最終更新日:
自動運転において、どのようにAIが使われているか知りたいですよね。
大手自動車メーカーが自動運転を研究開発していますが、現状でどれくらい実現できているのでしょうか?
本記事では、自動運転の仕組みや現状、AIを導入することによるメリットなど解説していきます。
目次
AIによる自動運転とは
- 自動運転の仕組み
- 自動運転におけるAIの役割
以下で詳しく解説していきます。
自動運転の仕組み
自動運転では運転において以下の3つのプロセスを全てコンピュータが担当します。
- 認知:周囲の環境を認識する。
- 判断:どのような運転操作を行うか決定する。
- 制御:電気信号で車の動きを操作する。
それぞれのプロセスについて詳しく説明します。
①認知
周囲の車両や歩行者、交通標識などを検知して、車の走行している位置を把握します。
周囲の環境を認識するシステムとしては主にカメラが役に立ち、車の位置を測定するときにはGPSが役に立ちます。近年、新しい衛星システムが実用化され、GPSの測定精度は非常に高まっており、誤差数センチ程度にまでなっています。
②判断
目的地までのルート決定や走行レーンの選択、速度決定を行います。
目的地までのルート決定では渋滞など交通情報によって適宜最適なルートへと変更していく必要があります。
走行レーン選択や速度決定では、周囲の車両や歩行者の状態から自動車の動きを柔軟に変更していく必要があります。
③制御
制御では「②判断」で決定された通りに車両を操作します。
自動運転におけるAIの役割
自動運転においてAIは主に「判断」の部分で役に立ちます。
まず、適切な判断を下すためにはセンサーが捉えた物体を正しく識別する必要があります。そこで活用されているのがディープラーニングの技術です。
ディープラーニングでは、「人」や「車」などの画像のデータを繰り返し学習してそれぞれの特徴を見つけ出します。その特徴を元に新たな画像について「人」か「車」か判断します。
ディープラーニングの技術が向上することで識別の精度が向上し、物体を正しく認識できるようになります。人や車だけでなく、道路標識などの認識も期待されています。
自動運転は現状どのレベルまで進んでいる?
作成:AINOW編集部
自動運転のレベルは上の図のようになっています。それぞれの概要についてまとめると以下の表の通りです。
レベル | 概要 |
レベル0 | 自動運転する技術が何もない状態。 |
レベル1 | システムがアクセル・ブレーキ操作またはハンドル操作のどちらかを部分的に行う。 |
レベル2 | システムがアクセル・ブレーキ操作またはハンドル操作の両方を部分的に行う。 |
レベル3 | 決められた条件下で、全ての運転操作を自動化。ただし運転自動化システム作動中も、システムからの要請でドライバーはいつでも運転に戻れなければならない。 |
レベル4 | 決められた条件下で、全ての運転操作を自動化。 |
レベル5 | 条件なく、全ての運転操作を自動化 |
自動運転には以上のようにレベル0〜レベル5まで計6つのレベルがあります。
レベル0は運転に関する全ての操作がドライバーが担います。
レベル1はADAS(先進運転支援システム)が搭載されている車が該当します。ADASはブレーキやアクセルを補助してくれるシステムで、急発進による事故防止などに役立てられています。
ADASは現在80%ほどの車両に搭載されており、一般的な技術になってきています。
レベル2ではハンズオフが可能になります。常に監視が必要ではありますが、高速道路などではハンドルから手を離して運転制御を任せることが認められています。
日産の「プロパイロット2.0」をはじめとして、このハンズオフ機能を搭載した自動車は日本でもすでに実用化されています。
レベル3ではアイズオフが可能になります。緊急時にはすぐに運転に戻る必要がありますが、それ以外は全ての運転操作を任せられます。
国内では2020年の法改正により、アイズオフ機能が実用化されました。しかし、その機能の使用が認められる環境は限られており、これから使用できる場所が広がっていくと予想されています。
レベル4では緊急時の対応もコンピュータに任せて、人間は運転動作を考える必要がなくなります。この機能は「ブレインオフ」と呼ばれることが多いです。
