近年、世界各国でAIの開発競争が激化しています。特にアメリカ、中国の成長は著しく、AIの成長に不可欠な”ビッグデータ”から生じるプライバシー問題の対策として、EU(ヨーロッパ連合)は 『一般データ保護規則(GDPR)』を制定する流れになりました。
社会にとって有益となる人工知能の開発が激化する中で問題に上がるのが、AI時代が浸透した「その後」の話になります。
「シンギュラリティ」と呼ばれる時代の特異点を超えた先で考えなくてはいけない課題の一つとして、挙げられるのがAIにおける「人権」の問題です。
今回は、そんなAI×人権に関する問題や取り組みについて詳しく紹介していきます。
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▶シンギュラリティ(技術特異点)についてはこちらの記事で解説しています>>
目次
そもそも「人権」とは?
法務省の公式サイトによると、人権は以下のように記されています。
「すべての人々が生命と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利」あるいは「人間が人間らしく生きる権利で、生まれながらに持っている権利」
要するに、「人間がみな持っている幸せに生きるための権利」です。
人権の発展の歴史
人権についてもう少しだけ深堀りしましょう。
今なお人種差別の問題で度々取り上げられる人権問題ですが、普段私たちが当たり前のように享受している「人権」は、一体どのような発展を遂げたのか?歴史を通じて紹介します。
バビロニア人権憲章
紀元前500年頃、アケメネス朝ペルシア初代国王であるキュロス2世の残した「キュロス・シリンダー(キュロスの円筒印章)」が史上初の人権宣言と言われています。
この焼き粘土で作られた円筒には、奴隷解放や宗教選択の自由、そしてどんな民族でも平等に扱うことを宣言したと記録されています。
マグナ・カルタ
そこから時代は遡り、1215年のイングランド王国(現在のイギリス)であるジョン国王の時代に制定された憲章『マグナ・カルタ』は、人権の考えに大きな影響を与えたとされています。
この憲章では、イングランド国王の権限を制限したこと、そして財産の保護、教会が政府の干渉を受けない権利などを世界に先駆けて成文化したとされおり、現在のイギリス憲法の土台にされています。
権利章典
次に大きく影響を与えたのが、1689年に英国議会で制定された『権利章典』です。
イングランド国王の存在を絶対前提とした上で、国王に忠誠を誓う議会及び国民のみが享受できる権利を制定し、国民が古来より相続してきた権利を確認させました。
フランス人権宣言
絶対王政下でのフランスでブルジョアや貧民の不満が爆発して起きたのが『フランス人権宣言』です。
この宣言の大きな特徴は、人権宣言を提唱したのは国王ではないということです。特権階級への不満が爆発したことで、民衆を代表して、マクシミリアン・ロベスピエールが起こしたのがフランス革命となります。
人工知能における人権の考え
人工知能における人権の問題は主に2つに分類できます。
- バイアスの問題
- AIにおける倫理、責任問題
それぞれ具体的な問題(例)を出しながら解説していきます。
参照:AIに、「人権」や責任はあるのか?AIと共存するために必要な法整備について考える
バイアスの問題:フィルター・バブル問題
バイアスの問題は、AI技術を扱う上で欠かせない問題になります。国家や企業のサービスを開発する際、開発者にとって恣意的なバイアスをかけることは、開発者の都合で社会が構成される危険性が高まるため問題になります。
そして、特に市民ではなく政府が主体となる国作りでAIを導入することにおいては、このバイアスの問題は重要視する必要があります。
特に現代で問題視されているのは「フィルター・バブル」と呼ばれるものです。「フィルター・バブル」とは、AIプロファイリングにより選別されたニュース記事により、あたかもユーザーが小さな泡の中に閉じ込められているような状態をいいます。
ユーザーの趣味嗜好に合わせたコンテンツを提供することでよりバイアスがかかり、個々人が閉鎖的な「世界」に閉じ込められることを研究者は危惧していると考えられています。
AIにおける倫理・責任問題:自動運転のトロッコ問題
人の倫理に関わる問題の中で、よく引き合いに出される「トロッコ問題」をご存知でしょうか?
