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2021.10.25

DXで大学教育・経営はどう変わるか?教育現場のメリットや成功事例を紹介

最終更新日:

近年、DXは日本でも広がりを見せており、さまざまな企業で推進が始まっています。そして現在、このDXの活用は産業界だけでなく、教育現場にも広がってきました

実際に文部科学省がDX推進にむけたプランを公表し、その公募で選出された大学を始めとするさまざまな大学でDX推進が行われています。

この記事では、大学におけるDX推進のメリットや国内外の事例、そして予想される変革について紹介していきます。

そもそもDXとは?基本をおさらい

DXとは、「デジタルトランスフォーメーション」の略であり、経済産業省によって発表された「DXレポート」で知られるようになった概念です。

デジタル技術を用いて、ビジネスモデルや業務を改革し、最終的には組織自体の変革をなし遂げることが目的とされています。

▼DXの概要について詳しくはこちら

文部科学省が策定した大学におけるDX推進の2つプラン

ここからは、文部科学省が策定した大学におけるDX推進のプラン「Scheem-D」「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」の2つを紹介します。

1.Scheem-D

文部科学省が策定した、大学におけるDX推進プランの1つが「Scheem-D」です。

Scheem-Dとは、Student-centered higher education ecosystem through Digitalizationの略で、文部科学省が2020年6月に「大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheem-D)~ With コロナ / After コロナ 時代の大学教育の創造 ~」として発表したプロジェクトです。

Scheem-Dは、大学(短期大学・高等専門学校含む)を対象とし、教員とデジタル技術者が協働し、二者がデジタル技術の活用アイデアを出し合い、実際の授業で取り入れるというものです。

文部科学省は「大学教育のデジタライゼーション」を掲げ、授業の価値を最大化することを目的としています。

これに伴い、教員と技術者をマッチングさせるピッチイベントを開催しています。

ピッチイベントでは、大学の授業で活用できるデジタル技術をもつ企業と教員がそれぞれプレゼンし、その内容に賛同した教員、大学、企業がマッチングし、最終的に大学で取り入れ、DX推進していきます。

引用:文部科学省高等教育局専門教育課「Scheem-D | 大学教育のデジタライゼーション・ イニシアティブ Scheem-D

2.デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン

文部科学省が策定したものに「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」があります。

これは大学・高専における「学修者本位の教育の実現」、「学びの質の向上」を実現するため、教育にデジタル技術を取り入れる計画のことです。こうした環境整備によって、現在のポストコロナ時代における教育方法を編み出し、最終的には全国の高等教育機関に普及させることを目的としています。

実施機関は2021年1月から2月までの公募から選出され、全国54の大学・高専が選定されました。各学校における取り組みは様々で、その内容は具体的に公表されています。

引用:文部科学省「「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」実施機関の決定について

▶DX推進とは?|指標や課題・企業事例をガイドラインに沿って解説した記事はこちら>>

大学におけるDX推進のメリット

大学におけるDX推進のメリットは、経営側に3つ・学生側に2つあります。

それぞれ解説していきます。

経営側|3つのメリット

①事務作業を効率化できる

大学経営では、毎年莫大な量のデータが更新され、日々それらを管理しなくてはなりません。こうしたデータをデジタル化することで管理がしやすくなり、これまでそうした業務を担当していた職員をより付加価値の高い仕事へ回せます。

②データを新入生の獲得や退学防止に活用できる

データをデジタル化し、それらを分析して、経営に生かすことも容易になります。

入学希望の学生についてのデータを分析することで、新入生の獲得に活かすことも可能ですし、退学した学生たちのデータを分析することで退学防止につなげられます。

③デジタルネイティブな学生たちのニーズに応えられる

これらから入学する学生はデジタルネイティブと呼ばれる世代です。

ユーザーである学生たちが便利で学びやすい環境を作り、彼らの需要に応えれば、大学における新たなセールスポイントにもなります。

学生側|2つのメリット

①進学先の選択肢が広がる

DXによって、授業をオンデマンド形式で受けられるようになれば、時間の制約がなくなります
これまで日中は授業で拘束されていた学生たちも、こうした制約がなくなり、学外の活動や、複数の学校の両立などが可能となります。

