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2019.06.21

AI×人材 ―課題解決能力をいかにして養成するか― AI/SUM レポート

最終更新日:

2019年4月22日から24日にかけて開催された日本経済新聞社主催の「AI/SUM」において行われたセッションの中で、今回は「AI×人材育成」の内容をお伝えする。

AIやデータを使いこなせる人材の育成が急務である一方、日本ではProject Based Learnig(課題解決型学習)の場が十分に整備されているとはいえない。このセッションでは、産業界の実課題を活用した先進的なAI実践スクールの創設をはじめ、AI・データを使いこなせる人材の育成政策について議論・検討された。

  • 飯沼 純 氏 (株式会社Cogent Labs)
  • 斎藤 秀 氏 (株式会社SIGNATE)
  • 曾我部 完 氏 (株式会社グリッド)
  • 松本 勇気 氏 (株式会社DMM)

モデレーターを務めたのは経済産業省 商務情報政策局 総務課 課長補佐 小田切 未来 氏だ。

 AI人材の育成を取り巻く現状と課題

まず、小田切氏により、AI人材の育成に関する現状と課題について語られた。

小田切 未来 氏
(経済産業省 商務情報政策局 総務課 課長補佐(当時))

小田切:AI人材の育成において重要なのは、学校でのAI人材育成、企業でのAI人材育成をどうするかです。

経済産業省のデータでは先端IT人材が2020年には約4.8万人不足すると言います。

AI人材には課題を発見し、解決するの能力が必要不可欠であります。

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各企業が考える現在のAI人材育成の在り方

課題を見つけ、AIのアルゴリズムを作るうえで重要なのはチームの人員構成

AI-OCRツールのTegakiなどを運営しているCohent.Labsの飯沼氏。Cogent Labsは20カ国以上のメンバーがジョインし、一からプロダクト作りをおこなっている。

飯沼 純 氏(株式会社Cogent Labs 代表取締役CEO)

飯沼氏:Cogent Labsでは、半数以上が外国籍の社員で、20カ国以上な国籍の社員が、他社のAPIを使用せず、一からAIを開発し、APIを整え、サービスとして提供しています。このようにリアルなサービスを提供するためにはインターナショナルでダイバーシティな人々が平等に仕事を環境を提供できるようにすることが重要であると考えます。

Cogent Labsでは、リサーチャー、機械学習などのエンジニア、ビジネスサイドのチームがいます。AIの会社としてお客様の課題を見つけ、それを解決するためにリサーチャー1〜2人とエンジニア3〜4人の構成で1つのアルゴリズムを作っています。

リサーチャーは、機械学習ディープラーニング)をちゃんと理解できる人と、大量のデータの特性を理解して分析できる人を重視しています。学者でなくても良くて、天文物理学の先生や、統計学の博士号を持っているメンバーを連れてきてデータの活用法を考えながら、エンジニアとチームを作って製品を作っています。

AI人材の育成では、AI +なにか をちゃんとできる人を集めることが重要です。AI特化型の人だけではなく、違うバックグラウンドを持っている人です。ベースのAIの知識は必要ですが、AIにとんがらせるか、他の知識をかけあわせられるかの人材が大事です。

 

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さまざまな業種のデータに触れ、課題を見つける力を養うことで、より実践的に学びにすることが重要

1.8万人のさまざまなレベルのデータサイエンティストが集うデータ分析コンペのプラットフォーム「SIGNATE」を運営するSIGANTE株式会社の齊藤氏。コンペの運営だけでなく人材育成や採用の支援などにも活動の幅を広げ、AI領域の人材不足の課題解決を図っている。

齊藤 秀 氏(株式会社SIGNATE 代表取締役社長)

齊藤氏:データ分析コンペはデータサイエンティストの教育に極めて有用であると感じています。

問題意識が2つあります。

1つは人材不足です。AI人材の需要に対し、供給が圧倒的に追い付いていないのが現状です。

もう1つはクオリティです。AIの製品の精度は第三者評価がないので、どこが優れているのかがひと目でわかりません。

コンペプラットフォームを運営するなかで気づいたのは、教育効果が極めて高いということです。コンペに参加する1.8万人の方々は全てが熟練したプロフェッショナルな人材ではありませんが、実際の企業の課題や実データなどのリソースがあるため、自発的に集まって来ます。教科書的な受動的に得られる知識でなく、鉄道外車や小売り業者をはじめとした、本当の課題とさまざまな業種のデータに触れられるため、課題を見つける力を養うことができ、より実践的に学ぶことができます。

