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2021.09.14

行政DX完全ガイド-行政DX改革の目的や課題・メリット・事例を紹介

最終更新日:

dx 行政
近年、DXの必要性が話題となっており、そのきっかけの一つに、経済産業省のDXレポートがあります。日本の行政におけるDXは不十分と言われています

経済産業省によるDXレポートで、その理由の一つに「レガシーシステム」が挙げられていました。

レガシーシステムとは、「技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化などの問題があり、結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステム」と定義されています。

引用:経済産業省「DX レポート 平成 30 年9月7日 デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」

この記事では、他のDX成功例などを参考に、日本の行政が抱えるDXの課題と解決策について紹介します。

▼DXについてまだ詳しく知らない方はこちら

行政DXとは

最初に、行政DXとはどのようなものかを説明します。

DXによる行政改革

行政DXとは、デジタル技術を活用して行政サービスを改革したり、住民の生活を向上させたりすることです。

いわば行政DXは公共のデジタル化であり、私達の生活に深く関係します。

行政DXの目的

総務省では、行政・自治体におけるDX推進の意義として、以下の3つを挙げています。

  • デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させること
  • デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていくこと
  • データ様式の統一化・多様な情報を円滑に流通すること

引用:総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」

このように、デジタル技術やデータを活用して住民の利便性を向上する施策やシステムを導入することが目的と言えます。

行政DXによるメリット

例えばデジタル庁では、すべての自治体に対して2025年度までに、国民健康保険、児童手当、介護保険、個人・法人住民税などの17項目を、国が定めた標準システムに移行する方針を明らかにしています。

標準システムに統一することで、転居した場合でも申請がスムーズに進められ、住民・職員の両方に時間・手間・費用を削減できるメリットがあります。

このように、システムの統一やデータの活用によって、行政を担当する側や住民の時間・手間・費用が軽減され、行政における利便性が向上するのが行政DXのメリットです。

行政DXの市場規模

株式会社矢野経済研究所によると、2020年度の自治体向けソリューション市場規模は、事業者売上高ベースで6,858億5,000万円(前年度比3.2%増)と推計されています。

政府により自治体情報システム標準化・共通化の方針が発表されたため、基幹系システムの更改など新たな投資を見送る地方自治体が増え、市場は減少傾向となっています。

他方で、新型コロナウイルス感染症により特別給付金や補助金など様々な政策が打ち出され、関連システムの導入や事務代行、問い合わせ対応などの業務アウトソーシング(BPO)は拡大しました。

2021年度は、基幹系システムに関しては引き続き標準化対応を前にした見送りが続いていることに加え、コロナ禍関連の需要も2020年度からは減少したため、2021年度の同市場規模は前年度比3.1%減の6,645億5,000万円になる見込みとされました。

 

数字で見る 日本の行政DXの遅れ

先程の述べたとおり、日本の行政は現在DXで遅れを取っています。

実際にどれくらい遅れているか分かりやすいように、今回は「世界電子政府ランキング」と「オンラインでの行政手続利用率」のデータを紹介します。

世界電子政府ランキング

2020年に国連経済社会局より発表された「世界電子政府ランキング」にて、1位は前回(2018年)に引き続きデンマーク、韓国が2位という結果でした。

日本は10位から14位へとランクダウンしています。

この調査はオンラインサービス指数(OSI)、人的資本指数(HCI)、通信インフラ指数(TII)の3点から評価されます。

日本は特に人的資本指数のスコアが低く、23位に位置しています。

オンラインでの行政手続利用率は7.30%

2018年、経済協力開発機構(OECD)によって「オンラインでの行政手続利用率」に関する調査が行われました。

これは、過去12カ月の間に、公的機関のウェブサイトを通じて記入済み申請書をオンラインで送信した人の割合を調査したものです。

日本は7.30%、調査対象30カ国の中で最下位という結果になりました。ちなみに、1位のアイスランドは79.55%、デンマークは3位で72.77%でした。

引用:株式会社日本総合研究所 野村敦子「自治体DXの動向と課題~国内外の先進事例に学ぶ~

日本の行政DXが抱える2つの課題とは?

