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2021.01.07

AIベンチャー企業、エクサウィザーズが急成長できたワケ

最終更新日:

※本記事の内容は2020年12月時点の情報です。

AIベンチャーの「エクサウィザーズ」は、世の中にさまざまなイノベーションを起こし、社会課題の解決を目指す企業の一つです。

同社はAIを利活用したサービス開発を通じて、介護、医療、HR、金融、ロボット、AIカメラなど多様な事業を手掛けており、急成長中のAIベンチャー企業として大きな注目を集めています。

また、2021年12月23日に東京証券取引所マザーズ市場へ上場したことで、さらに世間からの注目が増しました。

今回はそんな今日本で最も勢いのあるAIベンチャー企業「エクサウィザーズ」の概要や事業内容を紹介しつつ、数あるAIベンチャーの中で同社がいかにして急成長を遂げたのか考察します。

エクサウィザーズとは

エクサウィザーズは、社会課題を解決するために、AIを使ったソリューションや自社サービスを提供しているベンチャー企業です。

同社は、介護、医療、HR、金融、ロボット、AIカメラなど、多くの領域でAIを利活用したサービス開発に取り組んでいます。

特に超高齢化社会に対する事業には力を入れており、介護現場で活用できる動画コミュニケーションアプリや歩行動画解析システムの開発、医療現場の課題解決を目的とした医療AIの開発、金融分野における高齢者の口座見守りアプリの提供など、さまざまなサービス提供を行っています。

社名の「エクサウィザーズ」の「エクサ」は10の18乗、「ウィザーズ」は魔法使い・達人を意味します。この「達人」にはスーパーハッカーだけではなく、介護現場のベテランなども含まれており、”魔法使い”のような精鋭メンバーを集めたいという意味が込められているそうです。

企業概要

社名 株式会社エクサウィザーズ
設立 2016年2月
所在地 東京都港区浜松町一丁目18番16号
住友浜松町ビル5階
代表取締役社長 石山洸
取締役 取締役会長 春田真
取締役 大植択真
取締役 坂根裕
社員数 230名(2020年12月時点)
資本金 1億円(2020年12月時点)
推定時価総額  262億円(2020年12月時点)

ミッション

『AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する』

エクサウィザーズは「社会課題を解決する」ための自社サービスの開発・提供に注力しています。

取り組むプロジェクトも原則的にプロダクトとして汎用性の高いサービスに昇華できるものにフォーカスしており、個社へのAI導入を通じてクライアントのニーズや市場・社会の課題を捉え、社会課題解決につながるサービスに焦点を絞り開発・提供をしています。