ただし、その機能が使用できる環境は限られている、という状態がレベル4に該当します。
レベル5では「ブレインオフ」の機能が使用できる環境に制限がなくなります。つまり「完全自動運転」の実現です。
現時点の技術では実現不可能と言われていますが、これから先の技術発展に期待が寄せられています。
AIを自動運転に活用するメリット
自動運転が普及していくと次のようなメリットがあります。
これから詳しく解説していきます。
二酸化炭素排出量が削減される
自動運転にすることで不必要な加減速がなくなり、ルートも最適化されます。これによって車の燃費効率が極限まで高まり、結果として二酸化炭素排出量の削減につながります。
交通事故が減少する
警察庁が発表した交通事故の原因のランキングでは安全運転義務違反が他を大きく引き離し、1番とされています。
安全運転義務違反とは運転者が安全に配慮して運転する義務を怠ったということです。例えば、漫然運転や脇見運転など前をよく見ないで運転することなどが安全運転義務違反に当てはまります。
このように、事故の原因の大半は運転手の不注意や心身の不調によるものです。運転をコンピュータが担当することで、このような原因で起こる事故を防げます。
また、判断速度も人間より早いことから起こるはずだった事故を防ぐ効果もあると期待されています。
渋滞が解消される
渋滞は道路の輸送キャパシティを超えたときに発生するものです。例えば、高速道路の特定のインターチェンジ出口に車両が殺到したとき、そのインターチェンジ出口だけでは車両を扱いきれず、渋滞が発生します。
自動運転技術では他の車両と連携をとり、一つの場所に車両が集まらないように調整できます。
渋滞が予測される場合には、ルートを変更するなどして渋滞発生を回避する効果があります。
AIを自動運転に活用するデメリット
AIを自動運転に活用するデメリットには以下のようなものがあります。
これから詳しく解説していきます。
事故発生時の責任が曖昧
これまでは事故が発生した時はドライバーの責任でしたが、自動運転が実用化された場合の事故の責任についてはまだ明確に決定されていません。
レベル0〜2の段階では責任の所在はドライバーになっていました。レベル3の段階では、ドライバーの前方注意義務がやや緩和されたものの、依然としてドライバーが安全運転の義務を担っています。
ですが、レベル4〜5になると、ドライバーの責任を問うことは難しく、メーカー側の責任になる可能性が高いとされています。
一方、その事故の原因が道路環境にある場合は自治体が責任を問われる可能性もあり、責任の所在について明確な法整備が求められています。
▶︎AIの法律上の注意点は?|責任は誰がとるのか・著作権はあるのか>>
事故不可避時における判断がわからない
自動運転は基本的に事故をできるだけ防ぐようにデザインされています。しかし、どうしても事故が防げないような状況のときAIはどう判断を下すべきでしょうか。
トロッコ問題
トロッコ問題とはある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか、を議論するために生まれた思考実験です。
古典的なトロッコ問題とはこのようなものです。
暴走するトロッコが作業員5人がいるレーンに向かって走っています。あなたの手元にはレーンがあり、それを操作することでトロッコのレーンを切り替えられます。
あなたがレーンを切り替えれば先程の5人の作業員は助かりますが、切り替えた先のレーンにいる作業員1人が犠牲になってしまいます。
このときレーンを切り替えるか切り替えないかについて考えるのがトロッコ問題です。
この問題を自動運転に応用してみましょう。
例えばこんな状況が考えられます。道路上に5人が飛び出してきました。ハンドルを切ればその5人は避けられますが、近くにいた他の人を1人轢いてしまいます。
このときAIはどうハンドルをきればよいのでしょうか。
自動運転を実用化していく過程では、このような複雑な状況にどう対応していくのかについても議論していく必要があります。
▶︎AIと倫理 – いまAI倫理が議論されている3つの理由を踏まえて、倫理を考える>>
システムトラブルやハッキングの危険性がある
