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2021.12.16

日本企業はガバナンスへの意識が欠けている|デロイトトーマツ 森氏が語るガバナンスと戦略的AI活用の重要性

最終更新日:

デロイトトーマツグループは、2021年6月にAIに関する研究機関としてDeloitte AI Institute(以下 DAII)を設立しました。DAIIは、国内外のAI専門家とともに、AIの戦略的活用やガバナンスに関する研究活動に取り組んでいます。

経産省によるDXの推進をはじめ、国内のあらゆるビジネスでAI活用が進められています。AIによる変革が進められている中で、AIとガバナンス(企業内の統治、管理体制)
をどう両立させていくかが、政府や公共機関、企業など多くの組織で危惧されています。

AIやDXは、ビジネスモデルを変革させ、ステークホルダーにも価値を生み出す一方で、意思決定への偏りやプライバシーの侵害、その他にも懸念される点があります。

人間中心の社会で人が「本当に信頼できるAI」とは、どのようなガバナンスのもと生み出されるのでしょうか。

今回はデロイトトーマツグループの執行役員とDAII所長を務める森 正弥氏にAI活用とガバナンスの重要性についてインタビューしました。

AIの戦略的活用とガバナンスをテーマにしたDAII

グループ全体のビジネスを横断したAIの取り組み

デロイトトーマツグループは、コンサルティングサービス以外にも監査・保証業務やリスクアドバイザリー、ファイナンシャルアドバイザリーをはじめ、多くのサービスを提供しています。

その中で自然言語処理、OCR、画像認識音声認識、需要予測・販売予測、パーソナライゼーション、信用度スコア、不正検知、会計監査、融資・審査、M&A支援、資産運用といった領域でAIアプリケーションのソリューションを開発しています。

DAII設立前までは、各ビジネスの中でAIのソリューションを提供していましたが、設立後は、グループ内のすべてのビジネスを横断し、統一したAIの取り組みを進めるようになりました。

森氏:ビジネスを横断するAI活用が進んでいます。ビジネス上のある一定領域のタスクを型化して、AIで判断し、実行させる。タスクの型化ができると、異なる業界のビジネスでも共通化できるようになります。

人がやるべきタスクは人が行い、AIで括れるタスクはAIやRPAに任せる。そうすることで複数の業務を横断的に自動化するハイパーオートメーション1につながり、結果的に企業の変革に結びつくと思います。

1ハイパーオートメーション:AIやRPAをはじめ、あらゆる技術・ツールを駆使して、個々の業務の壁を取り払い、複数の業務を横断的に自動化すること。

AI導入による部門横断型の企業変革。まさにDXの本質的な考え方に則った取り組みです。しかし、国内で実現できている企業はごくわずかです。デロイトトーマツグループはクライアントにIT化やAI/RPAの導入、データマネジメントだけではなく、ハイパーオートメーションを取り入れたソリューションも提供しています。

AI/RPAの導入は、企業のリソースによって成功か否かに分かれます。国内の事例を見ると、企業全体としてAIツールの導入が進んでいる企業や進んでいない企業、特定の部署のみで成功している企業など状況はさまざまです。そのような中で、企業全体の業務を自動化するハイパーオートメーションという考え方は重要になります。

AI活用に求められる2つのテーマ

ーー森さんは、DAIIでどのような活動に取り組んでいくのでしょうか。

森氏:私は、DAIIが掲げている「AIの戦略的活用」と「ガバナンス」の2つをかけ合わせたテーマに取り組み、企業や社会の助けになりたいと思っています。

AIはポイントごとのソリューションではなく、ビジネスプロセスのあり方やバリューも変える可能性を秘めています。ですので、AIを使うだけではなく、AIを駆使して世の中を戦略的にどう変えていくかをセットで考える必要があると考えています。

近年は、AIが持つリスクについても議論されるようになりました。例えば、自動運転技術が交通事故を起こした場合、その責任は誰にあるのかというような話があります。また、データのバイアスの面では、人種の公平性が欠けて差別を助長するようなAI活用が起こってしまうと懸念されています。

