仕事のない未来はどのように見えるのか?【前編】

著者はチャットボットGrowthBotの開発リーダー。この記事はAIの普及が社会に及ぼす影響と、その影響への対処法を論じている。AIの導入はソフトウェア産業から進むのだが、そうした産業は業界上位の企業が富を独占する「勝者総取り」の体制を築く。そのため、AIが普及するにつれて経済格差が激しくなることが懸念される。予想される経済格差を是正する政策として提案されるのが、ベーシックインカムである。この記事は、AIと労働およびAIと経済の問題を真正面から論じたまさに今読むべきものと言える。(AINOWコメント)

世界恐慌の真っただ中の1931年、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズは『われわれの孫世代のための経済的可能性』という論文を発表した。

その論文においてケインズは、当時の世界恐慌は一時的なものに過ぎないとしたうえで、2030年までにはヒトビトは週に15時間以上は働かず、残りの時間を使って余暇と文化活動に専念ようになるだろう、と予言した。

『われわれの孫世代のための経済的可能性』には次のような記述がある。「1日3時間シフトあるいは週15時間労働でも長きに渡った問題を解決するかも知れない。われわれの大多数が支持する古きアダム・スミスを満足させるには1日に3時間働けば十分なのだ」

世界恐慌は終わり経済成長は回復するというケインズの予言は正しかったが、現在のわれわれのほとんどは週に15時間以上働いている。われわれは、まだ急速に変化する時代を生きているのだ。テクノロジーによるイノベーションはわれわれの働き方を根底から変えつつある。

しかし、実のところわれわれは、余暇と文化活動を自由に追求できるほど豊穣な時代を謳歌できるような社会に向かっている途中なのではなかろうか。

われわれは前代未聞な変化と進歩の時代を生きている

直近2,000年間の世界のGDPの推移(出典:Our World in Data)

人間存在の大多数にとって、これまで特筆すぺきペースで進行する進歩などなかったのだが、上のグラフを見ればわかるように今から80年前、進歩はまさに爆発した。

人類の進歩は5つの重要な革命によって跡づけることができ、ユヴァル・ノア・ハラリ氏が著した『サピエンス全史』によれば、もっとも変化を引き起こした革命は50年前に起こった。ひとつめの革命は認知革命である。それは約70,000年前に起こり、われわれ人類が言語を発明し、知識の保存を始めた。

その後に起こったのが農業革命である。約11,000年前、人類は食物を探し回るかわりに植物を育てる自然のちからを利用することを学んでからは、狩猟種族から街や都市の定住者となった。

約500年前に起きた科学革命は、ヨーロッパに帝国主義と領土拡張の時代をもたらした。そして250年前には産業革命が始まり、50年前の情報革命と続く。

『サピエンス全史』には「情報革命」という術語は記述されていない。

ただし、50年前から現在に至る期間が人類史において未曽有の繁栄期であったことに言及する記述はあり、『サピエンス全史(下)』の第19章「文明は人間を幸福にしたのか」に次のような記述がある。「人類にとって過去数十年は前代未聞の黄金期だったが、これが歴史の趨勢の抜本的転換を意味するのか、それとも一時的に流れが逆転して幸運に恵まれただけなのかを判断するのは時期尚早だ」

それぞれの革命において人類の歴史は大きく跳躍し、その跳躍のたびに数えきれないほどの仕事がそれをより良く実行する方法に関する発明によって代替された。狩人は農夫に、ヒトの労働者は蒸気エンジンに代替された。

それぞれの歴史革命において生まれた仕事を代替する発明はその後の急激な経済成長を伴い、その経済成長によって全体として人類の生活は改善されたのだった。

たとえわれわれ人類の仕事を機械に代替したほうが良いとはっきりしたとしても、人類は最良の思考者にして地球上の意思決定者であるとして自らの尊厳を保ってきた。なぜなら機械は農夫の収穫高を増やす助けをしてくれるとしても、何を植えいつ収穫するかを最終的に決めるのは農夫だからだ。

