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みなさんこんにちは。AINOWライターのゆーどーです。
2010年代から大きく注目を集め続けるAI技術は、どのように活用するかが企業の業績に影響するようになっています。2019年、世界を代表する総合コンサルティングファームであるアクセンチュアは、「AIを活用しないと77%の企業が著しく業績低下する」という内容の調査結果を発表しました。
今回は、アクセンチュア株式会社でAI(アプライド・インテリジェンス)グループを統括する保科 学世氏に、「AIを活用できていない企業の特徴」や、「AIを本格導入した企業の成功要因」についてインタビューしました。
目次
AIを活用しないと77%の企業が著しく業績低下
アクセンチュアの最新調査による発見
2019年にアクセンチュアがある調査結果を発表しました。
それは、「日本企業の経営幹部の77%がAIをビジネス全体で活用しなければ、2025年までに業績が著しく低下すると考えている」という内容です。
▼アクセンチュアの調査について詳しくはこちら
近年のAIの普及により、私たちは目に見えるところから目に見えないところまで、さまざまなところでAIの恩恵を受けています。例えば、画像認識技術を応用し、手書き文字を認識して入力を効率化する「AI-OCR」の活用が進んだり、膨大なテキストから必要な情報を取り出し、カスタマーセンターにおける業務の効率化が進んだりしています。
このような状況下で人件費などのコスト削減や企業の利益アップを目的に、AI導入を検討していることでしょう。
しかし、調査結果によると、多くの企業が実用化する段階までの道のりがイメージできていないということがわかりました。
アクセンチュアは、企業が先述の状況に陥っている主な原因は、AIを導入すること自体が目的になってしまい、どうAIを活用して経営戦略を実現するか、という視点が欠けていて、AIの実用化までたどり着かないということでしょう。
では、AIを実務への導入に成功している企業には、どのような特長があるのでしょうか。
AIを実用段階に進めている企業はわずか16%
同調査によると、AI技術の実用化に向けて、確立された手法はありません。多くの企業がAI技術の概念実証段階から実運用に向けて進むことができず、AI機能を本格的に備えた組織を構築できている企業は16%にとどまっているといいます。
AIを実務への導入に成功している企業の特長と、これからAIの導入を考えている企業が注力すべきポイントについて、保科氏に伺いました。
AIの導入に成功しているトップ企業の特長とは
ーーAIの本格導入に成功している企業には、どのような特長がありますか?
保科氏:成功企業には3つの要素があります。
- 強固なデータ基盤を持っていること。
- 複数の専任AIチームを持っていること。
- 経営幹部による戦略的かつ本格的なコミットメントがあること。
また、AIの導入に成功している企業は、他の企業に比べて、約2倍の実証実験の数を積んでいますが、投資額自体は突出して多くない傾向があります。つまり、小さくても数をこなすことで、実用につなげられているのです。
昨今のAIへの注目の高まりとともに、「データの重要性」が謳われ、多くの企業が自社内のデータを活用し、売上の増加などを検討しています。しかし、データの量は、AIの導入成功につながる1つの要因にしか過ぎません。
経営幹部が、AIで何を実現したいのか、ビジョンをしっかり描き、本格的に企業の体質を変えていくためにコミットしていくことが重要です。また、AI活用を推進する多様な専任チームを作ることも大切です。
保科氏によると、これはAI導入における基本要素だといいます。
保科氏:「データ・戦略・人材」の基本要素を抑えている事が重要です。
AIを活用するためには、データが重要であることを、95%の企業が理解しています。さらに、AI活用におけるトップ企業は、データ資産を管理し、環境を整えています。データは、すべて自社で用意する必要はなく、67%の企業は、社内外のデータを統合して効果的に活用しているデータもあります。
また、適切な人材を集める事も重要な点です。ここは、チームに一人のAIの専門家がいれば良いという訳ではなく、分野横断型のチームを構成できていることが大事です。
AI導入に最適な組織 ーキーワードは「分野横断」
ーーAIの導入を成功につなげるための組織づくりはどの企業でも悩んでいると思います。理想形はあるのでしょうか?