どのようなシステムにもトラブルはつきものです。自動運転を制御しているシステムにトラブルが起きたときには重大な事故につながる可能性があります。
また、システムが悪意のある攻撃、つまりハッキングを受ける可能性もあります。
従来の自動車のVICS(交通情報システム)やETC(電子料金収受システム)に加えて、自動運転では交通情報をはじめとして様々な内容がダイナミックにやり取りされています。
そのインターネットを介したやり取りの中からハッカーが侵入してくることがあります。
ハッカーにシステムが乗っ取られてしまうと、ドライバーだけでなく周囲の人まで危険にさらされてしまいます。
AIを活用した自動運転の事例5選
AIを活用した自動運転には以下のようなものがあります。
- Waymo|自動運転タクシーの商用サービス
- Ford Motor|自動運転配達サービス
- 百度(Baidu)|完全無人自動運転タクシー
- 埼玉工業大学|公道における自動運転バスの実証
- 先進モビリティ|トラックの後続車無人隊列走行
これから詳しく解説していきます。
①Waymo|自動運転タクシーの商用サービス
Waymoは世界に先駆けて自動運転タクシーを実用化したGoogle系の企業です。
Waymoは2017年からアーリーライダープログラムを実施し、同年の12月には有料タクシーサービス「WaymoOne」を開始しました。初めはセーフティドライバーが同乗した状態で運用していましたが、2021年にはサンフランシスコで一般利用も可能になりました。
Waymoはタクシーだけでなくトラックの完全自動運転化を目指しています。
②Ford Motor|自動運転配達サービス
Ford MotorはウォルマートとアルゴAIと連携して自動運転による配達サービスを提供しています。このサービスにより、ウォルマートの顧客はオンラインで注文した後、自動運転による配送で自宅まで届けてもらえます。
現在実用化されているのは、首都ワシントン、フロリダ州マイアミ、テキサス州オースティンの3都市のみですが、この範囲は今後拡大していく予定です。
③百度(Baidu)|完全無人自動運転タクシー
百度は2019年から完全無人自動運転タクシーの試験を開始しました。利用者はアプリの「Apollo Go」から約50箇所のタクシーを呼べます。
現在百度がサービスを展開しているのは北京、上海、広州、重慶、長沙、滄州、深圳のみですが、2030年までには100都市まで広がる予定となっています。
④埼玉工業大学|公道における自動運転バスの実証
埼玉工業大学は2016年から自動運転技術の実用化に取り組んでいます。2021年度には1万キロ以上を走行し、国内の自動運転車では最長級の走行距離を記録しました。
埼玉工業大学が開発した自動運転AIシステムとドライバーによる手動運転を切り替えることで安全な走行が実現されています。
日々実際の道路上で検証を重ねながらより優れたシステムへと日々アップデートされています。
⑤先進モビリティ|トラックの後続車無人隊列走行
先進モビリティとは自動運転を軸としてスマートな移動を実現する社会のことを指します。そのスマートな移動の一例としてトラックの後続車を無人にして走行するという技術が実現しました。
人手不足が特に深刻である物流業界において画期的な技術として期待を寄せられています。
▶︎《AI事例25選》産業別にAIの活用事例をまとめました>>
実際に販売されたAI自動運転車
実際に発売されたAIを搭載した自動車には以下のようなものがあります。
これから詳しく解説していきます。
①トヨタ|e-Palette
2018年にトヨタから発表されたe-PaletteはMaaSのための次世代電気自動車(EV)です。
MaaSとは移動のサービス化のことでバスやシェアサイクル、電車、タクシーといったあらゆる交通手段をITによって結びつけ、人々が効率良く利用できるようにするシステムのことです。
e-Paletteの大きな特徴は他社製品の搭載が可能であることです。そのため、ライドシェアリング仕様、ホテル仕様、リテールショップ仕様などそれぞれにあった仕様に変更できます。
トヨタのe-Paletteにはアマゾン、ピザハット、ティディ、ウーバー、マツダ、Softbankがパートナーとして協力しており、実用化が進められています。
②ホンダ|レジェンド
