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2020.07.27

「なんとなくAIを使う」は2019年で終わり -LINEのバーティカルAI戦略

最終更新日:

AIにおいてバーティカルな戦略が重要になっています。

バーティカルとは、「垂直」を意味する言葉で、金融やマーケティング、セールス、法務など特定の業種に特化した市場を指すことが多い言葉です。

LINEは2019年6月27日に開催された「LINE CONFERENCE 2019」で、LINEが今まで研ぎ澄ませてきたOCR技術や音声認識技術を外販していく事業戦略を「LINE BRAIN」として発表しました。

2019年7月からは、チャットボット技術やOCR技術、音声認識技術の販売を開始し、AIに特化したプラットフォームを現在に至るまで拡大してきました。

そんなLINEは2020年7月29日〜8月5日にオンラインカンファレンス「LINE AI DAY」を開催します。「LINE AI DAY」は、ビジネスサイドを対象に、AI導入現場で活躍するLINEの社員をはじめ、AI市場を牽引するキープレイヤーによる講演が配信される予定です。

この「LINE AI DAY」のプログラムを見ると同社のバーティカルな戦略が伺えます。

LINEのAI戦略

AI(機械学習)の市場に参入するプレイヤーは、特定の市場に限定せずプラットフォームとしての展開を行う例が散見されます。

AIの市場において、プラットフォームを制することは、継続的にユーザを抱え、安定的な収益を生み出すことができるため、多くの企業がビジネスモデルを洗練し、プラットフォームとしての展開を目指しています。

一方で、プラットフォームとしての展開は、あらゆる分野でさまざまな競合を相手する必要があります。

さらにはGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)をはじめとした世界的なユーザを抱える企業は得た資金をもとに膨大な研究開発費を投じ、Google Cloud PlatformやAWSを始めとしたプラットフォームを提供し、他社の追随を許さない状態が続いています。

多くの競合や世界的な企業を相手に取り、プラットフォームを展開していくには、サービスの改善費用だけでなくマーケティング費用もかさみ、直近の売上が立っていない企業にとっては大きな痛手となるでしょう。実際、プラットフォーム戦略を掲げる多くのベンチャー企業では、受託開発などのtoBビジネスを行い売上を立てた上で、プラットフォームの開発に投資を行うケースも珍しくありません。

あらゆるプラットフォーマーがひしめき合う中、国内の月間アクティブユーザ8,400万人をかかえるLINEが、プラットフォーム戦略に乗り出したのは、2019年と後手です。同社はどのようなプラットフォーム戦略に乗り出しているのでしょうか。

今回開催される「LINE AI DAY」のタイムテーブルを見るとその戦略が浮かび上がってきます。

LINE AI DAYでは、Keynoteセッションが行われた後、「LINE AiCall track」と「LINE eKYC track」の2つのトラックに分岐してセッションが進行される予定です。

LIEN AiCallとは、LINE社の音声認識技術と音声合成、会話制御の仕組みを組み合わせ、ユーザに合わせた自然な対話応答を実現するソリューションです。棒読みではなく抑揚のある人間らしい自然な音声対話が可能で、2019年11月からは大手町にある飲食店の電話予約対応で実際に活用されました。

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eKYCとは「electronic Know Your Customer」の略です。特定のサービスのユーザ登録や銀行口座を開設する際に必要な本人確認の手続を電子的に行う仕組みです。LINE社では従来から、モバイル送金・決済サービス「LINE Pay」の本人確認において、「スマホでかんたん本人確認」を提供しています。これによって、身分証とスマホのみで本人確認が行なえ、スムーズなユーザ体験を実現しています。

「LINE AiCall track」と「LINE eKYC track」の2つのトラックを設けた裏にはどのような理由があるのでしょうか。

LINE株式会社 執行役員 AIカンパニー カンパニーCEOの砂金 信一郎氏に話を伺いました。

LINE株式会社 執行役員 AIカンパニー カンパニーCEO 砂金 信一郎・・・東工大卒業後、新規事業開発や戦略コンサルタント、製品マーケティング責任者など歴任。その後マイクロソフトのエバンジェリストとしてMicrosoft Azureの技術啓蒙やスタートアップ支援を積極的に推進した後、現職。2019年度より政府CIO補佐官を兼任。

砂金氏:おっしゃる通り、メインのセッションをLINE AiCallとeKYCの2つでわけて展開します。枠組みを作らない方がコンテンツを作るのが簡単なのですが、今回のLINE AI DAYでLINEがメッセージ伝えたいのは「なんとなくAIを使いたいという時代は2019年で終わった」ということです。

