単なる一過性のブームではなく、社会を大きく変える可能性を秘めていると確信しました。そこから、AIへの興味がどんどん深まっていったんです。

ーーAIへの興味から起業に至った経緯について、詳しくお聞かせください。

すぐる氏:実は、ChatGPTとの出会い以前は、ビジネスや起業にそれほど強い関心を持っていませんでした。しかし、早稲田AI研究会を立ち上げたことで状況が大きく変わりました。

サークルの活動を通じて、ベンチャーキャピタルからの支援を受ける機会があり、そこからベンチャー界隈とのつながりが急速に広がっていきました。また、AI研究会という特性上、ビジネスマインドを持つ学生が多く集まってきてくれました。そういった環境の中で、自然と起業への興味が芽生えていきました。

具体的な転機となったのは、AI研究会で開催した生成AIを使ったハッカソンでした。運営兼参加者として参加し、優勝したことで自信がつきました。そこで生まれたアイデアを持って、ベンチャーキャピタルにピッチを行う経験もしました。最終的にはその時の投資は見送りましたが、起業への意欲が一気に高まりました。

そして、共同創業者となる仲間と出会い、「一緒に起業しよう」という話になったんです。このように、AIとの出会いが、思いもよらない形で起業への道を開いてくれたと言えます。

生成AIで業務効率化するコツとは

ーー生成AIを活用した業務効率化について、具体的なツールやタスク、そしてアプローチ方法を教えてください。

すぐる氏:生成AIを活用した業務効率化について、私が特に注目している分野をいくつか紹介させていただきます。

まず、資料作成の効率化です。私が実際に資料を作成していく中で、Claudeを使って資料の文章を全て作成し、それをCanvaやPowerPointに落とし込んでいくのが最も効率的だと感じています。Claudeは非常に高性能なAIで、複雑な内容でも的確に理解し、質の高い文章を生成してくれます。

最近ではCanvaやPowerPoint以外にも様々な資料生成ツールが登場していますが、私自身がよく使うのはNapkin AIです。これは図解生成に特化したツールで、文章だけでは物足りないスライドに図解を簡単に追加できるので重宝しています。

次に、情報収集と分析の効率化です。弊社では、社内のコミュニケーションツールであるSlackに、difyCozeなどのチャットボット作成アプリを連携させています。これにより、毎朝自動的にニュースを取得し、それを自社の事業内容と照らし合わせて分析した情報を提供してくれます。

出典:Dify

出典:Coze

ただし、AIが生成した固い文章をそのまま提供しても、メンバーはあまり読んでくれません。そこで、できるだけ短く、かつ口調を柔らかくするなどをプロンプトで指示することによって、親しみやすいキャラクター設定をしています。これにより、メンバーが定期的に情報をチェックするようになりました。

最後に、戦略的思考や将来展望の検討にもAIを活用しています。特に注目しているのが、OpenAIのo1(オーワン)です。o1は複雑な推論や考察が必要なタスクに強みを持っています。例えば、自社の将来的な展望を考える際に、様々な要素や変数を考慮しながら、多角的な分析を行ってくれます。

o1の特徴は、応答の前に複数の角度から考え、その思考過程を「推論トークン」として記録することです。これにより、複雑な問題にも段階的にアプローチし、より正確な回答を導き出すことができます。したがって、従来のAIでは得られない多様な視点や、時には他のAIとは相反する意見も提示してくれます。こうした多角的な分析は、戦略立案や意思決定の質を大きく向上させる可能性があります。

ーー生成AIを業務効率化に活用する際に、最も大切なことは何だとお考えですか。

すぐる氏:私が最も重要だと考えているのは、あまり堅苦しく考えすぎないことです。特に昨年は、非常に複雑なプロンプトのテンプレートが流行しましたが、最近のトレンドはむしろシンプルで明快なプロンプトです。実際に、o1の公式ガイドラインでも、シンプルかつ明確なプロンプトが推奨されています。