ホンダのレジェンドは2021年に100台限定でリリースされました。
レジェンドには世界初の自動運転レベル3の機能「トラフィックジャムパイロット」が搭載されています。トラフィックジャムパイロットとは高速道路や自動車専用道路において渋滞時に自動運転をしてくれる機能のことです。
レベル3ではアイズオフが認められているので、ドライバーはトラフィクジャムパイロットを利用している間は前方を注視する必要がありません。
③テスラ|全車両
テスラの車両にはオートパイロットという機能が搭載されています。
オートパイロットの主な機能としては以下のようなものがあります。
- ナビゲートオンオートパイロット(目的地までのルートを最適化)
- オートステアリング(狭い道路の走行を補助)
- スマートサモン(駐車場内にいるドライバーを迎えにいく)
オートパイロットの機能は日々アップグレードされており、将来的には完全自動運転の実現を目指しています。
④BMW|3シリーズ
BMWの3シリーズにはドライバー・アシスタントの機能が搭載されています。ドライバー・アシスタントは主に速度管理とステアリング管理を担当してくれます。
速度管理では、先行者に近づくとまずは警告が出され、それでも止まらなかった場合には自動ブレーキが働きます。
車線から外れそうになった場合はハンドルを振動させて注意を促す機能もあります。
また「アクティブ・サイド・コリジョン・プロテクション」といって周囲の車との衝突を回避できる機能も備わっています。
⑤ベンツ|Sクラス・EQS
ホンダに続いてメルセデス・ベンツもSクラスとEQSにレベル3機能「DRIVE PILOT」を導入しました。DRIVE PILOTではドイツの高速道路において交通量が多い時や渋滞時にレベル3の自動運転が可能になりました。
現在はドイツ・中国・アメリカの高速道路でテスト走行が行われている段階ですが、順次マーケットは拡大される予定です。
最新の自動運転の動向
最新の自動運転の動向は以下の通りです。
- レベル4自動運転に向けた道路交通法の改正
- 世界初「自動運転レベル4市販車」が中国で発売へ
- 「運転席なし」の自動運転トラックがアメリカで走行へ
- ソフトバンクがMay Mobilityと提携
これから詳しく解説していきます。
レベル4自動運転に向けた道路交通法の改正
日本では2022年に道路交通法にレベル4の自動運転を許可する改正を加えました。
ここでの自動運転は公共交通網が弱い過疎地で移動手段を提供することを主な目的としています。ドライバーは必要ありませんが、遠隔監視が必要とされています。
世界初「自動運転レベル4市販車」が中国で発売へ
百度は2022年末までに予約を開始する自動運転レベル4を搭載した市販車のプロトタイプを公開しました。価格は約400万円相当です。
高速道路だけでなく街中や駐車場でもレベル4の自動運転が可能になる見込みです。
「運転席なし」の自動運転トラックがアメリカで走行へ
スウェーデンのEinride社が開発した運転席のないトラック「Enride Pod」がアメリカでの走行許可を得ました。
運転は原則としてシステムが行い、人の介入が必要な場合には遠隔で操作します。
ソフトバンクがMay Mobilityと提携
ソフトバンクがアメリカのMay Mobilityと提携して5Gネットワークを活用した自動運転移動サービスの社会実装に向けて主に2つの取り組みを実施しています。
1つ目は「自動運転向け次世代ネットワークの実現」です。レベル4や5ではドライバーレスが基本となるので、安全性確保のために遠隔監視が必要になります。
車両周辺の情報がリアルタイムで監視センターに送れるようなネットワークシステムの構築が求められています。
2つ目は「自動運転サービスの社会実装に向けた取り組み」です。ソフトバンクの知見を活かして自動運転サービスを社会実装するための仕組みづくりに取り組んでいます。
おわりに
今回はAIを活用した自動運転のメリット・デメリットや現状について紹介しました。
現在一般的になっているのはレベル2(ハンズオフ)の段階ですが、一部ではレベル3(アイズオフ)や4(条件付きのブレインオフ)なども実用化されています。
AIを活用した自動運転はこれから交通手段を支える重要なテクノロジーになっていくでしょう。