2020年は特定の業務でAIを使い始めて成果を出して、ユーザ体験の中に組み込んで便利だと思われるものをどんどん提供していく1年になると思います。今、LINEが持っているソリューションの中でも完成形に近い「LINE AiCall」と「eKYC」の2つは私たちの中で手応えを感じている部分でもあり、実際に使っていただいているユーザから「便利になった」という声もいただいています。

LINE社として「AIをここに使ったらいいんじゃないですか」と訴求できればと思っています。

多くのプラットフォームは開発者向けに汎用的なツールとして提供されます。一方で、LINE社が掲げる「LINE BRAIN」は、特定のタスクに特化した上で、大きな課題を抱える領域でプラットフォーム展開をしようとしていることが伺えます。

実際、多くの企業ではコールセンターの業務は逼迫し、離職率が高いことが問題となっています。ユーザ視点では、カスタマーセンターに架電した際に、待ち時間が生じることでストレスを感じる人も多いでしょう。

また、本人確認の手続も問題です。多くのサービスがWeb化する中、登録ユーザ一人ひとりの身分証の情報を人力で読み取り、確認作業を行っていく作業は企業にとって重荷になります。

LINE社はこの領域を戦略の中心に位置づけ、プラットフォームとして展開していくことを目指していることが伺えます。このままユーザが増え、LINE社に蓄積するデータが増えれば、AIモデルを再学習させるデータも増え、さらに同社の優位性が高まるといえます。

縦に垂直展開、その後は横展開

垂直展開を行う企業は、一般的にその市場のシェアを獲得した後は、さらに他の市場のシェア獲得を目指し、事業を拡大させます。一つの市場シェアを獲得し、継続した資金の流入源を得てからは、再投資を繰り返し、自社サービスの売上基盤をさらに広げていくのです。

LINE BRAINの公式サイトを見ると、同社の商材は「製品紹介」と「ソリューション紹介」の2つのカテゴリに分類されていることがわかります。

引用:https://www.linebrain.ai

この中で製品紹介の欄では、チャットボットやOCR、音声認識や音声合成などの基幹となる技術が紹介されています。一方、ソリューション紹介では、「LINE AiCall」など特定のタスクに特化したサービスが紹介されています。

LINE社は、チャットボットやOCRなどの基幹技術も企業に提供しながらも、一部をソリューションとして切り出し、プラットフォームとして展開しています。今後は、さらにソリューションを企業にさらに拡充していくでしょう。

同社の今後の展開について砂金氏は以下のように述べています。

砂金氏:LINEと一緒にAIで何かやりたいです」と漠然としたご要望をいただいた時は、実はあんまり話が上手く進まないんです。

この業務を効率化したいとか、ここのユーザ体験をもっとよくしたいというところから入って、AIを手段として使う場合は話はスッと入るんです。

実際に業務とかビジネスに落とし込むときに、「AIで何かやりましょう」ということだけだと大括りすぎるので、どんな価値を提供するかを聞き込みにいかないといけません。

それが結構大変なんです。クライアント側で目的にあったAIの導入を考えられる場合は、LINEは道具だけ提供すれば良いのですが、どんな順番でどんな成果を出しながらどう発展させていくかを一緒に考えていかないといけません。

「プラットフォームだけを提供して、あとは考えてください」というスタンスだと、なかなか回らないと考えています。今後は、LINEが、クライアント側ににじみ出ていって、一緒にサービスを作っていく機会を増やしていきたいと考えています。

そのために体制をも変更し、コンサルティング的な要素を入れ始めています。

また、LINEの強みはサービスを作り上げてエンドユーザに届ける力が強いことです。「一緒にサービスを作りましょう」と企画提案をしてあげること自体が、きっと我々が提供する新しい価値かなと思います。

また、LINEは国内で8400万人を超えるユーザを抱え、同社は国内最大規模のICT企業といえます。一部のサービスはLINEとのシームレスな連携機能を揃えることで、あらゆる側面でLINE社のAI技術がエンドユーザである私たちに提供されることになるかもしれません。

実際、LINE社はその強みを活かし、行政との連携も積極的に行っています。例えば、LINE社は、新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的に、厚生労働省と委託契約を締結し、同社の技術を活かし、都道府県などの保健所が実施している海外からの帰国社の健康状態の確認の自動化を支援しています。