重要なのは、完璧なプロンプトを考えることではなく、AIとの対話を重ねることです。プロンプトを考えて遂行することに時間をかけるよりも、思考回数を増やす方が重要だと考えています。例えば、予想外の回答が出たら、再送信ボタンを押したり、別のAIで試したり、フィードバックを行ったりしてループを重ねていく。このような試行錯誤のプロセスを通じて、より良い結果にたどり着くことができます。

1つのプロンプトや1つのAIツールに固執せず、柔軟に様々な方法を試してみることが、効果的なAI活用の鍵だと考えています。

ハルシネーションを防ぐために

ーーAIが誤った情報を生成してしまうハルシネーション問題に関して、すぐるさんはどのようにお考えですか?また、具体的な対策方法があればお聞かせください。

すぐる氏:ハルシネーションは、モデルの性能が向上するにつれて徐々に減少していくと考えています。しかし、現状では対策が必要です。

具体的な方法としては、まず情報をきちんと入力することが重要です。また、Genspark(ゲンスパーク)やPerplexity(パープレキシティ)などのリサーチに強いツールを活用して、事前に情報を整理することも効果的です。

また、最近私が注目している対策としては、複数のAIを組み合わせる方法があります。例えば、ChatGPTは単一のエージェントとして動作するため、自身の発言を正しいと前提してしまう傾向があります。しかし、OpenAIのo1のような仕組みを使うと、異なる「人格」を持つAIを導入することができます。これにより、第三者的な視点を取り入れ、ハルシネーションを抑制することが可能になります。

ーーClaudeを使用する際の具体的なハルシネーション対策はありますか?

すぐる氏:Claudeを使う際のハルシネーション対策として、私がよく行うのは引用欄を作るということです。

法律の条文や助成金の規定など、複雑な文章を扱う場合に特に有効で、生成した文章の最後にどの部分をどの条文から引用したのかを示した引用欄を作らせています。さらに、引用した文章を文章を明確にそのまま記載させることで、Claudeが生成した内容と元の文章を簡単に照合でき、ハルシネーションのチェックが容易になります。

日本企業における生成AI活用の課題

ーー日本企業が生成AIを活用する上での課題や、今後の展望についてお聞かせください。

すぐる氏:日本企業特有の課題として、まず挙げられるのが「AIに対する従業員の抵抗感や恐怖心」です。実際に研修を行う前にアンケートを取ると、AIに対する一定の嫌悪感が見られることがあります。この心理的障壁を取り除き、AIを前向きに受け入れる土壌を作ることが重要です。

また、特に地方や中小企業では、AIどころかデジタルトランスフォーメーション(DX)自体がまだ進んでいないケースも多くあります。私の出身地である岩手県の企業にアプローチする際も、生成AIの話の前に、基本的なIT活用から始める必要があることも少なくありません。

さらに、多くの日本企業が直面している課題として、海外製のAIツールの導入障壁が高いことが挙げられます。多くの先進的な生成AIツールは英語圏で開発されているため、日本語でのカスタマーサポートが受けられないことや、セキュリティ面での懸念から導入を躊躇する企業が多いのが現状です。

この課題に対する解決策として、以下の2点が重要だと考えています

  1. 企業レベルでのAIツール導入の障壁を下げること
  2. 日本国内のSIer企業やSaaSベンダーが、海外のAI技術を活用しつつ、日本企業のニーズに合わせたサービスを提供すること

例えば、海外のAI技術をベースにしつつも、日本国内にサーバーを置いたり、日本法人がサポートを提供したりするような形で、日本企業が安心して導入できる環境を整えることが重要です。