人類は、われこそが地球上で最良の思考者にして最速で学ぶ学習者と信じてきた。しかし、この信念はもはや真実ではない。

2016年、AlphaGoがイ・セドルに勝利して最高位のプロ囲碁棋士をハンディキャップなしで打ち負かした最初のコンピュータ・プログラムとなった時、新たな歴史が刻まれた。AlphaGoの勝利が画期的だったのは、囲碁がほかの戦略ボードゲームに比べて非常に難しいと考えられていたためであり、それゆえその勝利がいっそう印象的だったのだ。チェスが一手につき20通りほどの手が考えられるのに対し、囲碁は250通りである。

機械は、かつては人類固有のものであった環境における変化に対応して素早く学習し意思決定する能力を迅速に模倣する(そして、この能力を改善している)。

結局のところ、機械はヒトがする仕事のほとんどのタイプを代替しうるのだ。代替される仕事のなかには労働者が限られた量の情報にもとづいて意思決定する役割もふくまれ、そうした意思決定はルーティンワークではないし、ヒトの労働者の勘によって予見できるものでもない。

テクノロジーがもたらす変化を予見することは、人類には困難である

もし誰かがタイムマシーンを発明して、16世紀における平均的なヒトを18世紀に送り込んだとしたら、そのヒトは実のところ自分が生きていた時代の200年後の世界をそんなに苦労することなく理解するだろう。しかし、誰かが18世紀に生きているヒトを20世紀に送り込んだら、そうはいかない―テクノロジーが18世紀から20世紀のあいだに世界を一変させてしまったので、18世紀から来たヒトは違う世界に連れてこられたと考えるだろう!

イングランドと大英帝国における主要産業別の生産高(出典:Our World in Data)

18世紀から20世紀のあいだに起こった劇的な世界の変貌は、その時代における主要産業の生産物の変化によってもたらされた。

タイムマシーンのたとえ話のように、今度は1970年代から現代に来た工場労働者に、あなたの仕事は機械に奪われれる運命にあることを信じられるかどうか尋ねることを想像してみよう。その工場労働者はきっと自分の仕事が機械に奪われることが理解し難く、納得もできず疑念でいっぱいになるだろう。以上に述べたたとえ話が、われわれ人類はテクノロジーの進歩率に関して理解しているかどうか常に疑うべきだということ、そして人類の大多数はテクノロジーの進歩がもたらす変化を完全に理解するようには生まれついてはいないことを認めるべきである、ということの理由を明らかにしている。

今から20年後には世界の労働者の半分近くが自動化されると推定されている。労働市場の大規模な崩壊が予見されることから、考えられる帰結がふたつある。そのふたつとは、

(1)大量の失業者にあふれた社会不安の時代の到来、あるいは 

(2)自由にクリエイティブな労働に専念できる豊穣の時代の到来

のふたつである。

シナリオ1:社会不安の時代の到来

1990年、インフレ調整したアメリカの一世帯当たりの収入の中央値が54.932ドルに達した。しかし、その後、この値は下落していった。エリック・ブリンジョルフソンとアンドリュー・マカフィーが共著した『第2の機械の時代』によると、2011年にはアメリカのGDPが最高額を記録したにも関わらず世帯収入の中央値は10%近く下落した。

アメリカの1世帯当たりの実質GDP(太線)と世帯収入の中央値(細線)の推移(出典:『第2の機機械の時代』より)

世帯収入の中央値が下落したのとは反対に、同じ期間において労働生産性は年率1.56%づつ上昇し、この上昇は世帯収入の平均値を比較可能なかたちで増加させたのだった。ブリンジョルフソンとマカフィーは、世帯収入の中央値が下落したのは経済格差が拡大したからと論じている。

1995年を100とした時の1970年以降のアメリカにおける労働生産性の推移(出典:『第2の機機械の時代』より)

(世界有数のヘッジファンドである)ブリッジウォーター・アソシエイツの創設者のレイ・ダリオ氏もまた同様の結論に達した。2016年10月、同氏はアメリカの経済をふたつの階層に分けて査定した。そのふたつの階層とは、上位40%と下位60%である。

同氏は、上位60%の世帯収入の平均値が下位40%のそれの4倍以上になっていることを発見した。また1980年以降アメリカ全体の世帯収入の平均値は上昇しており、この上昇を下位60%も経験しているのだが、下位グループの実質的な世帯収入の平均値は横ばいか穏やかな下降を示している(同じ期間で上位40%の平均値は上昇している)。そして現在、上位40%のヒトビトは、下位60%のヒトビトに比べて平均して10倍の資産を保有しているのだ。