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また、同社は渋谷区と地域の課題解決に向け、「シブヤ・ソーシャル・アクション・パートナー協定」を2016年に締結。2017年10月からはAIチャットボットを活用したゴミの分別、粗大ごみの扱いに関する問い合わせ対応を行うほか、2020年2月からは、顔認識技術などを活用して行政サービス申請における本人確認の自動化の実証実験を行っています。

LINE社の横展開サービスは、BtoB, BtoCに閉じたものだけではなく、BtoG(Government)への指向性も有していることが特徴と言えるでしょう。

LINE社でAI戦略を推し進めながら、2019年から内閣官房政府CIO補佐官に着任した砂金氏は、不便であることが当たり前の政府や自治体のサービスをさらに便利にしていきたいとその想いを強調します。

砂金氏:自治体のさまざまな手続きで面倒くさいなとみなさんが思っていることと思います。

今までそれを改善せず、いつもの業者がいつも通り受注をして、作り、市民に寄り添ったとは言い難いシステムを納品して、税金で払っている、ということを繰り返しやってきました。もうそれを終わりにしようというムーブメントがあります。

自治体の中には、市民の生活をより便利なものにしたいと奮闘している職員の方がたくさんいらっしゃいます。その人たちを中心に色々なことが起こっているんです。

例えば、渋谷区の澤田副区長は、元博報堂の民間出身の方なのですが、永田町の論理とか関係各所の方針にただただ従うだけでなく、「これは区民のためにいいサービスだからやろう」と、自分で考えて行動して、必要に応じて国と戦って、渋谷区のために頑張ろうとされています。そんな各自治体のヒーローをLINEは応援していきたいとかんがえています。

今までは、さまざまな事例が全部福岡市だったので、毎回、「福岡市長の高島さんよろしくお願いします。」みたいな感じだったんですが、その輪がもう少し広がってきています。

この流れの中で、LINEは、特に手続き系としては引っ越しの際の転出転入の手続き作業をスムーズにしようとプロジェクトを進めています。引っ越しの際、電気やガス、水道、その他諸々の情報を変更するのって面倒くさいじゃないですか。

もし「引っ越しをしました」と1回手続きをしたら、あとは共通のフォーマットでデータが展開されて、本人の同意に基づいて、各社に展開されてというユーザ体験を作ることができれば、引っ越し作業が大幅に楽になりますよね。

その入り口が、LINEのアプリやLINE AiCallで受けるコールセンターになっていれば、一民間企業のアプリなんだけど、行政サービスが、みんなの生活の中に溶け込んでいて、一番身近にいる存在としてLINEがふるまえると、世の中をもう少しよくしていけるのかなと考えています。

あとは、もう半年するとZホールディングスさんという強力な援軍がやってきます。LINEはコミュニケーションの会社なんですけど、ヤフーさんはコンテンツの会社です。2社合わせた学習データの宝の山があれば、もう少し踏み込んだことができるんじゃないかなと楽しみにしています。

LINE AI DAYが開催

前述の通り、LINE社は2020年7月29日〜8月5日にオンラインカンファレンス「LINE AI DAY」を開催します。

無料かつオンラインで開催され、場所を選ばずに参加することができるLINE AI DAYでは、LINE株式会社 取締役 CSMOの舛田 淳氏と砂金氏によってLINEのAI技術の展望が語られるKeynoteの他、さまざまなセッションが予定されています。

AINOWでは、このイベントとタイアップし、編集長のおざけん(筆者)が「国内2大AI専門メディア対談-年表で振り返るAI発展の軌跡-」と題して、AI専門メディア「Ledge.ai」の高島氏との対談セッションも予定されています。

セッション内では、国内のAI分野のニュースを長年に渡って取材してきた2人が、過去3年間のAI関連ニュースを振り返ると共に、今後、AIやDXを目指す企業に必要な取り組みについて語っています。

合わせて、ぜひご覧下さい。

LINE AI DAY 概要
開催日時:7月29日(水)14:00 〜 8月5日(水)23:59
開催形式:オンライン開催
参加費:無料

さいごに

今回の記事では、LINE社のイベント概要と砂金氏への取材をもとに、LINE社のAI戦略について第三者の視点で考察しました。特に行政と一体となり、行政サービスのユーザ体験の向上に取り組むなど、LINE社らしいプラットフォーム戦略も垣間見えます。

ユーザの課題に着目した垂直展開の戦略推進が、今後どのように実を結ぶのか、目を離せません。

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