また、場所を問わず授業を受講できるようになれば、遠方の大学へ進学するという選択肢が広がります

こうした変革により、より多くの学生が獲得でき、それによって学費が抑えられる可能性も生まれます。

遠方の大学へ行くために一人で暮らす生活費や、学費など、これまで大学に行くためにかかっていた費用が抑えられ、より多くの学生に「進学」という新たな人生の選択肢が与えられます。

②質の高い教育が受けられる

新たなデジタル技術を取り入れることで、オンライン授業でも質が落ちない可能性があります。

新型コロナウイルスの拡大によって、急遽オンライン授業に切り替えたことで、対面授業から授業の質が落ちたという声が上がりました。

しかし、教育に特化したデジタル技術を取り入れることで、こうした課題は解決され、オンライン授業でも対面と変わらない質、もしくはそれ以上の授業を提供することが可能になります

関連記事|DX導入のメリットとは?参考にしたい事例や導入ステップを解説!>>

DX推進に必要な3つのステップ

DX推進に必要な3つのステップは以下のとおりです。

  1. 目指す姿を明確にする
  2. 現状の姿を分析、ユニーク性を探す
  3. 目指す姿と現状の姿の差を埋める戦略を立てる

それぞれ解説していきます。

ステップ1|目指す姿を明確にする

DXとは、組織を変革し、競合優位性を高めることを目的としています。

そのため、まずは最終的にどういった姿を目指すのか、明確にしておく必要があるのです。競合優位性が高く、かつ、組織として目指したい姿をビジョンとして掲げる必要があります。

ステップ2|現状の姿を分析、ユニーク性を探す

ビジョンを設定した後は、自らの現状を深く知る必要があります。

この時、特に組織の強みやユニーク性を探すことが重要です。弱点は改善していき、強みを理解したうえで伸ばすことで、それが競合優位性へとつながります。

ステップ3|目指す姿と現状の姿の差を埋める戦略を立てる

現状と目標が明確になれば、これらの差を埋められるような戦略を立てることで、DXの推進が始まります。

▶【事例あり】DX戦略|ビジネスを成功に導くDX推進法・ロードマップについてはこちらの記事で詳しく解説しています>>

【成功事例】教育にDXを取り入れた事例6選

ここからは、教育にDXを取り入れた事例を「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン参加の大学」と「運営にDXを取り入れた大学」と「海外の例」に分けて6つ紹介していきます。

「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」参加大学

①神戸大学

神戸大学では、LMSシステムの高度化を行いました。

LMSシステムとは、e-learningシステムのことで、教材の管理、進捗情報や、学生と教員のコミュニケーションツールとしての機能などを搭載したシステムのことです。

現在、多くの大学で独自のLMSシステムが使用されています。神戸大学のLMSシステムでは、表情認識機能を搭載し、学生の表情を分析することで集中力が可視化できるようになりました。

また、学生をアバターに反映するなど、ユニークな機能も備わっています。こうした機能によって集計したデータを分析し、個別指導やキャリア支援に活かしています

また、オンライン授業と対面授業を同時並行で行う「ハイブリッド授業」のための教室を整備し、教室のスマート化を行い、withコロナ・afterコロナに最適化した環境整備を実現しました。

②獨協医科大学

獨協医科大学では、大学のキャンパス内に5Gを導入し、全学生が一斉にオンライン上へアクセスしても耐えられる環境を創りました。

また、AIによる4つのプロジェクトを実行しています。まず、LMSシステムに、AIによるおすすめ動画が掲載され、いつでも質問が可能なチャットボットも搭載されています。

またオンライン授業における学生の声や表情をAIが分析し、参加度・理解度・習熟度を可視化しました。

更に、国内外のさまざまな講義動画をAIが自動翻訳でテロップ作成し、閲覧できる機能があります。

これまでの学生に関するデータをAIが分析し、生活面や精神面でサポートが必要な学生を早期発見するシステムも設置しました。

引用:文部科学省「「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」実施機関の取組概要について

運営にDXを取り入れた大学

③立命館大学

立命館大学では、事務処理速度を現状の30%改善を目標に掲げ、取り組みを開始しました。

結果、稟議書や申請書など書類の電子化を行い、在宅勤務でも総務・人事・財務の職員が決裁できる環境づくりに成功しました。今後は学生生活に関する事務も電子化する予定だと言います。