このような取り組みを通じて、日本企業のAI導入率を高め、グローバル市場での競争力を向上させていくことが求められています。

Uravationで「ウラから日本をイノベーションしていく」

ーー日本における生成AI活用の課題を踏まえた中での、株式会社Uravationでの具体的な取り組みについて教えてください。

すぐる氏:Uravationでは主に3つの事業を展開しています。全ての軸はAIの活用と導入支援で、特に法人向けのサービスに注力しています。

1つ目は法人向けのAI研修です。主にChatGPTを中心とした様々なAIツールの活用方法や、業務効率化のノウハウを提供しています。研修は通常1〜2時間程度で、実践的な内容を心がけています。特徴的なのは、研修の最終目標としてGPTsの作成を設定していることです。つまり、参加者が自社の業務に使えるチャットボットを自ら作成できるレベルまで到達することを目指しています。さらに、より高度なニーズに応えるため、difyやCozeなどのチャットボット作成プラットフォームの研修も別途提供しています。

2つ目は受託開発事業です。我々の特徴は、エンジニアが生成AI技術を駆使してコーディングを行うことです。例えば、Cursorやv0などのAIコーディングツールをフル活用することで、納期の短縮やコストパフォーマンスの向上を実現しています。また、生成AIを使用したプロダクト開発においては、我々独自のノウハウを活かして、クライアントの課題に対してユニークなソリューションを提供できる点も強みです。

3つ目はAI顧問サービスです。これは研修のアップセルとして位置付けており、研修後も継続的なサポートを提供します。例えば、GPTsのチャットボット作成後のフォローアップや、プロンプトの最適化など、企業が実際にAIを活用していく中で発生する様々な課題に対応しています。

これらの事業を通じて、我々は日本企業のAI活用を総合的に支援し、DXを加速させることを目指しています。

ーーAI研修・開発会社のCEOとして、今後の自身と会社の展望についてお聞かせください。

すぐる氏:会社としては、今後受託開発事業の拡大に力を入れていきたいと考えています。最近、シリコンバレーで注目されている「ビルダー」という概念に着目しています。これは、AIを駆使してコーディングを行い、迅速にアプリケーションを開発・リリースしていく人材のことを指します。

我々の目標は、このようなビルダー人材を多く抱える開発会社として成長することです。AIツールを最大限に活用することで、従来よりも遥かに速いスピードでプロダクト開発とイテレーションを行い、クライアントのニーズにより迅速に応えられる体制を構築したいと考えています。

また、Uravationという社名には「ウラから日本をイノベーションしていく」という意味が込められています。これは、地方と東京、労働者と資本家、日本と海外といった二項対立の構図の中で生じる情報格差や資本の格差を、AIを活用することで解消していきたいという思いを表しています。長期的には、この理念の実現に向けて取り組んでいきたいと考えています。

個人としては、新しい技術やツールを使ってイノベーションを起こすことに強い興味があります。今後も生成AI業界に深く関わりながら、ビジネスの知識をさらに深め、AIの業務活用の可能性を追求していきたいと思います。同時に、Xなどにおける情報発信もより活発にしていきたいと思います。その結果として、早くXのフォロワー数でチャエン(@masahirochae)さんを追い抜いていきたいと思います(笑)

さいごに

すぐる氏へのインタビューを通じて、生成AIがもたらす可能性と課題、そして生成AIの具体的な活用方法について、多くの示唆に富む見解を得ることができました。

生成AIを使うことによって、ビジネス面での効率化や生産性の向上が見込めますが、その一方で、AIに対する不安や抵抗感、倫理的な課題など、乗り越えるべきハードルも少なくありません。

すぐる氏が強調するように、生成AI時代を生きる私たちに求められるのは、AIを単なるツールとして捉えるのではなく、創造的なパートナーとして活用していく姿勢です。特定のプロンプトだけを使ったり、1つのAIにこだわるのではなく、AIとの対話を重ねることが重要です。

また、始めからビジネスで完璧に使うというところを目指すのではなく、好奇心を持って「まずは触ってみる」というマインドが大切なのだと、すぐる氏のお話から感じることができました。

生成AIの進化は、私たちの働き方や生き方に大きな変革をもたらすことは間違いありません。しかし、その変革を恐れるのではなく、新たな可能性として前向きに捉え、人間とAIが協調しながら、より良い社会を築いていく。そんな未来の実現に向けて、私たち一人ひとりが主体的に考え、行動していくことが求められているのです。

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