そのような中、今後はAIの戦略的活用や、どのようにガバナンスを効かせるかが重要なテーマになってくるでしょう。

デロイトは世界でも上位を争う外資系コンサルティングファームとして、AIの戦略的活用や研究を進めてきました。また、GRC(ガバナンス リスク コンプライアンス)という企業のガバナンスやリスク管理などのプロセスを高度化・効率化させるサービスを提供しています。

過去の実績から、2つのテーマへの知見があるため、それを活かしAIの研究・発展に取り組んでいきます。

日本はガバナンスへの意識が欠けている

国内企業のガバナンスへの意識

AIガバナンスに関して海外に遅れを取っている日本ですが、金融業界では課題として認識が広がり、ガバナンスを強化していこうとする動きがあります。

金融業界のクライアントは、従来から人が行う業務に対してガバナンスやコンプライアンスが強く意識されていました。業務上のガバナンスでは、人が行うことが前提となっています。ここにAIのようなテクノロジーが入り、人の業務を肩代わりした時に、従来までのガバナンスやコンプライアンスの変化に危機感を抱くクライアントが多くいるため、問題意識として持たれるようになりました。

ガバナンスに対する海外との比較

ーー日本と海外では、ガバナンスに対する意識にどのような差があるのでしょうか。

森氏:データやAIの活用の面でいうと「自動意思決定の禁止」があります。日本では取り上げられることが少ない話題ですが、海外ではGDPR(個人情報保護委員会)が消費者や個人が自動意思決定の判断を拒否できるようにしています。

海外は日本に比べて、クレジットカードの審査や住宅ローンの審査、大学の入試の判定の際に、AIが使用されるかどうかを選択できる法令の設備が進んでいます。

アメリカやヨーロッパの保険業界では、自動意思決定が与える影響やリスクを注視していて、企業によってはAIによる判断を自主規制する企業もあります。

顔認識技術の活用の面では、日本は自動意思決定と逆方向の議論がされています。日本では、人が判断するとバイアスが生じるため、AIに判断させているのです。

森氏は、それぞれの国でAI活用の考え方に差が生じることはそれほど問題ではないと指摘しています。

森氏:私が問題視している点は、日本企業がグローバルに進出しようとした時に、世界各国でAIガバナンスがどう行われているのか、何が議論されているのかを把握しておかないと致命傷になる点です。

日本企業は、そこを把握した上で、グローバルに進出してAI研究や活用を推し進める必要があります。デロイトグループが所有するネットワークはガバナンスに対する把握ができるため、その視点を欠かさずにクライアントのビジネスの成長に貢献したいと考えています。

AIフレームワークを導入しガバナンスを強化する

デロイトは、World Economic Forum(WEF)2で「グローバルテクノロジーガバナンスレポート2021」を発表しています。AI、ドローンや、ブロックチェーン、量子コンピューターなど第四次産業(4IRT、Fourth Industrial Revolution Technology)と呼ばれる新興技術にどのようなリスクがあるのか、コントロールするためにどういうガバナンスが必要なのかが議論されています。

2World Economic Forum(WEF):世界経済フォーラム。経済、政治、学会など社会の有識者たちが連携し、経済的な課題や環境課題をはじめとする世界情勢の改善に取り組む国際機関のこと。

森氏:AIの非倫理的な活用や暴走、誤作動を防ぐためのフレームワークは議論され、整理されているので、今後はさらに業界に浸透させていきたいと考えています。

デロイトはAIフレームワークも開発しているため、そのフレームワークに基づき、クライアントにガバナンスや組織の動き、具体的なソリューションを導入していきます。

テクノロジーの進化を受け入れ、エコシステムを構築する

テクノロジーの進化が人間の需要範囲を超える

ーー森さんはなぜガバナンスに関する取り組みをしているのでしょうか。

森氏:私は前職で、ある大手IT企業の研究機関で指揮を担当していました。約70ほどのビジネスがあり、ビッグデータやAIソリューションへも関与していました。

そこで業務を進める中で、潮目が変わってきたと思うようになっていました。GDPRの設立以降のトレンドを見ると、インターネットのディスラプティブ(破壊的)な動きは、今後大きな転換が迫られるのではないかと感じたのです。

テクノロジーの進化が、人々が受容できる範囲を超えてしまっているのではないか。今後は、人とテクノロジーが共存する上で、プライバシーや社会への活用方法が議論されるべきだと考えたので、そこに携われるガバナンスに取り組むようになりました。