沿革

2016年 2月 エクサウィザーズの前身となる株式会社エクサインテリジェンスを設立
2017年 10月 静岡大学発ベンチャーのデジタルセンセーション株式会社と経営統合し、株式会社エクサウィザーズに社名を変更
合併後初の新規事業、人工知能(AI)に関する教育サービスを開始
11月 人事サポートサービス HR Tech「HR 君」の提供を開始
12月 Webメディア「AI新聞〜AI Weekly〜」を創刊
2018年 3月 三菱UFJフィナンシャル・グループと資本業務提携
SOMPOホールディングスと資本業務提携
産業革新機構と投資契約を締結
6月 AIと行動心理学を活用した勤務シフト自動作成サービス「セコムかんたんシフトスケジュール」を開発
9月 英オックスフォード大学の マイケル・A・オズボーン氏が顧問に就任
11月 AI人事データ分析サービス「HR君」とパーソル総研のタレントマネジメントシステム「HITO-Talent」の連携による新サービスを提供開始
日本気象協会共同で気象リスクに起因する社会課題の解決を目指し、AIを使った気象ソリューションサービスの開発を開始
2019年 3月 自治体の介護関連データを用いた要介護度予測AIを開発
4月 AI利活用を推進する法人向け会員サービス“exaCommunity”を開始
7月 パーソルグループと資本業務提携し、AIを活用したサービスを共同開発
12月 AIによりマンションの推定成約価格を即時に算出する「リハウスAI査定」を三井不動産リアルティと共同開発
2020年 1月 FAQ検索エンジン「Qontextual」を提供開始
3月 宮崎市とAIを利活用した包括的な共同実証事業を開始
〜介護分野のケアマネジメント最適化に向けて「歩容解析AI」を導入〜
スタートアップ×知財のベストプレイヤーを表彰する「IP BASE AWARD」でエクサウィザーズがグランプリ受賞
5月 ソフトバンクの新卒採用選考における動画面接の評価を共同開発のAIシステムでサポート
6月 データサイエンティスト協会がデータ活用によるビジネスや産業への貢献を表彰する「データサイエンスアワード 2019」で最優秀賞受賞
家族介護のお悩みを解決するアプリ「CareWiz(ケアウィズ)」提供開始
7月 シチズンと共同開発した「AIウオッチレコメンド」サービス開始
AIが詐欺や払いすぎを検知する口座見守りサービスのテスト版提供
医療AI活用のための包括的な共創事業を山口大学AIシステム医学・医療研究教育センターと開始
8月 高性能2眼レンズ搭載のエッジAIカメラ「ミルキューブ」の提供を開始
10月 企業検索特化型のAI検索エンジン「ExaWizards AnyInc」提供開始
2021年 12月 東京証券取引所マザーズ市場へ上場

事業内容

エクサウィザーズは、主にAI技術を用いて多種多様な事業に取り組んでいます。今回はその中でも特に注目度の高い5つの事業をご紹介します。

Care Tech

Care Techでは、ケア×テクノロジーに関する事業を行っています。

Care Tech事業では、動画でケア技術を学べるアプリ「CareWiz」を中心に、介護をする人、介護を必要としている人の双方に役立つサービスを提供しています。

介護現場向けの動画共有アプリでは、ケアする動画を撮影して介護スタッフ間で共有することで、申し送りやスタッフ間のコミュニケーションを促進することができます。動画に介護のポイントを直接書き込んだりコメントを残せるため、マニュアル共有や研修にも活用することができます。

AIによる骨格抽出技術を活用した歩行動画解析システムも開発しており、歩行の速度やリズム等を算出することで、転倒リスクを予測し、運動改善につなげることができます。

また指導は全て動画で行うため、繰り返し見て学習することも、分からない部分や難しい部分にフォーカスして学習することも可能です。

動画を共有すれば、コメントした人がフィードバックを実践できているか確認できるのはもちろん、新人研修やマニュアルにも活用できます。

Med Tech

心臓狭搾の診断支援システムの開発(出典:エクサウィザーズ公式サイト

Med Techでは、医療×テクノロジーに関する事業を行っています。

Med Tech事業では、ICT/AIを活用した個々人の疾患リスクの早期検知や重症化予防などのプロジェクトに取り組んでいます。

2020年8月より、山口大学AIシステム医学・医療研究教育センターと医療AI活用のための包括的な共創事業も開始。「フレイル予防に向けたパーソナルヘルスレコード(PHR)とAI解析の融合による行動変容ツール開発」「受精卵タイムラプス画像のAI解析による良好胚の選別」「CT画像などのAI解析に基づく虐待が疑われる児童の医学的判別支援システム構築」など、データサイエンスの技術を用いて診療現場の課題解決することを目指し、医療AIの開発に取り組んでいます。

Fin Tech

出典:エクサウィザーズ公式サイト

Fin Techでは、金融×テクノロジーに関する事業を行っています。

例えば、AIが振り込め詐欺や払い過ぎなど検知する「口座見守りサービス」を福岡銀行と共同開発しました。2020年7月13日より、福岡銀行の一部の口座保有者限定でテスト版口座見守りサービスの提供が開始されています。