④学校法人桜美林学園

学校法人桜美林学園では、ノートパソコン、遠隔会議システム、ペーパーレスの導入を行い、取り組み開始の2018年度の時点で、既に50%以上の紙削減に成功しました。

翌年からは、学生に関する情報を一元管理するシステムを導入し、卒業生と就職活動中の学生を繋げる支援などに利用しています。

2021年度からの2年間にも、更に業務の改善を行うとしています。

⑤三重大学

三重大学では、ペーパーレス化を推進し、その一環で2018年10月よりRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入しました。

RPAとは、定型作業をAIなどに代行させる概念のことです。大学では定型作業が多く、RPAを導入する大学は増えています。

同大学では「RPA推進室」を設置し、本格的に取り組んでおり、その結果2019年度に、前年比約1000万円の経費削減を達成しました。

また、このシステムの導入によって、時間も短縮されます。データ入力にかかっていた時間が20年度に約1150時間、21年度は2000時間削減できる見込みです。

引用:日本経済新聞「大学にもDXの波 経営力アップへ取り組み広がる

▶RPAについて詳しく知りたい方はこちら

海外大学のDX推進事例

⑥「MOOC」

大学におけるDXの推進は、海外でも既に広がり、新たなサービスも誕生しています。
その一つが「MOOC」です。

MOOCとは Massive open online course の略で、大規模公開オンライン講座を指します。

これは2012年にアメリカで始まったサービスで、これを利用することで、オンライン上で大学を始めとする高等教育機関の講座を誰もが無償で受講できます
また、条件を満たせば、講座終了後に修了証も取得できます。

翌年2013年には、一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)として日本でもサービスを開始し、ホームページから様々な講座を受講できます。

引用:日本オープンオンライン教育推進協議会「JMOOC -無料で学べる日本最大のオンライン大学講座(MOOC)

▶教育DXの真の目的とは?これからの時代を切り拓く教育DXを徹底解説>>

DX導入によって大学はどう変わるのか

ここからは、DX導入によって大学はどう変わるのかを「学生の変化」と「採用の変化」に分けて解説していきます。

学生の変化

多様な学生

先に記載したように、DXを推進することで学生の受講環境が変わります。

これまでは決まった時間にキャンパスに通えることが受講の条件として当たり前とされていました。しかし、DXを推進することで講座のオンライン化が進み、いつでもどこでも受講できる環境が生まれます。

そのため、気軽に、費用を抑えながら、母国に住みながら海外の大学に留学することが可能です。また、受け入れられる学生数が増えることで学費が抑えられ、経済的に進学が困難だった学生にも進学という選択肢が生まれます

こうした変化の結果、大学では多様なバックグラウンドを持つ学生を受け入れられ、より質の高い教育に繋がります

フレキシブルな受講体制

こうしたいつでもどこでも受講できる環境により、学生の生活もこれまでとは異なったものへ変化します。

例えば、いつでも受講ができるという利点を生かし、働きながら大学へ通う学生が増えることも予想されます。一度大学を卒業し、就職してから改めて別の大学に進学するという選択肢もあります。

DXの推進による環境の変化で、大学生と社会人のような「大学生と○○」といった二足の草鞋を履くことが容易になります

採用の変革

海外では、教育におけるDXの推進によって、学位制度にも変化の波が来ています。

これまでは定められた単位数を取得することで、卒業と同時に学位が授与されていました。

一方で海外では「マイクロ・クレデンシャル」「ナノディグリー」という新たな学位の考え方が誕生し、浸透しています。これらは、従来の学位とは異なり、細かく区切られた専門分野の学位を短期間で取得できるというものです。

これにより、学生たちがもつスキル・知識を正確に細かく把握でき、企業は求める人材を的確に探せます

また、オンライン上に自身のスキルや資格を公表するデジタル・バッジの導入することで、更に企業と学生のマッチングが促進されます

▶【DX人材】 6つの業種、4つのスキル、3つのマインドセットについてはこちらの記事で詳しく解説しています>>

まとめ

いかがでしたでしょうか。

大学におけるDXの導入は、学生側も経営側にもメリットのあるプロジェクトであり、実際に多くの大学が推進に踏み出しています。

また、こうした変化によって、教育の門戸を広げられます。さまざまなバックグラウンドを持つ学生が所属することで、大学では新たな学びが生まれます

その結果、大学におけるDXの推進は、非常に大きな影響力を持つと言えます。

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