レイ・ダリオ氏のブログ記事「われわれの経済的、社会的、そして政治的な大問題について」より引用したアメリカの世帯収入上位40%と下位60%の経済成長を比較した図。

左図は名目世帯収入の平均値、右図は実質世帯収入の平均値の推移を表す。それぞれのグラフ上部の破線が上位40%、グラフ中央部の青い実線が上記ふたつのグループを合わせた全体の平均値、グラフ下部の破線が下位60%を意味する。

ブリンジョルフソンとマカフィーは、以上のような世帯収入に見られる格差を引き起こした主な要因は、部分的あるいは全面的に自動化された仕事の報酬を下げるような圧力が急速に働いたから、と論じている。

例えば、ヒトの労働者が1時間で生み出せる価値を1ドルで動かせる機械でも生み出せるとしたら、自由市場においては利益を追求する雇用者はヒトに時給1ドルしか払わないだろう。こうして労働者は低賃金に甘んじなければならず、ついには解雇もあり得るのだ。

デジタル・テクノロジーは革新的なアイデアを低コストで実行することができるので、デジタル・テクノロジーを有効活用する術を見つけたヒトは、テクノロジーを使う前に得ることができたカネより指数関数的に多く稼ぐようになる。ブリンジョルフソンとマカフィーは、こうした労働市場を「勝者総取り」市場と名づけた。

(勝者総取り市場におけるサクセス・ストーリーとして)例えば比較的少数のデザイナーとエンジニアだけでファクトチェックを実行するソフトウェアを作ることができたとしよう。こうしたソフトウェアがうまく動作するようになれば、何百万というユーザにほぼゼロのコストで配布することができる。

もしこのファクトチェック・ソフトウェアが広く普及したら、何万というファクトチェックに従事していた労働者は仕事から外される一方で、このソフトウェアを開発した少数の個人はソフトウェアが生み出す富を手にすることになる。

勝者総取り市場における重要なもうひとつの特徴は、市場を独占する破壊的テクノロジーを作った個人は市場において相対的に優位になるわけではないことである。

そうした個人は、市場全体を勝ち取るのだ。伝統的な市場では、製品の90%のシェアを持っているヒトは、市場全体の90%のカネを得る。

しかし今日の勝者総取り市場においては、ユーザはベストなファクトチェック・ソフトウェアを使える時にわざわざセカンド‐ベストなソフトウェアを使う理由など何もない(それゆえ、ユーザは全員ベストなソフトウェアを使う)。

勝者総取り市場においては、(テクノロジーによって代替された結果)かつては重要だったタイプの労働に対する需要が減る一方で、イノベーターは(代替された労働価値と比べて)不釣り合いなまでに大きな富を得る。

以上のような勝者総取り市場に見られる富のギャップは、もしこのギャップを緩和する施策を予防的に実施しなければ、さらに大きくなるだろう。テクノロジーが大量失業を引き起こすという誇張されたシナリオにおいては、消費者が製品とサービスに費やすカネはより少なくなるだろう。するとビジネスは商品価格を安くすることで縮小する消費者の支出を奪い合うものとなり、その結果として経済全体がデフレ・スパイラルに陥るだろう。

レイ・ダリオ氏のブログ記事「われわれの経済的、社会的、そして政治的な大問題について」より引用したアメリカの世帯収入上位40%と下位60%の薬物または自殺による死亡率を比較した図

上左図は人口10万辺りの薬物による死亡者数、下左図は人口10万人当たりの自殺者数を表す。それぞれのグラフ上部の破線が下位60%、グラフ中央部の青い実線が上記ふたつのグループを合わせた35~64歳アメリカ人全体、グラフ下部の破線が上位40%を意味する。

 

(…後半に続く)

著者:Justin Lee
原文URL:https://medium.com/swlh/what-does-a-future-with-no-jobs-look-like-71bda1004a71
訳者:吉本幸記 編集: おざけん


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おざけん

人工知能・AI専門メディア AINOWディレクター ┃ 趣味はカメラ撮影。
┃ Twitterでも発信しています。@ozaken_AI ┃ AINOWのTwitterもぜひ@Ainow_ai┃
出演: 日経CNBC「日経カレッジ・ラボ」日本テレビ 「ZIP!」など┃

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