また競争も大切で、お互いにディスカッションしたり、勝者のノウハウを学んだりして実際の問題を解決していきます。チャレンジしていく過程で学ぶことができます。

また、1社あたり3000人レベルの規模で企業に研修を提供して気づいたのは、パッケージをしっかり作って裾野を広げていかないといけないということです。そこでSIGNATEは2019年の夏からEラーニングの教育サービスを始めます。視点を業種に特化して問題解決のプロセスや個々の技術を学んでいくシステムです。

それだけでなく、実際にコンペに参加し、最後は自分でガチンコで解く。それで自立できると思います。

実際、ベテラン社会人より若手のほうが論文などのキャッチアップ力があり、プロジェクトを回しやすいです。

アメリカでのキャリアパスモデルも参考にし、これからは教育、産業での連携の在り方の再定義し、リベラルアーツ、大学での教育でAI人材を育成していくことが求められるでしょう。

また、ビジネスにおいてはAIをどう導入していくか経営者層とどう壁打ちしていくのかが重要です。

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機械学習の入り口はGUIツールで

誰でも簡単にデータ解析や AI 開発をできるようにし、高度なアルゴリズムを自由に組み合わせて使えることを目指すAI 開発プラットフォーム「ReNom」を提供する株式会社グリッドの曾我部氏。グリッドはインドネシアのジャカルタにも支社を持っており、現地の学生と協同し、AI人材育成にも積極的に取り組んでいる。

曾我部 完 氏 (株式会社グリッド)

曾我部:グリッドではインフラ分野のAIを数年かけて顧客と作りあげたり、AIの開発のための基盤技術「ReNom」を提供しています。

AIのプロジェクトでは教科書の知識では作れません。教習所で走るのとF1カーに乗るくらい違うと思います。むずかしいことにチャレンジしようとすると時間がかかってしまいます。

3年前に自動微分のフレームワークをAPIを通して提供していたのですが、一般のプログラマーが使えるかと思ったら、SIerに提供したら、ほぼ誰も使えないということがわかりました。そのあと、ソースコードをデータセットと理論解説をセットでサイトに掲載しはじめました。SIerさんの研修を受け入れて、各社のAIのビジネスを立ち上げるフォローをしていましたが、やっていてもらちが明かないなという結論に至りました。

2018年からはプログラムを書かなくてもAIを構築できるGUIツールを作って提供しています。

GUIツールの構築を通して感じたのは、プログラムを書ける人を育てるには時間や労力がかかり、センスが必要で、コストがかかります。GUIになるとボタンを押せば結果が見れるので、コードを書かずに、試行錯誤しながら感覚的に学ぶことができます。

GUIベースでライトに始め、深く理解したいときにソースコードに入っていけば面白い世界が広がると思います。

データサイエンスベースで課題解決能力を身に着け、機械学習を取り入れる

松本氏は、大学在学中に学生ベンチャーのLabitなど複数のスタートアップにてiOS/サーバーサイドの開発を担当し、2015年からはグノシーのCTOとして、KDDIと共同開発した「ニュースパス」の立ち上げや、ブロックチェーン事業子会社のLayerXの立ち上げなどを手がける。

松本 勇気 氏(合同会社DMM.com CTO)

松本:DMMは事業会社としてさまざまなサービスを提供しています。その中で「DMM WEBCAMP」というプログラミングスクールの事業もあります。

AIを作れる人材をどうしていくか。現場レベルでのAI人材教育も重要ですが、意思決定者・経営者層の機械学習、データサイエンスなどのリテラシーが重要だと思っています。さまざまな事業がデータサイエンスをベースに動いていくべきだと思います。事業がソフトウェア・エンジニアリングと切っても切り離せないのが現代の常識です。

今の経営者は要素技術としてAIやRPAを導入しようとしますが、何を改善すべきかをデータサイエンスベースで深ぼっていかないと正しい機械学習の活用はできないと思います。その点で、経営者育成が課題だと思っています。

私自身もDMM内でカリキュラムを作りながら、事業部の担当に対してこれからの経営は「このように計測して、こうやって改善して、このように機械学習が入ってくる」と上流を設計しています。データサイエンスベースの上流があるからこそ、はじめてAIを適用したり、人の育成の課題が出てくるのかなと思っています。データサイエンスベースで課題解決能力を身に着け、機械学習を取り入れることが重要です。

最後に

AIを導入する際に、経営者層が現場の社員やエンジニアに、開発を一任するという経営とエンジニアリングを分断する考えは時代遅れであることを今回のセッションで痛感させられた。

経営とエンジニアリングを分割して考えるのではなく、組織横断的に事業を展開していく姿勢がこれから問われるのかもしれない。それに伴い、経営者層にもエンジニアリングの視野、素養も求められるだろう。

AI人材を育成するためには、トップダウン的というよりも、現場ベースのボトムアップ的組織のほうが良い土壌なのかもしれない。

画像提供:日経新聞社

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