口座見守りサービスと銀行口座を接続すると、ATMや公共料金の支払いデータをAIが分析してくれます。そのため、離れた家族の支払い状況をより早く把握できます。

また、口座の支払い状況の「異常検知」をすることで詐欺や払いすぎなどを早期発見できるほか、「傾向変化」を捉えることで認知機能低下の兆候を発見でき、変化の兆候についてアプリを通じて親子間で共有することも可能です。

HR Tech

HR Techでは、人事×テクノロジーに関する事業を行っています。

エクサウィザーズのHR Tech事業を知る上で欠かせないのが「HR君」というAIを活用したクラウド型の人事支援サービスです。HR君を活用すれば、データ分析の知識がない人事担当者でも、簡単に人事データを解析できるようになります。

HR君は、主に以下の4つのシリーズがあります。

HR君DIA

出典:エクサウィザーズ公式サイト

HR君DIAは、社内のDXを推進するデジタルイノベーターを発掘して育成をサポートするサービスです。

従業員に対して15分の簡単なオンライン受験を実施し、DXの実践・推進に必要な”デジタル”×”イノベーティブ”それぞれのスコアを算出。受検者一人一人への詳細レポートに加えて、組織全体の分析レポートもオンラインですぐに確認できます。また、ひとりひとりのスキルと今後の育成プランに合わせたトレーニングコースを提供しています。

HR君haichi

HR君haichiは、社員を最大限生かせる配置を実現するための人材配置最適化AIです。

社員の中からポストに合わせた候補者を一覧化し、各部署の条件を考慮して人事配置の最適化を実現します。配置検討で加味する制約条件は企業ごとにオリジナルのものを自由に追加・編集できます。

HR君パーソナルアシスタント

HR君パーソナルアシスタントは、社員一人ひとりにパーソナルAIが付き、健康状態や、業務効率、エンゲージメントの向上をサポートするサービスです。

各要素を改善するための具体的な方法を、個人に合わせてAIが提示してくれることで、生産性の向上に活用することができます。また、人事部がリアルタイムで社員のコンディションを確認できるため、組織開発や効果的な人事施策の実施につなげることもできます。。

HR君アナリティクス

HR君アナリティクスは、データサイエンティストのような専門的スキルは不要で誰でも使うことのできるAI予測分析ツールです。

企業内にあるさまざまなデータを取り込むだけでAIが短時間で学習。読み込んだデータの特徴をAIが抽出・分析することで、人事、製造、研究開発、営業、マーケティング等、さまざまな用途に合わせてAIによる予測分析をすることができます。

Innovation

エクサウィザーズはイノベーション創出のため、消費財、食品、小売・外食、医療機器、自動車、製造、ロボット、建設、人材、金融、保険、不動産、商社、EC等、様々な業界のパートナー企業とAI技術を利活用したオープンイノベーションに取り組んでいます。

2020年5月に発表された、ソフトバンクの新卒採用選考におけるAIシステム開発では、熟練の採用担当者の観点を学習させたエクサウィザーズの動画解析モデルに、新たに提出された動画を読み込ませると、評価を算出して選考の参考とするAIシステムをソフトバンクの動画面接向けに同社と共同開発。AIによる動画の解析精度を確認するために共同で実施した実証実験を経て、ソフトバンクの採用担当者が面接を評価するのと変わらない精度を実現し、採用選考に導入されることが決定しました。

エクサウィザーズではこの開発実績を活かしながら、動画面接の評価サポートだけでなくHR領域のさまざまな業務に活用できる動画解析を用いたAIプロダクトの提供を今後も予定しています。

エクサウィザーズ急成長のワケ

エクサウィザーズは、2016年2月に会社を設立して以来、急成長を続けており、日本経済新聞NEXTユニコーン調査によると2020年1月時点で推定時価総額は262億円にまで達しています。