ここからは、日本の行政DXが抱える「人材不足」と「レガシーシステムから脱却が困難」という2つの課題について解説します。

人材不足

日本の行政DXの推進が進まない原因の一つが、人材不足です。

昨今、日本では少子高齢化による労働力人口の不足が社会問題になっています。この問題は自治体でも広がっており、自治体における職員の数は1994年のピークを境に、2020年までに約52万人減少しました。

更にDXを推進するためには、DX人材の確保も必要となります。こうした人材不足の課題を行政は抱えています。

引用:総務省「令和2年地方公共団体定員管理調査結果の概要

▶「DX人材」の概要・業種・必要なスキルやマインドについてはこちらで詳しく解説しています>>

レガシーシステムからの脱却が困難

日本の行政DXにおける課題の一つに、冒頭にも記載した「レガシーシステム」が挙げられます。

具体的には、紙文化があります。自治体では、依然として稟議・決済・手続きなどで紙を用いているのが現状です。電子決済を導入していても、紙と並行して行う自治体もあります。

これによって、窓口に来る住民が紙に記載した情報をオンライン上に転記する業務や、莫大な量の書類を保管するためだけで部屋が埋まってしまうなど、非効率的な状況が生まれています。

他にも、新規システムに対する投資が見送られてしまう現状があります。

自治体では、予算の要求から議会の議決までに数か月もの時間を有します。業務改善をスピーディーに行えないシステムが構築されているのです。

▶日本におけるDXの課題についてはこちらの記事でも詳しく解説しています>>

行政DXを推進する3つのマインドセット

行政がDXを推進にするには、以下3つのマインドセットが重要です。

  1. 地域住民へのサービス向上
  2. 運営の円滑化
  3. 誰もが使いやすいシステムの構築

地域住民へのサービス向上

行政DXを推進する上では、まずは住民目線のマインドが重要です。

自治体では膨大な量の業務を抱えています。DXを推進することで、そうした業務の効率化、人的なミスの減少が見込まれます。
これにより、住民サービスの付加価値を高める別の業務に取り組むことも可能になります。

他にも、情報の管理がしやすくなることで、情報を分析し、地域の現状を把握し、新たな課題発見や、対策ができます

また、DXを推進することで、手続きのオンライン化が実現します。様々な事情で、窓口に行けない住民にとって、こうした新しい手続きの形は、生活を豊かにする重要なポイントとなります。

こうした取り組みによって、結果的に地域住民の快適な生活に繋げられます。

運営の円滑化

行政DXは、ひとつの自治体や組織のみで推進するのではなく、行政全体でDXを推進することが非常に重要です。

DX推進によって、自治体間で、今までよりもスムーズで正確な情報共有が可能になります。

これまで莫大な書類を保管してきたスペースや、必要な情報を探し出す時間と労力を削減することも可能です。

また、非常時における窓口の混乱を避けることも実現できます。

誰もが使いやすいシステムの構築

最後に、行政DXを推進する上で最も重要なマインドは、誰にとっても使いやすいシステムを構築することです。

行政のサービスを利用するのは老若男女、様々なバックグラウンドを持つ人びとが想定されます。その中の誰が使ってもわかりやすいシステムを提供する必要があります。

行政DXの推進によって、デジタルネイティブな若者たちにとって、手続きが非常に容易となり、便利に感じるでしょう。

他にも、日本に在住する外国人など、日本語に不慣れな人びとにとって、行政の手続きはハードルが高く、非常に複雑です。DXの推進によって、オンライン化や多言語対応などが可能になり、こうした需要にも答えられます。