保科氏:AIを導入した成功事例の中では集中型のチームが多いですが、それだけが正解という訳ではありません。
例えば、ビジネスユニットやAIツールをより集中化させたセンター型。
また、ハブ・アンド・スポーク型と呼ばれるモデルもあります。これは、「ハブ」という部門横断型のAIチームを設置し、各ビジネスユニットで自律する「スポーク」というAIチームを分散させるモデルのことです。
保科氏による「集中型」と「ハブ・アンド・スポーク型」は図示すると以下のようになります。
集中型では、AI専門の組織を立ち上げ、社内のプロジェクトを一貫して請け負います。一貫したAIプロジェクト導入が可能で、社内で実験的にAIプロジェクト導入を進める上で優位な組織です。一方で、各部門の状況に合わせた柔軟な対応が難しくなるという難点があります。
ハブ・アンド・スポーク型では、ハブとなるAI専門の部署はありますが、具体的にプロジェクトを進めていくのは各部署にあるスポークとしての役割を果たすチームです。各部門の状況に合わせた柔軟なAI活用の推進が可能ですが、各部門の状況などを常に社内で共有試合、緊密に連携していく必要があります。
特にハブ・アンド・スポーク型は、データ活用に積極的な企業に多く見られます。全社が抱えるデータを基盤として横串組織(AI本部やデータ本部)が一括で管理することで、社内で迅速にデータを活用できる環境を整えます。
その上で、各部署ごとにデータを活用して施策を打つことで、柔軟かつ効率的なAI活用の推進が可能です。
また、この組織体系に関わらず、戦略的に、かつ意図的にAI導入を行う重要性を保科氏は説いています。
保科氏:明確な意図、戦略を持ってAIを活用している企業が成功しています。意図的とは、解決するべきビジネス課題を明確にし、戦略を立てて、解決するためのAIツールを試験導入し、本格導入するということです。
まず、集中型の組織を立て、時には社外のリソース(受託企業など)を使って、試験的にAIの活用を進め、社内の部門が多い場合は、各部署にAI活用を移譲していくことで、AIの本格的な導入につながるでしょう。
組織内の体制を整え、AIの位置付けを再確認する
必要なのはデータサイエンティストや機械学習エンジニアだけではない
AIが導入されることにより、今後は、必要な人材も多岐に渡ります。
保科氏:大前提として、AIの導入において、ビジネスのビジョンを再認識して、戦略を実行していくことが重要です。
その上で、データサイエンティストはもちろん重要です。しかし、それに限らず専門スキルを持つさまざまな人材が必要になります。
さまざまな人材がチームを組み、ビジネスのビジョンや戦略を、AIなどの技術を使っていかに実現するか考えることが大事だと思います。
また、AIを導入する上で、戦略の中でもっとも重要な要素をAIソリューションで実現することが大事です。
AI導入のチームでは、データサイエンティストや機械学習エンジニアは必要不可欠な存在です。データを元にした高度な解析には、数学的な知見が依然と必要です。
一方で、その他に必要な人材にも目を向けなければなりません
- 社内でAI導入を企画し、予算をとれる人材
- 現場の知識に富んだ人材
- 部門間で情報をとりまとめたり、スケジュールを管理するなど、プロジェクトを推進するプロジェクトマネージャー
- AIを導入後にAIを運用する担当者
特に、AIの文脈では、「AIを導入する」ことが目的となりがちです。
しかし、ビジネス戦略を実現するために、どのようにAIを使うかを念頭に集中型またはハブ・アンド・スポーク型の組織を作り、運用しやすい体制を組んでいけば、AI機能を本格的に備えた企業を構築できるでしょう。
AI導入が目的となりがちな現在のAIトレンドですが、AIの低コスト化(プラットフォーム化など)に伴い、ビジョンを意識しやすくなると保科氏は述べています。
保科氏:日本企業はAIの実証実験が終わった後のビジョンが明確に見えていないため、試験導入から導入に成功していないケースを多く見てきました。
今日は低コストで実装できるAIツールが数多く存在しています。企業がAIを入れる手段は多く、今後は価格がより下がっていくことでしょう。
国内の企業は、ビジョンを認識した上で、まず既存のAIサービスを使いこなしてから、本格的に導入するべきであると考えています。
AIによってビジネスが変わらなければ意味がない
AIを導入することが目的ではビジネスは変わりません。言い換えれば、目的に合わせてAIを適切に活用することができれば、今まで以上にビジネスを変革し、企業を進化させることができます。
保科氏:データ戦略にもとづいて、結果から得られるインサイトを活用することがAI戦略の成功の鍵になります。
AIの導入によってビジネスが変わらなければ意味がなく、いかに企業の戦略に合わせてAIを取り入れていくかが重要です。
しかしAIは責任のある活用の仕方をしなければ(RESPONSIBLE AI)は倫理的問題に発展する可能性もあります。慎重に構築し、導入するべきです。
AIの本格導入で成功している企業は責任のあるAIを明確にしているため、成功につながっています。
AIの本格導入に向けたロードマップ
アクセンチュアは、今回の結果を受けて、企業が検証フェーズから実用フェーズへ移行する際のロードマップを作成しました。
国内でIT技術を推進するトレンドは大きく「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に移行し、さらに柔軟にデータ活用できる企業体質が求められています。一方で言葉は変わっても、「目的」は一緒です。
「DX」「AI」「RPA」などの流行に注目しつつ、本記事で紹介したような組織のあり方などを考え、「AIの活用の向こう側」を見据えていくことが大切です。
駒澤大学仏教学部に所属。YouTubeとK-POPにハマっています。
AIがこれから宗教とどのように関わり、仏教徒の生活に影響するのかについて興味があります。