さらに、日本経済新聞では、2021年12月の東証マザーズ上場時の想定時価総額は800億円超えだと記されています。

エクサウィザーズが設立からわずか5年でここまで成長できたのは、エクサウィザーズに以下のような強みがあったからだと考えます。

ビジネス経験豊富な経営陣

エクサウィザーズの代表取締役社長である石山洸氏は、前職の株式会社リクルートで、IT専門の執行役員「IT-EXE」や、リクルート内の実証・研究機関であるメディアテクノロジーラボ(MTL)所長を務めるなど、リクルートの新規事業を担っていました。また、リクルートのAI研究所である「Recruit Institute of Technology」を設立し、初代所長を務めた経験もあります。

取締役会長の春田真氏は、DeNAの元会長、横浜ベイスターズの元オーナーです。春田氏が入社した当時、DeNAは小さなベンチャー企業でした。春田氏は、その小さなベンチャー企業を、今では誰もが知る大企業に育て上げたキーパーソンの一人です。

現在、AIを活用した事業を展開するベンチャー企業はいくつもありますが、同社がその中でも飛び抜けて成長できたのは、ビジネス経験豊富な経営陣の的確な意思決定があったからかもしれません。

また、エクサウィザーズの自社メディア「AI新聞」で、AI新聞の編集長の湯川鶴章氏は以下のように述べています。

AIブームとやらで、日本国内にもAIベンチャーを名乗る企業がたくさん出て来ている。中には、すごい技術力を持つベンチャー企業もある。そんな中でエクサの強みは、技術力の高さもさることながら、ビジネス面での経験が豊富なことだろう。

技術者が中心のAIベンチャーには、AIをどのように実際のビジネスに落とし込めばいいのか、具体的に分かっていないところが多い。クライアント企業と一緒になってAIの利活用の方法を探っていこう、というのが彼らのスタンスだ。

一方でエクサの経営陣は、世の中の企業がどのような課題を抱えているのかを熟知している。その課題を解決するためにAIをどのように活かせるのかも分かっている。解決策まで、最短距離で進むことができるわけだ。これが今のエクサの最大の強みだろう。

引用:https://community.exawizards.com/aishinbun/20180610/

社員の多様性

2020年12月時点、エクサウィザーズ には約230名の社員が在籍しています。

その中には、大学の研究者、AIのエンジニアだけでなく、ソフトウェアエンジニア、ハードウェアエンジニア、UI/UXデザイナー、プロダクトマネージャー、介護士、理学療法士などの人材が多く集まっています。

それ以外にも、外資系の戦略コンサルティングファーム出身者や省庁出身者も在籍し、シンクタンクやコンサルティングファーム、SIer、AIスタートアップが合体してできたような会社になっています。

これだけ多様性のあるメンバーを集めているのは、「AI技術をビジネスにどう応用していくか」という部分にフォーカスしているからです。

さまざまなプロフェッショナルがいると、それぞれの目線からAIを活用した新規事業のアイデアを出し合えます。

ベンチャー企業が世界のAI大企業と勝負するのは困難です。しかし、それらの大企業が開発した新しい技術を、さまざまな視点からビジネスに応用できたからこそ、同社はここまで成長したのでしょう。

まとめ

今回は、急成長中のAIベンチャー企業「エクサウィザーズ」について紹介してきました。

エクサウィザーズはベンチャー企業とは思えないほど、多くの事業を手掛けていますが、社員の多様性がそれを可能にしています。

数ある事業の中でも同社が特に力を入れているのは、超高齢化社会に対する事業です。日本は2007年に超高齢化社会が到来しており、今後も高齢者は増え続けるのは間違いありません。

そのため、今後よりいっそうエクサウィザーズのサービスは需要が高まり、会社もさらに成長していくはずです。

経営陣も社員どちらにも強みをもち、新たな切り口でさまざまな事業を展開していくエクサウィザーズに、今後も目が離せません。

ThePlayers シリーズでは、このようにAI企業にフォーカスして記事を書いています。先日The Players vol.01で紹介した、時価総額3500億円超えのAIベンチャー企業「Preferred Networks」など、他の企業と比較することで、成功するAI企業の法則が見えてくるかもしれません。

▼Preferred Networksの記事はこちら

▼The Players vol.3 PKSHA Technologyはこちら

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