自動運転を考える上では「トロッコ問題」のようなケースも考える必要があります。つまり、命の選択をAI自身に要求する場合、どのような判断をさせるかを決める必要があることです。
この場合、AIにはどんな基準で選択させるのが良いのか、これを世界基準で定めるのは至難であると想定されます。
また、医療現場でAIを扱った際、医療ミスをする可能性は十分あります。その時、誰に責任を求めるのか。責任の擦りつけを人間が行わないようにする法律の制定は、この先時代が要求する問題と言えます。
▶AIの倫理に関してはこちらの記事にて詳しく解説しています>>
AIの人権に関する各国の問題・取り組み
これからAIとどのように向き合っていくのか、世界各国の対策や企業の取り組みをここでまとめてみたいと思います。今回紹介するのは以下4地域の取り組みについてです。
それぞれ解説していきます。
アメリカ
先んじてAIの覇権を握るアメリカにとっては、すでに人権の問題に直面しています。例えばAWSの顔認証システムでの、性別誤認識問題です。
またアメリカでは、判決においてもAIの活用がなされています。その一例として、“COMPAS”と呼ばれる再犯予測プログラムがあります。
COMPASとは、被告に137問の質問に答えさせ、その結果を機械学習でモデルを組むことで被告が再犯するか否かを判定するAIです。
人種により再犯率の制度が異なることから、”COMPAS”は人種などのバイアスが開発者から明記されており問題となっています。
関連記事|「AIによる差別」の現状とは?事例、原因、世界各地の取り組みを紹介>>
中国
中国のAI研究も盛んで、今ではアメリカと並んでAI先進国となりました。そんな中国の中でも注目のAI活用事例は、「芝麻信用(セサミ・クレジット)」と呼ばれる信用スコアではないでしょうか。
信用スコアとは、スコアの大きさによりサービスを受けられるか否か、カードの審査、シェアリングサービスなど、さまざまな場面で活用されています。
この信用スコアは日本でも少しずつ導入が進む可能性がありますが、やはりアルゴリズムの不透明やプライバシーの問題から人権を脅かす危険性も孕んでいると言えます。
ヨーロッパ
EU(ヨーロッパ連合)での対策は、なんと言っても『GDPR(EU一般データ保護規則)』が有名です。これはアメリカIT企業の大手であるGAFAにより、個人情報が無断に利用されることを避けるために制定された規則だと言われています。
GDPRは世界でも先進的なデータ保護規則だと言われていますが、その背景として有名なのがホロコーストにおけるユダヤ人大虐殺だと言われています。
ホロコーストが起きてしまった背景には、個人情報の保護が全く守られていなかったのが原因だとされています。ゆえに、第二次世界大戦での教訓が、個人の権利の保障を強めたと言えます。
日本
日本では特に目立ったAIの使われ方はないですが、政府の中では「AI開発の原則」や「大阪トラック」など、データ活用やAI技術の導入などを謳ってきました。
その中でも注目なのが、「AI開発原則」の中で扱われている『智連社会』です。英訳すると(Wisdom Network Society【WINS】)となります。
この智連社会とは、人間がAIネットワークと共生し、データ・情報・知識を自由かつ安全に創造・流通・連結して「智のネットワーク」を形成することにより、あらゆる分野におけるヒト・モノ・コト相互間の空間を越えた協調が進展し、持って創造的かつ活力ある発展が可能となる人間中心の社会像のことです。
つまり、AIはものとして扱い、少しずつ親和性を高めていくことを目標としているのかもしれません。
終わりに
人工知能を中心に議論される人権問題は、すぐに自分ごととして考える機会はすぐそこまできています。
歴史を振り返ることで、遠い未来にAIとどのように向き合っていくのか、その障壁となり得る人権や法律の問題を考えてみても良いかもしれません。
◇AINOWインターン生
◇Twitterでも発信しています。
◇AINOWでインターンをしながら、自分のブログも書いてライティングの勉強をしています。