また、現在のように外に出歩けない非常事態や、多忙で窓口に行く時間のない人々にとって、オンライン上での手続きは重要です。

一方で、デジタルに馴染みがない利用者に対する配慮も必要不可欠となります。

バランスの取れたDX推進計画を立てることが必要です。

▶DXの戦略とは|成功に導く推進方法やロードマップについて詳しくはこちら>>

行政DX推進における3つのポイント

行政DXを推進するには、以下3つのポイントが重要です。

  1. DX人材の育成
  2. 長期的で全体による取り組み
  3. 既存システムの見直し

ポイント1-DX人材の育成

行政DXを推進するためには、まずDX推進を計画し、支える人材が必要となります。

DXに対する理解不足を解消し、行政の中で広げていくためには、DXに対する十分な知識と、変革に取り組む姿勢をもつ人材が必要です。

▶DX人材の育成方法や育成のポイントを詳しく知りたい方はこちら>>

ポイント2-長期的で全体による取り組み

DXとは、ただデジタル技術を取り入れるだけでなく、それによって組織を変革することを指します。

つまり、短期で行おうとするのではなく、長期的な計画が必要となります。

また、一部の組織のみで推進するのではなく、省庁から地方自治体まで、全体が取り組む必要があります

これにより、行政という大きな組織で変革を起こすことが可能になります。

ポイント3-既存システムの見直し

行政DXの推進が滞る原因として、レガシーシステムを挙げてきました。

長い時間、同じようなシステムの中で運用していると「今まで通りでいいのではないか?」という声が上がります。

しかし、今のままでは現状の課題を解決することはできません

効率性や、国民・住民・職員のメリットを考慮し、既存のシステムからの脱却が必要不可欠です。

▶自治体におけるDX推進のポイントと成功事例を知りたい方はこちら>>

日本政府が行ってきた行政DX

ここからは、日本政府が行ってきた行政DXを3つ紹介します。

  1. デジタル庁
  2. デジタル・ガバメント実行計画
  3. 自治体DX推進計画

それぞれ詳細を解説します。

デジタル庁

2021年9月1日に、行政における情報システムの統括・監理・整備等するデジタル庁が発足しました。

他にも、地方共通のデジタル基盤、マイナンバー制度全般の企画立案、民間・準公共部門のデジタル化支援、データ利活用、サイバーセキュリティの実現、デジタル人材の確保など、行政のみならず日本全体でDXを推進するための業務を担当します。

引用:内閣官房内閣広報室「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針の概要

『デジタル・ガバメント実行計画』

デジタル・ガバメント実行計画」とは、2017年の「デジタル宣言・官民データ計画」における方向性の具体化を目的とし、2018年に策定されました。

原則2020年から2026 年までを対象期間とし、以下のような施策を明記しています。

  • 行政サービス改革
  • 基盤の整備
  • 行政サービスのデジタル化
  • ワンストップサービスの推進
  • 行政サービス連携
  • 業務における活用
  • デジタルデバイド対策
  • 広報
  • 地方自治体への推進

引用:政府CIOポータル「デジタル・ガバメント実行計画

『自治体DX推進計画』

総務省によって発表された自治体DX推進計画は、自治体が新型コロナウイルス感染拡大への対応に追われた際に浮き彫りになった課題から、DXを社会全体で推進すべきだとして策定されたものです。

先述の『デジタル・ガバメント実行計画』が2020年12月に閣議決定され、その中に自治体のDX推進が盛り込まれていました。これを受けて総務省は、国が主導するこの計画に自治体全体で積極的に参加するために策定しました。

自治体におけるDX推進のための体制整備や、特に取り組むべき事項、DX推進と合わせて取り組むべき事項について明示したものです。

引用:総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション (DX)推進計画

日本の行政DX事例

ここでは、日本における行政のDX事例を紹介します。

プレミアム商品券の電子化による事務経費の削減

神奈川県平塚市では、令和元年度は紙媒体で実施していたプレミアム商品券に係る事業について、キャッシュレスの普及等を実現するため、令和2年度に電子化しました。

これにより、事業規模が約8億円から約15億円に倍増したにも関わらず、事務経費は1億4,800万円から5,400万円に縮減されました。また、電子化により、消費者の消費行動がデータ化されたため、そのデータを基礎とした分析が容易になり、施策の評価や企画立案において有用な指標となったそうです。

参考:総務省|自治体DX推進手順書参考事例集

議事録作成支援システムの導入による議事録作成時間の削減

大阪府東大阪市では、議事録作成に当たり、録音した音声を複数回聞き直しながら作業を行うため、会議時間の約3〜8 倍の作業時間を要していました。

そこでAI を活用した音声認識技術による議事録作成支援システム用の端末を1台導入し、実証実験した結
果、適切な集音環境で録音されたデータを用いれば議事録作成にかかる時間を3割程度削減できるとい
う結果になりました。

実証実験で効果が確認できたため、令和2年6月より端末を2台増設して3台体制とし、全庁に周知をし、議事録作成支援システムの貸し出しを開始したそうです。

参考:総務省|自治体DX推進手順書参考事例集

市町との共同による行政手続オンライン化システムの導入

滋賀県では、住民が行政手続の申請にあたって、必要書類などの判断が困難な場合があること、また市町においても住民からの問合せ対応が事務負担となっているという課題がありました。