AIを取り入れたエコシステムを構築する

森氏は、ガバナンス強化やAI活用を進めていく上で、エコシステムの構築が重要であると語ります。

例えば、優秀な営業がいて、サービスの理解度が100%、顧客満足度も99.9%だとします。そこで試しに営業がやっていることをAIに置き換えて、顧客満足度は仮に85%程度しかなかったとします。そうなった時に、部署は顧客満足度が低下してしまうため、営業をAIに代替するという判断はくださないでしょう。そこでAIの活用を止めてしまうという企業は多いです。

しかし、既存の顧客は優秀な営業が担当し、新規層の顧客はAIが自動で担当できれば、新規顧客は更に良質な営業の対応を受けてみたいと思うかもしれません。

そうすると、AIはある程度の品質が担保された状態でサービスを1000人、1万人、10万人の新規顧客に提供し、優秀な営業が100%に近いサービスを提供できるようになります。

AIの顧客満足度が85%である状態で、1万人にサービスを提供すると、その1万人が感じたことは、優秀な営業にとっても大切なインプットの材料になります。逆に、優秀な営業がクライアントと接する時のポイントをAIに埋めこむことで、85%の顧客満足度が90%に向上するかもしれません。

このサイクルをうまく回すには、AIを駆使してサービスを展開させる中で、従来のビジネスとAIの組み合わせ方やインタラクション(相互作用)を工夫し、ビジネスを成長させていくことが鍵になります。そうすることで、AIの精度もどんどん改善されていくようになります。

このサイクルを1社のみで構築して回すことは難しく、さまざまな企業と協力することでAIが育つだけではなく、既存のビジネスも改善されます。森氏は、このようなサイクル、エコシステムを構築することが重要であるとしています。

▼AIの戦略的な勝ちパターンについて詳しく知りたい方はこちら。

このサイクルを構築する上で、「業務の型化」が大きなキーワードになります。すでに95%や99%の顧客満足度を得ている社員が持つノウハウを型化し、顧客満足度が60%の社員に当てはめることで、社内の業務を高水準で標準化することができます。

森氏:AIとビジネスを戦略的に組み合わせたサイクルを構築する上で、先ほどお話した、ハイパーオートメーションの他にも、ヒューマンインザループ3の発展版である「専門家参加型のAI活用」が効果的だと考えています。

今までビッグデータが注目を集めていましたが、現実として人の頭の中にしかないノウハウやネタがまだまだたくさんあると思っています。

例えば、デロイトの製造業のクライアントで、あるグローバルな電子部品メーカーがいらっしゃいます。その企業のすごいところは、需要予測にAIを全然活用していなくても高精度の需要予測、価格最適化を実現できている点です。すべて営業担当者の頭の中に高品質なノウハウや高精度なモデルがあるのです。

しかし、このような企業の課題として、データ化されていないところにAIをどう活用していくか、その取掛かりを得られないということが挙げられます。そのようなケースの場合、専門家のノウハウを言語化して、少ないデータをアノテーションしたり、考えをロジックに落とし込み、パラメータにしながらモデルを開発することが重要です。

ですので、専門家参加型のAI活用のアプローチは今後さらに求められるでしょう。

3ヒューマンインザループ:機械学習をさせたが、一度ラベル付けをしたデータが認識されない場合に、人が介入して例外となるデータを取り込むこと。

▼データセントリックなAI開発について詳しく知りたい方はこちら。

▼JDLA理事の江間氏が考察する「AIを取り巻く社会的課題」や「海外との議論の違い」について知りたい方はこちら。

さいごに

テクノロジーの発達につれて、人々のプライバシーやガバナンスへの意識は変化しています。世間が企業に対して何を期待しているのか、グローバル目線で見た時に何が議論されているのかを踏まえた上で、テクノロジーの強化や研究をマネジメントすることが重要です。

また、AIを戦略的に活用する上で、エコシステムの構築は大きな鍵となります。社員全体の業務の質を上げ、もともとできる人はさらにクリエイティブな業務に挑戦できる。AI活用により、社員にクリエイティブな機会を創出することが、企業の成長につながるといえるでしょう。

森氏が率いる、DAIIが取り組む日本企業のガバナンス強化に注目していきましょう。

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