そこで、令和2年度に、県が主導して、県内の参加14市町(大津市、草津市、湖南市等)と課題解決のための共同研究事業を実施しました。

まずはモデル事業として、転入届などの引っ越しの際に必要となる手続や手続に必要となる書類・窓口等を案内するシステム(くらしの手続ガイド)、申請書等を電子データで作成し、そのままオンライン申請できるシステム(汎用電子申請システム)の試験運用を実施しました。

そして県内3市における試験運用後、令和3年度は県および参加14市町の一部で共同調達に取りかかり、住民にとって統一的で使いやすい手続きのインターフェースを構築するとともに、ワンストップでの行政手続きを可能としました。

参考:総務省|自治体DX推進手順書参考事例集

高齢者向けの生活支援を行うシステムを提供

千葉県市川市では、令和元年度に官民が連携して高齢者向けの生活支援(食事・買い物・掃除等)を行うマッチングシステムを開発しました。

これにより、生活する上での困りごとの解決や、生活に役立つ情報を簡単・便利・スピーディに調べることができます。

参考:総務省|自治体DX推進手順書参考事例集

諸外国の行政DX推進事例・成功事例

海外では、以前から行政によるDXの推進が既に進められています。

ここでは地域別(ヨーロッパとアジア)にその内容と成果について紹介します。

ヨーロッパ

ヨーロッパ地域の行政DX事例として、「デンマーク」と「エストニア」の例を紹介します。

デンマーク

デジタル・ガバメントランキングでは2期連続1位を獲得した、世界屈指の行政DX大国デンマーク。

デンマークでは、既に1968年からCPRナンバー(≒日本のマイナンバー)を付与しています。これにより、戸籍、学歴、納税履歴、病歴など、全てのデータを一元管理することに成功しています。

CPRナンバーと個人認証システムを連携させることで、行政の手続きをオンライン上で完結できます。

エストニア

エストニアは、世界有数の電子政府と言われています。

その概念の総称を「e-Estonia」とし、電子IDの発行や健康に関するデータのデジタル化など、多方面で情報をデジタルで管理しています。電子ID(「e-Identity」「e-Residency」)は普及率99%を誇り、ヘルスケア(「e-health service」)でも99%がオンライン上で行われていると言われています。

更に、「e-Governance」を推進し、行政手続きの99%をデジタル化することに成功しました。

アジア

アジア地域の行政DX事例として、「台湾」と「インド」の例を紹介します。

台湾

台湾では新型コロナウイルス感染拡大に伴い、日本と同様に、全国でマスクが品薄になる事態が発生しました。

これに伴い、政府は国民に対して1週間当たりの購入可能数を制限しました。政府がそのすべてを買い上げ、本人確認を行ったうえで販売することになりました。

そこで、デジタル担当大臣であったオードリー・タンは「マスクマップ」と呼ばれるシステムを3日で開発し、店舗と在庫状況をリアルタイムで確認できるシステムを構築し、マスクの品薄問題が解消されました。

インド

インドでは、DXによって貧困対策を行いました。

農村部などを中心に、現在でも身分証を持てない国民が多く、また読み書きのできない国民が多い現状がありました。そこでインド政府は、デジタルID「Aadhaar」を国民全体に付与しました。

結果、4年間で12億人もの国民にデジタル識別IDを付与することに成功。身分証がなく、銀行口座を開設できなかった層による口座の開設や、起業などにも繋がっていきました。

更に、デジタルIDと口座情報が結び付けられていることで、個々人の資産情報を把握し、そのビッグデータを利用して、貧しい地域の人々に向けたサービスを行う会社なども発足しています。

引用:株式会社TRUSTDOCK

行政DXとは?国内行政デジタル化の経緯や事例、データの重要性、本人確認への応用などを徹底解説
株式会社西日本新聞メディアラボ・AIソリューションズ

「台湾13位、韓国10位、日本は…」世界に遅れをとる日本のDX事情 | DX.With | 企業のDX戦略をサポートするWEBメディア

成功事例を活かして、行政DXの課題解説を目指す

いかがだったでしょうか。

今回は、行政におけるDXにフォーカスを充てて、その課題や推進方法について紹介しました。
海外では、行政の中で積極的にDXを取り入れる動きが、かなり前から始まっているようです。

是非、成功事例を参考に、DXを推進していきましょう。

▶「DXの事例」を産業別に30個紹介した記事はこちら>>

▶「DX推進」の概要や必要性、成功事例についてはこちらで詳しく解説しています>>

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